LIVE SHUTTLE  vol. 271

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岡村靖幸 今回のツアー「マキャベリン」で何を感じ、何を考え、オーディエンスに何をフィードバックしようとしていたのか、紐解く。

岡村靖幸 今回のツアー「マキャベリン」で何を感じ、何を考え、オーディエンスに何をフィードバックしようとしていたのか、紐解く。

岡村靖幸 2018 SPRINGツアー「マキャベリン」
2018年5月26日 Zepp Tokyo

このところ、岡村靖幸のツアーをずっと見続けている。どのツアーもほとんどMCがなく、音楽に集中するステージになっている。キャリアを重ねると、MCが苦手なアーティストでも次第にしゃべるようになっていくのが通例で、ファンにとってもその方が評判のいい場合がしばしばある。だが、岡村はその正反対だ。ひたすら歌い、演奏を続ける。しかし、見ていて「もっと岡村ちゃんのMCが聞きたい」とは思わない。なぜかといえば、音楽で充分、コミュニケーションが取れているからだ。

 岡村がダンスと共に投げかける歌は、歌詞と感情がしっかりと伝わってくる。オーディエンスはそれにストレートに反応して、歓声を上げたり、踊ったりする。よくあるケースと言えばそれまでだが、岡村のライブの場合、通常のシンガロングやコール&レスポンスといったレベルではないのだ。それこそ彼がライブを“デート”に例えるとおり、もっと密接なコミュニケーションがそこにある。見つめ合うように、抱きしめ合うように、ステージと客席が交歓する。その熱さは尋常ではなく、いつも驚かされてきた。

さて2018年のSPRINGツアー「マキャベリン」で、岡村が何を感じ、何を考え、オーディエンスに何をフィードバックしようとしているのか。そこに焦点を当てて、ライブをレビューしてみよう。

ツアー中盤のZepp TOKYOのステージは、例によって薄くて白いカーテンで覆われている。照明が落とされ、場内が沸いたとき、カーテンが真ん中から割れて開き、ライブがスタートする。バンドはドラムス、ベース、キーボード、ギター、マニピュレータ、ブラスセクションで、1曲目「ステップUP↑」はブラスが全面にフィーチャーされた華やかなオープニングとなった。

4thアルバム『家庭教師』(1990年)収録のこの曲は、♪倫社と現国 学びたい♪という歌詞が妙に耳に残るインパクト充分なリリックを持つ。この日もやけに歌詞の一言一句が、心に飛び込んでくる。タイトルからの連想で、そういえば昨年、DAOKOとのコラボシングル「ステップアップLOVE」が話題になったなと思う間もなく、指をピンと伸ばしてあちこちを差すアクションで、岡村は最初から飛ばす、飛ばす。時折、はさむハスキーなシャウトがセクシーだ。♪手をつないで歩きたい♪というフレーズを、思わず一緒に歌いたくなった。

終ってリズムのループが残る中、男性ダンサー2名がステージに入ってくる。始まったのは、例の「ステップアップLOVE」だった。やっぱり!! このユーモア感覚に会場から歓声が上がる。岡村はMV並みのスピード感でダンスしながら歌う。オーディエンスにとって、新しいナンバーも楽しめるアイテムになっているところがいい。キメキメで終わって、すぐに次の曲へ。

3曲目の「Dog Days」が前半のハイライトだった。この4thシングルのオリジナルは、モータウンのグルーヴとアコースティック・ギターの爽やかなコード・ストロークの組み合わせがユニークだった。が、今回はへヴィーなビートにリアレンジされ、それがオーディエンスの爆発的なハンドクラップを呼ぶ。パワーアップされたサウンドの隙間から、♪苦しくて 切なくて 泣きそうだよ♪というエキセントリックなリリックが聴こえてくる。岡村が熱い思いをぶつけるように、ハンカチーフを投げる。サビの♪Sunshine♪をオーディエンスが大声で歌い、その後を追いかけて岡村が歌う。やはり岡村のライブにMCは要らない。音楽を通したコミュニケーションの最も美しい形がここにあった。

「どぉなっちゃってんだよ」ではオーディエンスと♪ファッションx2♪や♪マンションx2♪のやり取りがあったり、「青年14歳」で岡村が2人の男性ダンサーと振りを揃えるだけでダンスのパワーが100倍になったり、超ファンキーな「愛の才能」では会場中が踊り出す。

着替えタイムをはさんでの「できるだけ純情でいたい」では、ミディアム・テンポでの岡村の魅力が炸裂。♪逢いたいx3~きらいx4♪と歌って、踊りながらオーディエンスの指揮を取る岡村は、トランス状態にまで盛り上げるゴスペルの牧師のようだ。会場はそんな岡村に従って、心とグルーヴを一つに重ねていく。他のアーティストのライブではついぞ見かけたことのない、濃密なコミュニケーションだ。これぞ岡村のライブの醍醐味だ。

一方で「忘らんないよ」は昨年、公開された萩本欽一のドキュメンタリー映画『We Love Television?』の主題歌になったスローバラードで、人生の悲喜劇を描くこの歌を、会場は静かに聴き入る。一昨年、リリースされたアルバム『幸福』からのナンバー「彼氏になって優しくなって」から、ライブは終盤に突入する。

ここまでライブを観ていて、過去のナンバーの活かし方が、他のアーティストのライブとまったく違っていることに気が付いた。普通、過去曲はどうしても懐メロとして扱われてしまう。歌う方も聴く方も、それを前提にしてコミュニケーションが交わされる。それはそれでいいのだが、岡村の場合、“過去曲”が“今の曲”として歌われ、ファンも今の曲として楽しんでいる。たとえば30年前に書かれた岡村の歌詞は、今も切なくて、一生懸命で、エッチで、真っ直ぐで、楽しい。そうした曲が、事実上の最新アルバム『幸福』からの曲や昨年発表された「忘らんないよ」、「ステップアップLOVE」と並んで演奏されても、何の違和感もなくアップデートされている。そうでなくては、ほとんどMCなしで、ここまでアーティストとオーディエンスが深いコミュニケーションを交わすことは不可能だ。

シンプルに言えば、岡村靖幸は過去も今も同じスタンスでラブソングを作り続けている。それらを使って、今、最も上手く音楽的コミュニケーションを取っているアーティストだということだ。ボーカル、バンドの演奏、ダンス・パフォーマンス、照明、音響などのすべてを使って、音楽的コミュニケーションの新しい地平を切り拓こうとしているのだ。

本編は、「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」と「だいすき」を、岡村と一緒にオーディエンスも思い切り歌って一度、幕を閉じた。

岡村のライブは、アンコールでも独特のスタイルを持つ。そのツアー、そのツアーで、岡村の“マイブーム”となっているカバー曲が聴ける。今回はスティーヴィー・ワンダーの「迷信」だった。爆音で演奏されるワイルドな「迷信」で、岡村は自由にアドリブで歌い、しかもビシッと締めていた。

2曲目はリズムボックスのようなリズムで「どんなことして欲しいの僕に」。岡村の曲の中でも屈指のエロス・ナンバーで、オーディエンスは歓びのあまり、キャーキャー騒ぐ。

岡村はMCをしないが、いつもライブではマニピュレータの白石元久が代わりにしゃべる。

「はいはいはい、皆さん。思い切り岡村ちゃんの名前を呼んじゃってもいいですョ。まず女性の方、どうぞ! (女性客「岡村ちゃーん!」)……はいはい、では男性の方!(男性客「オカムラー!」)……はい、ありがとうございます。そういえば、『どんなことして欲しいの僕に』を歌うのは30年ぶりだそうですよ。皆さんは、岡村ちゃんにどんなことして欲しいですか? ハグ? そんなことでいいんですか? もっとあるでしょ?(笑)」とひとしきり笑わせる。一度目のアンコールは「Super Girl」で終わった。

2度目のアンコールは、さらにディープだった。アコギを抱えて椅子に座った岡村は、♪今夜しかできないことをしに来たぜ ベイベ 今夜しか聞こえない声で俺にささやいてくれよ もっと本気で♪と、フリースタイルのブルースを奏でる。場内からはクスクス笑いや、掛け声が上がる。これも岡村ならではの音楽的コミュニケーションだ。もし似たスタイルがあるとしたら、かつての忌野清志郎のそれに近いかもしれない。会場は完全にリラックスして、岡村に身を委ねる。

キーボードに移動した岡村は、いきなりユーミンの「卒業写真」を弾き語り始めたから、場内が大いにどよめく。こんなハプニングも楽しい限りだ。

そして僕がさらに驚いたのは、「友人のふり」だった。10thシングル曲ではあるけれど、正直、地味な曲だ。だが、このシチュエーションで歌われると、妙に心にグッとくる。懐かしさを越えて、今の自分に訴えかけてくる。このマジックが、今の岡村ちゃんのライブの核心なのだろうと思う。

その後は「愛はおしゃれじゃない」、「ビバナミダ」という『幸福』からの曲でライブは終った。「最後はもっと昔の曲で終わってよ」と思ったオーディエンスは、きっと一人もいなかっただろう。なぜなら、みんな嬉しそうな顔で帰っていったのだから。

 文 / 平山雄一 撮影 / 富永よしえ

岡村靖幸 2018 SPRINGツアー「マキャベリン」
2018年5月26日 Zepp Tokyo

セットリスト
1.ステップUP↑
2.ステップアップLOVE
3.Dog Days
4.どぉなっちゃってんだよ
5.Lesson
6.青年14歳
7.ぶーしゃかLOOP
8.愛の才能
9.(着替え曲)
10.できるだけ純情でいたい
11.ヘアー
12.忘らんないよ
13.彼氏になって優しくなって
14.Out of Blue
15.あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう
16.だいすき
ENCORE-1
17.迷信
18.どんなことをして欲しいの僕に
19.PUNCH~祈りの季節
20.Super Girl
ENCORE-2
21.弾き語り
22.All In Love Is Fair
23.友人のふり
24.愛はおしゃれじゃない
25.ビバナミダ

岡村靖幸

1965年生まれ、兵庫県出身のシンガーソングライターダンサー。数多くのアーティストの作品に作曲家として関わった後、1986年、「Out of Blue」でデビュー。
ブラックミュージック、ロック、ポップス、歌謡曲等、様々な音楽のエッセンスを吸収、発展させたメロディ、アレンジは、グルーヴィーであったり、じっくり聴かせるものであったりと自由自在。
レコーディングでは、ほぼ全ての楽器を自ら演奏している。
加えて、青春や恋愛の機微を描いた瑞々しいワン&オンリーな歌詞が唯一無比、圧倒的な支持を得ている。
オリジナルアルバムを6枚発表。2011年にセルフカヴァーアルバム「エチケット」を2枚同時リリース。
近年は年2回のツアーを行いながら、ワクワクする作品を発表している。
一方、テレビ情報誌「TVブロス」とファッション誌「GINZA」の対談連載も、ここんとこ評判である。
ニックネームは「岡村ちゃん」。


連載&レギュラー

隔週刊テレビ情報誌 「TV Bros.」(東京ニュース通信社):「あの娘と、遅刻と、勉強と」
メルマガ 水道橋博士「メルマガ旬報」(博報堂ケトル):「博士の愛した靖幸」
高音質音楽チャンネル TS ONE:岡村靖幸&小出祐介の「PREMIUM ONE」

 

オフィシャルサイトhttp://okamurayasuyuki.info/info/

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