Interview

構想から5年以上の渾身作! 宇宙×虫×フルCGアニメ『スペースバグ』は、日本発の“ネオ・クラシック”になれるか?

構想から5年以上の渾身作! 宇宙×虫×フルCGアニメ『スペースバグ』は、日本発の“ネオ・クラシック”になれるか?

実写とCGを独自のスタイルで組み合わせた“ライブメーション”作品『スチーム係長』、NHK総合でシーズン6まで放送され、劇場版も熱狂的な人気を博した『タイムスクープハンター』、今春話題を呼んだ深夜ドラマ『卒業バカメンタリー』など、脚本家、演出家、監督としての個性的なクリエイティブで知られる中尾浩之が、自身初となるオリジナルのフル3DCGアニメシリーズにチャレンジした。それが2018年7月8日よりTOKYO MXにて放映、各所で配信をスタートする『スペースバグ』だ。

キュートなキャラクターデザインに、ディズニー映画『ズートピア』やマーベル作品のマンガ執筆など世界的に活躍する日本のイラストレーターユニット「グリヒル」を起用したことも話題の『スペースバグ』。大人向け作品の多かった中尾浩之が、ファミリー向けアニメに挑戦した理由、脚本・キャラクター制作のエピソード、ハリウッド映画を意識したストーリーテリングと演出についてなど、本作の見どころと込められたメッセージを語ってもらった。

取材・文 / 阿部美香


緻密な計算のもと“実写作品の文法で撮っている”3DCGアニメ

<『スペースバグ』あらすじ>
遙か未来、人類の宇宙開発により作られた、とある宇宙ステーション。コンピュータの暴走によって人間が帰還し、そこに取り残されたのは実験のため宇宙に連れてこられた虫や生き物たち。地球から運ばれてきたネムリユスリカのミッジ、宇宙ステーションで生まれ育ったコオロギのハカセ、そしてクモのマルボの3匹は、虫たちの故郷・地球に戻るため、ステーションを旅立つことを決意する。そこを支配していた天敵、カエルのゲロッパ一味と知恵を絞って戦いながら、ミッジたちはミツバチの女の子・エレンや仙人のようなクマムシのワンらをはじめ、さまざまな困難やたくさんの生き物たちとの出会いと別れを繰り返す。彼らは地球にたどり着くことができるのか? コンピュータ暴走の真実とは?

中尾浩之監督

中尾監督のこれまでの作品といえば、『タイムスクープハンター』がとても印象的で。大人向けのエンターテイメントがお得意なイメージがあったので、新作がファミリー向けのCGアニメと聞いて、とても驚きました。

たしかに今までは実写のドラマや映画が中心でしたが、作品ごとにフェイクドキュメンタリーやドラマと、スタイルを変えてきました。でも根本に流れている「危機が起こり、それをキャラクターたちがどう乗り越えていくか」を描いていることは共通で。それが『タイムスクープハンター』なら題材が歴史で、『スペースバグ』は宇宙や生き物たちという違いだけ。なので、僕自身の中ではそれほど意外ではないんですよ。

でも、いわゆるアニメーション作品には初挑戦となりますね?

はい。そもそもは、今から5年ほど前から「虫」と「宇宙」をテーマにしたフルCGアニメを制作する話がありまして。アニメーション自体の制作は、韓国のプロダクションが担当するところまでは決まっていたんですが、どういうストーリーにして、どう演出するかは、僕が入って構想を広げていきました。

そもそもCGアニメに興味があったんですか?

はい、とてもありましたね。それはなぜかというと、同じアニメーションという括りでも、一般的な2Dアニメは専門の知識や経験、2Dアニメ独特の作法を知らなければ、とてもとても……というジャンルですが、3DCGアニメというのは、セットを作り、カメラをどこに置いて役者を動かし、カメラワークをどうするかという、映画の文法がそのまま当てはまる。新しい映像表現への挑戦として、3DCGはいつかやりたいとずっと思ってました。

なるほど、映像文法が同じ。役者も3Dの人間キャラクターと考えれば、たしかにそうですね。

大きな視野で考えると、そうなんですよ。事実、3DCGアニメの名作『Mr.インクレディブル』の後にトム・クルーズの『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を撮ったブラッド・バード監督のように、3DCGアニメから実写へ行った方もいる。映像文法さえ分かっていれば、どちらもできる。実際、実写でも僕は、カメラポジションもカメラワークも、すべて事前に計算し尽くします。『タイムスクープハンター』も、不測の事態に対応するフェイクドキュメンタリー風に見せていますが、かなり綿密に計算して撮っていました。

日本のTVアニメでは極めて珍しい手法も!

とはいえ、初めての3DCGアニメ制作には、ご苦労もいろいろ……?

やはり、僕が脚本を書いてスタジオに渡し、実際にCGのキャラクターを動かすところにたどり着くまでが、相当長かったですね。

実写も撮影準備は大変ですが、CGはどこからか物や人を用意してきて撮るわけでない、ゼロからの作業ですからね。

そうなんですよ。アニメーションの場合は、制作過程も工場のラインのように決まっていて、この担当者は何日までに仕上げなければいけないと条件があるので、「試しにこうしてみよう」ができないんですよ。絵コンテや演出プランも、一度決めたら変えられない。せいぜい何フレーム分か余裕がもらえるくらいで、カメラワークや秒数を、僕が最初に全部決めなければいけないんです。

ところが実写だと、役者から新しい動きのアイデアが出たり、現場で「こうしたらもっと面白いかも?」ということに、一度はトライできる。突然雨が降っても、その雨の雰囲気が良ければ採用したり。事前に想定していなかった驚きや楽しさがある。でも、アニメはそうはいかない。全てを自分でコントロールできる面白さはあるんですが、どこか寂しさもありますかね。

実写作品とCGアニメでは、そこは大きく違いますね。

でも、僕は実写畑なので、なるべく実写に近い方法にするため、声優さんの声はセリフを先に録って、後からキャラクターの表情を付けるプレスコ方式にして、現場で役者さんがより感情を込められるセリフに脚本を変えたり、役者さんのアドリブをいかす方法にしています。音楽も同じで、僕がずっとご一緒している戸田信子さんに、場面場面に合わせたフィルムスコアリングをお願いしています。日本のTVアニメでは、とても珍しいそうですが。

劇場版アニメで、たまにそういう例を聞くくらいですね。

らしいですね。逆に僕はそこまでやらない状況がおかしいと思っていて。フィルムスコアリングで素晴らしい音楽がついて初めて映像作品は完成する。そう皆さんが思ってくれたら、制作の状況も変えられるんじゃないかと思うんですよ。『スペースバグ』ではキャラクター達が落ちていくとき、寸前で助かったとき……と、アニメのフレーム単位に合わせて戸田さんに作曲してもらっているので、臨場感や迫力は相当感じてもらえるはずです。

といっても、フィルムスコアリングは、見ている人に音楽を意識させないことが一番の魅力です。無意識のうちに、なぜドキドキするんだろう? 感動するんだろう? と感じてもらうのが正解なんですね。それを確かめようともう一度見たら、実は俳優の芝居や、効果的なカメラワーク、カット割りと合わせて、そこに音楽があったからだと後で気づく。『ジョーズ』も、あの音楽と見事なカメラがあったから、後世に語り継がれる傑作になり得た。『スペースバグ』も映画的なエモーションを音楽が完璧に表現してくれていると、思っています。

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