Interview

知られざる「ピクサー」制作現場の裏側。大ヒット映画『リメンバー・ミー』日本人アニメーターに聞く、すべてが手作業の仕事とこだわり

知られざる「ピクサー」制作現場の裏側。大ヒット映画『リメンバー・ミー』日本人アニメーターに聞く、すべてが手作業の仕事とこだわり

音楽禁止の一族に生まれた天才ギター少年・ミゲルが死者の国に迷い込み、もう一度、家族に会いたいと願う陽気な男・ヘクターと共に大冒険を繰り広げる、ピクサーの長編劇場アニメーション『リメンバー・ミー』。今年3月に日本公開され、ハイクオリティなアニメーションと感動のストーリーで観客を魅了した。第90回アカデミー賞では長編アニメーション賞および主題歌賞に輝いた本作のMovieNEXが早くも発売。あわせてデジタル配信もスタートしている。

そんな『リメンバー・ミー』の制作において活躍したのが、日本人アニメーターの原島朋幸。ピクサー・アニメーション・スタジオでは『ファインディング・ドリー』なども手がけてきたこの人物に、ピクサーでの作品づくりと『リメンバー・ミー』の制作エピソードを聞いた。

取材・文 / 阿部美香


表情作りは一つ一つすべてが手作業! ピクサーの美しいアニメーションができるまで

ピクサー・アニメーション・スタジオ(以下、ピクサー)作品といえば、『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』、『カーズ』、『ファインディング・ニモ』などの人気シリーズを筆頭に、アニメーション映像そのもののクオリティの高さがまず目を惹く。アニメーションでありながらもリアリズムを感じさせる滑らかなキャラクターアクションと、バラエティに富んだ豊かな表情を観るだけでも、技術力の高さが図り知れる。そのクオリティは、アニメーターひとり一人の“キャラクターをより魅力的に見せる”ためのこだわりが生んでいるという。

原島さんはピクサー・アニメーション・スタジオに入社され、アニメーターとして数々の作品に参加されています。ピクサーでのアニメーターのお仕事というのは、具体的にどういった作業をされるのでしょうか?

キャラクターアニメーターといって、映画に登場するキャラクターに命を吹き込むのが仕事です。実際にキャラクターをどう動かすという身体的なアクションはもちろん、セリフを喋る顔の表情なども全部担当します。

アニメーション映画の構造は、基本的にはカメラが切り替わる場面ごとの区切りである「ショット」が一番小さい単位。「ショット」が集まると「シーケンス」になり、「シーケンス」が集まると一本の映画になる。キャラクターアニメーターの作業は、その「ショット」単位でアサインされるのが基本ですね。

一人のキャラクターをすべて同じ人が動かすわけではないんですね。

はい、そうですね。『リメンバー・ミー』でも、例えば同じショットの中に、骸骨のヘクターとミゲル少年がいれば、両方ともアニメーションしますね。なので、同じヘクターでも場面場面によって、違うキャラクターアニメーターが担当しています。

そうなると、何十人とクレジットされているキャラクターアニメーター全員が、個々のキャラクターの個性を把握していなければいけませんね。

基本的に、ヘクターが「どういう特性を持つキャラクターで、どういう動きをするのか?」という共通認識はいちおうあるんですが、やはり、担当者によって多少動きが違ったりはするんですよ。それをきちんと統一するのは、統括するスーパーバイジング・アニメーターの役目。その上に、監督がいます。共通の意識を持つことは大切なんですが、その上に全体をチェックするシステムがちゃんとあります。

だから担当者が別でも、統一されたアニメーションに仕上がるのですね。キャラクターに対する共通認識では、どういった要素が重視されますか?

一番大きいのは年齢ですかね。例えば『リメンバー・ミー』のミゲルなら、10歳から13歳ぐらい。あとは行動や身体的な特徴です。例えば右利きか、左利きか、物をどちら側に持つかとか。他にも、そのキャラクターがどういう趣味を持っているかなど、キャラクター設定は全員で共有しています。

そこを共有しながら、具体的な作業を行っていくうちに、「じゃあこの場面ではどうしたらいいのか?」というものが出てくるんです。そうなると、やはり監督に質問をして「その場合は、こう行動するんじゃないかな?」というイメージを伝えてもらい、個々のアニメーターが想像力を膨らませて、動きをつけていきます。

『リメンバー・ミー』で原島さんが、とくに苦労されたシーンはどこでしたか?

私自身は、(ミゲルに関しては)最後のほうでちょっとだけしかアニメーションしていないんですが、ミゲルが「死者の国」に行って出会うスケルトン(骸骨)たちのアニメーションは、みんな苦労していたようです。私も骸骨のキャラクターを扱うことは滅多にないですし。

『リメンバー・ミー』のアニメーションとしての面白さのひとつですね、死者の国のスケルトンたちの動きと演出は。

そうなんですよ。なぜスケルトンが大変かというと……例えば、腕のシルエットですね。人間は骨の上に肉が乗っているのでシルエットも1本ですが、骸骨は、手首から肘の関節までの間に骨が2本あるじゃないですか。映像では、腕の角度が変わっても、その2本の骨が常に見えるようにしなければならないんです。シルエットを作るとき、腕を振ったりすると角度によっては2本の骨が重なり合って、1本に見えてしまう時がある。それではダメなんです。だから、そういう動きになってしまう時は、あえて生物学的な嘘をついています。

しかも、それを各アニメーターがすべて手作業で調整していくんですね?

はい。そもそもピクサーでは、キャラクターアニメーターはすべて手作業でアニメーションをつけていきます。スケルトンのキャラクターは体の露出部分が多いので、シルエットを整えるだけでもかなり大変ですね。顔も同じで、骸骨の鼻は骨がないので穴が空いてるじゃないですか。それも、ただ再現するのではなく、顔の角度によって、鼻のシェイプを変えています。歯の向き、口の向きもそうですね。

気を使う部分が人間よりも多いのですね。

そうですね。ヘクターは、普通に横から見ると口元が鳥のくちばしのようになってしまうんですが……それではダメで。

どうするんですか?

首だけ曲げるとどうしてもそう見えてしまうので、体のほうで工夫するとか、細かく修正をかけていきます。それがキャラクターを魅力的に見せる方法なんですよ。

どのキャラクターも基本的に、真正面から撮るのが一番ダメ。フォルムがフラットになってしまうんです。真正面の画が必要な場面なら、体は正面を見てるんですけど、顔は微妙に横を向ける。スリークォーター、3/4ひねって見せるというのが常套手段だったりします。その中でも、キャラクターによっていい角度、悪い角度がありますね。動きの流れでどうしてもいい角度にならない場合は、制約のある中でベストを尽くして魅力的に見せることを工夫します。作品を観るとき、そういうところに注目してみると、面白いかも知れないですね。

1 2 3 >