Interview

映画『空飛ぶタイヤ』で、小さな勇気を出す男を演じた中村蒼。 池井戸潤作品の魅力と、役者としての”現在地”を語る。

映画『空飛ぶタイヤ』で、小さな勇気を出す男を演じた中村蒼。 池井戸潤作品の魅力と、役者としての”現在地”を語る。

「オレたちバブル入行組」シリーズ(=ドラマ『半沢直樹』の原作)や『下町ロケット』、『陸王』などなど、誰もが著作を知る当代きっての人気作家・池井戸 潤。これまでドラマ化された小説は数知れないが、映画化された作品は、これまで皆無だった。が、このほど満を持して、池井戸氏自身のキャリアにおけるターニングポイントとなった『空飛ぶタイヤ』の映画化が実現。長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生をはじめ、豪華キャストが集って、魂を震わせる社会派のヒューマン・エンターテインメントを完成させた。

その豪華キャストの1人・中村 蒼に作品の魅力や役への取り組み、そして役者としての心境の変化や”現在地”について語ってもらった。

文 / 平田真人 撮影 / 内田大介


観る人が今置かれている立場によって見方が変わるところがこの作品の面白さ。

まず、池井戸 潤さんの作品への出演が決まった時の心境と、脚本を読まれての率直な感想からお聞かせください。

池井戸さんの作品はたくさん映像化されていますし、ふだん本をそれほど読まない人でも知っているくらい知名度が高いので、出演のお話をいただいて素直にうれしかったです。『空飛ぶタイヤ』もほかの作品と同じく、主人公たちが大企業の不正に立ち向かっていく社会派のヒューマンストーリーということで感情移入しやすいですし、個人的には自分の役(=ホープ自動車・品質保証部の杉本元)が会社の不正に目をつぶらず、よりよい企業にしようと行動を起こす人物だったので、とてもやりがいがあるなと、脚本を読んで思いました。

もしも杉本と同じ状況を迎えたら、おそらく彼と同じ選択をする会社員の人が多いのではないかと、映画を観ていて感じました。

確かに、そうかもしれないですね。これ以上、被害者を出さないためにも、杉本は勇気ある行動をとるわけですけど、同じ会社に勤める人間の多くが家族を養っている。そういう人たちは家族との暮らしを守らなければならないので、会社が立ち行かなくなってしまったら困ってしまうんですよね。そう考えると、立場によって選択した行動が正しいかどうかという判断や受け止め方が、大きく変わってきます。この映画にはいろいろな立場の人物が登場するので、観る人が今置かれている立場によって見方が変わったとしても、全然不思議ではなくて。そんなふうに、いろいろな見方ができるのも、『空飛ぶタイヤ』の面白さなのかな、と感じました。

おっしゃるように登場人物も多彩で、キャストもすごく豪華ですが、中村さんの視点から心を揺さぶられた人物を挙げるならば?

やっぱり長瀬(智也)さんが演じられた主人公の赤松社長に、もっとも感情移入しましたね。小さいとはいえ会社の経営者として、いろいろな立場の人を守らないといけないじゃないですか。ある立場の人だけを守ると、違う立場の人が困ってしまうというところで迷う姿には、胸をかきむしられるような気持ちになりました。しかも、一番大切な自分の家族のことも考えないといけないわけで…気苦労が絶えないな、と。それでも、自分の信念を貫き通すために大きな”壁”に向かっていく姿は、多くの人の共感を呼ぶんじゃないのかなと思います。

杉本が会社に対して抱いていた思いを、前向きにとらえて演じようと心がけた。

では、現場には、どのような姿勢で臨んでいたのでしょうか?

ディーン・フジオカさんやムロツヨシさんとご一緒するのが初めてだったので、終始緊張していました。しかも、シビアな話をするシーンが多かったので、雰囲気もどことなくピリッとしていて。ただ、ディーンさんが沢田としてまっすぐ僕に向かってきてくださったので、自然と「自分もこの人の熱意に応えないと」という気持ちになりました。お芝居をした時間はそんなに長くはなかったですけど、すごく誠実でいらっしゃって、まっすぐな眼差しが印象に残っています。それでいて、ふだんはすごく明るくて。控え室がカラオケルームだった時があって、「わ、そんなに歌うんだ!?」と思うくらい熱唱されていたんですけど、僕がふだんカラオケに行かないもので、どう盛り上がっていいのかわからなくて。ディーンさんからしたら、聴かせがいのない人間だったと思います(笑)。

そんなことはないと思いますよ! 一方、ホープ自動車・小牧役のムロツヨシさんは、どんな印象を抱きましたか?

ムロさんとは、以前ラジオ番組に出させていただいたことがあったので、お会いするのは二度目だったんです。お芝居をするのは初めてでしたが、すごく細かいところまで考えていらっしゃって。ムロさん=アドリブであったり、常に明るいといったイメージが前面に出ていますけど、すごく緻密な計算のもとにお芝居を組み立てていらっしゃるんだなという印象を受けました。『空飛ぶタイヤ』の、僕とのシーンではムロさんのアドリブはなかったですけど、ほかの作品を拝見していると、そこまで細やかに考えているアドリブだからこそ、ムロさんが演じられる役のキャラクターがブレていないように見えるんだろうな、と。

そんな2人とバーで会って決意を話すシーンも印象的ですが、その撮影時を振り返っていただけますでしょうか?

自分の会社の不正を見過ごせない気持ちは確かにあるんですけど、「こんな会社、なくなってしまえばいい!」とは思っていないんですよね。きっと杉本なりに理想を抱いてホープ自動車に就職をして、その会社で働いていることに対する充実感を彼自身は感じていたと思いますし、だからこそ会社には変わってほしいという気持ちがあったのではないかなと。「隠し事を明るみにしてやる」というよりも沢田たちと負の面を共有して、「会社を変えていきましょう」というプラスな方向で自分のセリフを口にしたり、お芝居を成立させたいなという思いで演じました。

なるほど。今回はホープ自動車の社員で、長瀬さんたちの赤松運送チームとは絡みがありませんでしたが、あちらのチームを映画でご覧になって、どう感じましたか?

あのファミリー感というか、絆の深さは観ていて、すごくいいなと思いました。みんなで悲しんで、みんなで喜ぶさまは一体な感じがして、自分が勤めるなら赤松運送のような会社がいいなあって(笑)。

1 2 >