LIVE SHUTTLE  vol. 275

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奥田民生 約2年半ぶりのMTR&Yとしてのツアー。仲間やバンドとオーディエンスの遠慮のないコミュニケーションに垣間見える、奥田民生のライブ哲学

奥田民生 約2年半ぶりのMTR&Yとしてのツアー。仲間やバンドとオーディエンスの遠慮のないコミュニケーションに垣間見える、奥田民生のライブ哲学

奥田民生「MTRY TOUR 2018」
2018年6月8日 中野サンプラザホール

MTR&Yとしてのツアーは、2015年の“秋コレ~MTR&Y Tour 2015~”以来、約2年半ぶりとなる。MTR&Yのメンバーでレコーディングしたアルバム『サボテンミュージアム』は、昨年9月にリリースされた。通常ならすぐに最新アルバムを掲げた“サボテンミュージアム~MTR&Y Tour 2018~”に出るところなのだが、リリースからすでに半年も経ってしまったので、しれっと“MTRY TOUR 2018”としてツアーをスタートさせるのが実に奥田民生らしい。4月14日の三郷市文化会館を皮切りに全国を巡るツアーの中盤、13本目の中野サンプラザでのライブを観た。

ステージの背後は、レンガの壁のセットになっている。子供番組「カリキュラマシーン」で流れていたシタールのSEが聴こえると、レンガ壁の左はじにあるドアが開いて、奥田民生、湊雅史(ドラム)、小原礼(ベース)、斎藤有太(キーボード)の4人のメンバーが現われた。僕の後ろのオーディエンスが「あっ、あのドア、本当に開くんだ…」と感心したようにつぶやくのが聴こえる。その口調があまりにも真面目だったので、「感心するのはソコ?」と、思わず噴き出してしまった。

さらにはアフロヘアにサングラスの奥田が、ステージ中央にセットされたソファに腰掛けて、「こんばんは、フフフ、奥田民生です。コンサートの時間です。」ともったい付けて言ったから、さらにおかしな気分になる。と、奥田が「こんなんやってたら、長くなる。はいっ、コンサート始めます。よろしくお願いします
」。MTR&Yのツアーを待ち焦がれていた場内から、大歓声が上がる。最初から完全に奥田のペースだ。

1曲目は『サボテンミュージアム』から「MTRY」。バンドのメンバー紹介を兼ねたナンバーで、久々のオーディエンスとの対面をジワリと温める。最初のワンコーラスを歌った後、奥田が「ナカノォ~!!」とシャウトする。ゆるく始まって、いきなり気合いを入れる。この緩急で会場はピリッと引き締まる。斎藤のピアノ・ソロを受けた奥田のギター・ソロが、鋭く耳に突く刺さる。小原と湊のリズム・コンビも太いグルーヴを繰り出して、ライブはのっけから全開モードだ。

続く「イージュー★ライダー」のお馴染みのイントロで、場内は騒然。アンコールの定番曲を2曲目にやるというアクロバティックなセットリストに誰もが興奮する。すると奥田が「今日は、どうもありがとぉ~!!」とアンコールでの定番セリフを叫んだから、オーディエンスから大爆笑が起こる。さらに奥田は歌いだしからマイクを離れ、観客に歌わせるという“アンコール・パフォーマンス”に打って出る。そのジョークを察知して、観客もいい調子で歌い出す。完全に「つかみはオッケー!」だ。

終わって「グッナイ! あ~疲れた」と奥田。「今日のコンサートは心に残るものになりました。中盤あたりが特によかった。アンコールをいただいたということで、ここからは無礼講で行きます。真面目にやらない感じで…でもちゃんとやってしまうのが、このバンドの技術ですけど。アンコールですので、メンバー紹介をしたい。ベースは小原礼!・・・」と順にメンバーの名前をコールする。

この掟破りの進行に、オーディエンスは大喜びだ。きっと奥田自身も久しぶりのMTR&Yとしてのツアーを大喜びしているのだろう。「勝手知ったるサンプラザで、しかもアンコールなので、皆さんもずっと立ってなくてもいいですし、帰ってもいいですし。よろしくお願いします」。

よく「ライブはバンドとオーディエンスが作るものだ」と言うが、まさにMTR&Yはそのマンマ。バンドがやりたいことをオーディエンスが理解し、オーディエンスのイジって欲しいところをバンドがくすぐる。両者の遠慮のないコミュニケーションが、さらに楽しみを倍加する。お手本のようなライブだ。そして次からのシークエンスは、バンドがライブで演奏したくてウズウズしていた『サボテンミュージアム』からの曲が並ぶ。

車好きの奥田は、ソロの初期にドライブやガソリンなどをテーマにしたたくさんの曲を作っていた。それらを集めた『CAR SONGS OF THE YEARS』というセレクション・アルバムまで出している。「エンジン」はその流れを組む曲で、“CAR SONG OF MTR&Y”といった趣向。奥田モデルのギター「Gibson ES-330」に斎藤の名人芸のオルガンが絡み、小原と湊の極太ビートがバンドを文字どおりドライブさせる。

「歩くサボテン」や「ミュージアム」のシュールな歌詞は、奥田の独壇場だ。サッチモの愛称で知られるルイ・アームストロングやトム・ウェイツのようにしゃがれ声で歌う「サケとブルース」、スタンダードの名曲「センチメンタルジャーニー」をもじったタイトルの「ゼンブレンタルジャーニー」も、奥田の得意な“音楽的ユーモア”にあふれたナンバーで、オーディエンスはおおいに楽しむ。

そんな傑作たちが収められた『サボテンミュージアム』を、「去年、ひっそりと出て、爆発的にヒットしたアルバム」と笑わせながら紹介したのもまた、奥田らしかった。

アクセントを付けたのは「ルート2」だった。奥田のソロのファーストアルバム『29』収録のこの曲は、奥田の“CAR SONG”のルーツとも言うべきもので、スリリングなギターのイントロから、スピーディなロックに突入する。この初期ナンバーをMTR&Yで演奏することを、奥田は心から楽しんでいる。MTR&Yのメンバーは、この初期曲を“今の色”に染め上げることに歓びを感じている。そしてオーディエンスは「ルート2」が、何度も何度も生まれ変わることを歓迎している。

続く「俺のギター」は、奥田とギターの関係を描く『サボテンミュージアム』からの曲。♪この俺のギターと俺のうた 2つでセット♪というフレーズには、奥田の音楽観、楽器観、果ては人生観まで含まれていて、実に意味深長な作品だ。こうしたパーソナルな歌を、仲間と一緒に表現する。それが奥田のソロなのだ。

ライブはいよいよ佳境に差しかかる。♪試してみたいぜ 己を知りたいぜ♪と歌う「いどみたいぜ」には、激しいロックンロールの途中にふんわりとしたパートが挟み込まれる。そのメリハリが面白いのだが、たった4小節しかないその“ふんわりパート”で、なんとミラーボールが回ったのには驚いた。普通ではあり得ない照明プランに、バンドと一緒に楽しもうとする演出スタッフの心意気が感じられて嬉しかった。

先ほど書いたことに戻るなら、「ライブはバンドとオーディエンスと、スタッフが作り上げるもの」なのだ。ライブに関わるすべての人が、同じレベルで楽しんでこそ、いいライブになる。奥田はずっとそれを実行してきた。彼のライブ哲学が、このミラーボールのシーンに象徴されていた。

50才を越えた奥田の歌う「最強のこれから」には、彼の人間と年齢に対する強い願いが込められ、最後の「ヘイ上位」には奥田の意気込みが描かれていた。♪雲にかじりついてでも そこに行くから待っててよ♪という歌詞の面白さは、“雲”にある。ミュージシャン奥田がかじりつくのは、“石”ではないのだ。

アンコールで登場した奥田は、再びソファに座ると、「ど~も、2回もアンコールをいただいて、ありがとうございます」とあくまで“この日のお約束”を崩さない。オーディエンスもそれを承知していて、笑い、楽しむ。その流れの中で歌われた「愛する人よ」が、ひときわ胸に沁みた。♪とぼけてる顔で 実はがんばっている♪という優しい歌詞を聴きながら、小原はソファに座ったままベースを弾いていた。

アンコールのラストは「解体ショー」だった。2年半前の“秋コレ”ツアーでは、オープニングナンバーだった曲だ。

今回のツアーは“アンコール”から始まって、前のツアーのオープニングで終わる。このメビウスの帯のようなループに、オーディエンスたちは何を感じたのだろう。

僕は長く活動するバンドの面白さと、変わり続けるバンドの勇気、そしてそこにいる全ての人が参加して作り上げる“ライブという生き物”の体温を感じた。その温度は間違いなく人肌で、楽しさや悲しさや、笑いや怒りや優しさの匂いまでした。現在、おびただしい数のライブが毎日行なわれているが、この“人肌”に触れられるものはそう多くはない。しかし、中野サンプラザでのライブには、確かにそれがあった。

“MTRY TOUR 2018”は、つい先日、沖縄で幕を閉じた。MTR&Y史上、最高のツアーとなった。

文 / 平山雄一 撮影 / 三浦憲治(*写真は9日より)

奥田民生「MTRY TOUR 2018」
2018年6月8日 中野サンプラザホール

セットリスト
01. MTRY
02. イージュー★ライダー
03. フリー
04. エンジン
05. KYAISUIYOKUMASTER
06. 歩くサボテン
07. ミュージアム
08. サケとブルース
09. ゼンブレンタルジャーニー
10. 海猫
11. 白から黒
12. 鈴の雨
13. イナビカリ
14. ルート2
15. 俺のギター
16. いどみたいぜ
17. 最強のこれから
18. ヘイ上位
【ENCORE】
19. 愛する人よ
20. 解体ショー

ライブ情報

奥田民生「MTRY LIVE AT BUDOKAN」
10月13日 日本武道館

奥田民生「ひとり股旅スペシャル@日本武道館」
10月14日 日本武道館

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年に、ユニコーンでメジャーデビュー。
1994年にシングル『愛のために』でソロ活動を本格的にスタート。『イージュー★ライダー』『さすらい』などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、ひとりレコーディングライヴ「ひとりカンタビレ」など活動形態は様々。
世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとの「The Verbs」、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド「サンフジンズ」としても活動している。
2015年にレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、2017年にディズニー/ピクサー映画『カーズ/クロスロード』の日本版エンドソング「エンジン」も収録された4年ぶりのオリジナルアルバム「サボテンミュージアム」を遂にリリースした。
現在は宅録スタイルのDIYレコーディングの模様を映像で公開し、出来上がった音源を即配信するプロジェクト”カンタンカンタビレ”を実行中。

オフィシャルサイトhttp://okudatamio.jp

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