Interview

生シラス、あじ、伊勢海老にまぐろ…ああ、今すぐ食べたい! 絶品漁港メシを厳選『漁港食堂』うぬまいちろう

生シラス、あじ、伊勢海老にまぐろ…ああ、今すぐ食べたい! 絶品漁港メシを厳選『漁港食堂』うぬまいちろう

ウエスタンハットをかぶったファンキーなおじさんによる、なんとも美味しい1冊『漁港食堂』。釣り好き魚好きの趣味が高じて作られた楽しきグルメガイドには違いないが、著者うぬまいちろうのイラストレーターとしての手腕と、物書きとしての才能が遺憾なく発揮された“実はすごい”本である。

超絶美味い一品になるまでに、魚がどのように捕獲され、どのように調理されるのか、はたまたその過程で関わる人々の想いやいかに。ひとつの料理をめぐる物語は、著者のキャッチーな文体によって、あるいは緻密に描かれたイラストによって、読者の胃袋と食欲を否応なしにユサユサと揺さぶる。読んでいる途中でも、もう我慢できない! いざ行かん、漁港食堂へ。

取材・文 / 斉藤ユカ
撮影 / エンタメステーション編集部

漁港は食べておいしい、行って楽しい!
この夏、おすすめの“生きたテーマパーク”

©うぬまいちろう/オークラ出版

うぬまさんは多くの肩書きを持っていらっしゃいますが、実際は何屋さんなんですか?

そもそもの本職はイラストレーターなんですけど、キャンピングカーであちこち行って、旅レポものを書いたりもしていますね。あとは一応、プロフィッシャーマンでもありまして、釣具メーカーさんのテスターをやらせていただいたり、スカパーの釣り番組のMCをかれこれ17年やらせていただいています。まぁ、楽しいことなら何でもやります! というスタンスですね。そうそう、バンドもやっているんですが、それはお金にならないので職業にはカウントしていません(笑)。

なんというか、永遠の夏休み感が満載の方だと読者に伝えたい(笑)。

ふざけてますよね、本当、すみません(笑)。まぁでも、仕事でも何でも、やるなら楽しい方がいいですからね。

そのうぬまさんがご自身の知識と経験を元にご紹介くださる漁港食堂の数々には、おのずと食指が動きますね。

食べ物を紹介した本なので、食べて楽しんでもらいたいのはもちろんなんですけど、漁港自体も面白いところなんですよね。働いている人たちも、多少ぶっきらぼうだけど、おおらかで気さく。たとえば「おじさん写真撮っていい?」って聞くと、すかさず「おう、いいよ」って返ってくるような感じなんです。本作に掲載したのは東京からほぼ2時間圏内の港なので、ほんと気楽に行けますよ。

©うぬまいちろう/オークラ出版

東京湾、相模湾、駿河湾のメジャー漁港から、ちょっとマニア受けするような漁港まで、それぞれの特徴が事細かに記されているので、夏休みのドライブの参考になりますね。

夏休みに家族で遊びに行くっていうシチュエーションでいうと、横浜の“南部市場”はいいと思いますね。駐車場がとにかく広い。1000人押しかけても全然大丈夫。しかも食堂が選べるんですよ。いわゆるフードコートのようになっていて、魚系が2店舗、洋食とイタリアンが1店舗ずつ。イタリアンといっても、ねじりハチマキしたおじさんが作るナポリタンみたいなやつですけどね(笑)。あとは、なぜか純喫茶が1店舗。僕個人的には賄いの食堂といいますか、要は市場で働く人たちが毎日の食事に使っている店が好きなんですけど、あそこはそれぞれの好みで選べるので便利だと思います。市場の食堂なんで、地元の魚はもちろんですけど、アジとかホッケとか、流通の多い旬の魚なんかもたくさん食べられますよ。あと、ここの場外市場は一般の方も買い物ができるので、駄菓子の大人買いなんかをしても楽しいんじゃないかな。

私個人的には、あの、シラスが美味しそうで……!

田子の浦! 駿河湾の“田子の浦港”の漁協食堂は僕もオススメしたいです。ここも比較的車を停めやすいですね。あそこはちょっとこう色気のある人がいるんでしょうね、調理が非常に秀逸なんです。メインはシラスなんですけど、ちょっと大きくなったカエリというのを漬けにして、それをご飯にこんもり盛るんですね。

©うぬまいちろう/オークラ出版

それが知る人ぞ知る赤富士丼!

本当にうまいですよ。レシピ考えた人、天才だなと思います。

各漁港の一番の売りの魚を描いたイラストも!
すべての魚を妥協なしに描かせてもらいました。

そして、家庭でもおなじみの食材でありながら、誰もじっくり見たことがなかったであろうシラスを、うぬまさんは実に繊細なタッチで描きました。

スッゲー大変だったんですよ(笑)。これね、実際にシラスを取り寄せたり、いろんな資料を集めたんですけど、結局参考にしたのは学術書でした。生物研究の資料として模写したものを使いました。結局シラスって、我が家に到着するまでに鮮度が落ちて、形状が変化しちゃうんです。漁師さんが手のひらに乗っけて見せてくれたりもしたんですけど、今ひとつ形が捉えきれなくて。それに幼魚って、だいたい似てるんです。白魚もうなぎの稚魚もシラスと大して変わんない。正確に描くのは本当に大変でした。

シラスだけではなく、各漁港の一番の売りの魚を描かれているんですよね。だからこのポップな1冊は、学術的な価値もあるのでは、と。

そう言っていただけると苦労が報われます(笑)。すべての魚を妥協なしに描かせてもらいました。食べ物の本なんですけど、漁法から説明している魚介の本はないと自負してはいます。でも、本当に気軽に開いてもらえると思うので、トイレで読んでもらっても面白いと思いますし、枕元に置いていただいてもいいでしょうしね。

©うぬまいちろう/オークラ出版

まるで図鑑のような魚の絵、各漁港の人々と料理を生き生きと描いたイラスト、躍動する文章、そして写真。すべてうぬまさんご自身の手によるものとは本当に驚きです。愛情と労力が惜しみなく注がれた1冊ですよね。

ありがとうございます! 本当にもう、死ぬかと思いました(笑)。だからね、ここだけの話、売れてくれないと大変なことになっちゃう。時給換算したら1時間100円いかないんじゃないでしょうか(笑)。何度も締め切りを延ばしてもらって、そのたびに編集者に「切磋琢磨しております!」と伝えていたら、そのうち切磋琢磨という言葉が使用禁止になりました(笑)。

私も締め切りのたびに切磋琢磨することにします(笑)。

わぁ、いいなぁ、みんなが使うと楽しいですね。日本全国に普及したら、本が売れて、僕の時給、上がるかな(笑)。

これからの季節はスズキですよ!  タイよりもスズキ!

ガイドブックとしての役割も大いに果たしてくれる1冊なんですが、私は読み物として面白いなと思うんです。何より書き手がワクワクしていることが読むそばから感じられるのがいい。

そこは考えたところなんですよ。ガイドブックって、お手軽なものが世の中にいっぱいあるじゃないですか。店を紹介するためだけのものになると、ワクワク感がなくなるよねっていう話を編集者ともしていて。場所の説明は多少雑でも、今はグーグルマップとかですぐにわかるから、とにかく僕にしか提供できない情報を多く盛り込みたいなと思って。

うまさの表現のバリエーションが多いので、とにかく文章が美味しい!

たとえば同じアジでも、地域によって微妙に味が違ってくるんです。東京湾の奥の方で獲れたやつは味が濃いとかね。学術的根拠はないんですけど、東京湾って流入河川が多いから、奥に行けば行くほどプランクトンの影響が大きくなってくるんじゃないか、と。僕自身釣りをしますけど、サバなんか外海に出ちゃうとあんまり美味しくないんです。パサっとしちゃって。湾の内側って、見た目汚いなぁって思うんだけど、そういう場所で捕れた魚の方がうまかったりするんですよね。プランクトンをふんだんに食ったイワシを食いだすと、サバもスズキもうまくなります。これからの季節はスズキですよ!  タイよりもスズキ!

夏はスズキ! 覚えておきます。

日本は東西に長いから、四季折々のいろんなお魚があって面白いですね。今回の本では東京から2時間圏内の漁港で、みなさんがわりと安心して食べられる魚をチョイスしてみたんですが、もっとマニアックな漁港料理はたくさんありますからね。それを探っていくのも楽しいと思います。そうそう、営業時間には気をつけてください。人気の食堂だと食材が売り切れたら早々に店じまいするところもあるので、朝から出かけて昼ごはんを食べるぐらいの心積もりで行くといいかもしれません。

©うぬまいちろう/オークラ出版

お話を聞いて、今週末にでもさっそく出かけたくなりました。

デートでももちろんいいんですけどね、お子さんのいる方はぜひ家族で出かけてみてもらいたいです。波止場から真下を覗くだけで、メバルの稚魚が泳いでいたりね、すごく面白いんですよ。それはゲームとかじゃ体感し得ないものです。我が家も子育てにおいてはナントカランドみたいなところに遊びに連れて行ったことはほとんどなくて、基本海や川でした。安全管理だけ気をつければ、いい思い出が作れると思いますよ。安くてうまい海の幸もたらふく食べられますしね。地域によっては地引網体験とか、箱メガネで海の中を覗いたりできるので、これからの季節は最高だと思います。生きたテーマパークは、実は近場にいっぱいあるんですよ。

うぬまいちろう

イラストレーター。1964年生まれ。書籍、雑誌、広告など多岐にわたり活躍。小さなキャンピングカー、フォルクスワーゲンT4ウェスティーで、文化風習風俗を記録しながら、日本中を行脚中。その模様を『Motor Magazine』の「クルマでゆるゆる日本回遊記」に14年間連載中。愛車の走行距離は33万キロを超える。一番好きな釣りはトラウトフィッシング(鱒釣り)。北海道、東北の釣りに特に造詣が深く、幻と歌われるイトウ釣りはライフワーク。29年の歳月を費やし生涯を賭した鱒族との戦いの記録は、釣り人社『鱒の森』連載『脂鰭式釣魚絵図大全』にて、見開きイラストグラビアにて連載中。また、スカイパーフェクTVの釣り番組『トラウトキング選手権大会』のMCを17年にわたって務めている。著書に、『東京湾ぷかぷか探検隊』(潮出版)、『東京トカイナカ探検隊』(主婦の友社)、『トラウト&サーモンのルアーフィッシング』(山と渓谷社)、『新日本擬似餌紀行』(廣済堂出版)など。

オフィシャルサイト
http://www014.upp.so-net.ne.jp/ichiro_web/
Twitter@unumaichirou

書籍情報

『漁港食堂』

うぬまいちろう(著)
オークラ出版

海に囲まれている日本には、たくさんの漁港があり、旨い魚を食す場所がある!  日本各地の漁場に足を運び、漁師ご飯、漁港界隈の食堂を知り尽くしたイラストレーターうぬまいちろう氏による、首都圏から片道2時間で行ける、東京湾・相模湾・駿河湾の漁港をめぐり、漁港近くでしか出回らない鮮度がとっておきの地魚と「漁師めし」を紹介する1冊。詳しくはこちら⇒https://ameblo.jp/micro-fish008/entry-12384865055.html