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『嘘つき姫と盲目王子』新たな名作の予感!心温まる勇気の物語

『嘘つき姫と盲目王子』新たな名作の予感!心温まる勇気の物語

日本一ソフトウェアが贈るアクションアドベンチャーゲーム『嘘つき姫と盲目王子』。本作は、狼の化け物が人間の姫に変身し、光を失った幼き王子とともに、森の奥に住む魔女のもとへと向かう物語。魔女は、いちばん大切なものと引き換えに、何でも願いを叶えてくれるという。ふたりの望みは、王子の目を治すこと。そのためにプレイヤーは、狼と姫の姿を切り替えながら、人喰いの化け物を退けたり、奇妙な仕掛けを解いたりして王子を導くことになる。

本作は、その悲しい設定が発売まえから話題を呼んでいた。というのも、王子の目を傷つけてしまったのは、ほかならぬ狼だったからだ。狼は王子に悟られぬよう、姫に化けて正体を隠しているが……? 多くの人々を惹きつけて止まない本作の魅力を2回に渡ってお送りしよう。今回は徹底的に本作をプレイした筆者が、ストーリーに見た“美しさ”を中心にお届けする。

文 / 小泉お梅


こんなの泣くに決まっている……それでも突き進む原動力とは 

初めて『嘘つき姫と盲目王子』の公式サイトのPVを観たとき、あらすじだけなのに切なくて涙が滲んだのを覚えています。本作はグラフィックからも絵本を思わせる作品ですが、語られる運命もまさに残酷な童話のよう。「何かを得るために、何かを差し出す」、「相手を救うことは、嘘を重ねること」など、かわいい見た目に反して心をエグるお話なのです。

プロローグの時点でもう、悲しい展開が頭をよぎります。

「姫の正体が狼だと、王子にバレてしまうのではないか?」

「王子の目を治す代償として魔女に支払うものとは? まさか命!?」

どうかこの想像が外れていてほしい、ハッピーエンドになってほしいという一心で、プレイを始めました。皆さんは、どんな結末を予想しますか? ちなみに、プロローグでとくに切なかった点が以下になります。

○お互いに仲よくなりたかっただけなのに、最悪の対面に

美しい歌声を持つ狼の化け物が、歌を聴きに来た王子を誤って失明させてしまうという、ショッキングな事件が起こります。彼女(狼の性別は女の子です)としては、王子を傷つけるつもりはなく、とっさに顔を隠そうとしただけ。ただ、人間と触れ合ったことのない狼の化け物では、加減がわからなかったのでしょう。それに、姿を見られたくなかったのも、王子に化け物だと嫌われたくないがゆえ。かつては狼にとって、人間など捕食対象でしかなかったのに、いつの間にか王子が大切な存在に変わっていたのですね。その王子を自らの手で傷つけてしまう、やるせなさ……。

▲王子は一命を取り留めますが、その顔の傷のせいで王族に見放され、人前には出せないと幽閉されることに

○王子が愛した歌声を、彼のために手放す 

狼は魔女に王子の目を治してもらおうと思い立ちますが、彼を連れ出そうにも化け物の姿のままでは怖がられてしまいます。そこで、狼は魔女と取引をし、歌声と引き換えに人間の姿に変えてもらうことに。魔女からの要求で仕方ないとはいえ、王子と出会うきっかけであり、彼が喜んだ美しい歌声を、もう二度と聴かせてあげられないなんて……。きっと王子も寂しがることでしょう。でも、すべては彼の目を治すため。狼の覚悟がグッと胸に迫ります。

▲瞼を閉じた狼の姿が印象的です

この魔女の館でのやり取りで、アンデルセン童話の『人魚姫』が思い出されました。人魚姫も人間になって王子に再び会うため、美しい声を魔女に捧げましたね。また、相手のために、大事なものを手放すというところは、オー・ヘンリーの短編小説『賢者の贈り物』にも通じるところがあるように思います。

○王子を導くには、偽りの姿を突き通すしかない

王子は狼の姿こそ見ていなかったものの、自分に害を与えた“化け物の手”の感触は覚えており、強い恐れを抱くように。もし、狼のフサフサの毛と鋭い爪で触れようものなら、すぐに正体の知れることとなり、王子を恐怖の底へと突き落としてしまうでしょう。本作のキャッチフレーズにもあるように、“本当のわたしでは、あなたに触れられない”。ですから、偽りの姫の姿でなければならないのです。

これは“タラレバ”ですが、対面したときに王子が狼の姿を見たとしても、嫌いはしなかったように思うのです。旅を続けるなかで彼の性格が見えてくるのですが、王子は優しい心の持ち主で、分け隔てなく接することができる男の子。「もし、あのとき狼が慌てなければ」と、思わずにはいられません。

▲ゲームシステムとしても、狼のときは王子と手が繋げないようになっています

本作はこれだけ悲劇的な要素が揃っているのに、滅入らないどころか、どうしても先が気になってしまうのは、狼と同じく「なんとかしたい!」と、わずかな希望に賭けたくなるからだと思います。ゲームを進めてみると、本作は「悲しい、悲しい」だけの泣きゲーではないことがすぐわかります。むしろ、マイナスから走り出す、勇気の物語に感じられるのです。もちろん、道中で狼は大いに悩み、葛藤します。でも、その場面はとても美しいのです。

▲水面に顔を映す狼。本当の自分を出してしまえたら……

プレイを始めたもうひとつの原動力に、物語へと誘う朗読がすばらしかったことが挙げられます。本作は、キャラクターが個別にセリフをしゃべるのではなく、声優の近藤玲奈さんのナレーションによってすべての話が紡がれていきます。物語が悲しいのに美しいと感じられるのは、やはり近藤さんの澄んだ声によるところが大きいと思います。近藤さんは、キャラクターごとに声色を変えたりせず、あくまで語り部という静かな口調。聴いているうちに、絵本を読み聞かせてもらっているような感覚になりました。ふだん、私はゲームのテキストをパッパッと送ってしまうクセがあるのですが、本作ではじっくり、最後のひと言が言い終わるまで味わいました。 

絵本といえば、挿絵のような温かみのあるグラフィックも外せないポイントですね。本作はイベントシーンだけでなく、ステージ上でのキャラクターや背景も同じように手描きイラストをもとにして作られているのだとか。狼の毛の流れも1本1本、線で描かれているのがわかります。この手描きイラストそのままに、キャラクターたちが動いているのはちょっと感動しました。

▲王子はひとりではなかなか歩けません。彼の手を引きながら、横スクロールのステージを進んでいきます

▲ステージの背景は、奥行きを感じさせる手法。色を多くは使わず、淡いトーンでまとめられていて、どこかファンタジックですね。古い絵本の雰囲気が出ています

▲メニュー画面などのUIも絵本をイメージしたデザインが徹底されています

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