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溝口琢矢らが拳を振り上げて叫ぶ、「どんな困難だってネバー・ギブ・アップ!」──舞台『ジョン万次郎』ゲネプロ&囲み会見レポート

溝口琢矢らが拳を振り上げて叫ぶ、「どんな困難だってネバー・ギブ・アップ!」──舞台『ジョン万次郎』ゲネプロ&囲み会見レポート

溝口琢矢を主演に迎えた舞台『ジョン万次郎』が、6月14日より、EXシアター六本木にて上演中だ。本作は、教科書に載らない歴史を楽しく表現する「もっと歴史を深く知りたくなるシリーズ」の第6弾にあたる。マーギー・プロイス著、金原瑞人訳の児童文学『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』(集英社文庫)を原案に、日本人として初めてアメリカ大陸に渡ったとされるジョン万次郎の波乱万丈の人生を描いたストーリー。そんなゲネプロと囲み取材が行われた。

取材・文・撮影 / 竹下力

日本とアメリカの架け橋になりたいと奔走するジョン万次郎に感動

舞台の幕開けは、開国後すぐの日本から始まる。勝 海舟(山崎樹範)と薩長の兵士が争うシーンだ。薩長の兵士たちは、現況の日本に不満を抱き、近々、江戸を焼き払わんと意気込んでいる。そんな切迫した状況で、殺陣の応酬が繰り広げられ、最後に見得を切るように勝 海舟がニヤリと呟く「ネバー・ギブ・アップ」。それは彼がジョン万次郎から学んだ大切な言葉だった。

そして暗転、舞台は過去へと遡る──土佐の漁船が嵐で難破。幼きジョン万次郎(溝口琢矢)、五右衛門(石原壮馬)、伝蔵(石井智也)、寅右衛門(正木 郁)らがとある島に漂流してしまったことがわかる。3ヵ月以上も野鳥を食べて生きながらえ、ようやく彼らはアメリカの捕鯨船のホイットフィールド船長(細貝 圭)に助けられる。その船には、日本人を毛嫌いするジョリー(荒木宏文)、イッチ(井深克彦)、ディヴィス(寿里)らがいるが、一行は係留地のハワイへと向かう。そこからは風雲急を告げるストーリーが展開していく。

アメリカの船員たちと日本人たちは、すれ違う言葉、習慣の違いにお互いが疑心暗鬼になってささくれだっていく。そのなかにおいても、好奇心と夢見ることを忘れない、純真無垢なジョン万次郎は、ホイットフィールドから言葉のレッスンを受けながら成長していく。

やがてジョン万次郎は、停留したハワイで、土佐の仲間たちと別れ、ホイットフィールドの養子になり、アメリカ本土に渡ることに。日本人という理由で差別や嘲笑にさらされながらもアメリカの航海学校へと進学、優秀な成績を修めるのだが、意を決し再び祖国の地を踏むと、そこは動乱の日本だった。“開国”、“攘夷”、“倒幕”の間で心が揺れ動きながらも、ジョン万次郎が様々な困難に負けずに立ち向かっていく。ホイットフィールドの「ネバー・ギブ・アップ」という言葉を胸にして。

舞台上には、巨大な船のような階段状のセットが組まれ、ジョン万次郎のアメリカ時代から日本時代へと航海していく。そうして、1幕では主に、アメリカに渡ったジョン万次郎がホイットフィールドに育てられながら、人間としての尊厳、夢を見つけるまでの少年期を。2幕では、日本に戻り、動乱の日本を変えようと奔走する、たくましく生きる青年期の姿が描かれる。

多くのキャストが日本人とアメリカ人の2役をこなしているが、やはり注目すべきは、ジョン万次郎を心の底から生きていた、溝口琢矢。日本人とは何か? 差別とは何か? 日本で何ができるのか? 様々な問いを観客に投げかける。終盤で涙を流しながら「こんな動乱の時代だからこそ手を取り合おう」と、人種、国、言語を超えた“ユニティ”の必要性を説いた長台詞は圧巻。苦難を乗り越え、己の真の生きる道を見つける彼の姿は感動的だった。

1幕ではジョリー、2幕では武市半平太を演じた荒木宏文も刮目すべき。ジョン万次郎にとある理由で嫌気がさしているジョリー、そして“攘夷”を唱える半平太は、どちらもジョン万次郎のライバルとして壮絶な火花を飛ばすのだが、その演技の存在感は素晴らしい。

五右衛門 役の石原壮馬は、ジョン万次郎と共に成長し、時には反駁しあい、認め合う“同志”として、日本人とは何かを誠実に観客に問いかけ続けた。

1幕で、ジョン万次郎と共に遭難した寅右衛門、2幕で福沢諭吉 役の正木 郁は、寅右衛門は将来に不安を感じさせるオドオドしたキャラクターだが、福沢諭吉では国を学問で変えようとする強い決意が垣間見え、テンポやメリハリが効いたバランスの良い演技。

また、1幕ではアメリカの航海学校でジョン万次郎を支える友達のキャサリン、2幕では妻になる鉄を好演した山下聖菜は、慈愛に満ちた演技で、万次郎が葛藤し、悩んだときの救いとなるミューズとして存在していた。

ホイットフィールド船長役の細貝 圭は、早くに妻と死に別れ、息子を持ちたかったという切なる願いを日本人のジョン万次郎に託し、彼を養子に迎えるという難しい役どころ。しかし、バリトンでブレない声量を会場に響かせ、異国の子供を引き取ることの差別や、安っぽい同情などどこ吹く風と吹き飛ばす、揺るぎない決心を持った男らしい姿はカッコよかった。

さらに、鈴木哲也と金沢知樹による脚本が素晴らしい。歴史的な事実が淡々と述べられることなく、ジョン万次郎の人生がドラマチックに描かれており、一瞬たりとも飽きさせない。もちろん、多くのキャストが、自身の役どころを理解しているからこそ、破綻なくストーリーが進行していく。

劇団スーパー・エキセントリック・シアターの大関 真の演出は、歴史を歪めることなく、それでいて、アメリカと日本、2つの国で真摯に生きたジョン万次郎の魂を大胆にあぶりだしていく。何より、大掛かりなセットを巧みに操らせ、スムーズに物語を展開していく手腕は見事だった。

終演後、人間の尊厳の大切さを訴えかけてくれる舞台に胸を打たれて、熱き血潮が血管を流れ、涙が止まらなかった。現代の日本において、とかく重要視される個性。すなわち、誰かを脇に押しのけたり、蹴落として前に出ることがすべてではない。そうジョン万次郎たちは語ってくれた。たとえ国や言葉が違えども、そこにあなたがいて、心の底から発せられる言葉を持っているのなら、不器用でもコミュニケーションをとろう、そこに真の“個性”、“融和”と“友愛”が生まれると叫んでいるのだ。彼らは、どこか殺伐としている今の日本に大切なものを教えてくれた。

そんなアメリカと日本を“愛”で結ぶ架け橋になりたいと懸命に生きたジョン万次郎。彼の胸に刻まれた「ネバー・ギブ・アップ」という言葉こそ、これからの世代へと受け継ぐべき言葉だと感じさせてくれた。人生でつらいとき、諦めたいとき、どうしようもなくくじけてしまいそうなとき、いつでもあなたのそばにある言葉はただひとつ、「ネバー・ギブ・アップ」なのだと。

公演は、6月24日まで。終演後には、溝口琢矢をはじめとしたキャストによるアフタートークショーも予定されており、ジョン万次郎のことをさらに深く知ることができるはずだ。

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