山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 38

Column

ボブ・ディランに焦らされて

ボブ・ディランに焦らされて

7月29日、77歳にして“FUJI ROCK FESTIVAL 2018”のステージに立つボブ・ディラン。
数多の伝説とフォロワーを生み出しながら、転がり続けることをやめないロック界の至宝にして異端児を、山口洋が最大のリスペクトを込めて書き下ろす。


編集部よりオファー。フジロック出演のタイミングで、ボブ・ディラン。言わずもがな僕はディランに多大な影響を受けてきた。せっかくだから今回はあまり語られることのなかった視点から描いてみようか、と。

公式にリリースされたアルバムはたぶん全部持っている。アナログもたくさん持っている。リリースされると自動的に買ってしまう。もはやお布施みたいなもんである。それゆえディラン先生との一方的な付きあいはとっても長いのだけれど、振り返ってみると、一度も彼を理解できたことがない。たぶん、彼は理解を拒んでいるし、そのミステリアスな部分に惹かれてもいるけれど、恋愛と一緒で、このファン心理はこじれるとややこしい。

ネヴァー・エンディング・ツアーを続けていること。それはすごいことだ。人前で演奏するのは音楽家の原点。僕も何度も足を運んだ。これもまたお布施。でも、熱心なファンである僕ですら、演奏されている曲がなんなのかわからない。原型をとどめないくらいに曲が変化している。それを進化と呼ぶのか、破壊と呼ぶのか、変化と呼ぶのか……実にびみょーだ。

この際はっきり言うけれど、かなり破壊。ときどき進化と変化。この原稿を書く前にTHE GROOVERSの藤井一彦(お布施ブラザース)と会っていたが、彼も大筋に於いて合意してくれた。ありがとう一彦。ならば書くぞ。

3番まで聞いて、ようやく「そうか、この曲だったんだ」みたいな。いったい何の苦行だ。笑。しかも、サビの歌詞がタイトルになっている曲じゃなきゃ判別できないってどういうこと?

その昔、どうしても「Like A Rolling Stone」を生で聞きたくてツアー最終公演まで追いかけた。ダフ屋からチケットを買って立ち見の最後列で見たなら、隣に同じ想いでやってきた故どんと氏。果たして、最後の最後にその曲をやったのだ。しかし、「How Does It Feel?」と僕らの人生を変えたはずのあの一撃はデキの悪い祝詞にしか聞こえず、どんと氏と僕はその場で崩れ落ちた。嗚呼、あんまりだよディラン先生。ちゃんと歌っておくれよぅ。それなのに嫌いになれないお布施ブラザース。ムカつくくらいその楽曲たちによって、こころを鷲掴みにされているのだ。アーメン。

もうディランはあの美しいメロディーを「ちゃんと」歌ってくれないのだろうか? でも、答えは否なのである。オバマ大統領(当時)に呼ばれたディランはホワイトハウスで「The Times They Are A-Changin’」をメロディー通りにちゃんと歌ったのだ。証拠はYouTubeにあるから各自確認されたし。そのときの僕の心境。「う、歌えるんじゃん !」。こころの中に正体不明のジェラシーが芽生えてくる。かくもディラン先生に焦らされて、焦らされて。このディラン先生のイケズ!

想像に過ぎないのだけれど。周到な考えのもとに、他人に理解されないように、自らをプロデュースしているのだと思う。そのような能力に異常に長けた人だと思う。かような行為を繰り返しているうちに、人類未踏の領域に足を踏みいれてしまったのではないかと思う。近年、割と至近距離で見かけたディラン先生の目はもはや人類のものではなく、猛禽類のようでいて、異様に澄んでいて、ひとことでいうなら怖かった。ともだちになんかぜったいなりたくない類の瞳だった。

ディラン先生がノーベル賞をもらったって、僕はちっとも嬉しくない。やっぱり「賞なんかクズだ」って思ってるんだろうなぁと思わせておきながら、ちゃっかりもらったりして。ともだちの女性がディラン先生に惚れたなら「あの男だけはやめとけ」っていうだろうな。

なんだかなぁ、ボブ・ディラン。本物なのか、偽物なのか。それすら未だにわからないまま、僕はお布施を続ける。結局、彼の音楽が好きなのだ。ボブ・ディランに焦らされて。

ギターを弾かなくなって、鍵盤も弾かなくなって。遂にスタンディングと云う丸腰で歌うようになった「今」のディランをぜひ フジロックで目撃されたし。

感謝を込めて、今を生きる。


©William Claxton

ボブ・ディラン:1941年5月24日、ミネソタ州デュルース生まれ。本名、ロバート・アレン・ジンママン。1962年、アルバム『ボブ・ディラン』でデビュー。翌年、歴史的プロテスト・ソング「風に吹かれて」を含む『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』を発表。その後『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』『追憶のハイウェイ61』『ブロンド・オン・ブロンド』といった60年代を代表する歴史的名盤を発表。全世界アルバム・トータル・セールスは一億枚超え。35作のオリジナル作品にライヴやコンピレーションを加えると60タイトルをリリース。世界中で行ったライヴは2千回以上。1982年には「ソングライターの殿堂」入り、1988年には「ロックの殿堂」入りを果たした。「ライク・ア・ローリング・ストーン」は米ROLLING STONE誌にてロック史上最高のシングルに選定されている。1998年『タイム・アウト・オブ・マインド』でグラミー賞最優秀アルバム賞受賞。2001年、映画『ワンダー・ボーイズ』のための書き下ろし曲「シングス・ハヴ・チェンジド」ではゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞の両主題歌賞を受賞。2008年4月、音楽界では初めてとなるピューリッツァー賞(特別賞)を受賞。2012年にはオバマ米大統領から文民最高位の「大統領自由勲章」授与。授賞式で大統領は自ら大ファンであることを明かした。2016年10月ノーベル文学賞受賞。 現在でも世界各地で年間100カ所以上のライヴ・ツアーを行い、ファンの間で“NEVER ENDING TOUR”と呼ばれている。7月29日、“FUJI ROCK FESTIVAL 2018”最終日のヘッドライナーとして、初めて日本ロック・フェスのステージに立つ。
ボブ・ディラン来日記念特設サイト

『ライヴ:1962-1966~追憶のレア・パフォーマンス』
“Live 1962-1966 Rare Performances From The Copyright Collections”

2018年7月18日発売
2CD:SICP31180-31181
特別価格:¥3,024(税込)

1962年「風に吹かれて」を書き上げた数時間後に行った初ライヴ音源をはじめ、時代が変わる歴史的瞬間を捉えた貴重なライヴの数々を収録した来日記念盤。1965年7月25日 “ニューポート・フォーク・フェスティヴァル”でエレクトリックで演奏することへの非難渦巻く中演奏された「悲しみは果てしなく」、1966年5月17日英国マンチェスター公演でエレキ・ギターをもって歌おうとするディランを観客が「ユダ!(裏切者)」となじった直後、バックバンドを振り返り「Play it fuckin’ Loud!」と指示し、挑むように演奏を始める「ライク・ア・ローリング・ストーン」など、フォークからロックへ転換する、まさに時代の変革の瞬間を切り取ったパフォーマンスを収録。さらに、1963年8月、人種差別に反対する公民権運動が高まりを見せた頃、約25万人がリンカーン記念堂前のワシントン記念塔広場に集結、マーティン・ルーサー・キングによる「私には夢がある」という演説でも知られる“ワシントン大行進”時にジョーン・バエズと共に歌った「船が入ってくるとき」など、ライヴならではの時代の空気が閉じ込められている。

『追憶のハイウェイ61』
“Highway 61 Revisited”

2018年7月18日発売
LP1枚組(アナログ・レコード):SIJP1003
¥4,104(税込)

1965年8月に発表された通算6枚目のスタジオ・アルバム。史上最高のロック・ソングにも認定された名曲「ライク・ア・ローリング・ストーン」などを収録。時代の変革をヴィヴィッドな感性で捉え、アーティストとしてのアイデンティティを確立したといわれ、激動の60年代を象徴するようなロックの金字塔的作品。全米3位、全英4位を記録、プラチナ・ディスクも獲得。米ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベスト・アルバム500において4位にも選出されている。自社一貫生産アナログ・レコードの洋楽第2弾の来日記念版盤。

『トラブル・ノー・モア ブートレッグ・シリーズ第13集 /1979-1981』
“Trouble No More – The Bootleg Series Vol.13 / 1979-1981”

デラックス・エディション(9枚組:8CD+DVD):SICP31090-98 ¥32,400(税込)
スタンダード・エディション(2枚組:2CD):SICP31099-100 ¥3,888(税込)

貴重な未発表素材を綿密に調査・発掘し、丁寧に編集するボブ・ディランのブートレッグ・シリーズ。今回日本発売となる第13集は、彼のキャリアの中で最もファンを驚かせ、物議を醸し、触発された時期に彼が作曲し、ライヴで演奏した音楽を紹介。1970年代が終わりを迎え、1980年代が始まると、ディランは新しい時代の幕開けに対し、『スロー・トレイン・カミング』(1979)、『セイヴド』(1980)、『ショット・オブ・ラヴ』(1981)の称賛、崇拝、信仰心についての魂を込めた気迫溢れる楽曲を収めた3部作で応じる。デラックス・エディション9枚組(8CD/1DVD)ボックス・セットとスタンダード・エディション(2CD)の2タイトル。完全生産限定のデラックス・エディションには14曲の未発表曲を含む100曲の未発表ライヴ及びスタジオ音源を収録し、1980年のツアーからの貴重な映像を織り込んだ長編コンサート映画『Trouble No More: A Musical Film』(日本語字幕付)が特典DVDとして付く。

『ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ボブ・ディラン』
“The Very Best Of Bob Dylan”

高品質Blu-spec 2CD:SICP31035~6
特別価格:¥2,700(税込)

「ライク・ア・ローリング・ストーン」、歴史的プロテスト・ソング「風に吹かれて」、クラプトンやガンズほか様々なアーティストもカバーした「天国への扉」などの代表曲から2012年『テンペスト』収録曲まで、約50年間の代表曲・重要曲35曲をCD2枚に詰め込んだベスト・オブ・ベスト。発売中のベスト盤の中でも、最新オリジナル作までの曲を網羅し、2013年の最新リマスター音源を使用。国内盤ブックレットには、わかりやすいバイオと曲目解説に加え、それぞれの歌詩から訳者である中川五郎が格言のようなフレーズをセレクト。「この一行とこの一言」として歌詞対訳の頭に入れ、ディラン入門編として親しみやすい内容になっている。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2018年4月から池畑潤二(Drums)、細海魚(Keyboard)と新生HEATWAVEとしての活動を開始した。現在、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“ YOUR SONGS 2018”で全国をツアー中。8月11日には仲井戸“CHABO”麗市らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として“RISING SUN ROCK FESTIVAL2018 in EZO”のステージに立つ。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

山口洋 SOLO TOUR “YOUR SONGS 2018”
7月27日(金)熊本 ぺいあのPLUS
7月29日(日)福岡 ROOMS
9月2日(日)長野ネオンホール
9月4日(火)金沢メロメロポッチ
9月6日(木)奈良Beverly Hills
9月8日(土)岩国himaar
10月1日(月)いわき club SONIC iwaki
10月3日(水)新潟 Live Bar Mush
10月5日(金)仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
10月7日(日)弘前 Robbin’s Nest
10月8日(月・祝)奥州市 おうちカフェMIUMIU
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RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO
※MY LIFE IS MY MESSAGE―山口洋、仲井戸麗市、細海魚、大宮エリー―として出演
8月11日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
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HEATWAVE SESSIONS 2018_Ⅱ
9月29日(土)横浜 THUMBS UP
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