モリコメンド 一本釣り  vol. 77

Column

MONO NO AWARE 言葉遊びと本質を射抜くようなフレーズ。唯一無二のセンスが交差するサウンド

MONO NO AWARE 言葉遊びと本質を射抜くようなフレーズ。唯一無二のセンスが交差するサウンド

季節、風景、人との関わりのなかで生まれるしみじみとした情感を示す“物の哀れ”(もともとは「源氏物語」をはじめとする平安時代の文学的な理念、美的感覚を示す言葉だそうです)をバンド名にした“MONO NO AWARE”は、その名前通り、とても捉えどころのないバンドだ。楽曲を聴いていると様々なアーティストやバンドの名前が思い浮かんでくるのだが——はっぴいえんど、細野晴臣、アークティック・モンキーズ、フェニックス、あとはブラックミュージック全般から最近のインディーロックまで——どれにもまったく似ていない。文字を知らないと文章が書けないように、音楽を知らないと音楽は作れないという事実がある以上、メンバーの4人にも好きな音楽があり、それをもとにしてMONO NO AWAREの世界を作っているはずだが、聴き手の想像や予想を裏切り、カテゴライズの枠をスルッと抜け出るような感覚があるのだ。この独特のヒネくれ度合い、一筋縄ではいかないセンスこそが、このバンドのキモなのだろう。

東京都八丈島出身の玉置周啓(V/G)、加藤成順(G)が大学進学後、竹田綾子(Ba)、柳澤豊(Dr)に出会い、結成されたMONO NO AWARE。多彩なルーツミュージックを取り込んだサウンド、自由な言葉遊びと物事の本質を射抜くようなフレーズを交えた歌詞を軸にした4人の音楽は、東京のインディーシーンを中心に少しずつ注目を集める。転機となったのは、FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”への出演。翌2017年にはルーキーステージの投票で1位を獲得し、メインステージの一つであるレッドマーキーに登場した。その後もVIVA LA ROCK、BAYCAMPなどの大型フェスに次々と参加し、その知名度も一気にアップ。2017年12月に発表した1stフルアルバム「人生、山おり谷おり」(テーマは「一枚の紙から様々な形を作り上げる”折り紙”」だという)のリリース記念として行われた渋谷WWWのイベントも大盛況となった。

4人の音楽の独創性は、代表曲のひとつである「イワンコッチャナイ」を聴いてもらえればすぐに感じてもらえるだろう。インディーロック然としてギターは不協和音ギリギリのコードを交えながらトリッキーに展開し、リズム・アレンジも楽曲の進行とともに自由に形を変える。メロディはこちらの予想を気持ち良く裏切りながら広がり、歌詞の主人公は“君に嫌われたらどうしよう”というボンヤリとした不安だけを抱きながら右往左往している。これだけヒネったアイデアを注入しながら、全体としてポップな手触りが残るのは、メンバー全員がもともと持っているポップセンスが自然と機能しているからだと思う。

アルバム「人生、山おり谷おり」はインディーロック好きのリスナーや音楽関係者の間で注目を集め、ロングセラーを継続中。さらに「バズリズム」「Love Music」などの音楽番組をはじめ多数の音楽誌や WEBサイトでネクストブレイクアーティストとして紹介されるなど、その存在がクローズアップされるなか、MONO NO AWAREは2ndフルアルバムをリリースした。「AHA」とタイトルされた本作は、このバンドの自由にして奔放な個性をさらに追求した、まさに唯一無二としか言いようがないロックアルバムに仕上がっている。

魅力的な楽曲が揃った本作だが、ここでは1曲だけ、アルバムの最初に収録されている「東京」を紹介したい。インディーロック感と独特のエキゾチズムが絡み合うバンドサウンドはMONO NO AWAREの十八番だが、そのクオリティは確実に上がっている。自分たちが好きな音を感覚的に紡ぐだけではなく、自らの独創性をしっかりと見極めたうえで、このバンドにしか体現できないサウンドを描き出している(ように思える)のだ。本人たちに聞けば「いや、今まで通り、好きな感じでやっているだけです」と言われるかもしれないが。

歌詞も文句なく素晴らしい。「みんながみんな 幸せになる方法などない/無理くり手をつないでも 足並みなどそろわない」からはじまるこの歌詞の背景にあるのは、現在の東京、もしくは日本だ。政治も経済も文化も問題は山積み、どこからどう手をつけていいかさっぱりわからず、いつの間にか街の雰囲気も暗くなり、人々は疑心暗鬼でギスギスしている。その場限りの刹那的な楽しさで凌ぐのもそろそろ限界……そんな状況を冷徹に見つめながら、玉置周啓は鼓舞するでも諦めるでもなく、“たられば”をやめて外に向かおうと語りかける。はっきり言って、これほどまでに今の時代をシャープに捉えた楽曲は他にないと思う。筆者は歌詞に共感するということがほとんどないのだが(共感するという感覚がわからないんです)、「そうそう! いまってこんな感じだよな」と強く思ったのは、もしかしたら「ワンダーフォーゲル」(くるり)以来かもしれない。

“すべては錯覚”というのは知覚心理学の基本だが、もしそうだとしたら、物事はすべて“自分の見方次第”ということになるだろう。「アハ体験(ハッとして脳が切り替わる瞬間)」や「錯覚」をテーマに制作されたという「AHA」を聴いていると“常識も前例もすべて錯覚。脳を覚醒させて、好きなようにやればいい”という気分が沸き上がって来る。そして、それこそがMONO NO AWAREがもたらすもっとも大きな効果なのだと思う。

文 / 森朋之

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オフィシャルサイトhttp://mono-no-aware.jp

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