モリコメンド 一本釣り  vol. 71

Column

the sea falls asleep シニカルでもあり、ユーモアもあるシャープな視点。真に優れたポップネスを志す二人が編んだアルバム

the sea falls asleep シニカルでもあり、ユーモアもあるシャープな視点。真に優れたポップネスを志す二人が編んだアルバム

自分自身の感情、世の中の風景、時代の雰囲気などシャープな視点——シニカルでもあり、ユーモアもある——で切り取り、洗練と抑制をしっかりと効かせたポップミュージックへと結びつける。ソングライティング、サウンドメイク、音楽に対する真摯かつ自由なスタンスが高いレベルで融合したポップ・アルバムだと思う。

the sea falls asleepのニューアルバム「THE PORTRAIT」。2006年に結成され、2010年にメジャーデビューした3ピースバンドAnyがthe sea falls asleepに改名。ドラマーの脱退を経て、クドウナリヒサ(ボーカル, ギター)、オオモリシンヤ(ベース,コーラス)の2人体制となって初めてのフルアルバムが本作だ。プロデュースはAny時代の作品「視線」を手がけた木暮晋也(HICKSVILLE)。カラフルなポップ感と先鋭的なアレンジを共存させたサウンドも彼らの歌の魅力を際立たせている。

まずはここ数年の彼らの動きを簡単に紹介しておきたい。バンド名をthe sea falls asleepに変えたのが2016年。バンド名の変更を提案したのはドラマーの高橋武(現フレデリック)で、“過去を一掃するくらいの気持ちで新たにスタートしたい”というのがその理由だったのだが、バンド名を変更した直後、高橋が脱退。クドウ、オオモリは2人で活動を続けることになる。3ピースバンドからドラマーがいなくなるという出来事は、当然、彼らの音楽性に大きな影響を与えた。まずはライブ。サポートミュージシャン(ドラム/U、キーボード/清野雄翔、ギター/坂本夏樹など)を加えたバンド形式のライブのほかに、ドラムマシン“ローランド707”を使用し、クドウ、オオモリの2人だけで行うスタイルも確立。さらに制作の面でも、ドラムレスという形態を活かしたトライアルによって(Any時代とは異なる)the sea falls asleepとしての音楽的アイデンティを構築しはじめる。そのポイントを端的に言えば“脱・ギターロック”ということになるだろうか。ギターを中心としたアンサンブルの枠を飛び出し、Tortioise、The Sea and CAKEに代表されるシカゴ音響系、THE PASTELS、BELLE AND SEBASTIANなどのグラスゴー周辺のバンドなどのテイストを取り込みながら、より自由度の高い音楽性を志向。洗練されたポップネスと独創的なサウンドメイクを融合させた独自のスタイルを追求しはじめたのだ。

作詞・作曲を手がけるクドウのソングライティングもさらに充実。Any時代の「記憶喪失」(2011年)あたりから始めたという“詞先”(歌詞を先に書く制作方法)を突き詰めながら、リスナーに映像を喚起させるような楽曲からは、もともとクドウが持っていたソングライティング・センスがしっかりと伝わってくる。ドラマーが抜け、3ピースバンド特有の生々しさ、ダイナミズムを失ったことで、歌を中心としたプロダクションに移行。そのことによってクドウは、自らの作家性を見つめ直し、その個性と才能をこれまで以上に発揮するようになったのだと思う。心の内側に閉じこもるような内省的な雰囲気が薄れ、外に向かって出て行こうとする意志が強まったことも、アルバム「THE PORTRAIT」の魅力だろう。

クドウの歌、オオモリのベースを軸にした「格好の餌食」からスタートする「THE POTRAIT」。まず印象に残るのは、リードトラックのひとつ「Minor Climax」だ。軸になっているのは80年代のニューウェイブ/ノーウェイブを想起させるサウンドメイク。さらにソウルミュージックのテイストを取り入れ、派手なサックスソロも加わるなどさまざまな要素が混ざり合っているのだが、聴感はあくまでもクールに仕上がっている。プロデューサーである木暮の手腕がもっとも活かされた楽曲の一つと言えるだろう。「Minor Climax」とは“よくある結末”という意味。生きてればいろんなことがあるし、悩みは葛藤を抱えることもあるが、人生は所詮、そんなもの。“大したことないよ。結局は自分次第だから”という気分を伝えるクドウのボーカルも素晴らしい。また「センチメンタル」はアルバムのなかでもっともポップな楽曲。(タイトル通り)叙情的な雰囲気を感じさせるメロディは、一般的なJ-POPファンにもアピールするはずだ。

本作「THE PORTRAIT」はストリーミングとダウンロードのみのリリース。日本においてはレアなリリース方法だが、リスニング環境がサブスク中心に移行するなか、この試みは正解だと思う。何はともあれ、the sea falls asleepの最初のアルバムが世に出たことがとにかく嬉しい。表面的な刺激や仕掛けに頼らず、真に優れたポップネスを志した「THE PORTRAIT」が一人でも多くの音楽ファンに届くことを心から願う。

文 / 森朋之

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http://sfarecord.com

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