LIVE SHUTTLE  vol. 277

Report

山口洋、仲井戸麗市、矢井田瞳、大宮エリー 「いったいなにができるだろう、ともだちとして」その問い掛けの先に宿る祈りと光、響き合う4つの魂

山口洋、仲井戸麗市、矢井田瞳、大宮エリー 「いったいなにができるだろう、ともだちとして」その問い掛けの先に宿る祈りと光、響き合う4つの魂

2011年3月11日に起こった東日本大震災から7年。その間ずっと、音楽を通じて、街の復興に取り組んできたプロジェクトが“MY LIFE IS MY MESSAGE”だ。HEATWAVEの山口洋を中心に、その活動に賛同する多くのミュージシャンがステージから力を贈ってきた。今年のテーマは“You’ve Got A Friend”。他者を思いやる気持ちさえ忘れがちなこの時代に、震災から7年が経ち、多くのことが忘れられようとしている今、どう向き合っていくのか。この日、山口洋、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳、大宮エリーの4人で奏でられた音楽は、確かな光でオーディエンスを照らし、その光はまたオーディエンス一人ひとりによって別の誰かを照らす光になるような、音楽の力に溢れていた。この夜限りの奇跡のようなセッションの様子をお届けする。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / 三浦麻旅子

山口洋のSeize the Day/今を生きる vol.37
MY LIFE IS MY MESSAGE 2018/You've got a friend

MY LIFE IS MY MESSAGE 2018/You've got a friend

2018.07.07


MY LIFE IS MY MESSAGE 2018 You’ve Got A Friend
矢井田瞳×大宮エリー、山口洋(HEATWAVE)×仲井戸“CHABO”麗市
2018年6月29日@下北沢GARDEN

忘れたいこと。
忘れられないこと。
忘れたくないこと。
忘れてはいけないこと。

私たちは多かれ少なかれ記憶の檻の中で生きている。
その檻は時として人を生かし、時として人を絶望の淵に追いやる。

眼が覚めるたびに蘇る、取り返しのつかなさ。
深い悔恨、喪失感。逃げ場のない哀しみ。
これが夢で、時計の針を戻すことさえできたなら。

檻に囚われた人々のために、いったいなにができるのだろう。
そんな問いかけを、当時は誰もが持っていた。
1年が経ち、2年が過ぎ、3年でひと区切り。
5年になると、もはや問いかける人も少なくなり、
7年が過ぎると、囚われている人々に想いを寄せる人も、
その声を聴こうとする人も、ほとんどいなくなってしまった。

ずっと「支援」される側で居続ける辛さと、政財界の思惑がうまく合致して、消えゆく「福島支援」の言葉。
それでいいの?
なかったことにしていいの?
少数派の問いかけは、嵐の中の紙飛行機のようだ。

2018年6月29日。
そんな紙飛行機をいまも飛ばし続ける4人のアーティストが下北沢GARDENに集まった。
客電が落ち、スクリーンにメッセージが映し出される。

風化や忘却。忘れていくことは、人が癒えていくためのプロセスでもある。だから、続けていくことは難しい。それでも「明日があるのは当たり前じゃなかったんだ」と身が凍る想いをしたあの日のことを忘れたくない。未来に対して無責任でいたくない。僕が関東で使った電気のせいで、故郷を汚染され、住む場所を奪われ、未だ家に帰れない人たちがたくさんいる現実を忘れて生きていたくはない。

これまでのMY LIFE IS MY MESSAGEでは山口洋が冒頭語っていた「開催趣旨」が、今年は柔らかいピアノに乗せて文字で語られる。

「いったいなにができるだろう? ともだちとして」。

仲井戸“CHABO”麗市がキャロル・キングの「You’ve Got A Friend」を日本語でカヴァーして歌ったサビの部分のこの言葉は、こうしたプロジェクトに付きものの誹謗中傷から山口を守り、行動原理となった。

今日はこの歌を素晴らしい志をもったミュージシャン全員で演奏してみる。きっとこの歌は誰かのこころを目指してまた旅を始めるだろう。そこでどんな風景を描いて、どんな物語になっていくのか。愉しみにしている。

最初から今日の旅の目的を示し、覚悟と期待を隠さないオープニング。スクリーンが上がると夕陽のような4灯のライトに4本のマイクスタンド。等間隔に並んでいるのは、登場する4人の関係を表している。さあ、開演だ。

ステージに登場した矢井田瞳と大宮エリーは、まるで我が家に帰ってきたようにリラックスした表情で喋り始める。
「今日は暑かったー」
6年前、エリーのラジオ番組に矢井田が招かれたのが最初の出逢い。すぐに近しい関係になったが、もともとエリーの個展に足を運んでいたという矢井田は、彼女へのリスペクトを隠さない。一方エリーは、歌詞の入った譜面を忘れても嫌な顔ひとつしない矢井田への感謝を、得意のウィットにくるんでフロアを沸かせる。

「Ring my bell」に始まり、前半戦の二人のステージは、とにかく気さくで親密な空気の中で進んでいく。エリーの詩の朗読とヴァイオリン、矢井田の歌とギターが繊細な層を織りなして、会場を優しい光で包み込む。

それぞれのストーリーを 胸に抱きながら
同じ夕陽を 私たちは見ている

エリーの詩(本人曰く、「短い言葉」)はシンプルだからこそ、誰の心にも触れ、さまざまなストーリーを想起させる。それを映画的に立ち上がらせる矢井田のギター。深いスモーキーな色彩が出色だ。続いて「MOON」。

♪こんなの一人じゃ耐えらんないよ
いつの日か誰かを照らせるように
自分を変えていくんだ

この日のテーマに重なる選曲。驚くほど柔らかい矢井田の歌は、側に「友達」がいるからこそだろう。壊れやすい大切なものをそっとくるむようにエリーのヴァイオリンが寄り添って、フロアの一人ひとりに手渡す。そして、エリーの朗読「孤独について」。

ふとさみしいと思うことがある
ふとこの世でたったひとりなんだと思うことがある
そんなとき我慢しないで
誰かのもしもしを聞くために
電話ボックスに駆け込んで欲しい
もしもしを聞きに電話してください
そしてもしもしと返事してください
戻ってきてください
戻ってこれますから

受話器を取ると「もしもし」が聞こえる彼女のインスタレーション「孤独の電話ボックス」は、「街に置いてほしい!」という来場者からの声が止まなかったという。溺れかけている誰かを救いたい祈りの言葉。矢井田がそれを受けるように「Circle」。一つひとつの言葉を心の襞に沁み込ませていく。

前半戦最後の曲は「友達の定義」。この日のためにエリーが書き下ろした詩に矢井田が曲をつけた。
「みんな歌ってくれるといいよね」と唐突にエリーが呟くと、矢井田が本気になってオーディエンスをリードする。

♪友達ってなんだろう
友達ってなんだろう

突然のフリにもかかわらず、ユニゾンのコーラスがフロアに響く。

♪ともだちが多い人も
ともだちが少ない人も
ともだちがいないひともいる
ともだちってなんだろう
ともだちが人間の人も犬のひとも
猫の人もお花のひともいるよ
きみがともだちがいないと言ったとしても
きみにはどうやらともだちがいるみたい
受け入れるかどうか
そういうことみたいだ

高校生のように飾らない会話に、お互いへのリスペクトと思いやりをたっぷり湛えて。二人の差し出すあたたかさに包まれて、みんな満ち足りた笑顔を浮かべている。

「このあと山口さんとCHABOセンパイの素晴らしいステージが待っているのでお楽しみに!」と二人が去って、後半戦がスタート。仲井戸“CHABO”麗市と山口洋が、互いに譲り合って同時にステージに登場する。
「ハイ、よォーこそ!」とCHABOがギターを鳴らすと、一気にステージの色が濃度を増す。

♪MY LIFE IS MY MESSAGE 2018年下北沢GARDEN よく来てくれた〜

思わず胸が熱くなる。“You’ve Got A Friend”と題されたこの日のステージに、CHABOは“盟友”とともに立っている。1曲目は「俺の数少ない爽やかな歌」と紹介して「サイクリング」。1999年に書かれた曲だ。

♪生きてゆくことを 選んでゆく僕達は
若さだけではない美しさ いつか知るだろう
君の明日の胸の痛み 誰が知る術もないけど
君の明日の身体の痛み 誰が代われる術もないけど

チリンチリンとベルの音が軽快さを添え、フロアに手拍子が沸き起こると、ずっとピックを口に咥えていた山口が満を持して粘りと伸びのあるギターで遥かな山の稜線を描く。自転車で疾走する清志郎が見えるようだ。

「俺の自転車はママチャリなんだけど、名前なんていうか知ってる? レノン号。矢井田瞳や大宮エリーや山口洋を観に来た人は知らないかもしれないけど……ジョン・レノンと誕生日一緒です」とCHABO。「知ってるよー」と客席。
6月29日は記念すべき日。52年前、ビートルズが初来日公演を行った日だ。ステージ上でそう山口に告げられたCHABOは悔しそうに「おまえ、なんで先に言わないんだよ。梅雨明けしちゃったから気がつかなかったよ!」。
「改めて紹介します。このMY LIFE IS MY MESSAGE を牽引しているバンド・マスター、山口洋!」とCHABOが紹介すると、山口がすかさず「地球上で最も尊敬しています。仲井戸“CHABO”麗市さんです!」。CHABOの優しさにどうしたら応えられるのか。山口の眼差しが真剣味を増す。
2曲目は山口の「TOMORROW」。アルバム『1995』からの選曲だ。

♪目を閉じて 君の海を行きなさい
海に抱かれて 大きな声で泣きなさい

山口のギターが海の底に沈めば、CHABOのギターは軽やかに浮上して紺碧の空を行く。千鳥のように、カモメのように、波間を漂い、南風に乗って飛んでいく。二人のギターは、浜辺の小々波から大海のダイナミックな波までもくっきりと描き出す。
リスペクトして止まないギタリストの包容力に自らを委ねる山口。こんな表情を見るのは初めてだ。差し出されたCHABOの拳に自分の拳を合わせて「幸せです」と山口。

「7年前にああいうことが起こって、俺はなかなか行動に移せなかったんだけど、山口はすぐに行動に移して。俺は山口に賛同して、何度か出させてもらってます」
MLIMMのステージに立つたびに、CHABOは必ずその経緯と自身の立ち位置を伝える。謙虚さ。優しさ。それはCHABOの核にあるものだ。同時に、7年前、私たちが痛切に学んだことでもある。
3曲目は来日するボブ・ディランに敬意を込めて「Going Going Gone」。1974年、ベトナム戦争終結前に書かれた曲をあえて日本語にして歌うCHABOは、ディラン同様難しい言葉を使わない。

40年以上経っても変わらない世界への痛切なメッセージ。同様にディランを敬愛する山口のギターも熱を帯びてイイ音で鳴る。続いて、山口がトルーマン・カポーティの小説からイメージを得た「遠い声」。アコギを赤い小さなマンドリンに持ち替えたCHABOは、山口のヴォーカルを際立たせるように繊細な音色で物語を煌めかせる。

5曲目は再びカヴァーでCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)の「Who’ll stop the rain」。「今日は絶対雨だと思ったんだよね。選んできちゃったから強引にやるよ」とCHABO。

♪雨を止めてくれるのはどんな神様?
何かに押し潰されそうな クソみたいな夜もあるさ

1970年に発表されたこの曲は、前年に行われたウッドストックでCCRの出番になるや土砂降りの雨が降ってきたことを歌ったとジョン・フォガティは語っているが、雨は泥沼化したベトナム戦争のメタファーでもある。先のディランもそうだが、CHABOは単純な理由でこの曲を選んだわけじゃない。

その想いに応えるように何度も目を合わせ、CHABOのヴァイブスを受け止める山口。双子のようなアコギを抱えた二人のセッションは、この時代を見据え、鬼気迫るテンションで強いイメージを描いていく。

後半戦のラストは「明日のために靴を磨こう」。会場は手拍子の渦。背広姿も混じったフロアの一人ひとりが、明らかに子どもの顔になっている。ツインターボでオフロードを往く二人のギター。CHABOのヴォーカルも持ち歌のように力強い。二人の立ち位置はどんどん近くなり、後半戦もクライマックスへ。

3度目のフィスト・バンプ、最後は繋いだ手を高く掲げて「サンキュー、MY LIFE IS MY MESSAGE、サンキュー下北沢GARDEN!」。
互いへの、福島への、その場・その時間に集まった全員、想いを寄せてくれる人々への、そして連綿とロックの歴史を紡いできた先達への深い感謝とリスペクトを全身に滲ませて、二人はステージを後にした。

矢井田瞳と大宮エリー、仲井戸“CHABO”麗市と山口洋。それぞれのステージが6曲ずつ、それぞれのアーティストがきっちり3曲(詩)ずつ。もちろん、「センパイ」という言葉も発せられたし、「友達」と呼ぶのは憚られる気遣いが溢れたりもしたけれど、そこを飛び越えて「You’ve Got A Friend」を体現したい想いが、ステージ構成にも表れていた。

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