LIVE SHUTTLE  vol. 12

Report

渡辺美里@Zepp Diver City 2016.3.12

渡辺美里@Zepp Diver City 2016.3.12

日本の音楽シーンの中に、その月、その年、年代など様々なタームにおいて、人それぞれ自分の中で忘れられないいくつもの名盤があるだろう。
その名盤をアーティスト自身がアルバムの曲順通りに展開する再現ライブが行われた。
今回は、日本のポップシーンを牽引し続け、昨年デビュー30周年を迎えた渡辺美里85年の1stアルバム 『eyes』が満を持して登場。東京と大阪の2夜のみ“再現”されたプレミアムライブの模様をお届けする。

文 / 岡本明


ポピュラーミュージックの歴史の中で誕生してきた数々の名盤。そのアルバムをアーティスト自身が奏でる再現ライブが“名盤ライブ”だ。今年3月、昨年ビュー30周年を迎えた渡辺美里が1stアルバム『eyes』を再現するライブが、東京・大阪で各2回公演のみ行われた。
曲順はもちろん、アレンジも含め可能な限り再現するライブであり、サポートには当時、アルバムに参加したギターの佐橋佳幸、同じくアレンジャー、キーボードで参加した清水信之ほか、彼女を支えてきたメンバーが集結。さらに、このライブ参加者限定で、ドキュメンタリーブックとDVDがセットで配られた。ここでは、初日である東京公演の第一回をレポートしよう。
開演時刻と同時に、ボーカルの多重録音が厚みを持って迫る「SOMEWHERE」が響き、「GROWIN’UP」のイントロが流れ出す。会場の期待感が高まった瞬間に幕が振り落とされ、ステージ上には渡辺美里とサポートメンバーの姿が現れた。笑顔で手を振りながら歌う渡辺美里に大きな拍手が送られる。張りのある声がまっすぐに会場に届き、細やかなビブラートさえも自信に満ちた響きで耳を刺激してくれる。さらに、「すべて君のため」ではイントロのドラムのフレーズに合わせて大きな手拍子が起こり、起伏のあるメロディをダイナミックに歌いあげる。

「名盤ライブ『eyes』、本日はようこそ。いつもとは雰囲気が違う、初めてのタイプのコンサートにトライさせていただいています。デビューアルバム『eyes』の再現ライブ、さすがに自分では名盤と言えないですが(笑)、他人様に名盤と言っていただけるアルバムを持っているということは、とても幸せなことだと思います。新しい感覚で聴いていただくのもいいですし、今日のお客さんは昭和の激動の中を30年、生き抜いてきた仲間たちばかりだと思いますので(笑)。懐かしんでいただくも良し、今日から新しいスタートを切るようにギアを入れる気持ちになっていただけたらと思います」

 続けて、ダンサブルなビートに導かれ、「18才のライブ」が始まる。佐橋佳幸のギターリフが全体のグルーヴを引っ張り、躍動感を高めていく。夢に向かって走る気持ちを詰め込んだナンバーの連続で、改めてこのアルバムは冒頭から攻めの姿勢だったことを思い起こさせてくれる。ゆったりしたリズムに乗せ、滑らかなメロディが特徴の「悲しいボーイフレンド」に続き、“A面最後の曲です”と紹介されたのは「eyes」。アナログ盤の時代には、A面B面という位置づけが大きな意味を持っていた。アルバムの曲順に忠実に進行し、さらに盤をひっくり返すようにワンクッション置くことで、当時の作り手の想いへと空気が繋がっていく。
そして、何よりこの日の主役である渡辺美里の揺るぎない存在感。歌詞を一言一句、明瞭に歌う姿はデビューの頃から全く変わっていない。言葉に情感を込め、想いと情景を描き出す歌の力は、むしろ年月を重ねたことでさらに輝きが増しているといっていい。“B面1曲目”に移ると、「死んでるみたいに生きたくない」へと続いていく。小室哲哉が最初に渡辺美里に提供した、メロディとリズムが絶妙なマッチングを聴かせるナンバーだ。歌声が放つ、引き締まった低音、艶やかな伸びの高音。そのレンジの広さはもちろん、豊かな声量が聴き手を唸らせる。
久しぶりに歌ったという「追いかけてRAINBOW」は、落ち着きとみずみずしさを備えた曲。派手さはないものの、こちらも時代を超えた普遍的な魅力を持っている。

「この曲、最初のツアー以来じゃない?指がびっくりしてた」(佐橋)
「指が覚えているものですか?」(渡辺)
「たいがい、“指から出まかせ”ですから(笑)」(佐橋)
「すみません、これが校風なので(笑)」(清水)
「振った相手が悪かった(笑)。でも、最初のツアーでは何回もやっていましたね」(渡辺)

母校が同じ(松原高校出身)という共通点を持ち、長く活動を共にしてきた3人ならではの会話が、会場を和ませる。そして、渡辺美里に加え、作曲・編曲を担当した岡村靖幸、ギターの鈴木賢司という、当時10代だった3人だけでスタジオで制作をしていた思い出を語って始めたのは「Lazy Crazy Blueberry Pie」。岡村節を強烈に感じさせる個性的なナンバーだが、この妖しさを10代の頃に歌いこなしていた実力に驚かされる。そして今回、よりエモーショナルにパワーアップした歌唱が楽曲にさらなる深みを与えていたのも聴きどころだった。

【LIVE SHUTTLE】 渡辺美里 @Zepp Diver City 2016.3.12

「名盤ライブ『eyes』。こんな時間が持てるのは、1985年、いいものを作っておいて良かったなと思います。でもそれは作り手だけでなく、キャッチしてくれるすごい感受性を持ったみなさんが音楽を愛し続けてくれているからだと思います。こうしてこの曲をやるのは、最初のスタジアム以来です」

 そんな紹介で「きみに会えて」を、清水&佐橋とともに3人だけで披露。繊細な感情を、これ以上ないほどのバランス感覚で、力み過ぎないように歌っていく。そこに込められているのは、強さと優しさを秘めた静かなメッセージ。デビューライブの1曲目がこの曲だったことを思い出したファンも多かったのではないだろうか。彼女自身も当時の記憶がよみがえったのか、マイクを握りしめたまま途中から大きな瞳に涙を浮かべていた。

「B面最後の曲です!」

 アルバムの最後を飾る「Bye Bye Yesterday」が勢いに満ちたサウンドで奏でられ、ボーカルも熱気をまとってどこまでも高まっていく。上昇し続ける興奮とともに会場全体に大きな一体感が生まれ、最高の瞬間を迎えて終了した。
鳴りやまないアンコールにこたえて登場すると、この日のライブを共に作り上げたメンバーを紹介し感謝を捧げる。そして、アンコール曲には、30周年記念アルバム『eyes-30th Anniversary Edition-』にボーナストラックとして収録されている3曲が用意されていた。
柔らかなタッチのミディアムナンバー「ルージュの色よりもっと」、キャッチーなメロディで明るいサウンドの「タフな気持ちで(Don’t Cry)」、硬質でハードなインパクトを残す「I’m Free」と、タイプは異なるが、彼女の魅力のさまざまな側面を映し出したナンバーを力強く歌い切った。

「こんな時間が持てるとは夢にも思っていませんでしたけど、たまにはいいですね。次はまた新たなステージでお会いしたいと思います。今日からぐっとスピードを上げていけそうな気がしない? ゆっくりでもいいから、好きなことをいっぱい、笑顔でやっていきましょう。今日は本当にありがとうございました!」

この日の手ごたえを噛みしめるようなMCで締めくくった渡辺美里。決して懐古的な内容ではなく、現役のアーティストやミュージシャンたちが楽曲の持つ力を再び引き出したライブだった。時間を巻き戻すのではなく、積み重ねてきた時間によって過去の作品を照らし出すこと。その輝きこそが次の活動への原動力となっていく。

名盤ライブ『eyes』@Zepp Diver City 2016.3.12 セットリスト

01.SOMEWHERE
02.GROWIN’UP
03.すべて君のため
04.18才のライブ
05.悲しいボーイフレンド
06.eyes
07.死んでるみたいに生きたくない
08.追いかけてRAINBOW
09.Lazy Crazy Blueberry Pie
10.君に会えて
11.Bye Bye Yesterday

<アンコール>
01.ルージュの色よりもっと
02.タフな気持で(Don’t Cry)
03.I’m Free

リリース情報

渡辺美里30周年記念!デビューアルバムを最新のマスタリングで。ボーナストラック収録。

eyes -30th Anniversary Edition-

eyes -30th Anniversary Edition-

ESCL-30022 ¥2,778+税

01. SOMEWHERE
02. GROWIN’UP
03. すべて君のため
04. 18才のライブ
05. 悲しいボーイフレンド
06. eyes
07. 死んでるみたいに生きたくない
08. 追いかけてRAINBOW
09. Lazy Crazy Blueberry Pie
10. きみに会えて
11. Bye Bye Yesterday

【ボーナストラック】
01. I’m Free
02. タフな気持で(Don’t Cry)
03. ルージュの色よりもっと

1985年10月2日に発表された渡辺美里の1stアルバム『eyes』が、“渡辺美里デビュー30周年記念盤”としてリリース。New York Sterling SoundのTed Jensenが、当時のアナログ・マスターテープから最新技術によりリマスタリングを施し、『eyes -30th Anniversary Edition』として30年の時を超えて蘇ります。

プロフィール

渡辺美里


1985年デビュー。翌年「My Revolution」がチャート1位となり、同年8月、女性ソロシンガーとして日本初となるスタジアム公演を、西武スタジアムにて成功させる。以降20年連続公演という前人未到の記録を達成し、渡辺美里の活動の中でも代名詞的な存在となる。
2005年西武スタジアムに終止符を打った翌年、2006年からは、毎年「美里祭り」と題して様々な都市でLIVEが開催されている。渡辺美里の活動は音楽だけにとどまらず、ラジオのパーソナリティー、ナレーション、2012年、2014年はミュージカル「アリス・イン・ワンダーランド」で不思議の国を支配する『ハートの女王』を演じるなど、様々な分野にチャレンジし続けている。そしてデビュー30周年を迎えた今年は、4月1日発売された19枚目のオリジナルアルバムを携えて、5月から47都道府県で「美里祭り」を開催。ツアーファイナルは12月23日大阪フェスティバルホール、2016年1月9日には30周年の集大成と31年目のスタートとして、横浜アリーナでの公演を大成功させた。

vol.11
vol.12
vol.13