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乃木坂46・桜井玲香×藤間爽子、太田基裕らが全身全霊を打ち込む舞台『半神』開幕。醜く、美しい──“割り切れない”人間の悲運

乃木坂46・桜井玲香×藤間爽子、太田基裕らが全身全霊を打ち込む舞台『半神』開幕。醜く、美しい──“割り切れない”人間の悲運

舞台『半神』が開幕した。現代演劇の極北をゆく野田秀樹の代表作に、気鋭・中屋敷法仁が挑戦。桜井玲香(乃木坂46)×藤間爽子のW主演、太田基裕、松村 武、福田転球ら意表を突くキャスティングでリメイクする。螺旋方程式の謎をめぐる姉妹の冒険はどこへ辿り着くのか。その旅路を追った。

取材・文・撮影 / 横川良明

“割り切れない”姉妹の「1/2+1/2=2/4」をめぐる数奇な冒険

原作は、少女漫画家界の巨匠・萩尾望都による同名の短編漫画。主人公は、腰のあたりが繋がった結合双生児の姉妹。妹は天使のような美貌と引き換えに知能は低く、姉は妹に養分を吸い取られるため容姿は醜いが、優れた頭脳を持っている。周りの寵愛を一身に浴びる妹。姉は、足腰の弱い妹の杖代わりを強いられる生活。次第に姉の心には、妹への嫉妬と劣等感が膨らんでいく。そんななか、ドクターはある事実を姉妹に告げる。このままでは、姉妹の寿命はもう長くない。しかし、分離手術が成功すれば、どちらかの命は助かることができる。果たして生き残るのは、姉か、妹か──。

たった16ページの短編ながら、萩尾望都の『半神』は深遠なメッセージと人生の哲学を多分に孕んでいる。この究極に研ぎ澄まされた短編を、萩尾望都との共同脚本によって、約2時間の舞台へと換骨奪胎した野田秀樹の発想力に改めて唸らされる。

「1/2+1/2=2/4」。分数の足し算ができる人なら、失笑してしまうような解答だ。しかし、この方程式(劇中では「螺旋方程式」と呼ばれる)こそが、舞台『半神』の核となっている。半分と半分を足しても、1にはなれない。それどころか本来なら2/4は約分するべき分数。でも、2/4を1/2に割り切ることなんて、できない。この“割り切れなさ”が次第に深い意味を帯び、哀切となって観客の胸を締めつける。

化け物か、人間か。愛されることを求めたシュラがくだした決断

おおまかなプロットは、原作どおりだ。数奇な運命に魅入られた姉妹は、シュラ(桜井玲香)とマリア(藤間爽子)と名付けられ、その名のとおり対極性の象徴として物語の中心に配置される。姉妹のもとにやってくるのは、家庭教師の先生(太田基裕)。年齢を重ね、自我に目覚めたシュラは、一心同体と思っていたマリアが、自分とは別個の人間であることを自覚し始める。そして、その別個の人間こそが自分の自由を奪う錨である、とも。

妹と繋がれているばかりに世間から隔絶され、世界をまるで知らないシュラ。我が身の不幸に対する嘆きは、やがて世界への憧れへと変わり、いつしか孤独に焦がれるようになる。先生は、そんなシュラの前に現れた、錨を引き上げるための鎖だったのかもしれない。錨を上げて船が漕ぎ出すように、風呂場の栓を抜いて、シュラとマリア、そして先生は冒険の旅に出る。湯船の底に吸い込まれた「螺旋方程式」の解を求めて。

こう書くと、どこが原作どおりだと思うかもしれない。原作には家庭教師の先生はほんの一文登場するだけだし、「螺旋方程式」なんて出てこない。それどころか、「螺旋方程式」の解をめぐる姉妹の行く手には、ユニコーン(永島敬三)、スフィンクス(牧田哲也)ら化け物が次々と立ちはだかる。神話の世界の化け物たちは、シュラとマリアを自分たちの世界に取り込もうと画策。あの手この手で姉妹に罠を仕掛けようとする。その攻防は、まさしく冒険譚そのもの。萩尾望都の『半神』の世界から遠く逸脱していくようにも見える。

だが、こうした荒唐無稽な荒波に翻弄されていくうちに、私たちはいつしか原作で描かれたシュラとマリアの究極の選択へと漂着する。化け物か、人間か。野田戯曲の手さばきの鮮やかさは何度味わっても感動のひと言。原作を忠実に再現する2.5次元演劇でシーンを牽引するネルケプランニングが、同じ漫画原作で、原作の心臓部だけを据え置き、それ以外は大胆に肉付けした野田秀樹の『半神』をゴーチ・ブラザーズと共に主催することに大きな意義を見たし、演劇の豊かさを改めて思い知った。

結合双生児という設定だけ見れば、極めて特殊な状況下における寓話とも思えるが、この舞台『半神』で描かれているのは、普遍的な人間の姿。多くの人が、純粋な少年少女期を経て、世界の謎に魅入られ、誰にも言えない秘密を抱え、欲望にまみれ、誘惑を覚え、後悔を知り、優柔不断に苛まされる。そうした段階を踏んで行き着くのは、決断であり、別離。愛されることを求めたシュラは、どこかあなたにも似ているところがあるかもしれない。

中屋敷法仁が更新する新世代の『半神』

中屋敷法仁の演出は、スタイリッシュで、それでいてダイナミズムに満ちている。なだらかな八百屋舞台は、舞台奥に向かって絶壁のように立ちのぼり、俳優たちはそれによじ登りながらパフォーマンスを行う。その急傾斜の壁面は、姉妹と世界を隔てる断崖のようだ。観客の自由なイメージを促すように、小道具らしきものはほぼ使われない。唯一モチーフとして繰り返し使用されるのは、大きなトランプのカードのみ。このトランプの使い方がよく練られていて遊戯的な面白さが広がった。

また、衣装に着目すると、姉妹を狙う化け物はブリティッシュなクラシックスタイルに身を包み、一方で姉妹を導く先生は袴に学生帽と大正浪漫を彷彿とさせるいでたち。和と洋、この対極性にも中屋敷の意図が透けて見えた。

野田戯曲の特色である身体性も、中屋敷流に更新された。振付にスズキ拓朗を迎え、スズキらしい、美醜のカテゴリーを超えた、どこか観る人の神経を疼かせる不思議な踊りが随所に散りばめられている。それに音楽のDÉ DÉ MOUSEによるエレクトリックサウンドが加わることで、より新世代感のある仕上がりに。メインとなるタンゴ曲は愛憎の炎が燃えつつも、全体的な音の印象としては浮遊感たっぷりで、幻想的なDÉ DÉ MOUSEの音楽に、双子の姉妹が持つ少女性が可視化されるようだった。

そして注目の役者陣もそれぞれに健闘。前半を牽引するのはシュラ役の桜井玲香。感情をむきだしにしながら、しっちゃかめっちゃかに舞台を跳ね回り、シュラの怒りを表現する。その横で存在感を放つのが、マリア役の藤間爽子だ。特に前半は、マリアには台詞らしい台詞はほとんど与えられていない。その中で、マリアというキャラクターを立たせるのは存外に難しい。だが、故・藤間紫と2代目市川猿翁の孫である藤間爽子には、既存の文脈には乗っていない清新さがあり、それがうまくマリアにハマっている。

太田基裕は、アクの強い小劇場俳優との絡みも多いが、うまく力を抜いた演技で立ち位置を示した。化け物たちの濃い仕掛けにもさらりと返して笑いを生み、ちょっととぼけた先生像を好演。最初から最後までドラマをしっかりと担った。そして、怪気炎を上げるのが松村武。この攪乱する混沌の渦に身を投じることを誰よりも楽しんでいるようで、松村が出てくると場の推進力がぐんと増す。本作には、中屋敷が主宰する劇団柿喰う客からも多数の俳優が出演しており、中屋敷演出をよく知る彼らの存在が、世界観の構築に多大な貢献を果たしていたことも記しておきたい。

舞台『半神』は7月16日まで天王洲 銀河劇場にて上演。その後、大阪に場所を移し、7月19日から22日まで松下IMPホールにて上演される。

舞台『半神』

〈東京公演〉2018年7月11日(水)~7月16日(月・祝)天王洲 銀河劇場
〈大阪公演〉2018年7月19日(木)〜7月22日(日)松下IMPホール

原作・脚本:萩尾望都
脚本:野田秀樹
演出:中屋敷法仁

出演:
シュラ 役:桜井玲香
マリア 役:藤間爽子

先生 役:太田基裕

母 役:七味まゆ味
ユニコーン 役:永島敬三
スフィンクス 役:牧田哲也
ハーピー 役:加藤ひろたか
右子/ガブリエル 役:田中穂先
左子/マーメイド役:淺場万矢
ゲーリューオーン 役:とよだ恭兵
村松洸希
齋藤明里
エリザベス・マリー

父 役:福田転球
老数学者/老ドクター 役:松村 武

オフィシャルサイト

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