Interview

FINLANDS スタイリッシュな女性2人組が新作で響かせるロックは、何がこれまでと違うのか?

FINLANDS スタイリッシュな女性2人組が新作で響かせるロックは、何がこれまでと違うのか?

真夏でも厚手のコートを着てライブに臨み、MVやアートワークには一貫したコンセプチュアルな意図を感じさせるなど、スタイリッシュな一面がまず話題を呼んだこの女性2人組はしかし、その本質に強いロック性を感じさせる表現で着実に支持を広げてきた。1年ぶりに届けられたニュー・アルバム『BI』は、他者への欲望と自己愛のアンビバレンツを多彩に描き出して、バンドが新しいステージに足を踏み入れたことを伝えている。
ここでは、すべての楽曲の作詞作曲とボーカルを担当する塩入冬湖に、今回の新作のテーマを掘り下げてもらいながら、その背景にある創作に向かう彼女自身の意識の変化についても語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

『BI』というのは“2つの”という意味なんですよね。

まず今回のリリースに関して、前作からちょうど1年ということになりますが、この時期はどんなふうに決めたんですか。

私たちFINLANDSはこの4年間ずっと7月に作品を出してきたので、もうその時期に出すことが年間行事として決まっているような感覚が私たちのなかにはあったんですね。だから、去年発売した時点で“次は来年の7月だ”という気持ちに勝手になっていて、それで去年の秋にツアーが終わったくらいからもう制作に取りかかりました。

前作はミニアルバムでしたが、今回は12曲入りのフルアルバムというサイズです。そこについては、どの時点で、どういうふうに決めたんですか。

そこについては、レーベルは私たちに完全に任せてくれていて、どっちでも選んでいいよという感じなんです。私自身は曲を作るのがすごく好きなんですけど、作っていくなかでアルバムに入れたいと思う曲がものすごく増えてきて、ただフルアルバムとミニアルバムというのは違うんですよね。しかも今回はコンセプトがはっきり見えていたので、去年の10月くらいにフルアルバムにしたいなという気持ちが芽生えてきて、それでフルアルバムに決めました。

塩入さんが考えるミニアルバムとフルアルバムの違いというのは、どういうところですか。

フルアルバムになると過程を辿れるというか、1曲目から長い道のりを辿って最後に行き着くという感じのものであるような気がするんです。なので、私たちがやりたいことをものすごく自由に放出できる感じがあるというか。ミニアルバムだと、曲数が少ない分、どうしても1曲1曲決めてやろうという気持ちがあるんですけど、フルアルバムだと表現方法として好きなやり方を使えるという感じがあって、それをいまやるタイミング、変化のタイミングがきっとFINLANDSに訪れてるんだろうなと思いました。

はっきり見えていたという、そのコンセプトとはどういうものだったんですか。

私たちのいままでの作品というのは、他者に対する想像を書いていたんです。自分のなかで起きたことというよりも他者との関係性、“私とあなた”、“私と社会”“私と何かの物事”といったことを、しかもその相手について知っていることではなくて、相手のことを想像して自分のなかで出した結論を書くことが多かったんです。でも、去年いろんな人と関わる機会が増えて、他人の意見や他人に起こったことの結末、そういうものを知ることが多かったので、それで生き物2つということが自分のなかですごく明確に感じられて、そういう自分のなかでは解決できない、結論を出せないことについて書いてみようと思って、それが『BI』につながったんです。『BI』というのは“2つの”という意味なんですよね。

「いろんな人と関わる機会が増えて」と言われましたが、それと同時に塩入さん自身の変化として、他者に対する興味というか、他者に気持ちを向ける度合いが高くなったり広くなったりしたところもあるのかなという気がするんですが、そのあたりはどうですか。

すごく広くなったと思います。そこが、今回はいちばん大きなポイントかもしれないですね。いろんな人と話をして、いろんな人の話を聞いても、それに左右されないくらい私たちが強くなったんだと思うんです。人の意見を聞いて、それが違うと思えば、それを受け入れなくても大丈夫だっていう。そういうふうに、根本のところで強くなった部分があったので、人と積極的に関わっていくことも、あまり怯えずにできるようになったのかなと思います。

とすると、以前は防衛本能みたいなものがはたらいて人との関わりを控えていたところもあったかなと感じているわけですか。

そうですね。

求められることに完璧に応えていたら、私たちはバカ売れしてると思うんです。

アルバムの最後に収められた「BI」がタイトル曲だから、さっき言われたコンサプトに沿った、中心になる曲なんだろうとは思うんですが、個人的にはその前に入っている「プリズム」という曲がむしろこのアルバムの主題を鮮やかに照らし出しているように感じました。

「プリズム」のいちばん最後に♪作り話の私たちにはこの夜しか掛け替えのないから本物なんてないさ♪という歌詞があるんですが、この主人公は「悲しくない。幸せだ」とずっと言い続けてきて、でも本物なんてないということもわかってるっていう。つまり、ポーズをずっととり続けていることを自分も気づいているんですよね。“これはポーズです”と気づきながら、ずっと物語を進めていって、でも最後には「本物なんてないさ」と言い、「君がいないとこの夜は完成しなかった」と言うっていう。ものすごくスカして、相手のことを見て生きてる人の歌なんですよ。「BI」については、♪あなたの事は信じていない/だけど酷く愛している♪という歌詞があるんですが、その一節が「BI」の中心だなと私は思ってるんです。相手のことをものすごく愛しているけれど信用はしていないというのは、多分自分を守るためでもあるだろうと思うんです。相手の深みにはまらないように自己防衛の気持ちがはたらいているんだと思うんですけど、それが「プリズム」の主人公なら「深みにはまったとしても私は幸せだから絶対大丈夫」というふうに振る舞うんだろうなって。その対比は、この2曲の間にものすごく出ているなと思いますね。

手元の資料に、このアルバムに関する塩入さんのマニフェストのような文が添えられていて、そのなかに「人を好きになれば弱くなるし、だけど女としては幸せだ。誰のことも好きじゃなければ果てし無く強くなれる、だけど何も傷つかなければ喜びも出来ない」という一節があります。こういうアルバムを完成させたいまの時点で、塩入さん自身は“弱くなるけれど、人を好きになって女として幸せ”という状態と、“喜びはないけど、果てし無く強いし何も傷つかない”という状態と、どっちがいいと感じていますか。

私のなかには、何か2つ有ったらどちらかを選ばないといけないという固定概念がずっとあったんです。どちらかを選んだほうが、そちらに振り切れるから、そちら一辺倒でやっていけるからいいと思ってたんですけど、でもその2つについては両方がないと多分成り立たないんだろうと思うんです。私のなかでは、何も気にしないで悲しみや辛いことも自分のなかで全部消化して生きていけるというほうの自分が曲を作ってると思ってるんです。だから、曲を作ることによって弱いほうの自分を救っているという面がすごくあると思ってて、でも曲を作るということに関しては、その弱いほうの自分にしか感じられない部分だと思うんですよ。だから、両者があってこそでないと多分成り立たないんですよね。そのことをすごく感じて、だから両方を自分のなかに持って生きていくということがいまの自分が直面しているテーマだと思いますし、これからも重要なテーマになっていくと思います。

いまの話を音楽に引き寄せて考えたときに、音楽家はみんな自分の表現を聴いてもらいたいと思って演奏したり作品を発表したりすると思うんですが、その一方で受け取り手の気持ちなんて考えずに自分のやりたいことをやりたいようにやるんだという欲望も持っていますよね。その2つの気持ちはしばしばまったく逆の方向に向かうことがあるから多くの音楽家が悩むことになるんだと思いますが、塩入さんのなかではその2つの気持ちへの対処というか、バランスはどういうふうにとっていますか。

それは…、あまり考えたことがなかったかもしれないですね。もちろん、最近続けて作品を出してきて、聴いてくれる人がすごく増えてうれしいなと思うんです。ただ、聴いてくれる人が増えてくるといろいろと求められることがあるというのは如実に感じてはいるんですけど、その求められることに完璧に応えていたら私たちはバカ売れしてると思うんです。でも、その求められることをやるということに、私たち魅力を感じてはいないかもしれないですね。自分たちがやりたいこと、歌いことをそのまま表現したら、運良くそれにハマってくれてる人がいるというのが現状だと思います。

“弱くなるけれど、人を好きになって女として幸せ”という状態と“喜びはないけど、果てし無く強いし何も傷つかない”という状態とどっちがいいか?という話の脈絡で言えば、FINLANDSは受け取り手のことをあまり意識せずに思い通りの表現に向かっているから無敵な感じでかっこいい、ということになりますか。

(笑)、そうかもしれないですね。サービスに徹する音楽に魅力を感じないという思いはずっとあって、求められることをやるという意識を体現している音楽家はいっぱいいるし、そういう人たちに対して私は本当に“すごいな”というリスペクトの気持ちを持っているんです。ただ、私自身はそういう有り様が自分のなかでは納得できないんですよ。だから、そういう表現をやるのが私たちである必要はないなというふうに思っています。

ライブに臨むときに意識するのは、真剣にやる、ということですね。

今回の制作を振り返って、何か特徴的なことはあったように思いますか。

いままでは、アルバムを作るとなるとものすごくバランスを考えたり、あるいは“ライブでやるんだったら、こういう曲のほうがきっとウケるだろう”みたいなことを多少なりとも考えて作ってたんですけど、今回はそういうことは何も考えないで、自分が“すごくいい曲だな”と思った曲だけをバンドに持って行って、それを仕上げてアルバムに入れたいなって。今回はそういう気持ちが強くて、だから私が弾き語りでやってた曲でもいいと思ったら入れることにして、結果バラードとかミドルテンポの曲が多めになりましたね。

具体的にメンバーとレコーディングの作業を進めていくなかで、塩入さんの想定と違ったり想定を超えたりしたという意味で印象に残った場面はありましたか。

それは…、「sunny by」ですかね。ウチのドラムとギターは、ジャズとか、そういう渋めのビートが好きな人たちなので、“この曲は本領を発揮しそうだな”と思って持って行ったら、案の定いままでの50倍くらい真剣にやり始めて(笑)、ベースに対する要望も半端無くてすごかったんですよ。“メンバーが好きそうだな”と思って持って行ったのは、この曲が初めてだと思います。“メンバーの好きそうな音楽かな”と思って持って行ったら、それがすごくいい化学反応を引き起こしたみたいで、ものすごくバンドの一体感が出て、私が想像していた以上の出来上がりになったので、すごく面白いなあと思いました。

他者との間合いの取り方みたいなことが今回のアルバムのモチーフのひとつになっているという話が冒頭にありましたが、“メンバーの好きそうなものを”と思って持って行ったのは初めてという話は、他者との間合いの取り方の変化がバンド内においても起こっているのかなと感じました。

そうかもしれないですね。それも、私が人ときちんと関わろうと思ったからかもしれないです。これまでは、私って本当にバンドだけの生活で、それがすごく気に入っていたんです。でも、最近それ以外の人とも関わるようになって、FINLANDS以外の人から聞いた話や、そういう人から学んだ人との接し方、そういうものが私のなかに入ってきたので、そのなかのいいところはバンドのなかでも使おうと思うし、バンドのメンバーに対する気持ちはすごく変わったと思いますね。

このアルバムの収録曲のMVとしては、まず「ガールフレンズ」がすでに公開されていますが、この曲をMVにするのはどういうふうに決まったんですか。

これまでFINLANDSの作品を作ってきて、私がMVにしようと思った曲は一度も採用されたことがないんですよ(笑)。それで、最初はものすごくケンカもしましたけど、でも他のメンバーやレーベルのスタッフが選んだ曲のほうが結局は良いんです。この前の「恋の前」や「ウィークエンド」は、私自身は前作の『LOVE』というミニアルバムに入れなくてもいいかなとさえ思っていた曲なんですけど、それをMVに選んだのが結果的には大正解だったんですよね。だから、今回も私は選ばないことにして、みんなでどの曲がいちばん好きかという話をしたら、みんな「ガールフレンズ」がいちばん好きだって言うんです。じつは私もこの曲がいちばん好きなんですよ。この曲は、すごく攻めてるというか、世間に寄せていっていないと思うんですけど、それでもみんながいちばん好きな曲がMVになるのがいいのかなと思って。

塩入さんは、自分が「ガールフレンズ」をいちばん好きだと感じるその理由を敢えて探れば、どういうことだと思いますか。

私は、このアルバムを作り始めるときに、物事をストレートに表現しようということを思っていたんですけど、この曲はすごくストレートな演奏の技法を使っていると思うんですよ。でも、歌ってることは全然ストレートじゃないんですよ。あそこで歌われているのは多分、「世の中や好きな人のことをバカにしてるけど気づいたら自分もバカにされてた」みたいなことで、そういうことを大きな声で、明るい口調で歌えるっていう、そのことが私にとって快感なのかもしれないですね。それに、「次のアルバムに入る曲はこれです!」という感じで最初に出せる快感というのもあるのかもしれないです。

ライブについても聞かせてください。FINLANDSとしてライブに臨むときに、何か意識していることはありますか。

真剣にやる、ということですね。

真剣じゃないときもあるんですか(笑)。

いや、そういうことじゃなくて、真剣じゃないものを見ると腹が立つので、自分たちは真剣にやるということですね。

今回のツアーでは新作の曲は全部やるんですか。

そうですね。7分の曲とかあるので、どうなるんだろう?という気もしますけど、でも全部やりたいです。今回はバラードとかミドルテンポの曲が多いですけど、それもこの5年の間にやってきて自信がついたFINLANDSの強さがあってこそできることかなと思うんです。ただ暴れたい、ただモッシュしたい、ただ手を挙げたいというところに頼らなくてもやっていけるという自信はありますから。

ツアーが楽しみです。ありがとうございました。

ライブ情報

“BI TOUR”

9月2日(日)静岡・静岡UMBER
9月7日(金)京都・京都GROWLY
9月15日(土)北海道・札幌COLONY(ワンマン)
9月22日(土)大阪・大阪Shangri-la (ワンマン)
9月24日(月・祝)神奈川・横浜FAD
9月29日(土)福島・福島clubSONICiwaki
9月30日(日)宮城・仙台enn3rd
10月4日(木)千葉・千葉LOOK
10月11日(木)愛知・名古屋ロックンロール(ワンマン)
10月13日(土)福岡・福岡graf(ワンマン)
10月16日(火)東京・渋谷クアトロ(ワンマン)

FINLANDS

塩入冬湖(Vo、Gt)とコシミズカヨ(Ba、Cho)からなる女性ロックバンド。JOINALIVE2017、マグロック2017、VIVALAROCK2018などの大型フェスやSAKAESP-RING、TENJIN ONTAQ、見放題、TOKYO CALLING、MINAMI WHEEL 等々、全国各地で話題のサーキットフェスに多数出演。エモーショナルなライブには定評があり、2017年は出演したサーキットフェス全てで入場規制がかかった。また、楽曲は北海道日本ハムファイターズのテレビCMに起用されるなどポピュラリティも併せ持つ。2017年7月リリースのミニアルバム『LOVE』はオリコンウィークリーインディーズチャート2位を記録。同月のタワーレコード“タワレコメン”、HMV“エイチオシ”にダブルで選出され話題となる。

オフィシャルサイト
http://finlands.pepper.jp

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