Interview

黒木渚 明暗と陰陽の逆転こそが、彼女の魅力!? 最新作4曲から見えてくる、それぞれの事情。

黒木渚 明暗と陰陽の逆転こそが、彼女の魅力!?  最新作4曲から見えてくる、それぞれの事情。

文学的なリリックと演劇的なライブで、女性シンガーソングライタ―・シーンを突っ走る黒木渚。彼女の4曲入り最新シングルが完成した。リード曲の「ふざけんな世界、ふざけろよ」は躍動的なピアノで始まるロックチューンで、途中に♪チクショーチクショーふざけんな♪というあり得ない(笑)歌詞の陽気なコーラスが入る。
他の3曲も狙いすましたナンバーばかり。「おんな・おとこ・おんな」は3文字単語と4文字単語が並ぶ“ヨコハマ・タソガレ”みたいな歌謡ポップス。「カイワレ」は、けなげな野菜が主人公のアコーディオンをバックにした美しいワルツ。ラストの「ふりだし」は超テク・ドラマー柏倉隆史が大活躍の“歪んだラブソング”だ。
こう書くと人騒がせな“怖いシングル”に受け取られるかもしれないが、聴いてみるととても明るい印象を受けるから不思議だ。その明暗&陰陽の逆転こそが、黒木の魅力の根源にある。そして新作インタビューに応じてくれた彼女の実像は、“エロティックさ”を逆転させた“男前”のアーティストだった。

インタビュー・文 / 平山雄一


「人生はコメディーだ」っていう大テーマを設けて書き上げました

リード曲「ふざけんな世界、ふざけろよ」を作り始めたのは、いつごろですか?

黒木 これが結構、近々。というか、リード曲は直前まで別のものに決まってたんですけど、諸事情でそれがとんで、パカっとリード曲が無くなっちゃったんですよ。新たに作らなくちゃならなくなって、2日しか制作日がなかったので、すごく緊迫した状況の中、書き始めたんです。で、一日目の真夜中に“もういいや”と思って、パッカーンってなった瞬間があって。

ありゃ、開き直ったの?

黒木 はい。そこで一日目に積み上げてきた作業を全部捨てて、改めて出てきたのが「ふざけんな世界、ふざけろよ」だったんです。

リード曲が飛んだことに、“ふざけんな!”と思って書いたんだ(笑)。

黒木 (笑)それはありますね。

どういう精神状態だったんですか?

黒木 ピンチ! でも私、ピンチはチャンスっていうタイプなんですね。いい曲って毎回、締切ギリギリに出てくることが多い。いつもリード曲が最後にできてくるっていう。

でも今回はリード曲が最後の最後で消えちゃった。

黒木 消えちゃって(笑)。大ピンチだったんですけど、いつもギリギリできちんとやってこれた。最後の最後に必ず逆転するっていう自分を信じてました。で、一日目の真夜中に、この状況って“ふざけんな”が合言葉だったら笑えるのにな、みたいな気持ちになって。もうホントにどうしょうもないのに、“チクショー、ふざけんな”って罵る言葉にリズムと音程を付けて、大人が集まって全員で合唱すると、なんか許せる感じがするなっていう(笑)。

いい大人が♪チクショーチクショーふざけんな♪って、相当アホらしいよね。

黒木 そうですね(笑)。で、“人生はコメディーだ”っていう大テーマを設けて書き上げました。

“チクショー、ふざけんな”ってかなりキツいフレーズだけど、聴く人がどう思うのかは気にしないの?

黒木 最初の段階では全然気にしないです。気にしてたら書けなくなっちゃうんで。それに言葉って、歌になると意味も移り変わっていくし。

ホントだね。実際、メロディーに乗るとすごく明るく感じる。

黒木 でしょ! このコーラスって、浅草サンバ隊みたいな明るさがあるじゃないですか。あまりにもエッジが立ち過ぎてるところは、あとから丸くすればいいだけであって。

最初は思う存分書く。で、今回はどこを直したの?

黒木 ほぼ直してないですね、結局(笑)。♪人生はコメディー♪のメロと言葉のハマりの微調整はしましたけど、それくらいです。

ところで、自分自身の声は好きなの? たとえばこういう攻撃的な歌を歌うとき、“もっと激しい声ならよかったのに”とは思わないのかな?

黒木 私は自分の声にかなり感謝してます。黒木渚のいちばんオリジナルなものって、声なのかなって思う。歌詞がいいって言ってくださる人もたくさんいますけど、本当にオリジナルなものってやっぱり声質だと思うんですよね。自分の努力じゃなくて、授かりものっていうところも面白いと思うし。

自分の声に感謝するキッカケはあったの? 大学で音楽を始めるまで、歌ってなかったわけじゃないよね。

黒木 私、すごい音痴だったんですよ(笑)。

そうなの?

黒木 自分で気付いてないぐらいの音痴の人っているじゃないですか。中学2年のときに音楽のテストで歌ったら、クラスメートがめっちゃ笑ってた。“もしかして、私、音痴?”ってことで、音楽の先生に「歌がちょっとましになりたい」って相談したら、“バケツをかぶって歌うといい”って言われたんですよ。

“自分の声を聴け”ってことか。先生、鋭いね。

黒木 そうなんです。その日、ポリバケツを買って帰った。

何色?

黒木 水色(笑)。寮生活だったんですけど、それをかぶって2年間歌いました。それで音痴が治って、音楽に対する苦手意識はなくなったんですよ。でも4人部屋だったから、同室の人はすごい迷惑だったと思います。

ちなみに、何を歌ってたの?

黒木 セリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。その時期、『タイタニック』がすごい流行ってて。

音痴が歌う歌じゃないよな(笑)。

黒木 音痴だからなんですよ、多分。歌の難易度とかわかんない(笑)。

前向きだなあ。

黒木 そうですね。あと、徹底的に暇だったのもあると思いますけど。すごく厳しい学校で、寮にはテレビもなかったですし、音楽も簡単に入手できないような状況で。物資とかも、“密輸入”みたいな感じで入ってくるんですよ、マンガとか。軍隊みたいな生活で、先生も昔ながらのスパルタで教える進学校。辞書を覚えたら、そのページを破って食うみたいな、謎の教育方針でした。

ちなみに、ベタな質問で悪いけど、人生でいちばん最初に「ふざけんな」って思ったのは、いつどんなとき?

黒木 やっぱり、中2。

音痴に気が付いたときだ!

黒木 音痴に気が付いたのもそうだけど、私の14歳はすごくいろんなことが立て込んでて。両親が離婚したのもその時期だったんですよ。で、家庭がぶっ壊れたときに、“ふざけんな”って神様に対して思いました。こんなに真面目に勉強して、カンニングもせずに、なんでも前向きにやってきたのに、なんて仕打ちなんだと思って、“全知全能とか言いやがって、出てこい!”みたいな。そのときに何かデカイものに対する反骨精神みたいなのが生まれて、そっからこういう性格になり始めたんだと思いますね(笑)。

あははは。じゃ、今まででいちばん“ふざけんな”と思ったのは?

黒木 大学でバンド活動を始めたときに、その当時付き合ってた彼氏とふたりで音楽活動をしてたんです。ギターデュオみたいな感じで、向こうがギターを弾いて、私が歌うみたいなスタイル。そのデュオでライブが決まってたのに、ライブの直前に別れちゃったんですよ。それでも私は“お客さんも呼んでるし、迷惑かけるから、このライブを最後の思い出にしよう”って言ったのに、彼氏は当日来なかったんです。

うわっ、だらしねえな。

黒木 ギターだけは私の手元にあったけど、私は弾けないからどうしようもなくて。でもやるしかない。“ふざけんなー”って弾けないギターを持ってステージに出たんですよ。私、とにかく怒ってて(笑)。そのとき押さえられるコードが2つしかなくて、全然曲と合ってないんですけど、その2個だけ弾きながら怒りに任せてステージをやった。で、ふと顔をあげたら、そいつが客席にいたんですよ。

うおー、図々しいね。

黒木 腕組んで見てて。で、終演後にアンケートを取ったら、そいつが“ギター下手だね。1日8時間ぐらい練習しないと、俺のようなギターのスーパースターにはなれないよ”って書いてあった。そのときはホントに、“ふざけんな、今日で音楽、やめ!”と思いましたね。

「ふざけんな世界、ふざけろよ」の背景は濃いなあ(笑)。

黒木 でも歌になってよかったと思います。“ハイ、成仏した”みたいな気持ちです。

いろんな“ふざけんな”が歌になって成仏した?

黒木 見事に成仏しましたね(笑)。

今の若いバンドマンで、海をテーマにしてる人っていないですよね

僕は4曲の中で、2曲目の「おんな・おとこ・おんな」がいちばん好きだな。

黒木 ちょっと昼ドラっぽい世界観というか、ドロドロ感というか(笑)。歌謡曲の影響があるかもしれないですね。石原裕次郎世代の「宗右衛門町ブルース」みたいな、あのへんの歌謡曲が好き(笑)。やっぱり艶々なんですよ、あの時代の歌詞の世界は。男と女の関係も、ちょっとレトロなんだけど、憧れちゃう。それと、中島みゆきさん、浅川マキさん、ちあきなおみさんも好きだし。私はもともとそういう古風なものを好んだりするところがあって。

黒木さんが古風って、ちょっと意外(笑)。「おんな・おとこ・おんな」は3文字と4文字の言葉を並べて詞を書いてるね。

黒木 遊びながら作りました。“文字数しばり”をやりたくて、サビは4文字、それ以外は3文字。歌詞カードを整頓したかったんですよ。ビジュアルで出てきたときに、テトリスみたいになってたらいいなっていうところから始まって。で、とにかく“アバズレ”っていう言葉を使いたかった。最近のシンガーソングライターの女の子の歌詞で、“アバズレ”って出てこないなって。

普通、出てこないよ。西野カナは絶対使わないと思う(笑)。

黒木 あははは。“アバズレ”がすごいお気に入りで、これは譲れなかった。“アバズレ”を使って、三角関係の男女のもつれをコンセプトに書いていくのが面白そうだなって。男が結構やり手で、女はダマされてるのを知ってて、でもやめられない。あなた素敵っていう感じの設定です。

男はかなりタフな奴だ。

黒木 ふたりの女を操ってるから、甲斐性のある男な気がしますよね。情けない男はかわいいと思いますけど。私には古傷、バンドマンと付き合うことに対して古い傷があるので(笑)。

自称スーパーギタリストね(笑)。

黒木 加山雄三さんみたいな人が好きですね。あんなに嫌味のない好青年はいませんよ。私、ライブ行きましたもんね。去年も武道館に行きました。スケールがでかい。だって今の若いバンドマンで、海をテーマにしてる人っていないですよね。“7つの海に旅に出るぞ”みたいな人、いないじゃないですか(笑)。そういうところがいいな、そういう人が現れないかな、みたいな。

ストライク・ゾーン、広いなあ(笑)。

黒木 70代(笑)。あれぐらい頼りがいがあると、すごくありがたいですけどね。

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