Interview

永山絢斗「作品に出会ってから将棋の虜」。松田龍平主演作『泣き虫しょったんの奇跡』の緊張感溢れる撮影現場と豊田利晃作品の魅力を語る

永山絢斗「作品に出会ってから将棋の虜」。松田龍平主演作『泣き虫しょったんの奇跡』の緊張感溢れる撮影現場と豊田利晃作品の魅力を語る

観る者の中に確かな爪痕を残す作品を撮り続けてきた映画監督、豊田利晃。彼が『青い春』『ナイン・ソウルズ』でタッグを組んできた盟友・松田龍平を主演に迎え、棋士の瀬川晶司の自伝的作品を映画化したのが9月7日(金)に公開される『泣き虫しょったんの奇跡』だ。

将棋という勝負の世界に生きる男たちの青春と挫折。一度は諦めた夢を再び目指して立ち上がる“しょったん”と彼を支える仲間たちのひたむきで熱い思が心を揺さぶる本作で、“しょったん”を側で支える友人の奨励会員・新藤和正を演じているのが永山絢斗。豊田作品への参加は2012年の『I’M FLASH!』、2014年の『クローズEXPLODE』に続いて三度目となり、それ以前からも熱心な豊田作品のファンだったという永山。日本男児的な凛々しいルックスと愚直な人間味を感じさせるキャラクターで俳優として着実にキャリアを重ね、本作でも豊田組常連の個性派俳優陣に混ざって、初々しくも骨太な存在感を放っている彼に、豊田作品の魅力について、そして自身のこれからについて、語ってもらった。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 増永彩子

“芝居”よりも“画”にこだわる豊田作品。「歪んでいる部分も含めた“人間味”が確実にある」

個人的に豊田監督の映画がずっと好きだったので本作も非常に楽しみにしていたのですが、将棋映画でありながら熱い男たちの人間ドラマに仕上がっていて…。こんな映画が見たかった!と震えました(笑)。永山さん自身、今回の話が来たときの思いは…?

豊田監督が撮る映画ならどんな作品でも出たいという気持ちは前から変わりません。だけど、今回は特に将棋の話ということでめちゃくちゃ興奮しましたね。僕自身、将棋は小さい頃に父親と遊びでやっていて、ちゃんと勉強したわけではないし、将棋の世界について深く知っていたわけでもありませんが、すごく惹かれるものがあって。まだ俳優になる前から、豊田監督が脚本で参加された阪本順治監督の『王手』も見ていましたし、『クローズEXPLODE』の現場では「一緒に指してくださいよ」「いや、指さないよ。お前たちとはレベルが違うから」みたいなやりとりもしていました。いつか豊田監督が将棋の映画を撮るなら、どんな役でもいいから出たいと思っていたので、すごく嬉しかったです。

永山さんはもともと豊田監督の『青い春』を見て俳優を志されたんですよね。永山さんが豊田作品に感じる他にはない魅力とは、ずばりどういう部分なのでしょう?

「人柄」ももちろんあるんですが、人間が当たり前に持っているもの、歪んでいる部分も含めた「人間味」が作品の中に確実にある、ということでしょうか。あとは撮り方とか音楽にもすごくこだわられていて、ほかとは全然テイストが違う。男くさい格好良さに昔からすごく惹かれていました。ただ、それが「将棋を撮る」となるとどういうふうになるのかなと思っていたんですが、今回は瀬川晶司さんの自伝がベースになっているので、単純に「将棋ってこんなに深い世界なんだ!」っていう新鮮な驚きもありましたし、豊田監督の作品の中でも、誰もが楽しめるエンタテイメントな作品になったと思います。

確かに、豊田節が炸裂しながらも、いい意味で見る人を選ばないエンタテイメントに昇華されていて感動しました! とはいえ、豊田監督はご自身もかつて奨励会(日本将棋連盟によるプロ棋士養成機関)に在籍されていたとあって、将棋シーンに対するこだわりは並大抵ではなかったと思うのですが…。

そうですね。今回は棋士の役ということで僕らもプロの棋士の方に指導していただきました。「将棋は強くならなくていいけど、とりあえず指し慣れておいて」ということで、自分でも将棋盤と駒を買って家で指したりしていたんですが、豊田監督は「最後の指し方がダサイからもう一回」「指すタイミングが悪い。もう二、三拍間をとってから指して」とか、すごく細かくて(笑)。そういうこだわりは奨励会にいらっしゃった豊田監督ならではだなと思いました。芝居に対して細かいというよりは、画にこだわられる方なんですよね。だから今回、喫煙所のシーンでも少しのタイミングが気に入らないって、何度もタバコを吸わされた思い出があります(笑)。

常連組とはいえ妙な緊張感が…。豊田監督からアドリブを指示する“秘密の紙切れ”が渡される!

なるほど、そういう細部のこだわりが豊田作品の鮮烈なリアリティに繋がっている気がします。今回はキャスティングも豊田作品でおなじみの顔ぶれが一堂に会した感じで、贅沢かつ濃ゆいですよね。現場の雰囲気はいかがでしたか?

豊田監督の現場は独特で、テストは台本通りにやっていくんですが、本番で監督が誰かに秘密の紙切れを渡すんです。このセリフの後にアドリブを入れてくれって(笑)。僕も染谷(将太)くんとのシーンでやられましたが、いつそれが来るかは仕掛ける本人にしかわからないから、常連組とはいえ本番前はみんな妙な緊張感があります。

うわ~。確かな信頼感がある上でのピリピリ感というか、役者同士の探り合いがあるわけですね。

そうなんですよ、「紙貰ったよ」って、みんな目で合図を送り合ったりして(笑)。今回、僕はわりとみんなでいるシーンが多かったので特にチームプレイ的な感じはありました。

そういう役者同士のグルーヴ感は、作中で奨励会の仲間たちが切磋琢磨する姿にも通じる気がします。

確かにそういう感じはありましたね。「仲良いけどライバルだからな」って、豊田監督も仰っていました。今回(松田)龍平くんとは二人のシーンもけっこうあったんですが、芝居について特に言葉で確認しあうこともなく、何度かテストをやっているうちにだんだんテンポが生まれてきて、「こういう感じ?」みたいに出来上がっていって。でも本番になると龍平くんも全然違うことをする(笑)。だから、僕も「まあいいや、その場で生まれたことをやろう!」って。

お芝居って現場で生まれるものではあると思うんですけど、今回は特にその要素が強い現場だったということでしょうか?

そうですね。考えて準備していくことももちろん大事なんですけど、そういうのって現場であっさり壊されたりするし。KEE(渋川清彦)さんは、居酒屋のシーンで「じゃあKEE、ここらへんでおもろいことやる!」とか無茶ぶりされて「全然おもろくない、もう一回!」って言われたり、そういう残酷さもありつつ(笑)。今回、この取材の前に久しぶりに台本を読み返してみたんですが、普段より書き込みが少なかったんです。自分の中でもきっと、「飛び込んでいこう!」みたいな覚悟があったんでしょうね。

そういう現場はやっぱり珍しいですか?

そうですね。豊田監督の映画は、自分にとってのボーナス。毎回出られるわけでもないでしょうし、何年か仕事して豊田監督の作品が来ると「よし!」みたいな。仕事というよりは、お祭りみたいな感じがあるかもしれません。

憧れは勝新太郎! 男が見てカッコイイ男になりたい。

棋士の世界も役者の世界もかなり特殊で、「ひとつの道を極める」という意味では通じるものがある気もします。永山さん自身、十代から俳優として活躍されてきて、本作に登場する棋士たちの姿に自身を重ねられることはありましたか?

いやあ、将棋って知れば知るほど本当に天才でないと勝ち続けられない世界だなってわかってきますし、負けたときの悔しさがすごいんですよね…。あの悔しさを小さい頃から味わってきて、一生続けていくわけですから、精神的にすごく鍛えられるだろうなと思いますし、一対一の勝負の世界なので、やっぱり役者とは全然違うなと思いますね。だからこそ惹かれますし、本当にこの作品に出会ってから将棋の虜になっています。

「負けっぱなしじゃ終われない」「まわり道したからこそ今の自分がある」といった本作のテーマについて感じたことは?

“しょったん”が四段になれないまま年齢制限を迎えて、「なんであんなに遊んでいたんだろう、もっと一生懸命やっていたら…」と後悔するシーンは、すごく感情移入しました。でも、そこから彼は前例のないリベンジのチャンスを掴むわけで、とんでもない将棋への愛の話だなと思いましたし、ひとつのことに賭ける情熱の力はすごいなって。自分自身、いま役者という好きな仕事を続けていられるのは、とても贅沢なことだなと改めて確認した作品でした。

『泣き虫しょったんの奇跡』というタイトルにちなんで、最近泣いたことはありますか?

ないですね。いろんな人に「泣ける映画ない?」って聞いて観たりするんですけど、泣けないんですよね。なんでだろう。泣こうと思ったら泣けるんでしょうけど、どこかで泣きたくないという気持ちもあって…。年をとったら泣けるのかもしれませんね。

役者としても人間としても、まだまだいろんなことを吸収してどんどん変わっていかれるんでしょうね。来年はいよいよ30代に突入ということで、こうなっていきたい…みたいなヴィジョンはありますか?

「男」になりたいですね。当たり前の男というか、男が見てカッコイイ男。今はまだガキだと思うし、まだまだ「男」じゃない。もっともっと孤独にならなきゃいけないなって。

いやあ、孤独にならないという考え方自体、すでに「男」ですよ。

いやいや、つるんでちゃダメですよね。

永山さんが「男」で思い浮かべる人というと…?

やっぱり勝新太郎さんじゃないですかね。かっこいいですね。今回ご一緒した役者さんたちもかっこいい男ばっかりでしたし。本当にかっこいい男になりたいです。

確かに、人間的な魅力が顔や佇まいから漂ってくるような方達ばかりですよね。そういう人の中身って芝居にも出ると思いますか?

出ると思います。それが足りないんですよ、今の僕にはまだ。もっとシンプルな初期衝動とか、人と同じじゃつまらないという気持ちが大事だなと思いますし。やっぱり「人間」を見たいし、見た人が心にしまっておける作品に出たいですね。先のことはわかりませんが、30代が楽しみです。

永山絢斗

1989年、東京都生まれ。2007年、TVシリーズ「おじいさん先生 熱闘篇」(NTV)で俳優デビュー。『ソフトボーイ』(10)で映画初主演を飾り、「日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞。映画『悪人』(10)、NHK連続テレビ小説『おひさま』(11)、映画『I’M FLASH!』(12)、映画『クローズEXPLODE』(14)、NHKBS時代劇『一路』(15)、映画『真田十勇士』(16)、映画『エルネスト もう一人のゲバラ』(17)などに出演。今後は、10月13日よりスタートする連続ドラマW『コールドケース2 ~真実の扉~』への続投、2019年1月より放送予定のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』への出演が決まっている。

フォトギャラリー

映画『泣き虫しょったんの奇跡』

9月7日(金)より全国ロードショー

【STORY】
26歳。それはプロ棋士へのタイムリミット。小学生のころから将棋一筋で生きてきたしょったんこと瀬川晶司の夢は、年齢制限の壁にぶつかりあっけなく断たれた。将棋と縁を切りサラリーマンとして暮らしていたしょったんは、アマ名人になっていた親友の悠野ら周囲の人々に支えられ、将棋を再開することに。プロを目指すという重圧から解放され、その面白さ、楽しさを改めて痛感する。「やっぱり、プロになりたい―」。35歳、しょったんの人生を賭けた二度目の挑戦が始まる――。

監督:豊田利晃(『青い春』『クローズEXPLODE』) 
脚本:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫刊) 
音楽:照井利幸
出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、妻夫木 聡、松 たか子、美保 純、イッセー尾形、小林 薫、國村 隼
製作幹事:WOWOW/VAP 
制作:ホリプロ/エフ・プロジェクト

©2018『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会 
©瀬川晶司/講談社

オフィシャルサイト
http://shottan-movie.jp/

原作

泣き虫しょったんの奇跡 完全版 サラリーマンから将棋のプロへ

瀬川晶司
講談社文庫

中学選抜選手権で優勝した男は、年齢制限のため26歳にしてプロ棋士の夢を断たれた。将棋と縁を切った彼は、いかにして絶望から這い上がり、将棋を再開したか。アマ名人戦優勝など活躍後、彼を支えた人たちと一緒に将棋界に起こした奇跡。生い立ちから決戦まで秘話満載。