32年ぶりのニューアルバム『DEBUT AGAIN』発売記念対談  vol. 1

Interview

クリス松村x萩原健太 「大滝詠一」放談 vol.1

クリス松村x萩原健太 「大滝詠一」放談 vol.1
左:萩原健太 右:クリス松村

左:萩原健太 右:クリス松村

大滝詠一32年ぶりのニュー・アルバム『DEBUT AGAIN』のリリースを記念して、大滝サウンドに造詣が深いクリス松村さんと萩原健太さんによる対談を企画。その魅力や背景、裏話などをじっくりと語ってもらい、新作はもちろん大滝詠一の実像にあらためて迫る。

構成・文 / 油納将志  写真 / 島田香


大滝さんは小林旭さんをイメージして
日活の無国籍で雄大な感じを『熱き心に』で再現した

クリス この『DEBUT AGAIN』ですけど、やっぱりあったのかって、最初は思いました。『快盗ルビイ』の大滝さんによるヴォーカルが存在していて、後にデュエット・ヴァージョンが作られたこともあったわけですから。私たちが元気なのもあと10、15年。だから、こうした大滝詠一プロダクトは大変大切なことなんですよね。私たちが生きているうちにやってもらわないと困るんですよ! でも、大滝さんって不思議ですよね。『EACH TIME』以降は活動してないって言っていいくらいなのに、これだけのものが残っていたなんて。

萩原 しかも32年ぶりの“ニュー・アルバム”ですからね。でも、あの’78年にリリースされたベスト・アルバム『DEBUT』の続編という位置付けですが。

クリス ’14年に発表されたベスト『Best Always』に大滝さん自身の歌唱による『夢で逢えたら』が初めて収録されましたよね。あの時一番注目していたのはセリフの部分だったんです。でも、『Best Always』ではちょっと聴き取りづらかった。

萩原 少しヴォーカルが奥にいますよね。

クリス それが『DEBUT AGAIN』ではしっかりと聴こえてきて、本当に感動しました。

萩原 ちょっと(高倉)健さんみたいですよね。「抱きしめてください」みたいな。

クリス 大滝さんいけるじゃん、言えるじゃんセリフ、って思いました(笑)。『夢で逢えたら』が最後の締めで収められていて、グッときます。

萩原 大滝さんは映画とかお好きだったじゃないですか。だからお目にかかるといつもそういう話が多いんですけど、役者さんのセリフを真似てシーンの再現をするのとか上手でしたよ。

クリス まさに1曲目の『熱き心に』なんかはそうですよね。でも、もしこれが松本隆さんの歌詞だったらどう聴こえたんだろうって思ったりもする。阿久悠さんに歌詞をお願いしたのは旭さんに合わせたわけじゃないですか。大滝さんは松本さんの歌詞の方が、歌い方が合うと私は考えるから、松本ヴァージョンがあったら面白かったのになって思いましたね。

萩原 そうですね。ここまで雄大な感じにはならなかったかも。もうちょっと内省的なものになったかもしれないですよね。

クリス そうなったでしょうね。阿久悠さんに力強いものを書いてほしいからという想いがあった曲ですから、そんな曲を大滝さんが歌うという意外な感じが良かった。

萩原 この曲は当初マキシムのCM用に作られていたんですが、その時の大滝さんが歌ったデモ・テープがあって、それを聴かせていただいたことがあったんですよ。それを聴いた時はぶっ飛びました。旭さんよりも旭さんっぽかったので。

クリス いつの段階のデモ・テープですか?

萩原 フルになる前で、まだCMサイズのヴァージョンでした。

クリス 『DEBUT AGAIN』に収められているものとはまた違うんですか?

萩原 違うんです。

クリス 私は『DEBUT AGAIN』のものしか聴いてないから、萩原さんがおっしゃってることが想像できない。どうしても松本隆さんをイメージしてしまう歌い方なので。

萩原 『熱き心に』は旭さんが俺は俺の世界と違う人の曲を歌うのは嫌だって最初おっしゃっていたんですよね。大滝さんはものすごく旭さんをイメージして、あの日活の無国籍で雄大な感じっていうのを再現したくてこれを作ったんですけど、旭さんには自分のものとは全然違うものだと聴こえていた、っていうことなんですよ。だから、旭さんは多分異質なものとして、その時歌っていたんだと思うんです。でも、素晴らしい曲になったわけですけど、その元になった大滝さんのデモ・テープを聴かせてもらって、大滝さんに旭さんのこういう世界を表現したくてこういう歌を作ったんですねって、その時にしたのを覚えています。実は『熱き心に』の前にも旭さんに曲提供をしそうになってるんですよね。

クリス 旭さんがクラウンレコード時代の、70年代半ばに作った曲ですよね。大滝ヴァージョンはあるんですか?

萩原 ありますね。

クリス もう、小出しにしないでくださいよ(笑)。『DEBUT AGAIN 2』、『DEBUT AGAIN 3』ってことになるんですか? その曲があるってことは、ほかの曲がまだまだ出せるってことですもんね。

萩原 完成度の問題とかもいろいろあるでしょうけど、期待はしたいですよね。実際、大滝さんが『熱き心に』とか『Tシャツに口紅』とかをご自分で歌ったのをスタジオで聴かせてくださったことがあって。その時、大滝さんが僕の顔を見て「コピーしてほしいって顔してるけど、絶対コピーしないぞ。これを健太にコピーして渡したら、お前は音を持っているということできっと聴かないから」とおっしゃったんです。ここでつぶさに頭に叩き込むくらい聴いて、それを思い出せっていうことですね。音楽を聴くっていうのは、そういうことなんだよと伝えたかったんだと思います。レコードを買って持ってるってことで安心して、全然聴いてない人が多いと。

クリス まさに今はダウンロードや聴き放題サービスの時代ですよね。でも、私たちの時代は廃盤になってしまうとラジオでかかるか、あるいは自分たちで探さなければその歌を聴くことができなかった。でも、今は瞬時にして聴くことができる。すぐ聴けるけど終わりも早いというか。それって今の音楽の流れにつながりますよね。大滝さんはわかってたんだと思います、そういうことを。懸念していたはず。

萩原 だから、ちゃんと聴くっていう気持ちを、ちゃんと音に向かい合えっていうのを教わりましたよね。

クリス 大滝さんに会ってそう言われる頃には、もう萩原さんは音楽を聴く量がとんでもなく多くて、音楽の知識もすごくあったでしょうから、きっと大滝さんは警鐘を鳴らしてたんじゃないですか? 昔はテープが伸びるほど聴いてた、レコードが擦り切れるほど聴いてた。その頃を思い出せ、っていう。

萩原 そうかもしれないですね。今回のこのアルバムが出されてきた時にまず思い出したのは、その時の光景なんですよ。だからこうやって出た限りは、この『DEBUT AGAIN』をまた穴のあくほど聴いてやるみたいなね、そんな気分になりました。

クリス 今回収められていませんし、大滝さんのヴァージョンがあるかどうかはわかりませんが、太田裕美さんの『恋のハーフムーン』とか『ブルー・ベイビー・ブルー』が、どうしてもっと評価されないのかが不満なんですよ。『さらばシベリア鉄道』ばかりに評価が集まっている。その2曲に加えて、『夢で逢えたら』や『すこしだけやさしく』とかのガールズ・ポップ路線で1枚編集して出してほしいとか、『DEBUT AGAIN』を聴いてから夢が広がってしかたがないんですよね。

萩原 確かに。『熱き心に』を聴いて思ったんですけど、オケは基本的に旭さんと一緒なんですけど、今回のミックスではシンセなどを抜いてるんですよ。大滝さん自身の曲と、大滝さんが曲を書いたけれど旭さんが歌う曲ではやはり音像が違うんですよね。そのあたりのギャップを埋めるように、ちゃんとナチュラルな広がりのあるミックスになっている。そういう音質面での気配りもうれしいところです。

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