Interview

大島花子 「親父」坂本九のDNAと共に歌い伝える命のうつくしさ

大島花子 「親父」坂本九のDNAと共に歌い伝える命のうつくしさ

悲しみも痛みも真綿で包み込むような柔らかで包容力のある歌声。
しかしその根底には、歌わずにはいられない、自分が歌で伝えなければならないことがあるという強い思いが、熱いマグマのように渦巻いている。
坂本九の長女として生まれ、幼い時に突然父親を失うという出来事を経験した大島花子。
同じ悲しみや痛みを持つ人に寄り添いたいと、被災地や多くの場所でライブを重ねてきた。
そこで歌われる命の尊さや、かけがえのない日常の輝きは、次第に多くの人々の心を掴み、2月にリリースした坂本九作詞作曲の「親父」はUSENランキングで1位を獲得した。
彼女を突き動かしているものは何なのか、強い意志を秘めた大島花子の声をお届けする。

インタビュー・文/木村由理江 撮影/ミズカイケイコ


表現したいのは“命のうつくしさ”

初舞台は18歳の時に出たミュージカル「大草原の小さな家」。歌う人になりたい、というのが、小さい頃からの夢だったんですか。

歌うこともテレビの歌番組も普通に好きな子供だったので、憧れはありましたね。ただ漠然としていたかな。中学生の頃から歌や踊りのレッスンに通っていましたし、オーディションも自分の意思で受けに行ったので、初舞台を踏んだ時は、夢が叶ったという喜びいっぱいでした。舞台の上で拍手を浴びるってこんなに気持ちがいいんだ! って。ミュージカルは総合芸術なので、出演者やスタッフを含めたみんなが家族みたいになって作品を作り上げる醍醐味も味わえました。ただ、徐々にわたしの居場所はここではないような感じを持ち始めたというか。私が本当にしたい表現って何だろう、ということを考えるようになりました。

役柄としての歌ではなく“自分の言葉で表現したい”という思いから作詞作曲を始められたそうですが、それはいつ頃ですか。

二十代前半から詞を書いたり、デモテープを作ったりしてました。曲も作るようになったのは二十代後半です。想いを曲で綴るのはわたしにとって大切な作業だと思っています。その反面自作の曲を歌うことだけにこだわっているわけではないんです。私の中で一番大きいのは、“何を伝えたいか”そこなんです。

“自分の言葉で歌いたい”と思った時から、そういう意識だったんですか。

ライブを始めたばかりの頃は、オリジナルの曲を歌い、純粋に好きな曲なんかをカバーしていました。その後徐々に、伝えたいことがあるから、その方法として歌を選んでいる、という感覚になった気がします。今は“伝えたいこと”を意識しながら選曲することが多いです。

“何を伝えたいか”が見えたのは、三十代半ばでお子さんを産んでから。

出産が一つのきっかけになったのは間違いないですね。ほんとうに、かけがえのない出来事です。そして、ギタリストの笹子重治さんと出会い、6年ほど前からデュオでライブを重ねてきたことはとても大きいです。私が表現したいのは“命のうつくしさ”。幼い頃に父を突然亡くしたことが私の中での大きな出来事なので、その中で感じてきたことを伝えたいという思いはあったんです。ただそれを音楽とどう繋げるか、どのような形で届けるかを、多分、迷っていたのかもしれません。私だからこそ歌えるものってなんだろう、と。それを見いだせたことが、ファーストアルバム『柿の木坂』を作るきっかけのひとつになりました。それまでは、CDを作る必要をあまり感じていなかったんです。

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それはなぜですか。

誰かに届けるときは目を見て手渡したいんです!(笑)歌がCDになってしまった途端、人の温もりがなくなってしまうような気がしていたんです。あとは自分が何を伝えたいかがまだはっきりと見えてなかったのでしょうね。でも笹子さんとライブを重ねるうちに「伝えたいこと」が見えてきましたし、お客さまに音楽を届けることで表現が熟成されるんですよね。加えてアナログでレコーディングするという方法にも出会えた……。『柿の木坂』には、“命のうつくしさ”をテーマに、メッセージ性のある曲が多く選曲されています。ライブで伝えてきた多くのレパートリーの中から、これがベストだ、というラインナップを選びました。なのであまり迷わなかったですよ!

カバーの多くは昭和の曲。「岸壁の母」、「一本の鉛筆」など、反戦をテーマにした曲も印象的でした。

確かに反戦歌と言われてる曲ですが、私としては“愛の歌”と受け止めているんです。他の人の命も自分の命と同じように愛する、ということはつまり反戦にもつながりますよね。命に代えられるものは何もない、というのは当たり前で、それを声高に言わなくてもいいような社会になればいいな、とも思います。そして、今、生きていること自体が奇跡的で素晴らしいことで、なんでもない日常こそかけがえのないものだ、というメッセージもテーマのひとつです。これはついついそんなたいせつなことを忘れてしまいがちな自分に対する戒めもあるのかな?(笑)そうやって悔やむことも生きているからこそ感じること、とも思っています。

アルバムを聴くと、一つ一つの言葉を丁寧に歌っているのを感じます。そこは、意識されているところなんですか。

「メッセージ」を伝えるためにまずは言葉を伝えなければならないという意識はあります。そして日本語の美しさを伝えたいという思いも強いので、結果としてそう聴いていただけていたら、嬉しいです。そういえば、歌っているより、語っているという感覚の方が大きいかもしれません。

ご自分ではどんなアルバムになった、と感じていますか。

手触りとしては柔らかいかもしれないのですが、根っこにあるのはロックというか(笑)、強い「想い」だと思います。「癒された」と言っていただくのも、それはそれでもちろん嬉しいのですが、私の中では、強いメッセージをこめたアルバムという位置付けです。