Interview

石橋静河、映画『きみの鳥はうたえる』でふたりの男性と函館の光によって刹那に輝くヒロインに。「贅沢な現場に出会えて幸せ」

石橋静河、映画『きみの鳥はうたえる』でふたりの男性と函館の光によって刹那に輝くヒロインに。「贅沢な現場に出会えて幸せ」

夭折の作家・佐藤泰志の初期作品『きみの鳥はうたえる』(8月25日(土)函館先行公開後、9月1日(土)から全国公開)が映画化された。本作は、『海炭市情景』(10)『そこのみにて光輝く』(14)『オーバー・フェンス』(16)と、函館三部作と呼ばれる佐藤の映画化作品に続く4作目。原作では東京だった舞台を、函館の現代に移し、新たなラストを用意した。市内の書店で働く「僕」と、共同生活をおくる失業中の静雄、そして、「僕」と同じ書店で働くヒロイン・佐知子の青春を、函館の夏の光と時間の中に描き込んでいる。

佐知子と関係を持ったことで恋人となる「僕」を演じるのは柄本 佑。佐知子に少しずつひかれていく静雄を演じるのは染谷将太。そして、ふたりの男性の間で揺れ動く佐知子を、存在感たっぷりに演じているのが、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)で注目された石橋静河だ。そんな彼女が本作や自身の今後について、質問に一つひとつ丁寧に答えてくれた。

取材・文 / 上村恭子 撮影 / 荻原大志

三人の男性に見合う魅力的な女性に。「女性らしさって何だろう?」と初めて考えた。

原作は1981年に発表された作品です。読んだときの印象はいかがでしたか?

すごく香り立つような、近くに情景が浮かんでくるような小説でした。何というか「生」が感じられて。すごく面白いなと思いましたし、映像になったらどうなるんだろうって楽しみでした。

函館三部作はご覧になりましたか?

はい。最初に観た『そこのみにて光輝く』は、観終わったとき、長い時間、地下に潜っていたようなずっしりした感覚になって。充実した気持ちになった記憶があります。一番好きなのは『海炭市情景』です。人々の生活が雪にスッポリと包まれていて、一見静かなんですが、その中に、いろいろな苦しみなどの心模様が描かれていて素敵でした。

三宅監督作とは、前作の『密使と番人』以来ですね。

ほかに短編作2本にも出演させていただいて、今回で4作目になりました。2年前に監督とお話する機会があって、これまで私がやってきた踊りの話ですとか、今の自分のことなど、たくさんの話をしたんです。芝居を引き出してもらえて、贅沢な現場に出会えて幸運でした。今回も、この作品だからこそ出せた表情もありましたね。

石橋さんのアンニュイな表情がとてもよかったです。佐知子をどんな人だと捉えて、役にアプローチしていきましたか?

佐知子は、書店の店長(萩原聖人)、僕、そして静雄という3人の男性に出会っていきます。まずはそれに見合うような魅力的な女性にしたいなと思いました。でも、軽い女性に見えてしまったら嫌だなという気持ちもあって。佐知子なりに人と誠実に向き合っている結果、行ったり来たりしてしまうところを見せられればと思いました。

軽い女性ではなくて……という紙一重の表現は難しくはなかったでしょうか?

難しかったです。でも、それよりも役を楽しんだというのが大きかったです。佐知子について考える準備時間もありましたし、リハーサルの本読み段階で監督とよく話し合って、スムーズに役に入ることができました。

その“準備”で最も大事だったことは何だったですか?

“女性らしさ”です。「女性らしさって何だろう?」と初めて考えて、どんな歩き方をして、どんな佇まいをしたら“女性らしさ”を表現できるのだろうかと考えました。でも、“女性らしさ”については、まだまだわからない部分もいっぱいあります(笑)。

佐知子が自分に正直な優しい子だったので、男性の間でユラユラしても嫌な感じではありませんでした。そこもかわいらしかったです。

ありがとうございます。基本的には、佐知子はごく普通の女の子だと思います。たまたまいろいろな出会いが重なった時期の話で、誰にでもあり得る話なんです。それぞれの人に正直に向き合った結果、関係ができていったのだと思いました。

柄本 佑と染谷将太との共演。「僕・静雄・佐知子の絶妙な関係性を自然とつくることができた。」

石橋さんご自身、3人の男女関係、バランスについてはどう思いましたか?

台本を読んだとき、うらやましいなと思いました。現場では、柄本さんと染谷さんが空気をつくってくださったので、3人の絶妙な関係性が自然とつくることができました。カメラが回っていないときも、3人集まると、本当に役のままでいられて、現実と映画の世界がごちゃまぜの感覚になって面白かったです。

柄本さん、染谷さんと共演してみていかがでした?

私には、柄本さんや染谷さんのような経験も技術もないので、とにかく飛び込んで、影響を受けながらお芝居ができたらいいなと思っていました。お二人の芝居を近くで感じながら素直に反応して、佐知子になることができました。映画の中の何気ないシーンの中で、3人が本当に生きているのを感じました。

柄本さん、染谷さんの印象はいかがでしたか?

役の「僕」、静雄のフィルターがかかって感じたことかもしれませんが、柄本さんは存在が大きくて……身長も大きいですが(笑)、現場を包み込んでくれました。反射神経が速くて、芝居で余計なことを考える隙をなくしてくれ、集中して流れを作ってくださいました。染谷さんは、静雄にピッタリで静寂というか、深いところに潜っていくように集中される方でした。個性が違いますが、共通して強いものを持っていらっしゃいました。

3人で過ごす時間に、微妙な関係が描かれていました。特に、卓球をする「僕」と静雄を眺める佐知子の演技がとても印象的なのですが、佐知子はどんな気持ちだったと思いますか?

きっと佐知子は3人でいるときが本当に楽しいと感じていると思っていました。ふたりが本気で卓球をするのを眺めながら、男同士の友情の中に入れない寂しさも少し感じていたかもしれないですね。

「僕」の部屋で朝食を食べるシーンやビリヤードで遊ぶシーンなど、普段の三人のコンビネーションも素晴らしいです。

朝食のシーンは即興に見えますが、基本の動作には順番があって、「次はマヨネーズをとって」とか、実は覚えるのに大変で必死でした(笑)。逆に、ビリヤードのシーンは本当に遊んでいるうちに、いつのまにかカメラが回っていました(笑)。

クラブシーンとカラオケのシーンは、歌えて踊れる石橋さんありきのシーンでした。石橋さんのダンスには、刹那に酔いしれる若い時間が感じられます。

実際にラッパーのOMSBさんがライブをしてくれ、全体の空気をつくってくれたので、本当に楽しく踊れました。このシーンでは、佐知子に輝いて欲しかったので、思いっきりやってしまえと(笑)。カラオケで歌っていた曲は、三宅監督と一緒に選曲して、私の好きなハナレグミさんバージョンの「オリビアを聴きながら」にしました。

歌っている佐知子を傍らで見つめる静雄の目が印象的ですよね。

あの目は素敵ですよね。あの表情があるからこそ佐知子が輝いて見えるシーンです。あのシーンは何度も撮ったので、染谷さんは歌を聞き飽きていたかもしれませんね(笑)。

舞台である函館の風景に3人が包まれているのも見どころでした。函館はどんな街でしたか?

初めて訪れましたが、街のどこにいてもすごくきれいでした。函館の時間の中にどっぷりとつかりながら、三宅監督から引き出してもらった感情がたくさんありました。昨年6月の撮影でしたが、どの時間帯も本当に光が柔らかくてきれいで、密度が濃くて、光の粒子が見えるような、不思議な色がかかっていました。時間がゆったりと流れていて、老後は函館に住みたいと思いました(笑)。

「役を通して自分ではない誰かを理解することが楽しい」女優「石橋静河」としての目標。

ところで、プライベートでいま一番やりたいことは何でしょうか?

常にやりたいことがいっぱいあり過ぎるんです。一人旅に行ってみたいです。自然の中がいいですね。あと、ミュージカルに挑戦してみたいです。まだまだ訓練が必要ですが(笑)。

挑戦してみたい役柄などはありますか?

日本に実在した歴史上の人物に興味があります。一番大事なのは、作品や役に出会うこと。どの役にも、こういう環境で、こういう考えの人がいるんだという発見があるし、自分ではない役の人物を通して、その人を理解することが面白いと思っています。

連続テレビ小説 『半分、青い。』で朝ドラ初出演されましたね。ヒロインの幼なじみの妻役を演じた感想を教えてください。

ずっと出たいと思っていた朝ドラで、こんなに早くチャンスをいただけたので驚きました。難しい役でしたし、撮影現場のテンポも今まで経験したことがなかったような、独特なものでした。すべてが挑戦だったと思います。

今後も、映画『泣き虫しょったんの奇跡』、『生きてるだけで、愛』と出演作が続々と公開されますね。5年後はどんな女優さんになっていたいですか?

5年後……、29歳ですね。アラサーだ!(笑) 想像できないですが、人として、結果を残したいというよりも、ちゃんと頑張っていたいです。何かに挑戦していたい。失敗することをへっちゃらだと思うような人でいたいです。海外の作品にも、機会があればぜひ挑戦したいです。自分で留学を決めたときもそうでしたが、何歳になっても決めつけずに新しいチャレンジをしていける人でいたいです!

石橋静河

1994年、東京都生まれ。2017年公開の初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で「第60回ブルーリボン賞」新人賞をはじめ、各映画賞の新人賞を席捲。2018年は本作のほか、映画『泣き虫しょったんの奇跡』(9月7日公開)『生きてるだけで、愛。』(11月9日公開)の公開が控える。2019年3月には福原充則演出の舞台「こそぎ落としの明け暮れ」(東京芸術劇場ほか)への出演も決定。現在、NHK連続テレビ小説 『半分、青い。』にも出演中。

フォトギャラリー

映画『きみの鳥はうたえる』

8月25日(土)函館シネマアイリス先行公開
9月1日(土)新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースほかロードショー! 以降全国順次公開

【STORY】
函館郊外の書店で働く「僕」(柄本)は、失業中の静雄(染谷)と小さなアパートで共同生活を送っていた。ある日、「僕」は同じ書店で働く佐知子(石橋)とふとしたきっかけで関係をもつ。彼女は店長の島田(萩原聖人)とも抜き差しならない関係にあるようだが、その日から、毎晩のようにアパートへ遊びに来るようになる。こうして、「僕」、佐知子、静雄の気ままな生活が始まった。夏の間、3 人は、毎晩のように酒を飲み、クラブへ出かけ、ビリヤードをする。佐知子と恋人同士のようにふるまいながら、お互いを束縛せず、静雄とふたりで出かけることを勧める「僕」。
そんなひと夏が終わろうとしている頃、みんなでキャンプに行くことを提案する静雄。しかし「僕」は、その誘いを断り、キャンプには静雄と佐知子のふたりで行くことになる。次第に気持ちが近づく静雄と佐知子。函館でじっと暑さに耐える「僕」。3 人の幸福な日々も終わりの気配を見せていた……。

出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、水間ロン、OMSB、Hi’Spec、渡辺真起子、萩原聖人
脚本・監督:三宅 唱
原作:佐藤泰志(『きみの鳥はうたえる』河出書房新社/クレイン刊)
音楽:Hi’Spec
撮影:四宮秀俊
照明:秋山恵二郎
録音:川井崇満
美術:井上心平
企画・製作・プロデュース:菅原和博
プロデューサー:松井 宏
製作:函館シネマアイリス
制作:Pigdom
配給:コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス

© HAKODATE CINEMA IRIS

オフィシャルサイト
http://kiminotori.com/

原作本

きみの鳥はうたえる

佐藤泰志
河出文庫

郊外の書店で働く「僕」といっしょに住む静雄、そして佐知子の悲しい痛みにみちた夏の終わり…世界に押しつぶされないために真摯に生きる若者たちを描く青春小説の名作。読者の支持によって復活した作家・佐藤泰志の本格的な文壇デビュー作であり、芥川賞の候補となった初期の代表作。珠玉の名品「草の響き」併録