山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 39

Column

ロックンロールと教育

ロックンロールと教育

どんな教育を受ければ、偉大な大人になれるのか?
そもそも、大人って、偉大って、なんだ?
39回目を迎える好評連載、山口洋がアウトサイダーな視点と斬新な切り口で 教育の本質、本物のロックンロールの姿を問う。


「教育」なんて大それたことを書くつもりはないのだけれど。

ロックンロールの道を40年余り歩いてきて、アウトローなりに思うことがある。今回はそれを書いてみようか、と。

僕は一切の音楽教育を受けなかった。それゆえ回り道もしたけれど、今となって思うに、それが良かった。ジョー・ストラマーをはじめとするパンクな先達は「見る前に跳ぶ」ことを教えてくれたし。

YouTubeも教則DVDもメソッドも。福岡の小さな町には何もなかった。やりたければ、自分で身につけるしかない。どうやったら「あの音」が出せるのか。レコードを擦り切れるまで聞いて、試行錯誤を繰り返して、自分のものにしていく。その過程が自分を育て、鍛えてくれたのだろう。

まだ幼児だった頃に、僕に影響を受けて、ギターを始めた息子のような存在がいる。彼は最初から音楽教育を受けた。中学に上がる頃には、技術的に言って、僕が足元にも及ばないほど上達していた。

僕は「そんなに弾けるなら、自分で曲を書きなよ」と言った。でも、彼はすでに譜面に書かれたものしか演奏できなくなっていた。なんてこった! 時すでに遅し。高度な教育が彼の創造性を限定したのだとしたら、とても残念だ。

ロックの黎明期。たくさんの個性豊かなドラマーが生まれた。ロックンロールは4ビートから進化している途中で、8ビートに定型は存在しなかった。それゆえの豊潤さ。

ハイハットを例えにしてみる。偉大なチャーリー・ワッツは2拍と4拍、スネアが入る場所はハイハットを抜く。それが特徴的な8ビートを生み出す。ついでに書くならそこにビル・ワイマンの独特なウォーキング・ベースが絡んで、ザ・ローリング・ストーンズの礎が生まれる。

リンゴ・スターはハイハットを8の字の動きで叩く。そこにポール・マッカートニーの唯一無二のベースラインが絡んでザ・ビートルズのグルーヴになる。キース・ムーンにいたってはハイハットそのものがない。ジョン・エントウィッスルとのリズム隊は言語化不能。あの二人のグルーヴを分析できる人間はいないだろう。

それぞれが「こうあるべきだ」という道を貫く。自分を強く信じる。メソッドがないことが音楽と個性を進化させるのだと僕は思う。

ジョン・ボーナムもまた唯一無二のドラマー。彼が亡くなって、再結成されたレッド・ツェッペリンは息子であるジェイソン・ボーナムが叩いた。感じた誇りとプレッシャーは並大抵ではなかっただろう。彼はその大役を見事に果たした。素晴らしい演奏だった。技術的にも。けれど、残念ながら僕の中では、彼の演奏が父を超えることはなかった。素晴らしいけれど、何かが決定的に足りない。その理由はメソッドと教育ではないかと僕は疑ってみる。

閑話休題。

教育といえば。僕はミュージシャンにありがちな、アート系の大学に入学した。そこしか行くところがなかっただけ。芸術学部美術学科油絵科。

教授たちのほとんどは「教育」という名の現場に安住しつつ、ときどき「個展」を開いていた。若かった僕はかなり失望した。ここには芸術なんかないと思った。

今ならこう思う。たいせつなことは教えることができる類のことではない。それは自分で掴みとるしかないし、やりたいようにやってみることでしかない。誰かと決定的に違うことがアーティストたる理由なのだから。怖れている場合ではないのだ。

僕にはほぼアル中の父親がいた。職業は数学者。でも、勉強しろと云われたことは一度もない。「お前の好きに生きろ。ただし、責任は自分で取れ」。この言葉が僕にとっては一番の教育で、今も有効な言葉。僕にもし子供がいたなら、同じことを云うだろう。そして、残りのすべてはロックンロールが教えてくれた。


ザ・ビートルズ
『レット・イット・ビー(Let It Be)』

Universal Music
1970年発表作品

ロックの歴史に金字塔を打ち立て、数々の革新的な名アルバムを残したザ・ビートルズ(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター)。最後のオリジナル・アルバム『レット・イット・ビー』は、 1969年1月発表の『ゲット・バック・セッション』の風景を追った同名ドキュメンタリー映画のサントラ盤として、1970年5月にリリースされた。セッション自体が昔の自分たちに戻ろうというコンセプトで行われたため、曲の大半は1stアルバム以来のスタジオライヴ形式で録音された。余計なアレンジや音響技術を排除した音づくりはシンプルで、ライヴ・レコードのような迫力が伝わる。アメリカでは予約だけで370万枚と、予約枚数記録を更新。イギリスのアルバム・チャートでは1位、ゴールド・ディスクを獲得した。


ザ・ローリング・ストーンズ
『ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)』

Universal Music
1964年発表作品

1962年4月、英国ロンドンでブライアン・ジョーンズ、イアン・スチュワート、ミック・ジャガー、キース・リチャーズによって結成されたザ・ローリング・ストーンズ。その後間もなくビル・ワイマンとチャーリー・ワッツが参加した。1964年4月リリースのデビュー・アルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』は全12曲収録のうちオリジナル曲は3曲のみで、ほかはデビュー前からレパートリーにしていたチャック・ベリー、ボ・ディドリー、ジミー・リード、マーヴィン・ゲイ、ルーファス・トーマス、スリム・ハーポ、そしてマディ・ウォータースのカバーを収録。自分たちのルーツはこれだ! といわんばかりにブルース、R&Bをはじめとする黒人音楽に最大のリスペクトを込めて演奏されている。アメリカでは『イングランズ・ニューエスト・ヒットメーカーズ(England’s Newest Hit Makers)』のタイトルでリリースされた。全英1位、全米11位を記録。


ザ・フー
『ライヴ・アット・リーズ(LIVE AT LEEDS)』

Universal Music
1970年発表作品

ビートルズ、ストーンズと並んで英国が生んだ3大ロック・バンドの一つと称されるザ・フー(ロジャー・ダルトリー、ピート・タウンゼント、ジョン・エントウィッスル、キース・ムーン、ケニー・ジョーンズ)の初のライブ・アルバム。1970年2月14日のリーズ大学におけるコンサートの模様を収録したもの。オリジナル版の収録曲は6曲だが、1995年に発表された“25周年エディション”では15曲に収録曲が増えた。2001年にはコンサートのほぼ全般を収録した“デラックス・エディション”が、さらに2010年には、リリース40周年を記念し、リーズ公演の翌日のハル・シティ・ホール(通称ハル)でのコンサートの模様を追加収録した“コレクターズ・エディション”が発表されている。全英3位、全米4位。


レッド・ツェッペリン
『フィジカル・グラフィティ(Physical Graffiti)』

Warner Music
1975年発表作品

レッド・ツェッペリン(ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、 ジョン・ボーナム、 ジョン・ポール・ジョーンズ)は、1968年にデビューした英国の革新的なハードロック・バンド。ドラムのジョン・ボーナムは、独自のグルーヴ感、リズム感、パワーを持つと言われ、強いプレイと多彩なフィルインによって、ロックに於けるひとつのドラムの在り方を構築し、現在でも幅広いジャンルのドラマーに多大な影響を与えている(1980年逝去)。1975年2月24日発売の『フィジカル・グラフィティ』は通算6作目、オリジナル・レーベル「スワン・ソング・レーベル」からの第1弾リリースで、初の2枚組。予約だけで100万枚突破した。ビルボード・アルバム・チャート最高位1位。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニーや7月に来日したホットハウス・フラワーズ、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2018年4月から池畑潤二(Drums)、細海魚(Keyboard)と新生HEATWAVEとしての活動を開始した。現在、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“YOUR SONGS 2018”で全国をツアー中。8月11日には仲井戸“CHABO”麗市らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として“RISING SUN ROCK FESTIVAL2018 in EZO”のステージに立つ。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

■山口洋 solo tour“YOUR SONGS 2018”
9月2日(日)長野ネオンホール
9月4日(火)金沢メロメロポッチ
9月6日(木)奈良Beverly Hills
9月8日(土)岩国himaar
10月1日(月)いわき club SONIC iwaki
10月3日(水)新潟 Live Bar Mush
10月5日(金)仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
10月7日(日)弘前 Robbin’s Nest
10月8日(月・祝)奥州市 おうちカフェMIUMIU
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■MY LIFE IS MY MESSAGE(山口洋、仲井戸麗市、細海魚、大宮エリー)
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO

8月11日(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
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■HEATWAVE SESSIONS 2018_Ⅱ
9月29日(土)横浜 THUMBS UP
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