黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 18

Interview

ファミ通表紙 松下進氏(上)路上に絵を描く少年が、音楽と出会いバンドマンへ

ファミ通表紙 松下進氏(上)路上に絵を描く少年が、音楽と出会いバンドマンへ

あの頃のモンスターには温かみがあった・・・

それはいい影響を受けましたね。

松下 あれにはすごい影響を受けましたね。ハリーハウゼンが作り出すモンスターってデザイン的にも、すごいカッコいいじゃないですか。そういう影響を受けているから、最近のはなんか……別に批判するわけじゃないですよ・・・・・・でも、僕には妙に皮膚感とかがリアルすぎるというか、ちょっと薄気味悪いところまでいっちゃっているというか。だから、すごく精巧なフィギュアになっていたとしても買う気がしないんですよ。よくできていたら余計気持ち悪いじゃないですか(笑)。

そこまで再現されてもってありますよね。

松下 そう。ハリーハウゼンとかの時代って、やっぱりデザインちっくな部分っていうのがすごくあって、人の手技とか気持ちとかが、そのクリーチャーの中に入っているというか、うまく残されていて。変な言い方ですけど、ちょっと温かみがあったりするんですね。それが、なんかいいんですよ。

一つ目のモンスターとか、よくできていましたもんね。

松下 サイクロプスですね。今でもたまに夢に出てきたりしますよ。そういえば、スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』(注10)にも出てきたじゃないですか。観ていて、なんか涙が出てきちゃってね。スピルバーグもきっと観ていたんだろうなとか思って。

注10:スピルバーグが監督を務めた2018年公開のSF映画。1980年代をはじめとする、さまざまな大衆文化へのオマージュが散りばめられており、『ガンダム』や『AKIRA』など日本のアニメ・ゲームのキャラクターやガジェットが登場することでも話題を呼んだ。

いいですねえ。その後も学校に行きながら絵を描かれていたんですか?

松下 絵はそうですね。朝起きて顔を洗うみたいな、日常のひとつのルーティンとして、ずっと当たり前にやってきたみたいなところがあって。だから、あんまり絵で苦労をしたことはないです。でも、それでご飯を食べるようになるとは思わなかったです。

クリフ・リチャードとシャドウズの衝撃と洗礼

でも、自分の好きなことで生きるって理想的ですよね。

松下 そうですね。それで、中学1年生の終わりぐらいから、そこに音楽が入ってくるわけですよ。僕の世代はビートルズが出てくるちょっと前で、特にハマったのがイギリスで最初にロックをやったっていうクリフ・リチャード(注11)とシャドウズ(注12)です。このバックバンドのシャドウズがカッコよかったんですよ!

注11:1950年代のイギリスを代表するロックシンガー。バックバンドのシャドウズとともにビートルズ登場以前のイギリスのロックシーンをリードした。代表曲は『ヤング・ワン』、『サマー・ホリディ』など。

注12:1950~60年代に活躍したイギリスのロックバンド。クリフ・リチャードのバックバンドとして結成されたが、インストバンドとしても活動。ロックのパイオニアとして人気を博した。代表曲は『春がいっぱい(Spring Is Nearly Here)』『アパッチ』など。

シャドウズ 当時のレコードジャケット

うーん、すごくよく分かります。

松下 女の子はクリフにキャーッて言ってたんですけど、男の子はみんなシャドウズに憧れたっていう。イギリスに行ったとき、いろいろ話したんですけど、イギリス人もやっぱりそうだったらしいです。男の子はシャドウズ支持で、クリフはほっといてもいいんじゃないかみたいな(笑)。

クリフに関しては、作られたアイドルみたいなイメージがあったんでしょうか。

クリフ・リチャード 当時のレコードジャケット

松下 今見たら、すごくいいシンガーなんですけど、なんか男性にはあまり評価されないですよね。自分のガールフレンドがキャーキャー言っているから、妬いていただけなんじゃないかとも思うんですけどね。とにかく、クリフとシャドウズのセットは強力なバンドで、それでギターにいっちゃったんですよ。

バンドではリードギター担当 目立ちたがり屋(笑)

ギターはすごくお好きで、すごい努力をされたという話は読んだことがあります。

松下 この道に行くべきじゃなかったんだなって、今はよく分かりますね。いまだに苦労してますもん。

でも、ギターは今でもプレイされていますよね。音楽活動も。

松下 たまにね。あまりそればっかりやっていると本業がおろそかになるんで…(苦笑)。

当時は、やっぱりシャドウズのコピーとかされていたんですか。

松下 そうですね。で、僕がリードギター。いいとこ取りというか目立ちたがり屋なんです(笑)。

いやいや。でも、なぜシャドウズにそこまで魅了されたんでしょうか。

松下 最初に聞いたのはクリフの『ヤング・ワン』っていう曲だったんですけど、イントロでエレキギターのジャン、ジャン、タラララランって音が入るんですよ。そのタラララランでやられたんですよ。そのギターの音色が素晴らしくて、「何、この音?」って思ったんですね。そうなると「どういう人たちがやってるんだ?」ってなるじゃないですか。

なりますよね。

松下 それで、日本にもレコードがぼちぼち入ってきていたので、英国版なんかを買ってね。いろいろと聞いていくうちに、やっぱりすごいって思って。日本ではあまり知られてなかったですけど、イギリスでは猫も杓子もシャドウズのマネをしていたそうですよ。ステップを踏みながら演奏したりするんですけど、あれはそうそうできないです。リードギターがメロディを弾きながらステップを踏むのって大変なんですよ。

あれってやっぱり難しいんですか。

松下 難しいです。あんな曲芸みたいなこと、とてもできない。そういうステージングも含めて、今のロックの人たちとまったく違っていて、魅せてよし、聞かせてよしのエンタテインメントなんですよ。それに感化されちゃったから、もうね・・・・・・。

なるほど~。

松下 今にして思うと、僕が目指している絵のスタイルと、彼らの音楽ってすごく共通性があります。だから、僕がこの音楽に魅かれるのはしょうがないのかな、みたいなことが最近になっていろいろ分かってきましたね。

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