Interview

家入レオ ニューシングルで描いた虚無感とは? そして“悩んでいたい”という音楽への想いとは?

家入レオ ニューシングルで描いた虚無感とは? そして“悩んでいたい”という音楽への想いとは?

人の身体は危険な痛みを“熱い”と認識するのだという。命に関わる傷の可能性を察知すると、脳はそんなに危険なところから一刻も早く身を遠ざけようとする。その時には“痛い”より“熱い”のほうが緊急性があるらしい。
そんなことを、家入レオの『もし君を許せたら』を聴いて思い出した。大切な人を失えば必ず味わうことになる、喪失感という名の心の傷。その傷の深刻さはいろいろだけれども、この曲の主人公にとっては、心の死を意味するほどに深いものなのかもしれない。そう感じずにはいられないくらい、この曲の肌触りは“熱い”。サウンドもボーカルも、むしろ涼しげに聴こえるほど淡々とさらりと演奏されているのに、である。そこがこの曲の醍醐味だ。メロディが、歌詞が、アレンジが、ボーカルが……すべてが素晴らしく渾然一体となったものを“歌”というなら、まさに歌と呼ぶにふさわしい1曲が、ここに誕生した。

取材・文 / 前原雅子 撮影 / 映美

人生経験がないと何事も表現できないし、たくさん曲を作りたいと思うなら、たくさん世界と遊んだほうがいいんだなって。

『もし君を許せたら』はツアー最終日に初披露されましたが、制作はツアーが始まる前ですか。

はい、ツアー前に制作をはじめましたが、結局並行してました。ちょうどアルバム『TIME』をリリースしたあとということもあって、今回はいつも以上に気合を入れて制作に臨めたというか。

一区切りついたタイミングというのがよかったのでしょうか。

去年、デビュー5周年を迎えたんですけど、それまで突っ走ってきたからこそ自信がついた半面、一人の人間としては、もっといろんな世界を見てみたいっていう気持ちが出てきて。朗読劇やドラマに挑戦させて貰ったりして。『TIME』を出したあとも、少しまとまったお休みを貰って友人を訪ねてロンドンに1人で行ってきたんです。友人の生活にお邪魔するような感じで1週間過ごしたんですけど、そこですごくいろんな刺激を受けて、東京で暮らす自分のことも客観的に見ることができて。改めて、自分が大事にしていくべきものは音楽に関わることなんだなぁって強く思いながら戻ってきたら、ドラマ主題歌のお話しが来て。すぐに制作に入ったという感じでした。

まずは脚本を読むことから始めて?

プロデューサーの方のお話も聞いて。そのうえで自分も作るけれど、クリエーターの方達にも作ってもらったら面白いかもしれないと思ったんですね。そう思ったとき、『あおぞら』をアレンジしてもらったJazzin’ parkの久保田(真悟)さんにお願いしたらどうかなと思って。歌入れに来てくださったときに、いろいろお話ししたら、近しいものを感じたので。お願いしてみようって思ったんです。

今感じたことは、今ちゃんと形にして残したいと改めて。

実際、自分でも曲は書いてみたのですか。

書きました。いろんなタイプの曲を。ロンドンから戻ってから、こんなにいろんなことを経験してるのに、形にしないのはもったいないと改めて思うようになったので。次から次に面白いことがあると、どんどん気持ちも更新されていっちゃうじゃないですか。だから今感じたことは、今ちゃんと形にして残したいと改めて。

そういうなかでイメージに一番合う曲が久保田さんの曲だった。

そうなんです、かなりスタイリッシュで耳に残るメロディが際立ってて。歌詞には人間の儚さとか切なさみたいなものを出したい……と思ったとき浮かんだのが杉山(勝彦)さんでした。作詞だけっていうことは通常やってらっしゃらない方なんですけど、このスタイリッシュなメロディにこそ人間模様を描いた歌詞をどうしても乗せたいと思って、杉山さんにお願いしました。以前の私だったらはじめから遠慮してたことだ思います。

歌詞だけというお願いは失礼かな……って。

はい。失礼というか、それがその方のスタイルだと思ったら、そのまま受け入れ過ぎてしまうタイプなんでしょうね。疑問に思わないというか、諦めが早すぎるというか。これまでも音楽に限らず自分では精一杯100の気持ちを言ってるつもりでも、どうも控えめに受け取られてしまうなってことが多かったんです。もっと、自分を出してもいいんじゃない?って。え、出してるんだけどなぁ、弱ったなぁって。その反動で生まれたパワーを歌にぶつけているようなところがあって。だからどんどん表現が止められなくなる。日常生活での圧迫感がすごくて。

ロンドンの旅は、かなり気持ちを変えてくれたみたいですね。

やっぱりインプットは大切だなって思いました。私が今まで感じてきた喜怒哀楽は一つ一つどれも大切だけど、曲という作品にしていくと、どんどん自分がやせ細っていく感じがしていて。人生経験がないと何事も表現できないし、たくさん曲を作りたいから、たくさん世界と遊んだほうがいいんだなって。自分の中を探すのではなく、世界と向き合う。そこは大きく変わりましたね。ロンドンに行く前も、そうは思ってたんです。でも思うだけであんまり実行はできてなかったから。

提供されたものはシンガーとして関わるっていう気持ちが育ってきたのかな……。

ところで、この曲の歌詞を自分で書いてみようとは思わなかったのですか。

考えなかったです、ね。素晴らしいメロディだけど、私には言葉を乗せることができないメロディだと思ったので……。曲を作ってるときも、そのことをディレクターさんと話していたんですけど、たぶんスイッチが別になってきちゃってるんだろうなっていう話になったんですね。

『TIME』のときは、他の方が作ったメロディに歌詞を書いていましたもんね。

そうなんです。提供されたものはシンガーとして関わるっていう気持ちが育ってきたのかな……。メロディを完全に提供して貰っている場合だと、シンガーに徹する。メロ作りには直接携わっていないけど、曲が生まれる瞬間や過程に立ち会ったものは、歌詞を書くことが多いです。「もし君を許せたら」はメロのブラッシュアップはお願いしましたが、デモとしてあった曲だったから。自分の中での完成系も見えていたし。私が無理に歌詞を書くことにこだわったせいで、曲の世界観が上手く表現できなくなる方が嫌だなって。それなら作詞家の方にお願いしたほうがいいって思うんですよね。お互いがお互いを生かしあえないなくなることほど残念なケースはないから。そう思ったとき、私のなかで「この人に!」っていうのが杉山さんだったんです。

杉山さんには歌詞で伝えたいテーマなどをお話しして。

はい。人ってそれぞれが理想とか正義を持っているけど、それがあるから葛藤が生まれると思うんですね。例えば弱い自分を見てしまったり。でもそういう葛藤する姿こそ生きることなんじゃないかと思って。その虚無みたいなものを、この曲で表現できたらいいなと思ったんです。ただそうは思ったものの、私がドラマに合うと思う曲と、ドラマの方がドラマに合うと思う曲が、中々一致しなくて。本当に微調整を重ねた曲なんですけど、それが曲の栄養分になって、とても大きな曲になってくれたような気がしてます。

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