Interview

KREVAが音楽の楽しみを見失いかけていたなかで挑んだ新たな手法。そこで生まれた刺激作「存在感」について。KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」も

KREVAが音楽の楽しみを見失いかけていたなかで挑んだ新たな手法。そこで生まれた刺激作「存在感」について。KICK THE CAN CREW「住所 feat. 岡村靖幸」も

KREVAがまたやってくれた。1年半ぶりの新作「存在感」は、リリック、ラップ、メロディ、トラックが一体化した手法で作り上げた新境地の5トラック入り。洋楽イコールのハイクオリティなサウンドと、KREVA哲学を凝縮したメッセージが共存する刺激的な一作だ。そして、その1週間後にリリースされるKICK THE CAN CREWのシングル「住所」は、レジェンド岡村靖幸をフィーチャリングした最高にファンキーなラブソング。つねに最新作が最高を目指す、KREVAの現在位置はどこだ?

取材・文 / 宮本英夫

実は音楽がつまらない時期があった

「存在感」は、クリアでタイトな、すごくいい音ですね。海外のヒップホップやR&Bを聴いているみたいで、興奮しました。

ありがとうございます。今回はだいぶ、瞬発力で選んだ音なんですけどね。なんか、年始ぐらいに、音楽がつまらない時期があって。

おや? そうでしたか。

音楽、ずーっと楽しかったんですけどね。作るのも、やるのも、聴くのも、なんか楽しくないなという時期が実はあって。音楽を始めてから20年ぐらいで、初めてかなと思うんですけど。

何があったんでしょうか?

今日(「存在感」の)取材の初日なんですけど、いろいろ話していて気づいたのは……去年、自分のアルバム『嘘と煩悩』を発表して、ツアーをやって、KICK THE CAN CREWでもアルバム『KICK!』が出て、ツアーをやって、アウトプットが多かったこととか、KICK THE CAN CREWのライヴで新曲もやるけど、20年ぐらい前の曲も歌うわけじゃないですか。それがすごく盛り上がっているのを、「つねに最新作が最高であれ」と思っている自分があまり良しとしなかったのか……。

ああ。なるほど。

それとも、シンプルに疲れていたか。はっきりとした理由はわからないですけど。ただ、とりあえずスタジオに行くようにはしていたので、スタジオの整理をしたりして、持っているものを全部売ってやろうかとも思ったけど、「これはやっぱり大事だな」とか感じたりしていたなかで、アプローチごと変えてみようと思ったんですよ。トラックを作って、そこに言葉を乗せるということをやめて、言葉が出てきたら、それに対してトラックを作るということにしようと。

いつもとは逆。言葉、フレーズ、歌詞で全部作っていった

おおー。

そこで一番最初に出来た曲が「健康」で。「結局やっぱり最後は健康」って出てきて「これだな」と思えたから、それが言えるトラックをその場で作って、サビを乗せたらヴァースを書いて、3〜4時間ぐらいで一気に完成まで持っていくということをやってみて。けど、そのあと聴かないでずっと置いといたんですけどね。単純に「こういうこともできる」と思っただけで。それでそのあとしばらくしてから、「存在感」の「存在感はある」っていうのが言葉とメロディ込みで出てきたから、スタジオに行ってイチから音を作って歌詞を書いて、完成させて。いつもとは逆で、言葉、フレーズ、歌詞で全部作っていったんです。

面白いなあ。

「俺の好きは狭い」は、日々の中で「俺の好きは狭いな」と思うことが何回かあったから、じゃあそれを音に乗せようと。「百人一瞬」は、ほんと思いつき。“百人一首”じゃなくて“百人一瞬”って言ったら面白いなと思っただけ。だから、瞬発力ですね、全部。

そうやっているうちに、音楽の楽しさがよみがえってきたと?

いや、正直そんな感じじゃなかった。誰が聴くとか、どう響くだろうとか、ヘタしたら聴くのか聴かないのかもわかんない。けど、とりあえず作って、こういうテイストのものを集めておこうと思っただけだったから。まったく人に聴かせるつもりもなかったんですけど、ミーティングのときにみんなで聴いてみたら、「いいんじゃないですか?」みたいなことになって、出すことになったって感じですね。

自然な流れで。

「ここでこういうことをやっといたほうがいいんじゃないか」とか、そういうことではなかったです。なんのリリースプランもなかった。結果的にいろんな意味を後付けで見つけて、今ここにあるんですけど。自分のために作ったのかどうかもわからない。まあ、結果的にそうなってはいますね。

“存在感はある”と“存在感がある”とでは全然違う

軽やかな作品なんですよね。煩悩を感じないというか。

それは前作で出しちゃったからね(笑)。

タイトルトラック「存在感」はすごい曲ですよ。もはやリリックを超えて思想になっている。

言いたいことを言ったって感じですね。“存在感はある”と“存在感がある”とでは全然違うな、というところから始まって、トラックが出来てヴァースも書くぞとなったら、しっかりした説教ソングを作っていこうかなと思ったので。世の中頑張れソングが飽和状態だけど、負けない気持ちはZARDだけでもう十分だと思ったから(笑)。

「負けないで」ね(笑)。

応援じゃなくて、ちゃんと説教していったほうがいいかなと思っていたので、そのつもりで書きましたね。でも結果的に自分にも言えてる気がしてきて、身が引き締まるというか。

「存在感はある でも でも、代表作が無いような気がした」「決定打が出ていない気がした」とか。すごいフレーズですよね、これ。

最初は人に言っていたつもりだったんですけど、自分にも言えることだなと。だから、すごく考えて作っていたら、途中でやめちゃってたかもしれないですね。でも出てきたんで、それをいかに完成まで持っていけるかと。

「健康」も、日常の中から出てきた言葉?

十何年前に会った、大阪のラジオのDJですごく面白い方がいて。その方が「40代になったら“健康”の話しかしないから」って言ってて、それが記憶に残ってたんです。俺もそうなるのかなと思っていたら、実際にそうで(笑)。美味いものを食べても、美味い酒を飲んでも、楽しいことがあっても、「健康じゃなきゃダメだよね」って、最後締めることが多くなってきて。それで口をついて、これが出てきたのかなと思う。ただ、なんでこのトラックになったのかは、自分でも不思議なんですよね。このクールなトラックに乗せて言うことじゃねえなと(笑)。

たしかに(笑)。それこそ洋楽テイストの超ストイック&クールな曲なのに。

でも、それが面白いと思ったんだと思います。「結局やっぱり最後は健康」をかっこよく言うことが。

「俺の好きは狭い」は、もうタイトルだけで言いたいことがわかります。

ずっと音楽をやってきましたけど、“音楽”という中でいろんなものが細分化していて、その全部が“音楽”だとすると、「俺、音楽好きじゃないな」と思うことがあったんですよ。俺の好きなものはすごく狭いなと。例えば、サッカー好きの中でも、海外のサッカーしか好きじゃない人とかいるじゃないですか。言ったらカーリングとかも、今でこそ注目度は高いけど競技人口は少なくて、でも“スポーツ”という大枠の中に入れられるわけじゃないですか。それでサッカーの競技人口と比べられたりもして。だとしたら、私たちが好きなのは“スポーツ”じゃなくて“カーリング”なんですってことになるというか。しかも、こんなに好きだけど、カーリングだけじゃ生活していけないんだと気づいちゃったりして、それを“好きなものに嫌われる”と言っているんですけど。“カーリング”に例えたけど、ほかにも同じようなことがいっぱいあると思うんです。自分が好きになったものが、商売としては成り立たないものであったりとかすることも。

ありますね。

だけど、それが好き。それを「何と言うのか?」というと、好きが狭いんだけど、深いとも言えるなと。そういう曲ですね。

これはKREVA哲学。ずっと言ってきたことが言葉になっている。

今回の作品に関しては、作ってるときに、ライヴで歌うとかまったく考えてなかったんで。その日に完成させるということしか考えてなかった。だから「どうしようかな?」と思うところはあるんですけど、「俺の好きは狭い」は、それこそ〈908フェス〉とかで歌うと、来てくれた人たち、出演してくれる人たち含めて、すごく届くなとは思っていますね。

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