Interview

KIRINJI エレクトロニクス/ダンスに進化させた新作『愛をあるだけ、すべて』。シーンに響くダンス・ミュージック構造のポップスの極意

KIRINJI エレクトロニクス/ダンスに進化させた新作『愛をあるだけ、すべて』。シーンに響くダンス・ミュージック構造のポップスの極意

今年でメジャー・デビュー20周年を迎えたKIRINJIが、2年ぶりにニューアルバム『愛をあるだけ、すべて』をリリース。
通算13枚目、KIRINJIになってからのオリジナルアルバムとしては3枚目。前作『ネオ』からエレクトロニクス/ダンスに接近し、現在のシーンに切り込んだKIRINJIだが、本作ではさらに進化したサウンドと堀込高樹にしか描けない世界に磨きをかけた刺激に溢れたアルバムになっている。
上質なポップというイメージに囚われず、今に響く音楽を追求する5人のメンバー、堀込高樹、田村玄一、楠均、千ヶ崎学、弓木英梨乃に聞く、彼らの現在地とは?

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 板橋純一

いまどきの音楽と混ぜて聴いても遜色ない音圧感とグルーヴ。

昨年11月に配信リリースされた「AIの逃避行feat.Charisma.com」が、『The Great Journey feat.RHYMESTER』に続いてfeat.楽曲のダンスチューンだったので、新作は『ネオ』の流れが引き継がれていくのかなという予感はしたのですが?

堀込 そうですね。前作の『ネオ』はエレクトロニクスを入れながらも生演奏が中心だったのですが、「AIの逃避行」はもう少しダンス・トラック寄りのサウンドにしたかったんです。いわゆるナマ然としたものではなくて、いまどきのヒップホップやダンス・ミュージックと混ぜて聴いても遜色ない音圧感にしたいという狙いがありました。

そのリリース後に、コトリンゴさんの脱退が発表されたのは驚きました。

堀込 エレクトロニクスやダンスっぽい感じを取り入れていくと、彼女のプレイの良さが生かせないかもしれないなとは思っていました。それに彼女は元々ソロ・アーティストでもあるので、タイミングを考えて2017年末までとなりました。

そういう意味では、新生KIRINJI感が1曲目の「明日こそは/It’s not over yet」からハッキリ示されているとも言えそうですね。

堀込 そうですね。「AIの逃避行」が1曲目でもよかったのですが、アルバムを買って、さあ聴くぞというとき、既発曲が1曲目だとちょっとテンション下がるような気がして。今回は全体にエレクトロニクスが多めですが、この曲はちょっと生々しいグルーヴで、他の曲と質感が違いますね。

「明日こそ 昨日よりマシな生き方したいね」という歌詞も含めて、かなりパンチのある曲で攻めていますね。

堀込 ブルージーで苦いことを歌いたいと思いつつ、前向きな感じも入れたくてこういう歌詞になりました。「明日こそは」って言ってなかなかやらない人も、本気でそう思っている人も共感できるかなって。

『愛をあるだけ、すべて』が、愛をテーマにしたアルバムだと思って聴いていくと……?

去年の12月のライブでも披露していた「時間がない」は、人生の後半にさしかかった感濃厚な歌詞がリアルで…。

堀込 弓木さんは「ここまで中年押しにしなくてもいいんじゃないか」って思ったんだよね(笑)。

弓木 それは私が「これは中年の気持ちも歌った曲です」って言っても説得力がないからです(笑)。

田村 僕らと違って、弓木ちゃんだけ「時間がある」からね(笑)。

介護、不登校、ローン…今の日本の中年が抱える「問題ワーズ」が出て来るポップスってないですよ。

堀込 でも、普通に生きているとそういう問題、やっぱり出てくるじゃないですか? ミュージシャンの高齢化に伴いっていうのもなんですけど、歌うテーマが変わってくるのは自然なことだと思いますけどね。

アルバム・タイトルも「時間がない」の最後に出て来る言葉ですね。

堀込 歳を重ねると時間の早さ、うつろいやすさ実感することが増えてくるし、それは切ないことでもあるけれど、だからこそ伝えたいことも明確になっていくと思うんですよ。ただ、『愛をあるだけ、すべて』ってけっこうインパクトが強いから、愛をテーマにしたアルバムだと思って聴いていくと、「ん? 違うかな?」ってなるみたいですけど(笑)。 

そんな切実な歌をフィーチャリスティックなダンス・ポップにして軽やかに聴かせてしまうのが今のKIRINJI。前半は『ネオ』からの流れを進化させつつ、新生KIRINJIの特色を前に出した展開になっている。

堀込 そうですね。「時間がない」も普通のポップスのように演奏すると新鮮に聞こえないだろうから、リズムの低域を色々工夫しました。構造がダンス・ミュージック的なんですよ。

「いつもの感じ」だと、ポップスとして時代からはじかれてしまうという危機感。

現行のシーンの音作りを意識するようになったというのは?

堀込 20年も続けていると、どうしても自分の癖が出てきてしまうんですよ。今回はそれを極力抑えて、ダンス・ミュージックの構造に近いポップスとして聴けるようなものにしようという気持ちで臨みました。

キリンジ時代から聴いていた人の中には、KIRINJIのエレクトロニクスやダンス・ポップへの傾倒を「飛躍」と感じた向きもあるかもしれないですよね。

堀込 たぶん、そうだと思います。

千ヶ崎 『11』はキリンジの頃のサウンドを彷彿させるような手触りもあったので、『ネオ』で違う音像を目指すにあたっては、そういう話はしましたね。今回のアルバムもその延長で行くというのはデモが送られてきたときから共有していました。

堀込 KIRINJIを始めた頃は、メンバーが違うわけだから特にサウンドを変えようとしなくても変化はつくじゃないですか。「雲呑ガール」のようなかつてやっていなかったスタイルの曲もあるにはありましたけど。ざっくり言うと、ヒップホップ/ダンスの低域とか音圧やレンジに負けないようにしないと、ポップスとして時代からはじかれてしまう、古臭く聞こえてしまう恐れがあるなと。普通に曲をつくって、従来どおりに録音すると、「これ、前もつくったよな」という気になってしまうし、頑張って新しいスタイルの曲を書いてもアレンジや音の感触がかつてと同じだと、新しく響かない。

「いつものように良い曲ですね」で終わってしまう?

堀込 そうそう。これまでも色々なスタイルに挑戦したし、僕の好みだけでやっていくと聴き手の受ける印象は「いつもの感じ」になってしまう。それで自分とは違う視点を持ったミックスのエンジニアにお願いして、今のシーンに響く音にしたかったんです。

「After the Party」の歌詞は、なんで私の気持ちが分かるんだろうって思いました。

弓木さんがリード・ヴォーカルの「After the Party」の歌詞は、弓木さんのキャラクターに当て書きしたんですか?

堀込 弓木さんが歌うことを前提に、絵が浮かぶような歌詞にしました。弓木さんが夜中のコンビニにいる姿とか想像して。

したたかに酔って、シワシワのドレスで夜中のコンビニに立ち寄り、強い炭酸を飲んで正気に戻る弓木さんですか(笑)?

弓木 私はこの曲の歌詞を読んだとき、他人ごととは思えない、なんで私の気持ちが分かるんだろうって思いました。

堀込 ヤバイな。松本隆先生みたい(笑)。

弓木 そういう姿を見せないように努力していたのに、見破られていた! 怖い!って(笑)。あ、でも、ヒールは履かないし、つけまつげもしないですけど。

田村 この歌は、お酒でやらかしちゃう女子にはすごく共感を呼びそうだよね。これをアルバムの推し曲にした方が良くないですか(笑)?

 男子はお酒をあまり飲まなくなったのに、その分女子がすごく飲むようになりましたよね。世相を反映してますよ。

でも、ちょっと切なくて可愛いオチがある。

堀込 最後の朝日が昇る場面で少し前向きになれるようにしました。これは書いていても楽しかったです。

堀込 こういうジャズっぽい曲に弓木さんのヴォーカルが乗るのは、ちょっとした発明かなと自分でも思っています。

弓木 私はKIRINJIが初めてのバンドだし、最初の頃は死にそうなくらい大変だったんですけど、その頃に比べると少しは成長したのかなと。メンバーの皆さんが優しく教えてくれたおかげです。

チーズを食っておかしくなっちゃった男の話「悪夢を見るチーズ」。

千ヶ崎さん作曲、リード・ヴォーカルの「悪夢を見るチーズ」は、ファンキーなベースラインのまさにデモニッシュな曲ですね。

千ヶ崎 僕は9割方プレイヤーなので、高樹さんのように普段から曲を書くような活動はしていませんが、プレイしない期間に違うアウトプットをする楽しさは感じるようになってきましたね。

サンダーキャットへの日本からの回答と言えるような(笑)。

千ヶ崎 ガハハハ。ずいぶん弱い回答じゃないですか!(笑)。

 いや、そういうことにしておこうよ(笑)。

堀込 サンダーキャットってバカテクなのに「変」という印象の方が残るところが面白いから、共通点はなくはないよ。

千ヶ崎 なんか僕の曲、KIRINJIのオモシロ枠みたいになってきているのかな?(笑)。高樹さんの書いてくれた歌詞は、チーズを食っておかしくなっちゃった男の話なんですけどね。あるチーズを食べて寝ると、変な夢を見るという話が実際にあるんですよ。

堀込 デモがドラムとベースと歌だけだったので、自分でつくった曲ではこうはならないというハーモニーが生まれて、僕も面白かったですね。

こういう曲があることが、キャリアのあるミュージシャンが始めた新しいバンドの楽しさなのかなと思いました。

堀込 ああ。確かに若いバンドはやらないですよね。この曲あたりから、『愛をあるだけ、すべて』のタイトルから想像していた流れが「ん?」となっていくのかもしれないけど(笑)。

結果的にはむしろそれぞれのプレイが引き出された多彩なサウンド。

「新緑の巨人」は、あの「進撃の巨人」を連想させますが?

堀込 うちの次男が「新緑」という言葉を覚えて、ダジャレみたいに口にしていたことから「新緑の巨人」というイメージを膨らませて書いたんです。新緑の季節って精神が不安定になる時期らしくて、「新緑の巨人」が立ち上がり、夏を来ると、憂鬱な気分が晴れていくという。

後半は夏を感じさせる流れになっていますね。

堀込 リリースの時期は、やっぱり関係してきますね。前半はポストロックっぽいドラムを楠さんにお願いして、後半の僕のギターはR&Bというかジョージ・ベンソンというか(笑)。

インストの「ペーパープレーン」から「silver girl」で、エキゾチカな夏のムードが高まるのは、スティールパン奏者がいるバンドならではですね。

堀込 最近、スティールパンを入れる若手のバンドが増えてきてますね。cero、D.A.N.、ザ・なつやすみバンドも使ってたかな。

田村 楽器としてかなりカジュアルになってきましたね。僕が心がけたのは、熱いプレイというのではなく、クールにエロくでしたね。

堀込 エレクトロニクスとスティールパンは相性がすごくいいんですよ。ここは玄さんがメンバーにいる強みですね。

田村 あと、今回はペダルスチール然としたプレイは少ないんですが、「AIの逃避行」や「新緑の巨人」にも入っているし、いろいろと弾いているんです。

堀込 レコーディングに入る前に、今回はエレクトロニクスや打ち込みが多いので、「もしかしたら、みんなのパートが少なくなるかも。そうなったらごめんね」みたいなメールをしたのですが、結果的にはむしろそれぞれのプレイが引き出されたような気がしますね。

メジャー・デビュー20周年、その時代の一番新しい音楽を更新していく。

今年はメジャー・デビューして20周年になります。現在のKIRINJIから振り返るといかがですか?

堀込 20周年は単なる数字に過ぎないとは思うけど、キリンジは(堀込)泰行が辞めた時点で終わっていたかもしれないわけで、今、このメンバーのKIRINJIで20周年を迎えられたのは貴重なことだなと思います。デビューのときから20年も聴いてくれるってホントに有り難いというか、考えてみたらすごいことだなと。

田村 今のメンバーでもう5周年だから早いよね。

 僕はキリンジ時代からの付き合いですが、高樹くんのような豊かなメロディーメーカーが、今回のようなダンス・ミュージックを意識した音をつくるようになって、ビージーズを感じましたね。

堀込 えっ? じゃ、このアルバムは『サタデー・ナイト・フィーバー』?(笑)。

 ビージーズも最初の10年くらいはキレイなメロディーのポップソングをつくっていたじゃないですか。だから、大ブレイクはこれからですよ!

堀込 それは初めて聞いた(笑)。確かに自分の作風のルーツは70年代周辺のものになるとは思うんだけど、当時ははっぴいえんどや山下達郎さんやユーミンさんにしても一番新しい音楽として聞かれていたわけじゃないですか。ただ、その音楽のスタイルを形だけ引き継ぐのではなく、むしろ最先端であったという姿勢やスピリットを追求していくことの方が大事なんじゃないかと思うようになってきました。だから、固定されたイメージを更新して、KIRINJIをもっと面白くしていきたいですね。


「時間がない」

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『愛をあるだけ、すべて』ダイジェスト・ムービー

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ライブ情報

KIRINJI TOUR 2018

7月14日(土)福岡・スカラエスパシオ
7月19日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
7月20日(金)愛知県・名古屋CLUB QUATTRO
7月25日(水)東京・渋谷CLUB QUATTRO
7月26日(木)東京・渋谷CLUB QUATTRO

KIRINJI

堀込高樹:(vocal / guitar)、田村玄一:(pedal steel / steel pan / guitar / vocal)、楠 均(drums / percussion / vocal)、千ヶ崎 学:(bass / synthesizer / vocal)、弓木英梨乃:(guitar / violin / vocal)。
1996年10月、実兄弟である堀込高樹、堀込泰行の二人でキリンジを結成。97年にCDデビュー。98年にメジャー・デビュー。オリジナル・アルバム10枚を発表後、2013年に堀込泰行が脱退。以後、堀込高樹がバンド名義を継承し、同年夏、バンド編成のKIRINJIとして再始動。2014年に新体制初のアルバム『11』をリリース。2015年11月には『11』を再構築したスペシャル・アルバム『EXTRA 11』を発表するなど新機軸を打ち出した。2016年には初の試みとなる外部アーティストとのコラボレーション・ナンバー『The Great Journey feat. RHYMESTER』を含む『ネオ』を発表し、新たなフェイズに突入。2017年11月22日にはCharisma.comをフィーチャーした配信限定シングル「AIの逃避行feat. Charisma.com」をリリースした。12月の「KIRINJI LIVE 2017」をもってキーボードのコトリンゴが脱退。バンドとしてまた新たな一歩を踏み出した。

オフィシャルサイト
https://natural-llc.com/kirinji/