Interview

太田基裕&中屋敷法仁が野田戯曲に挑む! 『半神』という作品が持つ魔力、新たなカンパニーで放つ魅力、ふたりが感じている今の想いとは?

太田基裕&中屋敷法仁が野田戯曲に挑む! 『半神』という作品が持つ魔力、新たなカンパニーで放つ魅力、ふたりが感じている今の想いとは?

1986年、劇団夢の遊眠社で初演。その後、2度の再演を経て、1999年、NODA・MAPでも上演された傑作戯曲『半神』。原作は、人気漫画家・萩尾望都の同名漫画。高度な知能を持ちながらも醜い容姿の姉・シュラと、天使のように愛らしいが知的障がいを持つ妹・マリア。結合双生児の姉妹による愛憎を描いたわずか16ページの短編を、萩尾望都と野田秀樹による大胆なアイデアで戯曲化。多くの観客にアメージングな演劇体験をもたらした。
そんな“20世紀の古典”と呼ぶべき名作に、今、新たな息吹が宿ろうとしている。演出を手がけるのは、2014年に『赤鬼』で初めて野田戯曲に挑戦した中屋敷法仁。そして、キーパーソンの先生役を太田基裕が務める。野田秀樹という茫洋たる海に向けて、この新たなカンパニーはどんな冒険を見せてくれるのだろうか。

取材・文 / 横川良明 撮影 / 関信行
ヘアメイク / 中元美佳(EKAmake)
スタイリング(太田) / 小島竜太

野田さんの戯曲はやるたびに採点の基準が変わってくる

ちょうど今、通し稽古を終えてきたばかりと聞いています。まずはその率直な感想から。

太田基裕 もうカオスでした(笑)。

中屋敷法仁 カオスだったね(笑)。みんな汗ドロドロで。シェイクスピアとか歌舞伎とかギリシャ悲劇とか、長い時間を経て生き残っている戯曲というのはどれも俳優さんの身体を熱くさせる力があります。野田秀樹さんの戯曲も、そうした古典になり得る要素をいっぱい持っている。だから、まともな状態じゃ読んでいられないんですよ。

太田基裕

太田 正直に言うと、最初に戯曲を読んだときはわけがわからなかったんです。でもこうやって稽古場で役者が動いて体現していくうちに、少しずつ通じるものが見えてきた気がして。と言っても、まだ全然先が見えないので何とも言えないんですけど、そういう不思議な感覚に包まれています。

中屋敷 野田さんの戯曲はやるたびに採点の基準が変わってくるんですよね。普通、お芝居というのは100点を目指して稽古をするわけじゃないですか。それが、100点満点だと思っていたら1000点満点だったことに気づく瞬間がある。だからどんどんわからなくなるんですよ。こういうふうにやればいいかなと思っていた最初の解釈が何十倍にも膨らんでいくような、そういう感覚を味わっています。

中屋敷法仁

それって恐ろしくないですか。普通、演出家は何とか戯曲を支配下におさめたくなるもの。それがコントロールが効かないわけですから。

中屋敷 まったくコントロールできないですね。けれど、たぶん書いた野田さん本人も、自分をコントロールはしていないんじゃないかな。奔放なイメージを楽しむというか。

太田 無限の広がりみたいなものがありますよね。それぞれの役者が持つ想像力や価値観によっていかようにでも膨らんでいく余地がある。それがどう膨らんでいくのかまったく想像もつかないからこそ面白くて。

中屋敷 日々どんどんわからなくなっているんですけど、それは決してつまらなくなったり、迷子になっているわけではなくて。むしろ未知の世界へ飛び込んでいる証拠というか。普通、通し稽古をすれば少しずつ道筋がわかってきて退屈になったりもするものなんですけど、やればやるほど、どんどん新しくなるのが野田戯曲の醍醐味。冒険をしているようなワクワクとドキドキが止まらないです。

先生役は唯一のハンサム枠。だから王子様っぽいもっくんに演じて欲しかった

太田さんは野田作品は初挑戦ですよね。

太田 初めてです。今まで僕がやらせてもらってきた作品は、台本を読めば、僕の薄っぺらい想像力でもある程度見えるものがあったんですけど、野田さんの台本は全然想像ができない。それはなぜかと言うと、野田さんの台本の面白さは、僕なんかの想像力を遥かに超えたところにあるから。今までの台本の向き合い方とはまったく違うものを感じています。

NODA MAP版を拝見しているのですが、太田さんの先生役は勝村政信さんが演じていらっしゃいました。そのイメージもあってか、最初にキャスティングを聞いたときは少し意外な感じがしたのですが、このあたりの狙いを聞かせてください。

中屋敷 『半神』を少女漫画とするならば、双子のもとにくる家庭教師は、作画的に言っても唯一のハンサム枠。だったら、ハンサムな俳優じゃなきゃダメだろう、と(笑)。本編では決して王子様っぽくはないんですけど、どこか王子様的なニュアンスを持った人がやったら面白いんじゃないかと思って、もっくん(太田)にお願いしました。

中屋敷さんは、過去に野田さんが上演してきた『半神』と今回でどんな違いが生まれてくるだろうと考えていますか?

中屋敷 僕自身はあえて変えようともなぞろうとも思っていなくて。台本を読んだときに感じたものを素直に形にしたらこうなるだろうというものをつくっているつもりです。ただ、どうやら僕の戯曲の解釈の仕方がだいぶ特殊らしくて。野田さんがつくられたものと見比べれば、まるで違うものになっていると思います。だからと言って野田さんの色が消えているかと言うと、まったくそうではなくて。カンパニーが違うことで、改めて野田さんの存在感、萩尾望都さんの原作の深さが浮き彫りになってくるのではないかな、と。

結局どこか人は孤独だと思っているところが、僕にもある

個人的には、中盤、シュラが孤独への憧れを語る場面に強く胸を打たれたのを覚えています。太田さんの好きな台詞や場面を聞かせてください。

太田 僕もすごくそこは大好きです。あとはラストとか、なんだかわからないんですけどグッときますよね。孤独というのは、この作品を語るうえでも大事なキーワードで。ぶっ飛んだところも多いのですが、そういう意味ではすごく人間的というか、共感できるところのある作品だと思います。

中屋敷 初演が1986年。あの頃と違って、今はみんな携帯電話も持っていて、SNSがあって、つねに誰かと繋がれるのに、なぜか今のほうがみんな寂しさや孤独を感じて生きている気がするんですね。この双子が抱えている孤独は、決して特別なものじゃない。「どこか遠くの国に、こんな姉妹がいて……」っていうような昔話ではないんです。誰しもが孤独を抱えながら劇場に来ていて。そんな孤独な人間たちの答えのようなものを探る作品になれば、というのが今の想いです。

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