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ただの“泣きゲー”じゃない 『嘘つき姫と盲目王子』その切なさと涙の仕掛け

ただの“泣きゲー”じゃない 『嘘つき姫と盲目王子』その切なさと涙の仕掛け

『嘘つき姫と盲目王子』は、狼の化け物と人間の王子の旅を描く絵本風アクションアドベンチャーゲーム。プレイヤーは狼として、目の見えない王子を守りながら、彼の目を治せるであろう森の魔女のもとへ導くことになる。

森へと旅立つまえ、狼である彼女(狼の性別は女の子)は、手を引くときに化け物の手では王子が怯えてしまうだろうと、自慢の美しい歌声と引き換えに“人間の姫の姿”を手に入れる。そのおかげで王子も信頼を寄せてくれるようになるが、彼女は自分の正体と、事故とはいえ王子の目を傷つけたのは自分であることを明かせぬままで……。この切ない設定から“泣きゲー”と話題になっている本作だが、クリアしてみるとただ悲しいだけの物語ではなかった。もちろんハンカチは必須なのだが、不思議と満たされた気分にさせてくれる。前回の記事に続く『嘘つき姫と盲目王子』第2回は、本作がなぜプレイヤーの気持ちを揺さぶるのか、その秘密に迫る。また、本作をさまざまな角度から楽しむガイドもお届けしよう。

文 / 小泉お梅


いつの間にか、”狼と姫”になっていた 

いきなりですが、本作のエンディングで泣きました。プロローグのときから身構えてはいたのですが、あっさり陥落です。よく「泣ける!」とか「全米が泣いた」なんて聞くと、「どうせ、ありきたりなお涙頂戴なんでしょう?」とナナメから見てしまいがちなのですが、本作は切なさ全開の始まりから、身構えたプレイヤーの鎧を少しずつ外していき、ノーガードのところへ奇襲をかけてきた、という印象を持ちました。おかげで「泣いちゃダメだ」とか「泣かされるなんて悔しい」と我慢をすることなく、素直にスルスルと涙が出てきました。

▲プロローグからすでに切ない展開……

なぜ、本作はプレイヤーを丸裸にできたのか……? そもそも主人公は狼の化け物で、我々が簡単に感情移入できるような身近な存在ではないし、物語も第三者視点を意識させる朗読で進んでいきます。それなのに、いつの間にか狼&姫として行動していた自分がいました。

例えば、姫の変身を解くとき。敵の影が近くにない場合は、王子とある程度の距離を取ってから狼に戻っていました。また、王子に近づくときは、少し離れたところで姫になってから。王子に狼だとバレたくないという、彼女の気持ちが乗り移っていたのでしょうか、無意識のうちにやっていました。

▲ゲームシステム上は、王子の近くで狼になっても何の問題もないのに、音や匂いで気づかれやしないかと気になってしまいます。姫に変身するときには、前髪を気にする乙女な仕草も見られます

そんな風に気持ちが狼へ寄っていったのは、彼女が繊細に表情を変えるからでしょう。王子と手を繋げばニコッと口角を上げ、グイグイ引っ張っていく。グラフィックの線がほんの数ミリ動いただけでも、彼女の性格や感情が伝わってきます。

▲表情は、手描きイラストならではの良さが最も活かされている部分ですね

そしていつの間にか、王子が倒れれば彼女と一緒になって悲しむように……。膝から崩れる姫と顔を覆って震える狼を見ると、無常観すら抱いてしまいます。“単にゲームをミスした残念さ”とは全く違う感覚でした。

王子は生身の人間なので、化け物に一撃でやられてしまいます。でも、これは姫の状態でも同じ。狼の状態では敵に触れてもノーダメージ、高所から降りても平気という無双っぷりなのですが、それに慣れてしまって、無防備な姫のときにうっかりやられてしまったこともありました。王子だけでなく、彼女が倒れても旅は続けられないのでミスとなってしまいますが、各ステージには細かい間隔でチェックポイントが設けられており、直前からリスタートできるのがありがたいですね。

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