
リップスライム好きということで盛り上がった2人で2014年に結成。翌年SoundCloudに公開した初REC曲「ラビリンス’97」で早耳たちをキャッチし、2016年にファーストアルバム「chelmico」リリース後は、三越伊勢丹、AOKI、花王といった企業のウェブCMなどにも楽曲が起用されて注目を浴びていたchelmicoが、憧れのリップスライムと同じunBORDEからメジャーデビューを果たした。かつてラッパーのTwigyは「毎日磨くスニーカーとスキル」とラップしたが、彼女たちが磨くのはネイルとポップセンス。かわいいモノに目がなく、等身大のユルめスタイルで日常の1コマを描く彼女たちのリリックは、ハジけた中にもどこかエモみがあるのが特徴で、胸の奥をじんわりくすぐってくるからタマラナイ。金髪のRachelとショートカットのMamikoはどんな思いでメジャーデビューアルバム「POWER」をつくりあげたのか。気ままなキャラクターで愛されている2人にたっぷり話を聞いた。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 持田薫
パワーが欲しかったんです(笑)。最近だらしなくない、アタイら?みたいな(Rachel)


お二人はリップスライムが好きということで意気投合してグループを結成したそうですね。当時、お互いのことをどんなふうに思っていましたか?
Mamiko 面白いヤツだなぁって思ってました。リップスライムが好きな気のいい女って感じ(笑)。波長が合うなぁって。
Rachel 私も同じですね。リップが好きな気のいい女で、お笑いが好きで、受け答えのテンポ感がすごい合うなって。
Mamiko あ、こんなに(小ボケ)拾ってくれるんだって(笑)。
Rachel そう。マミちゃんの小ボケが面白くて。
Mamiko そこを拾ってくれる子がいなかったから、「おもしろーい!」って。
結成のきっかけになったのは、レイチェルさんが受賞した講談社の「ミスiD 2014」のイベントだったとか。
Rachel 実行委員長に「シブかる祭」というイベントでミスiDのショーケースがあるから5分何かやってと言われ。ひとりだと心許ないなと思って「友達とラップやっていいですか?」って友達だったマミちゃんを誘ってやったのが最初なんです。
Mamiko それが私が16歳の頃。
Rachel 私が19歳の頃ですね。
それまで音楽はやってたんですか?
Mamiko 全然やってないです。当時、私は普通の高校生で。レイチェルもフリーターだったし。
でも、ミスiDのイベントにラップで出ようと思ったということは、どこかに「ラップをやりたい」願望があった?
Rachel その前からギャグで友達とかに「ラッパーになりてー」みたいなことを言ってたんです。「肩書きラッパーってよくね?」みたいな。でも、「そんなに言うならやれば?」って空気になってきて、「お、おぅ」みたいな。「やります」って言ってた手前、引けねぇなと。
最初からラップは書けました?
Rachel 「シブかる祭」で披露したときは全然書けなくて、GOMESSくんというラッパーの男の子に、入れたいワードを伝えて書いてもらいました。でも、それに満足いかなくて。やっぱ自分たちの言葉で書きたいね、となって書いたときは結構書けました。
それが「ラビリンス’97」?
Rachel そうです。今振り返れば恥ずかしいところもあるけど、スラスラ書けたよね?
Mamiko うん。5分、10分くらいで。
Rachel 体感的にはね(笑)。でもサビも10分くらいだったからトータル1時間以内くらいで。
Mamiko 何の責任もなかったからスラスラと。別にどう思われてもいいし、こんなに広まるもんだと思ってなかったから、軽い気持ちで書いてて。
Rachel 小節数とかもわかってなかったからね。(ラップする)順番も「この辺で変わるんじゃない?」みたいな(笑)。
Mamiko たぶんきっとココがサビだよとか(笑)。で、曲ができたからっていうことで、トラックを作ってくれた(ヒイラギ)ペイジくんとカラオケに行って「どう?」って聞かせたら「メッチャいいじゃん」って言ってくれて。調子に乗ってSoundCloudにアップしたっていう。
Rachel 「これでいいんだ。ウチら、もうラッパーじゃん」みたいな。
ずいぶんナメたスタートだったんですね(笑)。
Mamiko 完全にナメてました(笑)。
Rachel ナメくさってました(笑)。

その「ラビリンス’97」や、翌年フリーダウンロードで発表した「Loveis Over」で話題を集めていきますが、活動当初はどんなことをやっていきたいなと考えていたんですか?
Mamiko グッズ作りたいなぁとか、かわいいミュージックビデオを作りたいなぁとか。
Rachel かわいいジャケットを作りたいとか。かわいい服を着たいとか。
Mamiko ラップをしたいっていうより、「リップスライムになりたい」だから。リップといえば、かわいいMVだったり、かわいいグッズだったり、面白いライブだったりしたんで、そのためには曲がないと、っていう。
スノボに行くときにまずウェアを買っちゃう、みたいなタイプですね。
Rachel カタチから入るタイプ(笑)。かわいいウェアを着たいがために、みたいな感じで、こういうMVを作りたいからこういう曲を作ろうとか、そういう話し合いをしてました。
それほど大好きなリップスライムに2人が初めて接したのは?
Mamiko 小学二年生のときに、海で遊んだ帰りに、逗子フェスに出てたリップの「楽園ベイベー」を聞いてメチャ感動するっていうのが初リップです。そしたらお兄ちゃんがリップをいろいろ持ってたから、そこから掘っていって。
Rachel 私の初リップは、小三か小四だと思うんですけど、「FUNKASTIC」を地元のヤンキーみたいなお姉ちゃんが流していて「これ何?」って聞いて。めっちゃ早口でかっこいいじゃんと思って、「歌詞、書いて」ってお姉ちゃんに自由帳に書いてもらって、そのお姉ちゃんと一緒に練習したのが初リップ体験。何回も最初に戻して♪ハイ着地 未開拓地♪ってやってました。
ってことは、その時点でラップにめざめていたのかもしれないですね。
Rachel あ、確かに(笑)。
Mamiko 早ぇよ、ラッパーへのめざめが(笑)。
今回のメジャーデビューアルバム『POWER』でめざした世界観は?
Rachel ライブ映えする曲が欲しいなっていうのは大きかったですね。あと、『POWER』っていうタイトルを先に決めてから曲を作っていったんです。「Good Morning」と「UFO」以外は全部そう。もうタイトル決めちゃったし、パワーある曲を作らなきゃダメだねって感じで作ってて。たぶん『POWER』というタイトルにしてなかったら、もっとしっとりな曲が多くなったと思う。
なぜ『POWER』というタイトルに?
Rachel パワーが欲しかったんです(笑)。最近だらしなくない、アタイら?みたいな。
Mamiko なんか停滞してない?っていう。気合い入れ直さないとダメだねって。
Rachel メジャー一発目だし攻めていきたいと思って。で、「POWERはどう?」って言ったら、ちょうどそのタイミングでマミちゃんのなかやまきんに君熱が再燃してて。なかやまきんに君の「パワー!」っていうのを聞いてメッチャ元気をもらってたから、それも含めての『POWER』なんです(笑)。
家が近いから、たまたま近所で会って、「最近トラック作ってる?」「あるよ」「じゃあ、ください」みたいな(笑)(Mamiko)


トラック制作陣は、三毛猫ホームレス、Ryo takahashi、ESME MORIと、インディーの頃から付き合いのある方が大半を占めていますが、サウンド面や曲調はどのような方向性を考えていましたか?
Mamiko 結構(トラックメイカーに)お任せでした。「明るくてライブで踊れるような曲をくださいな」っていう感じで、ざっくりしか決めてない曲が多かったかも。たとえばリップスライムのコレみたいな曲ってメッチャ細かくオーダーを出すと、どうしてもそれに寄っちゃうんで。寄りすぎて結局ニセモノみたいになっちゃうのはイヤだったんで、大喜利的な感じでオーダーしたんです。「明るい曲。さて、どんな曲?」みたいな。
Mamiko いつも大喜利オーダーだよね。
Rachel だからこそ、今までやってきた、やりやすくて好きなトラックメイカーにお願いしようと。まあ、パーゴル(PARKGOLF)はノリだったけどね。
Mamiko うん。家が近いから、たまたま近所で会って、「最近トラック作ってる?」「あるよ」「じゃあ、ください」みたいな(笑)。
収録曲で自分たちなりに最もトライをした曲はどれですか?
Rachel ダントツで「デート」だな。これはU-zhaanさんにトラックを作ってもらったんですけど、5拍子なんです。だから難しいんですよ。
そもそもU-zhaanさんを指名した理由は? U-zhaanさんはトラックメイクは本職じゃないですよね。
Mamiko そうなんですよ。とりあえず一緒にやりたいっていう願望だけでお願いしちゃって。だからU-zhaanさんもビックリしてました。「え、どうしたらいいの?」。ウチらも「どうしたらいいですか?」って。1回、U-zhaanさんちに行って、何も決めずに帰ったことがあります。
Rachel とりあえず集まろうって言って……。
Mamiko パンだけ食べて帰ってきた(笑)。
5拍子っていうのはどこから?
Mamiko なんか変拍子をやりたくて。せっかくU-zhaanさんとやるなら、そういうのに挑戦したいよねって。
でも、変拍子だとラップがグッと難しくなるでしょう?
Rachel 最初は私はできなかったです。U-zhaanさんにフロウはメッチャ指導してもらいました。ここで一拍おいた方が聞かせやすいとか。でも、マミちゃんはすごいノリノリで、すぐ作れてたよね。
Mamiko すぐハマったっス(照)。
Rachel 楽しそうにやってましたから。
レイチェルは強いラップが似合うんです。畳みかけるっていうか、ガンガンいくビヨンセ的な感じ?(Mamiko)

では、相手の強みや新しい扉が開いたと思う曲を挙げてみてください。
Mamiko 私、2曲あります。「Get It」と「BANANA」は、「レイチェル、扉開けたな」と思った。もう良さが爆発。レイチェルは強いラップが似合うんです。畳みかけるっていうか、ガンガンいくビヨンセ的な感じ?
ビヨンセとはずいぶん盛りましたね(笑)。
Mamiko でも「Get It」で「ビヨンセ」って言ってるし(笑)。声質的にもこういうトラックが合うんです。あと、この2曲は特にレイチェルのパンチラインが多い。
Rachel 酒まわりの話になると多くなるのかな(笑)。
どっちも酒にまつわる歌ですからね。
Mamiko 「小遣いはたいてテキーラしばく」(「BANANA」)なんて出るか?
Rachel 出るんだなぁ、それが(笑)。
Mamiko 「Get It」も1ヴァース目の最初とか本当かっこいい。「立ち上がりにかかるTIME長い」とか、レイチェルの声だからできるヤツだと思った。
「Get It」には、「このトイレで何人がゲロ吐いたろう この曲で何人が手を繋いだだろう」ってロマンチックなラインもありますしね。
Mamiko そう。パンチラインが本当に多いんです。
Rachel 嬉しいこと言ってくれんね。
すごく短い言葉だけど、難しい言葉は使ってない。それをしっとりマミちゃんの声で聞かせてくれるっていうか、心にスッと入ってくる感じがすごくて(Rachel)

反対に、マミちゃんの新しい扉が開いたと思う曲は?
Rachel 私はさっきも言った「デート」。これはマミちゃんが元から聞いてきた音楽の素養が爆発してるっていうか。最近発覚したんですけど、マミちゃんは子供の頃にハワイの音楽……太鼓だけのポンポンポンみたいな音楽を聞いてたとか言いだして。この5拍子の曲をいともたやすくフロウで聞かせられるのはそういうことか!って。あともう1曲は「午後」。これはマミちゃんがフックを全部書いてるんです。だいたいフックは私がリリックを書いてマミちゃんがメロっていうパターンが多いんですけど、「午後」はエモいんですよね、なんか。すごく短い言葉だけど、難しい言葉は使ってない。それをしっとりマミちゃんの声で聞かせてくれるっていうか、心にスッと入ってくる感じがすごくて。
Mamiko テヘヘ(照)。
Rachel しかも、そのあとに続く「なんなんだろうこのかんじ」っていうマミちゃんのヴァースが最初から最後までカンペキ! もうエモい! えめぇ! えみぃー!って感じで(笑)。聞いたらマジ泣いちゃう人、続出だと思う。
確かに「午後」には、なんともいえない情感がありますよね。二人がリップ好きっていう先入観もあるけど、リップの「白日」のような要素も感じられたし。
Rachel そうなんですよ。実は「午後」ってタイトルにしたのも、「漢字2文字がよくない? 白日みたいな感じで」って言ってたんで。この曲の切なさというか、そこはちょっとリンクしてるかもしれないです。
いい意味でこれまでと変わらないライブをしたいですね。メジャーだからって気負わずに(Mamiko)

本作発売後の9月7日にはワンマンライブ「真夏のPOW」が控えていますが、このタイトルも……。
Mamiko リップからパクりました(笑)。向こうはフェスなのに、こっちはワンマン。しかも、真夏じゃなくて残暑だし(笑)。
当日はどんなステージを見せたいですか?
Rachel 体力ついたところを見せたいです。
Mamiko 息切れとかせずに。
Rachel 最後まで楽しく完走したいなって。前回のワンマン(2018年5月20日・渋谷SOUND MUSEUM VISION)よりは確実に良いものにしたいし、アルバムの新曲もいっぱいあるんで、それをどれだけ新曲じゃない感じで歌えるかっていうところもあるから練習してかっこいいラップを聞かせたいなって思います。あと、本当は特効を使いたいんですよねー。ボワァーンとかブァーンとか。
Mamiko 爆発させたいよね(笑)。
Rachel でもムリだからクラッカーくらいかね、やるとしたら(笑)。
Mamiko 自分たちでやるの? だとしたら忙しいよ(笑)。まあ、いい意味でこれまでと変わらないライブをしたいですね。メジャーだからって気負わずに。
最後に、アルバムタイトルにちなんで、今、二人が手に入れたいパワーを教えてください。
Mamiko 体力ですね(笑)。マジ夏バテっすから、今。
ワンマンもあるし、ランニングとかやればいいじゃないですか。
Mamiko イヤだ。しない(笑)。
Rachel ウチら疲れちゃうの、キライですから。
Mamiko 運動とかしないで体力が欲しいです。誰かください(笑)。
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ライブ情報
ワンマンライブ:真夏のPOW
9月7日(金) 渋谷WWWX
chelmico
Rachel(レイチェル)とMamiko(マミコ)からなるガールズラップユニット。ふたりのリップスライム好きが高じて2014年に結成、2016年に1st Album「chelmico」、昨年9月には、「EP」をリリース。等身大のリリックのおもしろさは勿論、そのかわいらしい容姿から想像を絶するラップスキルと、キャッチ―なメロディーに乗せる滑らかなフロウが音楽業界の全方位から大評価を受け、インディーズリリースするや否やすぐに話題に。さらに、HIP HOPという枠に捉われないPOPセンスと2人の自由気ままなキャラクターが、クリエイターからの注目を集め、新人ながら企業のCMやwebCMのオファーが殺到、音楽のフィールドを超え様々な方面で活動中。そんな注目を浴びるchelmicoが憧れの大先輩リップスライムの所属レーベル、ワーナーミュージック・ジャパンアンボルデから待望のメジャーデビューが決定!
オフィシャルサイト
http://chelmico.com