2018年春アニメ主題歌特集  vol. 25

Interview

氷川きよしが歌う「ゲゲゲの鬼太郎」誕生のひみつ 誰もが知るあの曲を2018年型アレンジに─アニメ音楽の王道を輝かせる“田中公平印”とは?

氷川きよしが歌う「ゲゲゲの鬼太郎」誕生のひみつ 誰もが知るあの曲を2018年型アレンジに─アニメ音楽の王道を輝かせる“田中公平印”とは?

妖怪を題材にした漫画の金字塔として、世代を問わず愛され続ける水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』が、アニメ第1期の放送開始から50周年のアニバーサリーイヤーを迎えた今年、6度目のアニメ化を実現。この4月からオンエア中の第6期シリーズは、『鬼太郎』本来のおどろおどろしい部分をしっかりと残しつつ、キャラクターデザインや設定、ストーリーなどは現代らしい内容に更新されており、大人も子供も楽しめる作品として話題となっている。

そんな本作のオープニングを飾っているのが、“ゲッゲッ ゲゲゲのゲー”のフレーズでお馴染みの名曲「ゲゲゲの鬼太郎」。歴代のアニメシリーズでは、アニメ第1期と第2期で使用されたオリジナル版の熊倉一雄を筆頭に、第3期で吉 幾三、第4期で憂歌団、そして第5期では泉谷しげるが歌ってきたが、今回は演歌歌手の氷川きよしが歌唱を担当し、現在のアニメ音楽界を代表する作曲家のひとり、田中公平が編曲を手がけている。過去に何度となくリメイクされてきた名曲に、どのようにしてあらたな命を吹き込んだのか? 田中氏に話を聞いた。

取材・文 / 北野創


今回は王道でいきつつ、“田中公平印”をどこで押すかということをすごく考えたんです

数々の名作アニメに関わってこられた田中先生ですが、『ゲゲゲの鬼太郎』の音楽を手がけるのは今回が初になります。

ドラゴンボール、999(『銀河鉄道999 エターナル・ファンタジー』)、ガンダム(『機動武闘伝Gガンダム』ほか)と、日本を代表するいろんな作品に関わってきましたけど、『ゲゲゲの鬼太郎』もそういった作品のひとつですから、お話をいただけてすごくうれしかったですよ。水木しげる先生の作品にはまだ1作も関わってなかったですし、(『鬼太郎』の)アニメの1作目も見てましたから。

子供の頃から、『鬼太郎』や水木先生の作品に親しんでいらっしゃったんですか?

水木先生の作品は『妖怪百物語』からなにから相当読んでました。あの方の作品は独特でしょ? 戦争に行かれて、死にかけて帰ってこられたから、やっぱり達観されてるんですよね。人の受けとかを考えないで、自分の好きなように書かれてるところが自由でいいなあと思ってました。手塚(治虫)先生ですら読者受けを考えてた時代なのに、そこをまったく考えてないように見えたのは水木先生だけですよ(笑)。

いずみたく先生の書かれたアニメの主題歌(「ゲゲゲの鬼太郎」)も、あの時代に意表をついてました。『鉄腕アトム』に『鉄人28号』『エイトマン』、当時はカッコいいヒーローソングばかりでしたけど、『鬼太郎』だけは違いましたからね。

それでいてたくさんの人に受け入れられたのがすごいところですよね。

そこはやっぱり独自性の問題でしょうね。今の人たちの良くないところは、受けようと意識しすぎて独自性がなくなってしまうことですよ。音楽も同じ。私は自分の作品は常に独自性を出そうとしてます。それでクライアントの考え方と一致しないこともたまにありますが、その場合は徹底的に討論するんです。そんなことは誰かがやってるし、パロディみたいなものを作ってどうするんだ、と。

その点、水木先生の作品はまったく違いますから。『ゲゲゲの鬼太郎』という作品は50年経ってもいまだにマネできないんです。それはなぜかと言うと、マネしようとしても『鬼太郎』になっちゃうから(笑)。それが本当の本物というものですよ。

そういう意味では、今回、「ゲゲゲの鬼太郎」という名曲を新たに編曲することに対して、悩んだ部分も多かったのではないでしょうか?

ただ良かったのは、いずみたく先生が手がけられた原曲という絶対的な正解がそこにあるんですよね。今回編曲するにあたって、これまでのアニメで使われたバージョンを全部聴いてみたんですけど、吉 幾三さんにしても憂歌団にしても、その正解には勝てないから別の方向性でやりたくなったんだろうなということがよくわかりました。でも、皆さん新しいものをやりながら、いずみたく先生を超えられていない感覚があったんです。

私が今回のプロデューサーさんに言われたのは、「基本はお任せなんですけど、王道でいきませんか?」ということでして、私も「王道がいいと思います」と返しました。でも王道をそのままやると、いずみたく先生と同じものになるので、今回は“田中公平印”をどこで押すかということをすごく考えたんです。

最初は全部ジャズでいこうと思ったんだけど、それはおそらく憂歌団や吉幾三さんがやられたのと同じことで、ジャンルを変えるということ自体が違うと感じたんですね。なので、今回はいずみたくバージョンをグレードアップした田中公平バージョンとして王道をやろうと思ったんです。だからコードもあまり変えてないし、楽器の編成も原曲に倣って、例えばミュージックソウというのこぎりを使った音や琴を入れたり、ドラムレスという部分も全部踏襲しました。いずみ先生がもし生きてらっしゃったら「こんなふうにしてくれたんだ、ありがとう!」と言っていただける気持ちで書きました。

自分の曲を、誰がやったのかわからないものにはしたくないんです

今回の「ゲゲゲの鬼太郎」における“田中公平印”とは、具体的にどういった部分で表現されたのでしょうか?

私は自分ですごくユニークな曲を書くと思っていて、どんなにジャンルを超えても田中公平印を押してあるんです。私のファンが聴くと「あれっ?この曲はもしかして田中公平?」となったり、テレビからパッと流れてきたときに「これそうかも?」と思われるようにしたいんです。

最近では、アプリゲーム「プリンセスコネクト!Re:Dive」のテーマ曲「Lost Princess」が、まさにそういった形で話題となっています。

それはやっぱり印を押してあるからなんですね。これは私の作家性の問題で、自分の曲を誰がやったのかわからないものにはしたくないんです。なかには後ろに一歩引きたい作家の方もいらっしゃいますが、私の考え方は、「BGMでもなんでも盛り上げ役だけではつまらないから、お互い主張するところは主張して化学変化が起きた方が面白くないか?」ということなんです。

これはいつも出す例なんですけど、例えば海岸に高倉 健さんを立たせておけば、そこに海の音と鳥の声を流すだけで画面が5分はもつんですよ。でも、そこに立ってるのがアニメキャラだと10秒ももちません。だからアニメは音楽で色をつけてあげるんです。

私の音楽はアニメに向いてるということには自分でも気が付いていて、実写の人にとっては自己主張しすぎで使いづらい音楽だと思うんですよ。つまり私の曲というのはすごく雄弁に語るんです。濃いし、太い。それを『鬼太郎』の世界に合わせたときに何か化学反応が起こればと思ったんです。いずみ先生のバージョンは素晴らしいんだけど、もともと白黒のアニメにつけた曲ということもあってか、曲だけを聴くと色彩感が少し少ない。だから、私は今回の編曲にあたって「一反木綿は白だろうし、砂かけ婆はもうちょっと黄色っぽい色、それに提灯の赤が入ってきたらいいかなあ」ということを考えました。今回の伴奏には相当色がついてると思いますね。

たしかに生楽器主体のアレンジは非常に色彩感豊かです。

今回は打ち込みはなしで全部マンパワーでやりましたから。妖怪の作品なので、人の息を感じるもののほうがいいでしょう(笑)。お化けというものは、僕らには見えないだけでその辺にいるでしょうから、その空気感を出さないことにはしょうがないと思って。今の人たちはデジタルで曲を書くから、曲からどんどん色がなくなってるんですよ。私はデジタルがアナログに勝ってる部分は、リズムの正確性と廉価なところぐらいだと思ってますから(笑)。

リズムの正確性にしても、僕らが持ってる生体リズムとは違うものだからグルーヴ感が出ないし、今の子たちはそういう音楽で育ってきたので、生のグルーヴを出すと気持ち悪いと言われることもあるんです。ただ、逆に言うと、このごろ僕の“印”が目立ってきたのは、そういうデジタル人間が増えたおかげなんですよ。そういう意味ではすごくラッキーなんです(笑)。

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