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中期から後期へと駆け抜けていくサザンオールスターズの軌跡。プレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』深掘りレビュー

中期から後期へと駆け抜けていくサザンオールスターズの軌跡。プレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』深掘りレビュー

2018年6月25日にデビュー40周年を迎え、NHKホールにてキックオフライブ2018「ちょっとエッチなラララのおじさん」を開催したサザンオールスターズが、8月1日にリリースしたプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』。三ツ矢サイダー2018 CMソング「壮年JUMP」、映画『空飛ぶタイヤ』主題歌「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」、11月公開映画『ビブリア古書堂の事件手帖』主題歌に決定した「北鎌倉の思い出」の3曲の新曲を含む、全32曲を収録。そんな今作から見えてくるサザンオールスターズの進化と深化を紐解く。改めて実感する彼らの“凄み”、“うま味”とは?

文 / 大畑幸子

サザンらしい遊び心。『海のOh, Yeah!!』というタイトルは、“生みの親”!?

40周年イヤーをスタートさせたサザンオールスターズから届けられた今夏の企画アルバムは、プレミアムアルバムと銘打った『海のOh, Yeah!!』。大ヒットナンバーや代表曲に新曲3曲が加わった全32曲収録の2枚組だ。アルバムタイトルからわかるように、本作は20年前の1998年にデビュー20周年を記念して企画され、大ヒットを記録したアルバム『海のYeah‼』の続編的な作品となる。

タイトルの読み方は、“海のオヤー”。聞くところによると、今回のタイトリングの際、桑田佳祐が「生みの親はどう?」と言ったアイデアが、そのまま採用されたという。ちなみに前回は“海の家”からもじり、今回は“生みの親”からなぞらえたわけで、そんなシャレっ気たっぷりのタイトルを見るだけでも、実にサザンらしい遊び心に満ちていて思わずクスリとさせられる(この遊び心はジャケットでもたっぷり味わえるので、そのあたりも十二分に楽しんでいただきたい)。

本作は〈DISC-1〉が〈“Daddy” side〉、〈DISC-2〉が〈“Mammy” side〉と名付けられており、1997年に発表されたシングル曲以降の楽曲からセレクト。既発曲はすべてリマスタリングによってさらなる聴き応えを感じせる作品となっている。またそこに2018年の最新曲3曲を加え、この夏を飾る最強のアイテムとなった。今回初めてアルバムという形で収録された曲は、「イエローマン~星の王子様~」をはじめ、「HOTEL PACIFIC」「OH!! SUMMER QUEEN~夏の女王様~」「DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~」「I AM YOUR SINGER」の5曲。

本作を聴くと、改めてサザンオールスターズというバンドの大きさを感じる。移りゆく時の中で音楽的な時代の流れをおさえつつも、あくまでも自分たちらしさを失わずに、多彩なサウンド要素をうまく取り入れながらポップ感覚に溢れた楽曲を提示しているのはさすがだと言わざるを得ない。

収録曲を発表したそれぞれの年代を振り返ってみると、サザンのこの20年は様々な出来事が起こった時期で、サザンにとってある意味、激動期であり、転換期といえる歳月だったのではないだろうか。メンバーも年齢的に壮年期を経てミドル世代からシニアへと向かっていく重要な期間でもあったわけで、その間、若い時代には味わうことのなかったいろいろな感情と出会っただろうし、またその世代なりの考えや想いの中で音楽と真摯に向き合っていた時期だったのでないかと思う。そんな背景を思い浮かべながら改めて本作を聴くと、熱いものが胸に押し寄せてきたのもたしかだ。

〈DISC-1 “Daddy” side〉:不惑の世代に突入した自分たちの立脚点を見つめ直す

〈DISC-1〉の〈“Daddy” side〉には、1997年から2005年までのナンバーが16曲収録。中でも90年代後半から2000年あたりまでのサザンは、不惑の世代に突入した自分たちの立脚点を見つめ直して、それまでの‟夏だ!サザンだ!”的な陽のイメージから脱却を試みつつ、より外に向かっていくパワーと衝動が渦巻いていたように思う。

打ち込みや電子音を多用したデジタルロックで迫りまくったM.14「01MESSENGERS~電子狂の詩(うた)」(1997年発表)や、ダンサブルで激しく酩酊するようなビート感あるデジタルサウンドがカッコいいM.04「イエローマン~星の王子様~」(1999年発表)がいい例で、ワイルドにかつポップに爆裂しているサザンのサウンドが楽しめる。そういう尖った最新のデジタルサウンドを駆使していたかと思えば、ムーディーなミディアムナンバーのM.03「BLUE HEAVEN」(1997年発表)やスペクターサウンドをサザン流に味付けてしてポップに仕上げたM.02「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」(1998年発表)のような曲も顔を出すが、どこかそれまでの切なさとは味わいが違うのも聴きどころのひとつ。

またM.02「LOVE AFFAIR~秘密のデート~」のシングルカップリング曲だったM.11「私の世紀末カルテ」も、この時期のサザンのはずせない一曲だったと思う。アコースティックギターとハーモニカで構成(後半にオルガンが導入)されたこの曲は、当時の暗い世相を背景に内面的な深い洞察によって湧き上がる想いや悩みを淡々と歌い、そこから滲み出てくる哀しみや暗部が何とも言えず胸を刺す。ともすると、桑田のソロ作と見紛う楽曲ではあるが、あえてバンドとソロの垣根を取りはずしたことによって、音楽的表現領域を広げる結果となったのではないだろうか。

そして、2000年代に入ってすぐにM.01「TSUNAMI」の大ヒットを生むことになる。この曲はご存知のとおり、失恋の切なさや侘しさを綴ったラブソングで、多くの人たちに今もなお愛され続けている名バラードだ。20世紀最後となった第42回日本レコード大賞(2000年)を受賞したナンバーでもある。これまでも多くのヒット曲を世に送り出してきた彼らだが、この「TSUNAMI」のメガヒットによってサザンはさらなる巨大な船となって、音楽シーンという海原を航海していくことになる。そんな状況下にあったなかで、バンド内環境に変化があり、5人体制での活動がスタートしていくこととなった。その際の心情は察して余りあるが、2001年から一時バンド活動を休止し、メンバー各自がソロ活動に突入したのも、バンド内に新しい風を吹かせるための大事なタームだったと思う。

再出発という言葉が適切かどうかわからないが、2003年に活動を再開して以降、サザンは様々な音楽的なトライをしていく。その始まりを告げたのがシングルとして発表したM.10「涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜」。サザンの新しい時代の幕開けを示唆したこの曲は夏をテーマにしているが、これまでのようなサザン的な明るい夏物語ではなく、影や黄昏感のあるサマーソングになっているのが特徴。四季繋がりでいえば、サザンにしては珍しい‟春”をモチーフにしたアジアンテイストたっぷりのM.06「彩~Aja~」(2004年発表)も新しいアプローチ。当時のインタビューで桑田は「四季の中で春が一番好き」と話していたことをプチ情報として記しておく。タイトルはスティーリー・ダンのアルバム『彩(エイジャ)』(1977年発表)から引用。なおこの曲は、桑田がリリース年の3月に亡くなった父親に捧げた一曲でもある。ちなみにM.13「LONELY WOMAN」(2004年発表)は、冬をモチーフにした曲。桑田いわく「男運のない薄幸の女性の冬物語」。80年代のブルーアイドソウルを感じさせる打ち込みサウンドと憂いあるメロディーが心地よい楽曲だ。

話が前後するが、「TSUNAMI」に関してもうひと言。実はこんなにも人の心を打つ名曲を2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、メディアやライヴなどの公の場で歌っていない(ライヴに関していうと、正確には2008年のツアー〈真夏の大感謝祭〉で演奏して以来、バンド活動の休止もあって披露していない)。歌われていなかった理由として、桑田は先日自身のラジオで「この曲はしばらくしまっておこうと、ライヴで歌わないことも何かのメッセージじゃないかと実は思っていたんです。我々サザンとしてはスタッフも含めて、東北のことを忘れない。震災は終わっていませんから、自分を戒めるじゃないですけど、歌わないようにしてきたんです」と語っていた。我々リスナーも‟いつの日か復興の象徴として歌える日がくること”を祈るばかりだが、それが今回、アルバムという形ではあるものの、40周年の記念祝賀的な本作の幕開けのナンバーとして聴くことができたのはとても感慨深い。

〈DISC-2 “Mammy” side〉:時代と共に生きるアーティストとして世相と歌の密接な距離感が見える

一方、〈DISC-2〉の〈“Mammy” side〉は、2004年~2018年までの楽曲からセレクトされた全16曲を収録。こちらは、かつて自分たちの心を震わせたクラシックロックへのオマージュと新感覚のサウンドを追求していく挑戦魂が、これまで以上により強固になっている一枚となった。メンバーの年齢やバンドの経年的な変化に加え、世代感への親愛性、ほころびや崩壊性が目立ち始めてきた社会や世相などに対して、時代と共に生きるアーティストとしての鋭い視線が歌詞の世界にも注がれているのがわかる。それはとてもリアルな言葉であり、感情だったりするから、歌との密接な距離感を感じずにはいられない。

それらを踏まえた点でいえば、まずM.04「DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~」(2006年発表)。この曲は切ないメロディーと4つ打ちのディスコサウンドが哀感を呼ぶナンバーで、桑田が50歳になった年にリリースされたシングル曲である。当時のインタビューで桑田は「爽やかじゃないことは今の自分にすごく現実的なこと」と述べていたが、これまでの‟海だ、恋だ”といったサザンの文脈とは違い、50歳で芽吹いたやるせない感情をそのまま素直に歌詞の中で表現できたことを楽しんでいるフシが多分にあった。なにせタイトルがスラングで‟スケベじじい” という意味で、それを逆手に取りながら、汚れた部分も武器にしていくたくましさを感じる一曲でもある。またこの曲では原 由子がサザン史上、初めて弦編曲を担当している。

挑戦ということでいえば、デビュー30周年にあたり、ファンへの感謝の気持ちを込めてリリースされたシングル曲M.05「I AM YOUR SINGER」(2008年発表)もそのひとつ。この曲は全編にわたって打ち込みサウンドになっていて、ヴォーカルやギターにもエフェクトをかけるというチャレンジを見せ、これまでのバンドサウンドとは一線を画した画期的な曲となっている。

5年間の休止期間を経て再始動した2013年は、デビュー35周年にあたる年。このときに発表したのが、シングルM.09「ピースとハイライト」だ。「ピースとハイライト」は5年ぶりだからという情緒や復活といったお祭り騒ぎ的ではない方向性で、今の時代と向き合い‟現実”を歌にした曲。内容は東アジア問題に目を向けつつ、‟平和への願い”を込めた作品となった。そして「ピースとハイライト」のカップリング曲であり、映画『永遠の0』の主題歌となったM.14「蛍」は、‟人は何のために生きるのか?”というテーマを桑田なりに綴ったバラード。美しいオーケストレーションに乗せて、鎮魂と平和への祈りがじんわりと伝わってくる。またM.01「東京VICTORY」(2014年発表)も、アプローチは異なるものの、「ピースとハイライト」や「蛍」と通底する‟平和への願い”が根本に横たわっている。人々がそれぞれに抱いている見慣れた風景や馴染みある景色が失われていくことへの憂いや、先行きが見えない危うい時代への恐れに寄り添いながらも、前向きな気持ちを呼び起こしてくれる内容が心に響いてくる。

M.09「ピースとハイライト」のカップリング曲となったM.12「栄光の男」は、桑田が長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞授与式を見たことがきっかけで、そこから青山学院大学に入学した年に行なわれた長嶋の引退セレモニーを常連だった喫茶店で見ていたことを思い出したことが発想源。当時、「ひとつの時代が終わったと思って泣けてきた」ことを思い出した桑田は「青学からスタートし、自分の音楽人生を振り返りながら、人生の大きな浮き沈みを捉えて、本当の幸せは何だろう? と自問自答した曲です」と楽曲を発表したときのインタビューで、そう述べていた。そういう意味でも、等身大の今の自分自身を描いたこの曲も重要視したい一曲である。

重ねて挑戦ということを挙げるなら、岸谷五朗・寺脇康文による地球ゴージャス・プロデュース公演『クラウディア』の主題歌となったM .08「FRIENDS」(2004年発表)では、舞台演劇の楽曲に初挑戦し壮大な展開を見せたロックオペラを聴かせてくれているし、M.11「神の島遥か国」(2005年発表)では、ニューオリンズの音楽スタイルのひとつであるセカンドラインと、沖縄音楽を融合したサウンドが楽しめるのも聴きどころ。ちなみに、この曲にはゲストとしてBEGINのギター・島袋 優が三線と指笛で参加している。

まだ音楽の旅路の途中であるという証。40年選手の底意地の凄さ

さて、〈DISC-2〉の目玉はやはり新曲3曲だろう。単に企画アルバムとして既発曲を並べるのではなく、今現在の‟音楽人”としてのサザンオールスターズをしっかりと表現することも忘れないのが嬉しい。ありのままの今の姿を刻印してくれたことは、あくまでも今はまだ音楽の旅路の途中であるという証なのだ。そこに40年選手の底意地の凄さを感じるのである。

まず原由子が歌うM.07「北鎌倉の思い出」。〈DISC-1〉のM.08「唐人物語(ラシャメンのうた)」でも温かい歌心で包んでくれていたが、新曲でも温かくも優しい歌声で心に潤いを与えてくれている。だが、その歌声の芯の部分にこれまでにない強さを感じるのは、たぶん今までにはない幻想的な雰囲気を持つ楽曲だからかもしれない。詞・曲は桑田によるもの。透明感溢れるメロディーと神秘性と浮遊性を感じるサウンドが、肌に優しい微風のように聴き手をリラックスさせていく。クライマックスに向かって、その風がどんどんとなびいていくような風量に変わって、最後は凛とした輝きで落ち着くといった感じ。弦アレンジは原が担当しているが、クラシカルな雰囲気とポップ感が相俟って、サウンドにいい味わいをもたらしている。この曲は11月1日に公開予定の映画『ビブリア古書堂の事件手帖』の主題歌。ミステリーだからこういうサウンドになるのか、と納得。さらにタイトルの‟北鎌倉”や、ラストの歌詞にある‟今 ビブリアの闇は晴れてゆく”にも得心した。

映画『空飛ぶタイヤ』主題歌のM.15「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は、今の世の中を生きる人の心の闇に対して斬り込む話題作だ。桑田が映画を観たときの気持ちをそのまま楽曲に託して制作したそう。ダイナミックなメロディーに緻密なサウンドが乗って、組織の中で矛盾やストレスを抱えながらも、企業戦士として前を向いて生きようとする人たちの心情を描いた歌詞がチクチクと棘のように突き刺さってくる力曲だ。

そして新曲3曲目が、M.16「壮年JUMP」。タイトルはおわかりのとおり、少年誌『少年ジャンプ』から拝借したシャレ。現在流れているメンバー出演の三ツ矢サイダー 2018のCMでお馴染の曲で、オールディーズの匂いがあるポップなロックナンバーだ。清涼感あるサウンドがホントに気持ちいい。サビの「アイドル、アイドル~」を聴くたびに、青春時代にトキメいた自分にとってのアイドルを思い出す。誰の中にも光り輝くアイドルがいるわけで、そんなアイドルに大いなる明るい希望を抱いていたはずだ。そんなことを思いながら聴いていくと、甘酸っぱくて焦燥感や苛立ちもあったけど、怖いものがないくらいの勢いがあったあの青春期の底力を、もう一度甦らせて今のエネルギーに変えて生きてみるのもいいかもしれないと思えた。疲弊した現代人を奮い立たせるくらいのパワーがこの曲にはある。なにせタイトルが「壮年JUMP」だから。‟前向きな気持ちで行こうよ”というメッセージは、‟まだまだ行くよ!”というサザンからの決意表明と受け取ったが、真意は、はてさてどうだろう。

なお完全生産限定盤のみボーナストラックに、サザンが出演した昨年7月の三ツ矢サイダー 2017の書き下ろしCM曲である「弥蜜塌菜のしらべ」(読み方は‟やみつだーさいのしらべ‟)を収録。ウクレレの音色とコーラスワークがマッチした軽快な一曲だ。

こうやって改めて聴くと、サウンドメイクの飽くなき冒険心と、時代への鋭敏な感覚や、またその内実にあるセンチメンタリズムと哀感を含んだ歌詞の世界に魅せられる。もちろん、彼らならではのユーモアやパロディー精神も含めて、そこに国民的バンドの名にふさわしいサザンの凄さを感じてしまうのだ。本作は圧倒的リアリティーと共に、中期から後期へと駆け抜けていくサザンオールスターズの軌跡が詰まった、実に刺激的な作品なのである。

サザンオールスターズ

桑田佳祐(vocal, guitars)、関口和之(bass, Vocal)、松田 弘(drums, vocal)、原 由子(keyboards, vocal)、野沢秀行(percussion)。
1978年6月25日にシングル「勝手にシンドバッド」でデビュー。1979年発表のシングル「いとしのエリー」大ヒット以降、国民的ロックバンドに。2008年8月に史上初の日産スタジアム4DAYSライブを成し遂げ、無期限活動休止期間に入り、2013年に復活。2015年3月には約10年ぶりのアルバム『葡萄』を発表し、5大ドームや22年ぶりの日本武道館での追加公演を含む全国ツアーを開催、約50万人を動員する。2018年6月25日にデビュー40周年を迎え、8月1日にプレミアムアルバム『海のOh, Yeah!!』をリリース。さらに、2019年春には全国ドーム・アリーナツアーの開催も決定。

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