Interview

“最先端のゴスペラーズ”を魅せた新作に渦巻く、エキゾティックな音色と吸い込まれるようなボーカル。彼らが目指したのはどんな世界だったのだろうか?

“最先端のゴスペラーズ”を魅せた新作に渦巻く、エキゾティックな音色と吸い込まれるようなボーカル。彼らが目指したのはどんな世界だったのだろうか?

新曲「In This Room」は、超問題作。エキゾティックな音色のシンセのイントロにドキドキしていると、あっという間に“ボーカルの渦”に巻き込まれる。そしてそのまま、国籍不明の快感を味わうことになる。
前作シングル「ヒカリ」で、代表曲「永遠(とわ)に」をプロデュースしたBryan-Michael Cox(ブライアン・マイケル・コックス)& Patrick “J. Que”Smith (パトリック“ジェイ キュー”スミス)を16年ぶりに起用したゴスペラーズが放つ51作目のシングル「In This Room」は、またまたJ.Queと組んで島国的J-POPから飛び出した世界基準のポップソング。トラックを作った韓国人チーム“Tha Aristocrats”の活躍もあって、“最先端のゴスペラーズ”に出会うことになる。この画期的なプロダクツについて、メンバーの黒沢 薫と安岡 優に聞いてみた。

取材・文 / 平山雄一

J-POPの枠の中に今現在ない曲を、いちばん遠い曲を選んだっていうのが「In This Room」です(安岡)

安岡優

「In This Room」を聴いて、ビックリした! 完全にJ-POPのフォーマットを無視してる(笑)。

黒沢 すいません! すいません!(笑)

安岡 わははは! さすがですね、平山さん、いいところから攻めてくる!(笑)

「よくやりました!」って言いたいね!

安岡 これは今回、ニューアルバムへ向けて1年間ずっと制作してきた中で出来た曲なんですよ。ひとつ前のシングル「ヒカリ」は、ブライアンとJ.Queのコンビと一緒に作ったんですけど、今回の「In This Room」にはブライアンは関わってない。J.Queが世界各国でライティング(注:曲作り)・セッションをする中で、ゴスペラーズに合う曲を選んでくれた。その中から今回のアルバムに入れたいと思う曲を選曲して、全部日本語化して自分たちの声に置き換えて、何をシングルにするか選んだんですけど、「ヒカリ」がストレートなラブソング、バラードだっただけに、アルバムの前にもう1枚シングルを切れるタイミングとして何を提示すべきなのかと。まさに平山さんがおっしゃったとおり、「こういうことを今、日本でやってるグループがあるんだ」、いわゆるJ-POPの枠の中に今現在ない曲を、いちばん遠い曲を選んだっていうのが「In This Room」です。

アルバム前のシングルとしてっていうのと、恒例のイベント“SOUL POWER”があるじゃない?

安岡 もちろんそれもあります。

黒沢 “SOUL POWER”がなかったら、これをシングルにしてないね。

安岡 もし季節がずれて冬だった場合には、これを選ばないと思います(笑)。“SOUL POWER”の直前だし、次のアルバムを出す前にバラードと真逆のほうを提示したかったという選曲ですね。

「In This Room」は、次のアルバムの収録曲の中で、いちばん過激な曲なの?

黒沢 いちばんエッジかもしれないですね。ただ、他にもこういう曲がけっこう入ってて、競合してる違う曲もあったりしてるというぐらいなので(笑)。

安岡 ホントにいい曲をいっぱいもらったので、すごく悩んだんですけど、最後はやっぱり日本語化した中で、このセクシーな曲を選んだということです。

このセクシーさは、今のJ-POPにはないよな。

安岡 今はもう存在しなくなっていて。

今のリスナーに、どう聴かれるんだろう?

黒沢 楽しみですねえ。

すごくオリエンタルな雰囲気がある。

安岡 トラックメイカーの中心が韓国の人たちなんです。

黒沢 だからこれはK-POPの文脈で語られる可能性はあるなと思いました、歌いながら。

今の時代のコンテンポラリーなポップスって言えると思います(安岡)

そういう意味ではBTS(防弾少年団)が、アメリカのチャート1位ってすごいよね。

黒沢 K-POPって裾野が広がってきていて、今もう日本のシーンでも、みんなすげえ聴いてるじゃないですか。たぶんおじさんたちが気づいてないだけで(笑)。

おばさんは気づいてるんだけどね(笑)。

黒沢 そう、おじさんだけ気づいてないんですね。

安岡 ミュージックシーンとして受け入れられているので、そういう意味で「In This Room」はエッジィだけれども、今の時代のコンテンポラリーなポップスって言えると思います。

黒沢 逆に受け入れられやすいんじゃないかなとも思っていて。

よくK-POP側に踏み出したよね。勇気があると思った。

黒沢 いやいやいや(笑)。

安岡 16年前、僕らはアトランタで「永遠(とわ)に」をレコーディングしたんだけど、あのときに「僕らがアメリカ人になる必要はまったくない」と思った。それが僕らの当時のいちばんの財産になった。だから、ブライアンとJ.Queにも言われたんだけど、僕らにしかないユニークさというものがあって、それはたぶん日本語の持つ響きもそうだろうし、日本人という人種が持つノドの形もあるだろうし、我々にしか出せない音が今回もあると思うんですよ。べつにK-POPをやりたくてこの曲を選んだわけではなくて、J.Queの曲の中で選んだ曲のトラックメイカーの中心が、韓国のアーティストだったというだけで。

「In This Room」に日本語詩を乗せてみて、どう変わったの?

黒沢 ゴスペラーズにオーダーメイドで曲を書いてくれるようになった流れの中で、「英語からいちばん伸びしろがあったのはどれだろうね」「面白いのはどれだろうね」ってなったときに、結局「In This Room」が浮上してきたわけですよ。

安岡 平山さんのおっしゃるとおり、今の日本で「これをシングルで切れるのは、僕らしかいないだろう」と。それはありましたね。逆に言うと僕らも「このタイミングでこれをシングルに切らなかったら、もう切らないんじゃないかな」みたいな。そういう意味では、勇気を持ってこれを切るべきなんじゃないかというのはありました。

それを考えると、「In This Room」がJ-WAVEのチャート番組で流れたとき、洋楽と混ざってどんな聴こえ方をするのか楽しみだよね(笑)。

 
黒沢 混ざってほしいですよ。さっきスタッフと、サブスクに「In This Room」を軸にしたプレイリストを作ろうかっていう話をしてました。

世界の状況の中で、「In This Room」を聴いてみると面白いね。

安岡 そうですね。僕らが10何年前にやってたことが、いい意味でクロスオーバーがより容易になる時代が来て、音楽も配信で聴く時代になり、音楽が人種も国籍も越えやすくなった時代になったからこそのシングルです。

ホントにそうだね。「ゴスペラーズ、何狙ってんの?」みたいな(笑)。

黒沢 狙ってるっていうか、「これ、いいじゃん、いいじゃん」っていうぐらいの感じなんですよね。そういう意味では構えはなくなってきたかもしれないですね。

漠然とゴスペラーズをイメージしてる人にとっては、「In This Room」はショックかもしれないですね(黒沢)

黒沢薫

でもこれを伝統的ソウル・ファンが集まる“SOUL POWER”で歌うとどうなるんだろう?(笑)

黒沢 でもねえ、ライブでこれをパフォーマンスすると、思った以上にソウルっぽくなるんだと思う。ソウル歌謡になるんだと思う。それがあったから選ぼうと思ったっていうのはある。音とリズムの組み合わせはホントに最先端なんだけど、歌い込める歌ではある。そこがないとやっぱりね。いくらお客さんに新しいところを見せたいんだって言ったって。ただ、漠然とゴスペラーズをイメージしてる人にとっては、「In This Room」はショックかもしれないですね。

安岡 我々が今までやってたことを受け入れてくれる時代になったからこそのシングルですね。だけど、日本でこういうサウンドがいっぱい流れてるのに、なんでJ-POPアーティストは誰もやらないんだろうとは思います。僕らからすると単純に不思議でしかない。僕らがデビューした90年代って、ボーイズIIメンとか、R&Bがリアルタイムに日本で売れてたわけじゃないですか。なんでそれを日本人が誰もやらないんだろうと。そのあとも、2000年代だとビヨンセとか当たり前に日本人に聴かれてたわけじゃないですか。だけど、なぜか誰もやらなかった。そういう意味では、僕らもJ.Queも、ずーっと現役で新しいものを作り続けてきたからこそ、今もう一回ここでこういう交わりができたんだと思う。

でも、「ゴスペラーズに最先端って似合うの?」とは思う。

安岡 わはは!

黒沢 まあでも、最先端とドメスティックの塩梅が、この曲はいいんですよ。

確かにそうだね。

黒沢 うちのファンはたぶんこの歌詩の感じからして、前作アルバム『Soul Renaissance』の中の「Deja Vu」とか、「熱帯夜」に共通点を感じて、むしろ懐かしいと思う人もけっこういて。

安岡 突拍子もないことではないんだよね。ただ単に今いちばん新しくて面白いと思うことを、僕らはやっただけなので。

黒沢 そうそう。知らないのはおじさんだけで(笑)。

確かに(笑)。それにしても、メロディとラップが何層にも重なっていて、聴いてて気持ちがいい。

安岡 「メロディなのかラップなのか」みたいなものでも、日本語化することに関して全然気負いはなくなりましたね。どんな曲でも「これ日本語にならないよ」とは思わなくなりました。

歌詩と曲の世界観にコーラスのアレンジがすごく合ってるんですよね(黒沢)

日常的に日本語のラップが聴けるようになったからかもね。

安岡 それはやっぱり帰国子女たちが日本に持ってきた「英語日本語」って言うんですか、「日本語英語」ではなくて「英語日本語」って言ったほうが正しいと思うんだけど、「日本語の文法を覚える前に英語の文法を覚えたんだな、この子は」みたいなものが入ってきたことの良さもあるんでしょうね。

黒沢 それをミックスすることもね。以前のJ-POPみたいに「英語を使うとカッコいい」って思ってないもんね。英語と日本語をホントに自分の喋り言葉でミックスしちゃう人たちだから、そこも普通なのね。

安岡 脳みそがもともと英語の人たちが、わざわざ日本語を使いたくて日本語を使ってラップしてる感じ。

黒沢 この曲はあともうひとつポイントがあって、J.Queのコーラスアレンジの巧みさで、サビの独特の浮遊感が表現されてるっていうのがあって。

安岡 常に5人いるわけじゃないんですよ。わざとそれぞれのラインを目立たせるために、歌う人数を制限してる。だからどのパートも、一瞬「リードよりもハモの方が、いいメロディじゃないか」っていう瞬間があるんですよ。

黒沢 いきなりドキッとする瞬間が現れて、結果的に歌詩と曲の世界観にコーラスのアレンジがすごく合ってるんですよね。

そして「In This Room」は、次のアルバムの予告編でもあるの?

安岡 そうですね。

黒沢 もちろんです。

安岡 まさに「ヒカリ」から「In This Room」までに連なる、現代のR&Bを詰め込んだアルバムを、――ほぼほぼもう出来てるんですけど。

黒沢 結果的にコンセプトアルバムみたいになっちゃいました。

安岡 『Soul Serenade』のときに我々が狙った、あのときはリアルタイムR&Bを日本語化するってことだったんだけど、アメリカも含めていろんな音楽の時代がいま一周して、我々と同世代のアーティストのビヨンセも今度90’sをテーマにアルバムを作るという話を聞いたりする中で、リアルタイムを経験してきた我々だからこそコンテンポラリーなR&Bを表現するとこうなるっていうものを、次のアルバムでやろうと思ってます。

愛されるということの記憶が「ララバイ」だとするならば、愛するという意思表示が「セレナーデ」になるだろう。その2つをキーワードに、どっちにも聴こえるように書きました(安岡)

北山陽一

酒井雄二

村上てつや

そして、カップリングの「Seven Seas Journey」は、「In This Room」とは正反対で、いわゆるイメージ通りのゴスペラーズ・サウンド(笑)。

安岡 そうですね(笑)。

黒沢 映画『母さんがどんなに僕を嫌いでも』ありきで作ったので。

安岡 映画の主題歌のお話を去年のツアーが始まるぐらいのときにいただいていて、原作を読ませていただいて、映画のラッシュも見させていただいて書いたので。

可哀想な映画なの?

安岡 原作だけを読むと可哀想な部分もあります。

黒沢 でも、救いはあります。

安岡 映画にも原作にも救いはあります。

黒沢 可哀想な場面もあります。

安岡 親子で、愛されるということと、愛するということの、どちらもの素晴らしさとどちらもの難しさが描かれている映画だと思うので、愛されるということの記憶が「ララバイ」だとするならば、愛するという意思表示が「セレナーデ」になるだろう。その2つをキーワードに、どっちにも聴こえるように書きました。この映画って、見る人によって、どのキャラクター目線で見るかによって違うと思うんですよね。

お母さんと子どもの視点?

安岡 そうそう。そういう意味で、どっちの味もする曲を書きたいなというのがまず出発点にあって。最初、アカペラでプレゼンしたんですよね。それのほうが雰囲気かなと思ったんだけど、でも湿っぽく終わりたくないっていうのもあって、ストリングスを入れたりしました。去年のツアーに原作者の歌川たいじさんも見に来てくださって。

黒沢 メッチャ明るい人だったね。

安岡 そう。そういう意味でも、悲しい話っていう気持ちでもないんです。その人が今すごく明るく前向きに生きていらっしゃる方なので、全然悲劇ではなく受け止めているんですけどね、僕らは。

では最後に、他のメンバーは「In This Room」について何と言っていたか教えてください。

黒沢 北山(陽一)はコーラス・アレンジのとき、「ああ、なるほど、そうか、そうか」って言ってました。

J.Queのアレンジを、分析して楽しんでたんだ(笑)。

黒沢 そうそう。村上(てつや)は何て言ってたかねえ?

安岡 全然思い出せない。

黒沢 楽しんで歌ってたけどね。あ、そういえば、♪いつの間にか♪のところをすごく気に入ってました。「♪いつの間にかッ♪って歌うところを気に入ってました(笑)。

あはは、“英語日本語”だ(笑)。

安岡 はははは!

黒沢 デモがあっても、村上はそういうワザとらしいのはあんまりやらないんですよ。自分流に直すんだけど、これはすごい喜んで♪いつの間にかッ♪ってやってたんで、たぶん気に入ってるんだと思います(笑)。

そして酒井(雄二)くんは?

安岡 大きな声で「にっ!」って言ってました。

???

黒沢 言ってましたね、MVのときね。

MVを見ればわかるのかな?(笑)

2人 そうです、見てください(笑)。ありがとうございました。

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ライブ情報

SOUL POWER TOKYO SUMMIT 2018

7月14日(土) ・15日(日) @ 国際フォーラムホールA
<7/14(土)>開場17:30 / 開演18:30
<7/15(日)>開場16:00 / 開演17:00
■出演者
ゴスペラーズ・鈴木雅之・SkoopOn Somebody …and more!

SOUL POWER なにわSUMMIT 2018

7月21日(土) ・22日(日) @ グランキューブ大阪
<7/21(土)>開場17:30 / 開演18:30
<7/22(日)>開場16:00 / 開演17:00
■出演者
ゴスペラーズ・鈴木雅之・SkoopOn Somebody …and more!

ゴスペラーズ

北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなる、ヴォーカルグループ。
1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。
以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとしてアジア各国でも作品がリリースされている。
2014年リリースのデビュー20周年を記念したベスト・アルバム『G20』がオリコン初登場2位を獲得。
2017年2月22日にシングル「Fly me to the disco ball」、3月22日には2年6ヶ月ぶりとなるオリジナルアルバム「Soul Renaissance」をリリース。2018年2月21日には、記念すべき50枚目となるシングル「ヒカリ」をリリース。

オフィシャルサイト
http://www.5studio.net