【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 84

Column

ユーミンの名曲を、社会の変化と照らし合わせつつ聴いてみた。

ユーミンの名曲を、社会の変化と照らし合わせつつ聴いてみた。

今回は、1985年の『DA・DI・DA』から翌年の『ALARM à la mode』のあたりについて、時代背景なども含め、書いていこう。80年代の中頃には、様々な社会の変化があった。ユーミンはそれを、合わせ鏡のように映し、また、水晶玉を覗き込むように予言しつつ、作品化していったのだ。

この頃、「男女雇用機会均等法」が制定(85年)・施行(86年)された。だからって突然、女性の権利が飛躍的に拡大し、女性の時代になったわけではないだろうが、活躍しやすくなった側面が生まれたことは事実だろう。

ただ、均等法がどうのとかと関係なく、ユーミンの歌に出てくる女性は、以前から“自分を持とう”としていた。社会に出てからも、真の大人になるための、通過儀礼を繰り返し、めげず、逞しくもあった。

そんな中、彼女の歌史上、一番“逞しいこと”をやらかしてくれたのが、『DA・DI・DA』の「2人のストリート」の主人公だろう。渋滞の中、車中で彼とケンカとなり、彼女はクルマを蹴飛ばす勢いで降り、スタスタ歩き出す。

彼は[車置き去り]のまま、ガードレ-ルから彼女の名を叫ぶ…。もちろん、街はさらなる渋滞に陥って、[クラクションの洪水]だ(なぜかこういう時、頭に響くのはマンハッタンあたりの♪プァ~という柔らかな音色のクラクションなのだけど)。

実はこの歌、後半で季節はクリスマスであることが分かる。歌、ならではだろう。もし映画なら、街の風景から、なんとなく最初から、感づいてしまうので。

同じ『DA・DI・DA』の「メトロポリスの片隅で」は、丸の内あたりで働く女性が主人公。このヒトは、なかなか好条件の雇用を勝ち取った風である(根拠のない想像ですが…)。

コピーマシーン、クリップ、ファイルなど、オフィス事務に関連した言葉をうまく織り交ぜた歌詞であり、こういうのはユーミンも、楽しみながら作詞したのではなかろうか。

一方、コーラス部分が“dadida”であり、事実上のタイトル・ソング「もう愛は始まらない」の場合、舞台がディスコで、歌詞に織り交ぜられるのは店内の照明機材だ。

[砕け散った銀のミラー]とは、心情的に、ミラーボールがそのように想えた、という解釈が妥当だろうか。この二人にとって、球体が発する光は、もはや[拾い集め]ても元には戻らないのである。

『DA・DI・DA』のラストを飾る「たとえあなたが去って行っても」も、気高き女性の歌だろう。タイトルだけだとバラードを想像するかもしれないが、こちら胸張り歩幅も普段より5㎝大きめの、堂々たるアンセム・チューンである。

1985年の大きな出来事といえば、もうひとつ、「プラザ合意」である。アメリカの貿易赤字解消のため日本などが協力させられて、為替介入した結果、一気に円高(1ドル240円が1年後160円に!)となる。庶民にとって、輸入ブランドや海外旅行が、より身近になったのがこの頃なのだ。

『ALARM à la mode』に「Holiday in Acapulco」という、女性がひとり、[あなたを忘れる]ため、メキシコの高級リゾート地のアカプルコへ旅立つ歌がある。でも、いくら海外が身近になったとはいえ、渡航先こそが、そのヒトのセンスの見せ所だろう。

そもそも“ALARM à la mode”というアルバム・タイトルは“モード=流行に対する警報”という意味にも受け取れるが、だとしたら、この主人公はサスガだ。ディスティネーションが独自だから…。

ちなみに、この歌のなかで鳴ってるのはマリアッチ。メキシコの、とても包容力ある響きの音楽であり、[あなたを忘れる]ためのBGMとしても、最適だったかもしれない。

若干強引かもしれないが、『ALARM à la mode』にはもう1曲、プラザ合意的(?)な作品がある。「白い服、白い靴」だ。[今はもう大切な人がいる]主人公が、ばったり電車のなかで[あなた]と出会い、“密会”の約束する。

主人公は、会うときは白い服と白いロウヒールにしようと決める。これはどちらもブランド品に違いない(スーパーの衣料品売り場では、汚れやすい白い服などワイシャツ以外売ってない)。

なぜこの服を選んだのだろう。自分でも似合うと思ったからである。でも、“まっさら”な自分を願う心理が働いたかもしれない。

さて当日…。[ひどい雨降り]だ。結局、主人公は理由も告げず逢えないことを告げ、電話を切る。上下ゴアテックス着て駆け付けますよーっ、ではない。

“えにし”のなさを実感した瞬間が、主人公に圧倒的な影響を及ぼす、ということでは、あの有名な「DESTINY 」の“安いサンダル”事件にも匹敵する場面と言えるだろう。歌のシチュエーションは、まったく違うけど。

残るは国鉄分割民営化。これは87年の出来事ではあるが、この話となると、『DA・DI・DA』のなかの人気曲、「シンデレラ・エクスプレス」だ。民営化直後のJR東海のCMで採用され、週末をともに過ごし、日曜日の新幹線最終列車で離れ離れになる恋人達の姿が社会現象にもなった(もともとそうした題材のドキュメンタリー映像があり、そこからCMが発想されたそうだが…)。

遠距離恋愛とならざるをえない今の状況を、[意地悪なこのテスト]と表現しているユーミンに、重ねて座るとグラつくくらいの座布団を進呈したくなる。二人は遠距離を前提として付き合い始めたかもしれないが、途中で進学や就職、または転勤といった“意地悪”が、突如、立ちはだかったのかもしれない。

主人公の女性の“いじらしい”とも表現できる心情を、上手く捉えている。彼は東海道新幹線で自分が住む西へ向かう。当時は100系が走り始めて間もない頃で、やがて時速は220km/hに達したことだろう。愛しい人は、みるみる離れていく。

しかし、しかしだ。歌詞のなかに、[あなたの街を濡らす雨]が[もうじきここまで来る]と、そう綴られている。こういうあたりがユーミン・ソングの巧み(匠)なところだ。主人公はその雨で、彼の精神と肉体の、ごくごく微量だとしても、ちゃんと取り戻してる。そして次の週末まで、大事に大事に、胸の奧にしまっておくのである。

文 / 小貫信昭
写真提供 / EMI Records

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