32年ぶりのニューアルバム『DEBUT AGAIN』発売記念対談  vol. 2

Interview

クリス松村x萩原健太 「大滝詠一」放談 vol.2

クリス松村x萩原健太 「大滝詠一」放談 vol.2
左:萩原健太 右:クリス松村

左:萩原健太 右:クリス松村

大滝詠一32年ぶりのニュー・アルバム『DEBUT AGAIN』のリリースを記念して、大滝サウンドに造詣が深いクリス松村さんと萩原健太さんによる対談を企画。その魅力や背景、裏話などをじっくりと語ってもらい、新作はもちろん大滝詠一の実像にあらためて迫る、Vol.2!

構成・文 / 油納将志  写真 / 島田香


「オリーブの午后」のデモ音源があったら
大滝さんとの擬似デュエットを聖子さんに進言します!

クリス 『夢で逢えたら』ばっかりしゃべっちゃいましたが(笑)、渡辺満里奈さんに提供した2曲目の『うれしい予感』もすばらしい。『熱き心に』から続く流れがいい感じですよね。『うれしい予感』は、もともと満里奈さんにもうひとり連れてきて、ふたりで歌わせようと大滝さんが思っていたとか。

萩原 野球のマリナーズにひっかけて、満里奈さんの声をダブルトラックでやって、ふたりヴォーカルにしようかなみたいな話は聞いたことがありますね。

クリス そう、満里奈さんとのヴォーカルが見つからなかったから満里奈さんだけになった。でも、組ませるとしたら誰にしようとしたんだろうというのが、すごく興味がある。デュエットと言えば『オリーブの午后』も(松田)聖子さんとのデュエットが頭の中にあったけれど、結局NIAGARA TRIANGLEの中でひとりだけそういうことをすると佐野(元春)さんと杉(真理)さんに悪いからというのでやめたそうですが、本気で聖子さんとのデュエットを考えていたと思いますか?

萩原 どうでしょうね~。僕もそれはちゃんと追求したことはないです。

クリス だから私は、元々デュエットで考えていたんだから『オリーブの午后』を、それこそデモ音源があったらデュエットを聖子さんに進言します!
ところで、『うれしい予感』が出た’95年頃は、大滝さんは何をやってらっしゃったんですか? 交流は続いていたんですよね?

萩原 続いてました。主に野球に夢中になられていました。大滝さんはアメリカンフットボールも大好きで、スーパーボウルとかあると盛り上がっていましたよ。90年代半ばだとインターネットがまだ普及していなかったんですが、ある時、大滝さんからチャットルームを作れという指令があって(笑)。

クリス ニフティからちょうど移り変わる、あの時期ですよね。

萩原 そうです。ちょうど個人的な、自分たちしか入れないチャットルームを明日のスーパーボウルが始まる前の朝までに作って、スーパーボウルを見ながらみんなでああだこうだやったりね。

クリス その時に音楽の話をしたり。

萩原 いや、音楽の話は本当に少なかった。なので、ダブル・オーレコードの頃はご自身の音楽には集中していない時期ですね。それから’97年の『幸せな結末』へと続き、音楽モードに突入する。

クリス でも、『うれしい予感』が聴けて本当にうれしいですよ。『EACH TIME』以降の空白の時期の声ですから。そういう意味ではこれが新曲のようにも思えるし、『うれしい予感』自体がそんなに知られていないと思うから、これから広まっていくことがさらにうれしいんですよ。続く3曲目の『快盗ルビイ』も『夢で逢えたら』の路線で素晴らしい。

萩原 『快盗ルビイ』は少しこう、キョンキョンに芝居っ気っていうんですかね、歌詞に出てくる遊びみたいなものを、こういうふうに表現するといいんだよっていうのを教えているような感じもありますよね。

クリス 歌詞を書かれた和田誠監督の世界。

萩原 例えば、「キス・オブ・ファイア」とか言われてもキョンキョンにはすぐに伝わらないかもしれないけど、ここはちょっとシャレの部分なんだよっていうことをちゃんと指示している感じがしますよね。

クリス 大滝さんのガールズ・ポップの流れで言うと、『快盗ルビイ』はいわゆる活動していた時期の最後の曲になる。こうしてお話していたりすると思い出して気付くんですが、その後も何十周年盤が出続けているので忘れてしまうことが多い。常に新鮮なままだから。そう感じさせるアレンジが、やっぱりすごいなってあらためて感じるんですよね。

萩原 井上鑑さん。80年代のナイアガラサウンドは、井上さんが欠かせないですね。『熱き心に』だけは前田憲男さんなんで、ちょっと違う世界観なんですけど。

クリス それ言ったら、『快盗ルビイ』は服部克久さん。映画の主題歌だから、ところどころわびさびをちゃんと加えて。

萩原 そういうふうに、人に提供する時は違う世界観をちゃんと用意しつつ、でも自分の世界観はちゃんとひとつの音を作り上げているんですよね。今になって振り返ってみると、ずいぶんといろいろ考えてやられていたんだなって思うことが多い。

クリス 本当にそう思いますよ。『快盗ルビイ』があって、(竹内)まりやさんの「けんかをやめて」と「駅」で服部さんが参加されて、達郎さんの「SEASON’S
GREETINGS」へとつながっていく。

萩原 大滝さんもご自分でよくおっしゃってたんだけど、キョンキョンがあって、薬師丸ひろ子さんがあって、聖子ちゃんがいるっていうのは、まさに「あまちゃん」の世界だなって。

クリス まさに!

萩原 その年に大滝さんは亡くなられたんだけど、「あまちゃん」にはキョンキョンが出てて薬師丸さんが出てて、あまちゃんの部屋に聖子さんのポスターが飾ってあるでしょ。

クリス 『風立ちぬ』の! 宣伝用じゃないポスターが貼ってある。

萩原 この3人が、大滝さんが亡くなる年に、あの文化にもう一回光を当てたところがあるんですけど、「あまちゃん」の中にはナイアガラの影はない。ないんですけど、すごく重要なものとして、底辺に流れていたと思うし。クリスさんは女の子の歌詞を歌う大滝さんってどうですか?

クリス 好きなのは『Blue Valentine’s Day』や『雨のウェンズデイ』。まさに『雨のウェンズデイ』とつながってくる『探偵物語』も素直に受け入れられました。松本(隆)さんにしか書けない女の子の内面もそうですが。

萩原 語尾とかが少し照れ気味に女言葉をふっと出した時の大滝さんが、いいんですよね。

クリス ん~ってのばすところとかも。『夢で逢えたら』のセリフがハッキリ聴こえてくるところもそうですね。

萩原 大滝さんの歌が、ちょっと濡れた感じっていうかね。カラオケにね、一緒に行ったりしたことがあったんです。

クリス どんな歌を歌われるんですか? あ、わかった。小林旭さん?

萩原 だいたいフランク永井さんでしたね。もういろいろ何から何まで。低音でね。例えば『幸せな結末』の「いつまでも愛してる」の「愛してる」はフランク永井唱法なんですね、言ってみれば。今回の『DEBUT AGAIN』を聴いていて、女性の曲を低く歌った時にそういうふうな歌い回しになってるのがけっこうある。スムーズなんだけど、なんかこう、ちょっと煽情的、ちょっとHな感じもあったり。大滝さんの声、歌手としての魅力が出てますよね。でもね、僕はやっぱりラッツ&スターの『Tシャツに口紅』と『星空のサーカス』の2曲はうれしかったですね。福生で聴かせていただいたのがずっと頭に残ってて。

クリス ラッツに対しては、その時はもう一目置いてらっしゃったんですね。

萩原 ラッツはやっぱり井上大輔さんの世界観で、日本人向けのオールディーズというのが、大滝さんのやるマニアックなオールディーズとは違う、自分が最初にマニアックなものをおしつけたことで、ラッツのデビューを飾らせてあげることができなかったっていう思いがずっとあったようですね。

クリス 思いがあるというか、’77年に出会ってから、鈴木雅之さんに対する敬意が常にありますよね、歌唱に対しても。

萩原 あります、あります。『幸せな結末』ができあがってから聴かせていただいて発売されるまでの間に、これでアルバム行きますか、みたいな話を僕がしたことがあるんですよ。こういう話を聞いちゃいけないっていう雰囲気があったんですけど、まあでも、オレぐらいしか言う人いないかなって、あっけらかんと聞いてみた時に、その路線は鈴木に任せたって大滝さんがおっしゃったんですよね。

クリス すごい存在ですよね。そこまで言わしめる、鈴木さんというのは。

萩原 ラッツが『夢で逢えたら』で’96年の紅白歌合戦に出場した時、田代まさしさんが「この歌を全てのファンと大滝詠一さんに捧げます」とコメントしていて。大滝さんがそれを観て、オレ死んだみたいだなって言ってました(笑)。

クリス そりゃそうですよね。みんな大滝さんの歴史を知らない、ラッツとの関わりを知らない人からしたら、追悼の辞みたいに聞こえちゃう。知ってる人は「ああ、ラッツが言ってくれた、大滝さんの名前出してくれてありがとう」って思うでしょうけど。だから紅白に一回出場したことになるのかな、大滝さん。

萩原 名前だけは(笑)。あと、この『DEBUT AGAIN』の『Tシャツに口紅』は大滝さんが全部コーラスをやってるヴァージョンで、そこもまたうれしい。この曲はアメリカのザ・ドリフターズの雰囲気を盛り込んでいるわけですけど、ラッツで聴くとそのあたりがいまひとつわからない感じなんですけど、今回のミックスを含めて大滝さんのコーラスで聴くと「アンダー・ザ・ボードウォーク」などのちょっとラテンが感じの入ったドゥーワップみたいな東海岸のサウンドをやろうとしているんだということもわかる。

クリス 鈴木さんがヴォーカリストだから、大滝さんが出過ぎないというか、そうした抑えた部分がここであらためて見えてきたり。もし、この大滝さんのヴァージョン、コーラスで、鈴木さんが新たにヴォーカルを吹き込んだら……という妄想もしてしまいますよね(笑)。その『Tシャツに口紅』の後は薬師丸さんへの曲が続きます。

萩原 『すこしだけやさしく』は’83年に行われた西武球場でのコンサート用のアレンジですね。その時にストリングスを入れて大編成でやる際の、たぶんリハーサルあたりで録った音源だと思います。ヴォーカルがいつ録られたのかはわからないですけど、その時のアレンジを使っているのでキーはちゃんと大滝さんに合っているのでいいんですよね。ストリングスがふくよかでキレイで、なんかいいミックスになってるなと思いましたね。ストリングスと言えば、そんなには褒めてくれない大滝さんが褒めてくださった時があったんです。大滝さんって、エルヴィス・プレスリーの大ファンじゃないですか。

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