横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 5

Column

悪人のいない世界で私たちは夢を見る。

悪人のいない世界で私たちは夢を見る。
今月の1本:MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018

ライター・横川良明がふれた作品の中から、気になる1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は、6月28日(木)に閉幕したばかりのMANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018をピックアップ。私たちがなぜこの世界に惹かれてやまないのか、今、2.5次元舞台に起きていることを語り尽くします。

文 / 横川良明

2.5次元シーンを牽引する「アイドルもの」の隆盛

500万ダウンロード(2018年3月8日時点)を突破した超人気イケメン役者育成ゲーム『A3!』。潰れかけの劇団・MANKAIカンパニーを立て直すというプロットは、まさに舞台化にぴったりのコンテンツで、配信開始当初からファンの間ではいつ舞台化が発表されるのか期待に沸いていた。

そんな「満を持して」という言葉がこれ以上ないくらいにふさわしいMANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018の開幕に、ゲネプロも大盛況。その注目度の高さが伺えた。

このMANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018は、間にインターバルを挟んで11月4日(日)までの上演となる。楽しみにしているファンのみなさんのためにも、今回はあえてストーリーにはふれない。その上で、MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018から見えてくる、2.5次元舞台のムーブメントについて語ってみたい。

そもそも2.5次元舞台は大きく分けて3つのジャンルがある。ひとつはミュージカル『テニスの王子様』に代表されるスポーツもの。舞台『弱虫ペダル』やハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」など、様々なスポーツ漫画を舞台化。各作品それぞれ競技の特性や魅力を演劇ならではの手法で表現。演じる俳優が途中で酸欠を起こしてしまうのではないかと心配になるほどすさまじい運動量が、感動と興奮を呼んでいる。

ふたつめが、舞台『刀剣乱舞』、ミュージカル『刀剣乱舞』に代表される殺陣モノ。ミュージカル『薄桜鬼』や斬劇『戦国BASARA』など、歴史上の人物や史実を大胆に取り入れた物語と、見応えのある殺陣に心奪われるファンも多い。

そして、第三の勢力として挙げられるのが、「アイドルもの」だ。アイドル育成ゲームを原作とした『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』や、ネルケプランニングによる「アイドルステージ」がその筆頭。他にも西川貴教と志倉千代丸によるアイドルプロジェクト・B-PROJECTの舞台版である「B-PROJECT on STAGE」や、アニマルアイドル育成ゲームを原作とした舞台『アニドルカラーズ!キュアステージ』もその潮流から生まれたタイトルのひとつ。そして、この系譜の決定版として堂々名乗りを挙げたのが、今回のMANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018だ。

役者とアイドルという違いはあれど、舞台の上でファンを魅了するという点では同じ。本作も、キャッチーな楽曲に乗せた爽やかな歌声とキレのあるダンスで観客を楽しませてくれる。

2.5次元舞台が繰り広げる超性善説的世界観

だが、MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018を観ながら、もうひとつ近年の2.5次元舞台に共通するある傾向に気づいた。

それは、悪人が一切出てこないという世界観だ。一応、借金のカタにMANKAIカンパニーを潰そうとするエリートヤクザ・古市左京(藤田玲)は登場するが、原作をすでにプレイしている方ならご存じの通り、彼はいわゆる敵キャラではない。この舞台においても、MANKAIカンパニーに無理難題を押しつけているように見えて、その実、ダメ出しをしながら集客のアドバイスをしていたり、随所に“実はいい人”感がにじみ出ている。

MANKAIカンパニー内にも、ゲームオタクで演劇なんてやる気のない茅ヶ崎至(立石俊樹)や、俺様な態度でことあるごとに瑠璃川幸(宮崎湧)と衝突する皇天馬(陳内将)など、やや性格に難ありの登場人物はいるが、彼らが決して根っからの悪人ではないことは一目瞭然。降りかかるいくつものトラブルや不協和音を、MANKAIカンパニーは笑顔とひたむきさで乗り越えていく。

こうした超性善説的世界観は、一連のアイドルものの舞台の特徴のひとつであり、他にも舞台「おそ松さん on STAGE ~SIX MEN’S SHOW TIME ~」やLive Musical「SHOW BY ROCK!!」なども、基本的には悪人のいない、ピュアな、(ある種の)ファンタジーとしてその世界を構築している。

極上のユートピアが見せた“希望”という名の桜吹雪

だが、私たちが実際に生きる現実世界は、そんなにピュアじゃない。時折、いったいこの人は今までどうやって生き延びてきたんだろうと疑いたくなるくらい非常識で不作法な人はいるし、前世ではもしかしたら織田信長と明智光秀だったんじゃなかろうかと勘ぐりたくなるほど相性の合わない相手や性格の悪い人はいる。

そしてそれらは、残念ながら往々にしてわかり合えない。どんなに言葉を尽くしても真意は伝わらないし、あまりの伝わらなさにしまいには言葉を尽くす努力も放棄したくなる。そりゃ戦争だってなくならない。

「むしゃくしゃしたから殺した」なんて殺伐としたニュースや、児童虐待だとかいじめ自殺だとか、それだけで1日ずっと気持ちが塞ぎ込んでしまうような悲しい事件に囲まれて、私たちは今を生きている。

だからこそ、この超性善説的世界観が描く夢物語は、ひとときの安らぎなのだ。ここでは胸を痛める悲劇は何も起こらないし、末代まで恨み呪いたくなるようなクズ人間も登場しない。私たちは安心して幸福な夢に浸っていられる。何にも阻まれることなく、可愛いものを「可愛い」と愛でることができ、人の幸せを祈ったり応援したりできる。2.5次元舞台は、心疲れた現代人が欲してやまないユートピアなのだ。

MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018は、まさにそんなユートピアとして徹頭徹尾幸福な夢を見せてくれる。現実ではなかなかこんなふうに笑顔で逆境には立ち向かえないし、手と手を取り合い頑張れる仲間にも出会えない。円陣なんて組んだのは、学生時代の部活が最後だ。

でも、ここにはそんなまばゆい世界がちゃんと作り物ではなく、本物として存在していて、私たちを“総監督”として出迎えてくれる。笑う人も、悪人もいない世界で、私たちは堂々と夢を見られる。それが最高に心地良いのだ。

満開に咲いた桜吹雪のように、彼らは目の前で一瞬鮮やかな景色を見せて、跡形もなく消えていく。手元に残ったのは、ピンクの花びらだけ。私たちはそれを“希望”と名づけて、また明日からちっとも優しくない現実へ立ち向かっていくのだ。

MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~

東京公演:2018年6月28日(木)~7月8日(日)天王洲 銀河劇場
京都公演:2018年7月13日(金)~7月16日(月・祝)京都劇場
東京凱旋公演:2018年10月26日(金)~11月4日(日)天王洲 銀河劇場


■東京公演初日の模様がWOWOWライブにて放送
〈放送日時〉2018年7月17日(火)21:00〜
詳細はこちら

■京都公演千秋楽の模様のライブ配信が決定
〈配信日時〉2018年7月16日(月・祝)18:00〜公演
詳細はこちら

■東京凱旋公演千秋楽の模様のライブビューイングが決定
〈開催日時〉2018年11月4日(日)18:00〜公演
*詳細は後日公式サイトにて


原作:イケメン役者育成ゲーム『A3!(エースリー)』
演出:松崎史也
脚本:亀田真二郎(東京パチプロデュース)
音楽:Yu(vague)
振付:梅棒
メインテーマ制作:大石昌良

出演:
【春組】
佐久間咲也 役:横田龍儀
碓氷真澄 役:牧島 輝
皆木 綴 役:前川優希
茅ヶ崎 至 役:立石俊樹
シトロン 役:古谷大和

【夏組】
皇 天馬 役:陳内 将
瑠璃川 幸 役:宮崎 湧
向坂 椋 役:野口 準
斑鳩三角 役:本田礼生
三好一成 役:赤澤 燈

鹿島雄三 役:滝口幸広
松川伊助 役:田口 涼
迫田ケン 役:田内季宇

古市左京 役:藤田 玲

オフィシャルサイト
公式Twitter(@mankai_stage)

©Liber Entertainment Inc. All Reserved. ©MANKAI STAGE『A3!』製作委員会2018

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