Interview

萩原利久「一つの確信が持てた」。 鮮烈な印象を残す映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の撮影を振り返る

萩原利久「一つの確信が持てた」。 鮮烈な印象を残す映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』の撮影を振り返る

独創的な漫画で人気の高い押見修造が自身の体験をもとに描いた同名漫画をもとに、湯浅弘章監督が長編商業映画デビューを飾った映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』が7月14日(土)に公開される。脚本は映画『百円の恋』の足立 紳。

高校入学したての教室で、自己紹介で言葉に詰まってしまう大島志乃(南 沙良)と、音痴だがギターが生きがいの岡崎加代(蒔田彩珠)が、文化祭を目指して音楽活動をすることで一歩を踏み出す物語。本作で、友達が欲しいのに空気が読めずに空回りしてしまう、二人のクラスメイト・菊地強を演じて鮮烈な印象を残しているのが、ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS)で、複雑な両親を持つ思春期の息子役を好演するなど、活躍が目覚ましい萩原利久だ。海沿いの街を舞台に、コンプレックスを抱えた3人の不器用な人間関係が、思春期の苦悩や葛藤とともに、まぶしく描写される本作で、撮影時14歳のヒロインたちからエネルギーを感じながら、役に没頭したという萩原に話を聞いた。

取材・文 / 上村恭子 撮影 / 冨田 望

高校1年生という、その瞬間にしかない、独特な人間関係が描かれている

いよいよ公開です。改めて作品をご覧になってどんな感想を持ちましたか?

昨年4月に撮影したときは、僕自身、3月でちょうど高校を卒業したばかりで、撮影現場で志乃、加代、菊地の、10代のエネルギーを感じながら芝居をすることができました。その現場のエネルギーがスクリーンから感じられて、演じた自分としても、とてもうれしくなりました。

いわゆるキラキラした青春ものではなく、10代のリアルな人間関係が細やかに描かれていました。

高校1年生という、その瞬間にしかない、独特な人間関係が描かれていますよね。大体の人がこれまでの人間関係をリセットして、新たな場所で新たな生活をスタートさせる高校1年生というのは、高2とも高3とも、さらには中3とも全く違うと実感しました。

吃音に悩む志乃、歌声にコンプレックスを持っている加代。それから、ちょっと空気が読めない菊地。人間模様の変化が胸に刺さります。

10代の時期って、ちょっとしたことで傷ついて、関係が変わっていくことがよくあります。ちょっと寄り添うだけでいいのに、それが極端に下手な3人が集まっていますよね。

菊地は、明るいキャラクターに見えて、コンプレックスを抱えていました。演じるのは難しかったでしょうか?

はい。これまで演じたことがないような役で、難しかったです。

冒頭はテンションが高いですが、どんなふうに役づくりしましたか?

高校の入学式当日に教室で自己紹介をするシーンから序盤までのテンションはマックスでした。みんなが周囲の様子や雰囲気を観察しながら行動している時期に、菊地はとばしてしまいます。その後、孤立して、だんだん周囲から浮いてはずれていくという流れを意識しながら芝居しました。でも、菊地が一人だけ浮いている感じは、他のクラスメイト役の方たちのドン引きがあってこそ引き立ったものもあります。すごく引いてくださったので(笑)。

最初は志乃のことをからかっていた菊地ですが、志乃と加代についてどう感じていたと思いましたか?

菊地のハイテンションは表向きの姿で、本当は寂しくて友達が欲しいんですよね。志乃と加代が仲良くしているのを見て、羨ましく思う気持ちがあるんだと思います。

その後、二人とはお友達になれますが、微妙な空気が流れますよね。

輪に入れてもらえたときはうれしかったんですが、志乃と加代の距離感とは違って、3人は「2対1」の関係性でした。同じような距離になりたかったけど、菊地は敏感なので、察知するがゆえに空回りしてしまいます。

反対に志乃、加代から見た菊地は、どんな存在だと思いましたか?

「志乃と菊地」「加代と菊地」、全く別の関係性でした。菊地の空回りを理解してくれた加代とは、悪くない関係をつくれましたが、志乃とは、加代を挟んでコミュケーションをとる関係でした。志乃は加代と二人でいたいんだけど、それを言える子ではなかったので、3人の関係は本当に微妙でした。仲の良い友達が別の子と仲良くしている姿に、嫉妬のような思春期独特の気持ちが志乃にもあったんだと思います。おそらく、志乃にとって初めてできた友達が加代だったので、その気持ちは人より強かったはずです。

それだけに、後半の菊地と志乃の二人だけのシーンは心に強く残ります。

志乃と対峙するシーンは、僕にとって最も難しいシーンでした。菊地は素直な感情を出すのが苦手なタイプ。吃音に悩む志乃は言いたいことが上手く言えない。お互い苦手なタイプ同士だと思いながら、感情を探っていきました。

南 沙良&蒔田彩珠のエネルギーはすごい!「僕の学生時代は終わったんだな。これが現役か」と思った(笑)

南さんと蒔田さんとの3人の空気感はどのようにつくっていったのでしょうか?

特別なことはしませんでした。それぞれが、一人ひとりその役でいるからこそ、生まれた距離感だったと思います。現場で芝居をしながらできていった空気です。

共演してみていかがでしたか?

撮影当時二人は14歳で、いや~、すごかったですね。エネルギーが(笑)。18歳(撮影当時)の僕からしてみると、すでに別の世代でした。「僕の学生時代は終わったんだな。これが現役か~」と思いましたね(笑)。14歳の女子とどうコミュニケーションをとったらいいのかな、共通の話題もないし、と思っていたんですけど、心配いりませんでした。

現場では頼りになるお兄さん的な存在だったとお聞きしました。

頼りになっていたのかは、自分としてはよく分からないですね(照)。現場ではカメラが回っていないときも、ずっと菊地でいたので、本当の同級生みたいでした。スタッフさんにも「菊地、うざいわ」って言われたくらいです(笑)

3人でバンドの練習をするシーンは、菊地くんのうざさもかわいくて、応援したくなります。練習は結構されたのでしょうか?

現場で即興のおまかせモードでした(笑)。監督には「菊地のタンバリンはこんな感じでしょ」って言われて。二人は、それぞれ歌とギターを相当練習しているのに、菊地のタンバリンだけは、「はい、これ」ってタンバリンを渡されて、その場で生み出された“菊地タンバリン”でした(笑)。

本当に青春そのもので、その後の展開にも響くシーンですよね。

3人でいるシーンの中でも、菊地的には最も気持ちのいいシーンでしたね。菊地が欲しかったもの(=友情)が感じられた時間でしたから。

原作者・押見修造さんからの「菊地が本当に菊地だった」という褒め言葉がすごくうれしかった

ロケ地の沼津はいかがでしたか?

学校の窓から見える風景が新鮮でした。僕は東京の高校に通っていたので、窓からはビルしか見えなかったんですけど、ロケ地では緑が美しくて見とれてしまいました。ベランダに出て、眺めてみたくなるような素敵な景色で、うらやましく思いました。

志乃と加代が自転車を走らせる海辺も素敵ですね。

(写真を見ながらしみじみ)海沿いのチャリ通! これは、僕の理想図だったんですよ! 電車通学だったから、チャリ通に憧れていたんです。「だるいだるい」とか「めんどくせーっ!」って言いながら、チャリこいでみたかったなっていう願望がありました(笑)。

私は電車通学に憧れていました(笑)。クランクアップ後には原作者の押見さんが書いたオリジナルの卒業証書をもらうサプライズもあったそうですね。

クライマックスの文化祭のシーンを撮影後、クランクアップして、監督から証書を手渡されました。「これで終わったんだ」と実感しながら、「菊地をやって、楽しかったなあ」と思いました。

それは、うれしいですね。

現場にいらした押見さんに「菊地が本当に菊地だった」とおっしゃっていただいたのが、何よりもうれしかったです。試写を観てくださった後にも改めてそう言っていただいて、本当にうれしかった。役づくりも、漫画の中の菊地像が基盤にあったので、生みの親のお墨付きをいただき、本当にこれでよかったんだと一つの確信が持てました。(思い出しながら)とにかく、それが一番うれしかったですね。

ところでご自身の高校時代はどうでしたか?

今振り返ると、高校時代、トゲトゲしていていたなぁって思いますね…(照)。そのときは、「反抗期とかないな」って思ってましたが、将来についての不安もあって、今思うと、ふとしたことで、過剰反応してしまうことが多かったなって。

後から気付くことってありますよね。この映画で、3人それぞれが自分の抱えるコンプレックスに向き合って、もがいて、自分を変えようとしますが、そういった経験はありましたか?

人間関係も中学校以上に難しいし、自分を変えようと気づくまではできても、僕はなかなかできないでいました。だから、志乃、加代、菊地の3人は、自分を変えようとして踏み出すので、すごいことですよね。なかなかできることじゃないと思うので。

本当に3人の勇気が素敵で、守りに入った大人には懐かしい痛みを思い出す映画でした。

言いたいことが言えなかったり、友達関係をミスったりする経験は僕自身もあるし、皆さん通ってきた道で、映画には共感できるところがたくさんあると思います。大人の方にも観ていただきたいですし、もちろん、現役の中学生・高校生にも観て欲しいですね。菊地みたいに、ちょっと空気が読めなくて空回りしている人が教室にいるかもしれない…。3人が殻を破る姿から、この映画が、人間関係を少しでも良い方向へ変えるヒントになってくれるならうれしいです。

最後に、昨年は『帝一の國』、『3月のライオン/前編と後編』、『あゝ、荒野(前篇・後篇)』とさまざまなジャンルの作品に出演されています。これから、どんな役者を目指していきたいですか?

どんな役にも挑戦し続けていきたいです。前の現場で得たものを、次につなげていけるよう、チャレンジして、常に吸収と発信をし続けられる人になりたいと思います!

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フォトギャラリー

萩原利久

1999年、埼玉県生まれ。2008年芸能界デビュー後、さまざまなドラマ、映画に出演。近年は映画『ちはやふる 上の句・下の句』(16)『3月のライオン 全編/後編』(17)『帝一の國』(17)『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、ドラマ『あなたには帰る家がある』(18/TBS)などの話題作に出演し注目が注がれている。2018年は『ウィッチ・フウィッチ』で主演を演じ、今後も本作のほか『高崎グラフィティ。』の公開が控えている。

映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

【STORY】
伝わらなくてもい わらなくてもい わらなくてもい わらなくてもい わらなくてもい わらなくてもい わらなくてもい 。伝えたいと えたいと えたいと 思った ―― 。
高校1年生の志乃は上手く言葉を話せないことで周囲と馴染めずにいた。そんな時、ひょんなことから同級生の加代と友達になる。音楽好きなのに音痴な加代は、思いがけず聴いた志乃の歌声に心を奪われバンドに誘う。文化祭へ向けて猛練習が始まった。そこに、志乃をからかった同級生の男子・菊地が参加することになり…

出演:南 沙良 蒔田彩珠/萩原利久 /小柳まいか 池田朱那 柿本朱里 中田美優 / 蒼波 純 / 渡辺 哲/山田キヌヲ 奥貫 薫
監督:湯浅弘章
原作:押見修造 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」 (太田出版)
脚本:足立 紳
音楽:まつきあゆむ
配給:ビターズ・エンド
制作プロダクション:東北新社
製作:「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会
 ©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

オフィシャルサイト
http://www.bitters.co.jp/shinochan/

原作コミック

志乃ちゃんは自分の名前が言えない

押見修造
太田出版

“普通になれなくて ごめんなさい”ヒリヒリ青春漫画のマエストロが贈る、もどかしくて、でもそれだけじゃない、疾走焦燥ガールズ・ストーリー。”自分の名前が言えない”大島志乃。そんな彼女にも、高校に入って初めての友達が出来た。ぎこちなさ100%コミュニケーションが始まる。いつも後から遅れて浮かぶ、ぴったりな言葉。さて、青春は不器用なヤツにも光り輝く…のか?