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米原幸佑&加藤良輔らが『GRIEF 7』で甘く危険な“人間”の深層心理を暴き出す

米原幸佑&加藤良輔らが『GRIEF 7』で甘く危険な“人間”の深層心理を暴き出す

7月26日から、俳優座劇場にて、ミュージカル『GRIEF 7』が上演中だ。原作は、『竹久夢二のすべて』や『猫と裁判』で知られる野村桔梗、演出は『寝盗られ宗介』、ミュージカル『グレイト・ギャツビー』などの錦織一清、脚本は『Club SLAZY』シリーズやミュージカル『Dancewith Devils』など人気作品を手掛けた三浦 香で、“この世”と“人”の闇に、歌や踊りなど極上のエンターテイメントが融合する華麗なステージを魅せる。それらが渾然一体となって浮かび上がる登場人物たちが背負う、深い悲しみや罪とは……。初日の前にゲネプロと囲み挨拶が行われ、その模様をレポートする。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 鏡田伸幸

トラウマを抱えて生きる登場人物たち

生きていると、何もかもが手のひらから水がこぼれてしまうような感覚に陥ることがある。日々生活していると大切ではないかもしれないけれど、生きていく上で一番大切なもの。それは、“優しさ”や“愛情”、“幸せ”といったポジティブなものかもしれない。“憎悪”や“嫌悪”、“悪意”といったネガティブなものかもしれない。しかしそういった感覚さえスポっと体から抜け落ちてしまう時がある。親の暴力、いじめ、他人からの中傷、会社の残業、上司のウザい命令……理由は様々あるけれど、何もかもがもうどうでもよくなってしまう時は誰にでもあるのではないだろうか。

その感覚が続いていくと、我々は次第に何も感じなくなっていく。何も感じない。何も感じようとしない。いわゆる心の扉のシャットダウンだ。しかし、心に垂れ下がっている振り子は止まっているわけではない。止まっている、すなわちそれは、死んでしまったことになるのだから。

今度は、我々はその振り子を動かすために、絶えず何かに急き立てられ、心の扉をこじ開け、暴力的とも取れる行動で無感覚を埋め合わせようとする。そういった「アパシー」を覚えた人たちは、ある種のオブセッションを感じようとする。生きなければならない、奪わなければならない、壊さなければならない、殺害しなければならない。その理由は犯罪衝動と言えるかもしれない。自己防衛かもしれない。トラウマと言えるかもしれない。『GRIEF 7』の登場人物はみな、心の何かが欠け、そんなトラウマを抱えて生きている。いや、生きるために必死にトラウマを抱えようとしているように見える。

舞台は“Central Jail”(中央拘置所)の入口がひっそりと立っているシーンからスタートする。日系アメリカ人で“Central Jail”の“C-Room.”のアジア人たちを担当する新米の看守ムラセ(三浦海里)がひっそりと語り始める。「ここは自由の国アメリカ。煌びやかなネオンが輝く夢の街」といった前フリを始める。『GRIEF 7』の世界がはじまっていく……。

しかし、日系の彼にスポットライトは輝き続けない。彼は純粋なアメリカ人ではないからだ。そこに根深い差別を感じる。彼は日系でいることに罪を感じている。そして寿司屋「EDO」を経営しているフクダ(米原幸佑)という日本人が登場する。彼らは「EDO」のまずい寿司についてジョークを飛ばし合い、テレビのスイッチをつければ、日本人大リーガーの特大ホームランが映ってその活躍を目にする。チャンネルを変えれば、アメリカで絶大な人気を誇るオーディション番組「アメリカン・スーパースター」。その最終審査に臨もうと、日本人のスターがそこにいるのだが……。その審査で歌われるナンバーは、ポップでいて華やか、声も澄み渡っていて盛り上がっているはずなのに、どこか空気が冷めていく、薄くなっていく、すべてがゼロになっていく予感、あるいは事件が起きそうな予感……暗転。

場所は変わり、突如としてそこは、“Central Jail”の分棟が舞台になる。そこに1人の若者が押し込まれる。彼の名はリュウ(カラム)。彼には何が起こったのかわからない様子だ。何をしたのか、何をしたかったのか、なぜ犯罪を犯したのか。記憶がなくなっているのか。あるいはわざとそうしているのか、誰にもわからない。

そこから、牢獄にいる、あるいは牢獄の外にいた彼の過去と現在が交錯しながら物語が進んでいく。演出の錦織一清の手腕がここで存分に発揮される。交錯した現在と過去をポーカーのディーラーのようにスピーディーに配っていく。そうして、まるで皮剥き機のように、キャラクターのバックボーンだけでなく、彼の深層心理までもむき出しにしていく。

どうやら、リュウは日本で絶大の人気を誇った5人組アイドルグループ“X-BOYS”のメンバーで、グループを脱退し、アメリカで本物の歌手になるためにオーディション番組「アメリカン・スーパースター」に挑戦していた。しかし、オーディションの最中、番組プロデューサー、アーロン殺害の容疑で刑務所に入れられてしまう。無実を必死で訴えるリュウの前に現れたのは刑務所で同じ部屋になったアジア人たち。

元外科医で心理カウンセラー、ストーカーの罪で逮捕されたカワイ(加藤良輔)。日系韓国人で民家への不法侵入と不法滞在の罪で投獄されたグニョン(碕 理人)。彼はとある事情で過食症と拒食症を併発している。さらに、IQ250の天才でコンピューター・ウイルスをばら撒いた罪で逮捕されたサム(SHUN“Beat Buddy Boi”)の3人。

そんなリュウを気にかけて面会に訪れたのは、なんとアイドル時代からリュウが兄として慕っていたフクダ。実は、彼はとある罪で“X-BOYS”から脱退し、アメリカで一旗揚げようとしていたのだった。さらに、リュウにかすかな憧れと嫉妬を抱いている看守のムラセがいる。

牢獄の中に閉じ込められながら、自由を模索する男たち。牢獄の外にいながら不自由を感じる男たち。物語が進むにつれて、どちらが正解なのか、どちらが間違っているのかわからない状況が“積み木”のように積み上げられる。牢獄の男たちの台詞と塀外の男たちの台詞を取り替えても、どちらも同じ世界に感じてしまう摩訶不思議な現象が起こる劇空間。塀の中の方が暮らしやすいのか、塀の外が暮らしやすいのか。結局のところ彼らは途方にくれるだけだ。まるで映画『ショーシャンクの空に』(1995年)の刑務所の暮らしが長すぎて、出所したはずなのに、普通の生活ができなくなってしまった哀れなエリス・ボイド・“レッド”・レディング(モーガン・フリーマン)のように。

そしてカワイ(加藤良輔)の心理カウンセリングによって明らかになる、彼らのトラウマ。幼児虐待、ネグレクト、性的暴行、人種差別、そういった“闇”が登場人物たちに心に根ざしている。アパシーから暴力衝動へ。それらがつまびらかにされるにつれて、彼らはどんな解決を見つけるのだろうか?

ストーリーはクールで知的、三浦 香の世界が存分に広がっている。そこでは何が悪で、何が善なのか、「いつ、どこで、何を、どのように」といった5W1Hの感覚は外に放り出され、宇宙で迷子になった宇宙飛行士のように観客は自分の判断でストーリーを理解しなければならなくなる。しかし、演出の錦織が、手品師のように場面をクルクル変え、歌やダンスを交えることで、状況だけはわかる仕掛けになっている。観客はさながら3Dアトラクションに乗っているようなスリルを味わうはずだ。しかしながら難解な作品ではない。むしろ、そこに流れる、音楽の金子隆弘・ながしまみのりによる、パーティー・チューンから、バラード、ラップ、ロックと現代音楽を縦断したノリノリの楽曲が舞台の面白さやわかりやすさに拍車をかける。この舞台での音楽は、何よりキャラクターの心理を適切に説明してくれる。

韓国アイドルグループ“大国男児”として活動したカラムのバラードは圧巻だったし、ユニゾンも素晴らしかった。日本語もよどみなくこなしていた。演出と脚本の妙技は、彼を日本人以上に日本人らしくみせていた。

舞台『マリアビートル』、ミュージカル『魔界王子 devils and realist』the Second spiritにも出演している碕 理人のバリトンは豊かだったし、拒食症と過食症というアンビバレンツな性質を持った人間は、まさにこの舞台ならではの、誰が正しくて正しくないかという疑問を提示する舞台のテーマに沿ったキャラクター設定だと感じた。

ラッパーそしてダンスボーカルグループBeat Buddy Boi として活動し、舞台『TOKYO TRIBE』に出演する、今もっとも活躍しているSHUNのラップは聴き応えがあったし、脚韻の踏み方、押韻の活かし方が絶妙で、イケイケのライムで観客を踊らせていた。

ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』や、『私のホストちゃん REBORN~絶唱!大阪ミナミ編』で活躍するフレッシュな三浦海里の、日系がゆえにどこか冷めている性格の演技は舌を巻く。稽古は昨今に珍しく1ヶ月はあったとのことで、そこで鍛え上げられたクールネスが発散されている。

『Club SLAZY』シリーズ、Live Musical『SHOW BY ROCK!!』シリーズに出演している米原幸佑のおちゃらけて、時にクールで、ダークな性格をもちあわせている役は、客席に笑いと鳥肌を起こさせる。

最後に、『Club SLAZY』シリーズ、音楽劇『夜のピクニック』に出演する加藤良輔の、理性的でありながら、人の心の薄皮を一皮一皮剥いでいく残酷な性格は、この舞台の“闇”を一心不乱に体現していた。

三浦の知的なクールネスと錦織の熱い演出が絡み合って、決定的な動機が欠けているシュールな密室劇でありつつ、それでいて誰にでも心から共感できる人間の深層心理を白日のもとに晒し、どこか見てはいけないものを見てしまったような罪悪感を覚える危険な香りが漂うスリリングな観劇体験を約束してくれる。

そして何より、この舞台の「ありのままを見つめる、ありのままを感じる」ことの大切さを訴えるメッセージは、観客にしっかり伝わったはずだ。とかく言葉や態度に虚飾を連ねることで、どうしようもなく身動きが取れなくなってしまう日本人への寓意に捉えられないだろうか。もちろん、答えはない。ただひとつ言えることは、観客は感じるままに、歌やダンスやギャグを楽しむだけで、心に引っかかる何かを得ることができる、そしてその答えを知りたいと何度も舞台に通いたくなる魅惑的な舞台だった。

公演は26日(木)〜31日(火)まで、俳優座劇場にて。また、今作のDVDが2019年1月30日(水)に発売予定だ。さらに、劇中歌を収めたサウンドトラックも同時発売。劇場もしくはCLIE-TOWNにて、DVDとCDをセットで発売日までに予約をすると、“舞台写真セット”(非売品)がプレゼントされる。DVDやCDを手に入れれば、観劇では味わえなかったもっとディープな『GRIEF 7』の世界を知ることができるかもしれない。

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