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「僕たちの“友情”は誰にも壊せない」──坂東巳之助&中村隼人=ナルト&サスケが、歌舞伎『NARUTO-ナルト-』で“友”を信じることの大切さを叫ぶ!

「僕たちの“友情”は誰にも壊せない」──坂東巳之助&中村隼人=ナルト&サスケが、歌舞伎『NARUTO-ナルト-』で“友”を信じることの大切さを叫ぶ!

新作歌舞伎の『NARUTO-ナルト-』が、8月4日(土)より新橋演舞場にて上演中だ。原作は国内累計発行部数約1億4,000万部、海外では9,500万部以上を誇る『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載されていた全72巻の人気漫画。
翌日に初日を控えた8月3日(金)、マスコミ向け公開稽古と囲み取材が行われた。(※この日のうちはマダラ役は片岡愛之助)

取材・文 / 竹下力 撮影 / 増田慶

歌舞伎の醍醐味と、ナルト&サスケ&サクラの“友情”と“決裂”を描く──序幕

歌舞伎は古典も新作もダイナミックで普遍的なストーリーだからいつの時代も古びない。だから劇場に足しげく通いたくなる。幕開き前に“黒・柿・萌黄”3色の“定式幕”が目の前にあるだけでワクワクしてしまう。柝をトントントンと細かく打つ音に幕がサーッと開く。そんな“きざみ”を体感すると、そこには歌舞伎『NARUTO-ナルト-』のスペクタクルな世界が待っている。

序幕は、忍五大国のひとつである火の国に、謎の仮面の男が操る九尾(きゅうび)という巨大な狐の化け物が現れ、国に禍をもたらそうとしているところから始まる。国を守る忍びの里・木ノ葉隠れの里長・四代目火影の波風ミナトは、自らの命と引き換えに化け物を捉える“屍鬼封尽”の忍術で九尾の半分の力を自分の中に、もう半分の力を産まれたばかりの赤子の腹に封印して災厄を逃れた。その赤子の名は、うずまきナルト(坂東巳之助)。

十数年後、様々な試練を乗り越えて忍者学校を卒業し、晴れて下忍になったナルトは、うちはサスケ(中村隼人)、春野サクラ(中村梅丸)とともに、はたけカカシ(嘉島典俊)率いる第七班に配属され、木ノ葉隠れの里の忍者として任務を遂行することになった。

困難はいつでも立ちはだかる。かつての三代目火影の弟子、伝説の“三忍”のひとりである大蛇丸(市川笑三郎)が里を襲ってきたかと思えば、ナルトに封印された九尾を狙って、仮面の男たちが率いる“暁”というグループが襲来してくる。

若き3人の忍者は強くなるために、ナルトの師匠となる蝦蟇仙人こと自来也(市川猿弥)、サクラの師匠となる五代目として火影を継ぐ医療忍術に長けた“なめくじ”の口寄せを使う綱手(市川笑也)、そしてサスケの師となる大蛇丸の“三忍”の弟子になる。しかし、大蛇丸は里を襲った抜け忍。意を決したサスケも里を飛び出し、抜け忍の汚名を被りながらも大蛇丸の元に走る。3人の強固な関係にひびが入り始めるも、諦めを知らないナルトとサクラはサスケの心を取り戻すため、サスケは一族を殺した兄のうちはイタチ(市瀬秀和)に復讐するため、新たな修行を始める。

ここで、大蛇・蝦蟇・なめくじの3すくみが形成され、師匠たち3人、ナルト、サスケ、サクラの3人、ふたつのトライアングルが切っても切れない“絆”で結ばれた関係性だとわかる。

やはり、ナルトの坂東巳之助に目が奪われる。何をやってもうまくいかない落ちこぼれだけれど、意外性ナンバー1の忍者らしく、闊達で、諦めを知らず、それでいてどこかお間抜けなキャラを巧みに演じ、殺陣に見得切りに圧倒的な存在感があった。

いつもクールな佇まいでナルトを「ウスラトンカチ」と馬鹿にするくせに、どこかナルトを放っておけないサスケを演じた中村隼人は、里から忌み嫌われる九尾を抱えたナルトの孤独な姿に、ライバルという存在を超えた慈愛に満ちた優しい演技を見せる。

また、サクラの中村梅丸は、彼らふたりの性格を丁寧に説明するような存在であり、同時に所作や台詞が本当に綺麗な女方で、思わず見入ってしまった。

ナルト&自来也、サスケ&大蛇丸、師弟関係の構築、あるいは“父殺し”から“国崩し”へ──2幕

2幕は、ナルト、サスケ、サクラが師匠の元で修行を始め、次第に成長する姿が描かれる。その一方で、ますます大きくなる“暁”の影。仮面の男はやがて“暁”のリーダーだとわかる。彼らの目的は、尾獣というナルトの中にいる九尾のような存在──一尾から九尾の力を得て、世界を我がものにすることだとわかる。

その最中、サスケは大蛇丸を裏切る。彼はイタチへの復讐のためには必要のなくなった、力の弱った師匠の大蛇丸を手にかけてしまう。親をイタチに殺されたサスケが、師と仰ぐ父(大蛇丸)を殺す。まさに歌舞伎の大きなテーゼ“父殺し”の連鎖が垣間見える。それでもサスケの写輪眼は不気味に赤く光り続ける。消えない憎しみが未来永劫に続くようで背筋が凍る。

そして、サスケの目的を知ったナルトとサクラ、カカシたち第七班は、サスケが過ちを犯す前にイタチの捜索を、サスケは己の復讐のためにイタチを探し始める。運命のクロスロードはまさに交わろうとし、ストーリーのテンションはマックスになっていく。

ここでは歌舞伎の“父殺し”、里の乗っ取りを企む“国崩し”など、原作にも根付いたテーマをあぶり出しながら、親と子、師匠と弟子、兄と弟、真実と嘘、人間と国家、様々な二項対立が描かれ、ドラマチックなストーリー展開をみせる。特に2幕では、イタチ演じる市瀬秀和の、弟についぞ内心をバラさないままこの世を去ってゆくいぶし銀的な存在が、仁義・忠義というオーラを纏って光っていた。そして、ナルトを救うために登場する母うずまきクシナの笑三郎は大蛇丸との二役で、男役から女方まで完璧にこなしていた。まさに母性から父性の拠りどころまでを表現していて七面六臂の活躍だった。

ナルト&サスケの“友情”と“絆”。世界の破滅と再生──大詰(第3幕)

八尾までを捉え、機の熟したマダラ(片岡愛之助)は、ついにナルトを手に入れようと木の葉に攻勢を仕掛ける。里の結界を抜けたマダラと対峙するナルト。しかし、ナルトの九尾の力は、マダラの“口寄せの術”で呼び出された“外道魔像”によって吸い尽くされてしまう。尾獣の器となった忍びは、尾獣を抜かれると死んでしまう運命にあった……。さらにすべての尾獣の力を揃えたマダラは忍びの始祖と思しき恐ろしいパワーを秘めた“六道仙人”のマダラと化し、全世界の人々を幻術“無限月読”で意のままに操ろうとする。世界は崩壊してしまうのか、そしてナルトたちの運命はいかに。

そんなときに現れるのが、ナルトの腹の封印に忍び込んでいたミナト(坂東巳之助)のかすかな意識だった。彼は最後の親の務めといわんばかりに、自分に残していた半分の九尾の力を平和の願いとしてナルトに託す。復活したナルトは六道仙人の力を、そして、自来也によって兄の本当の心を知ったサスケは輪廻眼という新たな目を得て、ふたりでマダラと大立ち廻りの後、マダラを倒す。

しかし、ここで一件落着……とはいかなかった。サスケの憎悪の念は変わらなかった。自分が信じた忍道、生き様、心、それらは決定的にナルトとすれ違っていた。対立するふたりの友情は壊れたまま、世界を巻き込んだ死闘へと向かう。

幾多の困難を乗り越えた先の、友同士の壮絶な喧嘩とでもいうべき、ナルトとサスケの戦い。初代火影の千手柱間とマダラが争った“終末の谷”に流れる滝に似つかわしい、本水(水を使った大仕掛け)での大立ち廻りは、宿命の戦いを感じさせる趣でかっこいいのひと言。彼らの拳のひとつ、彼らの技のひとつがぶつかりあえば、お互いの離れてしまった心の距離が近づいていく。嫌いになるためではない、憎しみ合うためではない、お互いがお互いを認め合い、許し合うための大喧嘩。彼らの憎しみ、嫉妬、憧れがすべてぶつかり合って爆発したとき、そこに残ったのは、サスケとナルトの“友情”と“和解”だった。

颯爽と“七代目火影”になったナルトに盛大な拍手と歓声が巻き起こる。彼の髪色と同じく金色に輝く“希望”が見えた。

ナルトとサスケの最後の本水での大立廻りも、ナルトの忍術“螺旋丸”“多重影分身”、サスケの忍術“千鳥”などもリアルに再現され、迫力満点。さらにマダラの真っ赤な舌をペロリと出した見得切りや、フライング、殺陣などで魅了した愛之助は、歌舞伎でいう悪役の中でもさらに悪い“実悪(じつあく)”そのもの、いやそれ以上の存在感を放ち、ナルトとサスケの巨大な壁として屹立するだけでなく、あらゆる時代の困難の象徴にさえ見える堂々とした演技を見せた。

壮大な絵巻物というべき原作の全72巻を3幕でほぼすべて描き切ったG2の演出力、ストーリーの構成力、脚本のパワーに、原作ファンも、原作を知らない歌舞伎ファンも圧倒されるのではないだろうか。またそこに寄り添う、和楽器バンドの音楽──オープニングのシーンで不穏な空気を醸すひたすらロッキンな「天上ノ彼方」や、琴の音が美しいバラード「風鈴の唄うたい」、エンディングでの舞台版書き下ろしソング「光の中で」が、本公演に華を添えていたのは言うまでもない。

歌舞伎、いや舞台の持つマジックは、まさにこの原作にも通底する“明日を信じる力”を与えてくれる。ひたすらダークな世界においても、一筋の希望の光は、かならず手の届くところにある。そして、その光を分かち合う友がいる、兄弟がいる、恋人がいる、親がいる。終演後に感じた心が洗われるような感覚、あるいは贖罪にも似たような晴れ晴れしい気持ちは、現代の荒みかけた世界にも確かに存在する希望の道筋を我々に見せてくれたからではないだろうか。

公演は、8月27日(月)まで新橋演舞場にて。公開稽古では、愛之助がマダラを見事に演じたが、市川猿之助のマダラも、ナルトとサスケの最強の敵として、一味違った存在感を観客に見せつけてくれるだろう。

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