Interview

山口洋の創作の源泉を辿る。心象風景をサウンドのランドスケープに具現化するとき

山口洋の創作の源泉を辿る。心象風景をサウンドのランドスケープに具現化するとき

ザ・ローリング・ストーンズの初期の傑作に『山羊の頭のスープ』というアルバムがあるが、『山口洋の頭の中のスープ』もまた傑作である。HEATWAVE山口洋の17歳から現在に至るまでのデモ音源をコンパイルしたCDで、ライヴ会場とオフィシャルサイトの通販のみで手に入れることができる。
2曲目に入っている「Birthday」は、1980年に録音された17歳当時の作品。これがすごい。カセットデッキ2台を使って、交互に再生と録音を繰り返す“ピンポン”という手法を使って、ひとり多重レコーディングを行なっている。この曲は後に「Happy Birthday To You」として再レコーディングされ、HEATWAVEのアルバムに収められているが、デモに込められた38年前の思いは格別のものがある。
そうした“日の目”を見た曲もあれば、未発表の曲もある。全体にスモーキーなサウンドで、「Outsider」など曲の雰囲気がよく伝わってくるのが特徴だ。全曲、本人による解説付きで、これも非常に興味深い。今年の音楽シーンの最大の問題作かもしれない。 

取材・文 / 平山雄一
撮影(上記メイン)/ 三浦麻旅子

音が出た瞬間に、もうすでにHEATWAVEのタッチだったから、呆れたというか、面白かった(笑)

これは作品じゃなくて、物販なの。宣伝する気もないし、流通もしない。ライヴに来てくれた人が、タオルとかTシャツより、こっちのほうがひょっとして嬉しいんじゃないかなって思ってたわけ。この構想は昔からあったんだけどね。

デモテープを物販として売りたいっていう構想?

売りたいっていうか、「こういうのが喜ぶんじゃない?」って思っていて。ただこれをやるには、過去の莫大な音源を聴かなきゃいけないという苦行があるので、ずっとほったらかしにしてたんだけど(笑)。

(笑)。およそ何曲ぐらいあったのかな?

自分の倉庫にある膨大なものを聴かなきゃいけないんだけど、全部聴くのも嫌だから、タイトルの書いてあるものだけを聴いて。それでもひどく面白そうで、引っかかったものしか聴いてないんだけどね。でもすごく面白かった。こんなに自分が筋の通った人間だと思わなかった(笑)。

スジって(笑)。

筋しか通ってなかったから、呆れた(笑)。17歳のやつとかは、びっくりした。

僕もびっくりしたし、面白かった。すごく演奏力のある17歳だよね。

うん。よくこれをカセットデッキ2台でちゃんとミックスしたなって。あとで楽器の音のバランスを変えられないから、最終形が見えてなかったらできないわけ。4ch時代のビートルズじゃないけど、それよりも過酷な状況で、しかも自分の家にドラムをリアカーかなんかで持ってきて、ベースも借りてきて、それでもやりたかったという情熱にびっくりした。

すごいね。

で、聴いてみたら、音が出た瞬間に、もうすでにHEATWAVEのタッチだったから、呆れたというか、面白かった(笑)。

スジが通ってる17歳だ(笑)。どんな内容だったか覚えてなかったの?

うん。なんか面白そうだなと思って聴いてみたら、びっくりした。よくできてんなって(笑)。しかもフェリクロームのカセットだったから。

お金がかかってる!

高校生にしてフェリクロームのテープを買うなんて、高かっただろうな。なんとか高音質で残そうとしたんじゃない(笑)。

泣けるね(笑)。

うん。ちなみにインナースリーブに載ってる写真は、俺の共通一次の受験票なんだけどね。デザイナーが「17歳のときの写真をくれ」って言うから探したら、共通一次の受験票が出てきたの。こういう顔したやつが、ああいう音楽を作りたいと思ってたっていうのも面白いじゃん。

歌詞がなくてもあの時点で、歌いたいことはもう伝わってる

今回思ったのは、メロディーが漠然としてること。少なくともデモテープの段階では、ムードで歌ってるところが面白かった。ずっと前にインタビューしたときに「同じメロディーを何回も歌うことができない」って言ってたから、その頃から一貫してこのスタイルだったんだね(笑)。

たしかに俺はそう言った(笑)。レコード会社を移籍したときのインタビューだったと思うんだけど、新しいディレクターに「なんで君の歌は1番と2番のメロディーが違うんだ?」って言われたから、逆に「なんで1番と2番のメロディーが一緒じゃなきゃいけないの?」って俺は聞いたの。意味がわかんねえよって。だけど世間の常識としては、1番と2番は同じメロディーでしょ。でも俺にとっては、子供の頃から疑問を持ってた。ほかの人の歌を聴いて、ひどく窮屈に感じてた。そりゃ、童謡の「夕焼け小焼けの赤とんぼ」の1番と2番が違ったら困るけど(笑)、フォークソングなんだからべつにいいじゃんって。曲を作ってるときって漠然としたイメージがあって、メロディーもかなり漠然としてて、何回も歌いながら、そのうち固まってくる感じが好きなの。

それって大事なことだね。自然に固まってくるメロディーって、すごくいいと思う。

もっと言うと、ホントはこのデモの状態で、歌が入ってないのが一番好きでね。だから本当はオケだけで発表したいの(笑)。そしたら俺は、毎日違うものが歌えるじゃない。歌詞もフィックスじゃないし、メロディーもフィックスじゃない。それぐらいモワモワしたものが好きなんだけど、残念ながらそれは叶わないので、歌詞を書いて歌を入れてリリースしなきゃいけない。それは苦痛だった。

うーん、でも僕は「Africa」っていう曲に、詞が付いて良くなった感じがした。

あれね、詞がないほうが好きだな。

えーっ! あくまでそうなんだ(笑)。

あのまま出したい感じ(笑)。「なんだそれ!?」って言われても。

あはははは。

今回、なんでこれを出したかっていうと、みんなは俺がギター1本で、四畳半で鉛筆なめながら曲を書いてると思ってるけど(笑)、実は全然そうじゃない。まず風景が見えていて、それは動画みたいに動くもので、それを音楽にしているだけ。

ムードが先行して、曲が存在する?

そう、ムード。歌詞もなんにもない、ムードが好き。限定しないというか、言い切らないというか。たとえば最後に「満月の夕」のデモが入ってるけど、すごく好きだもん。歌詞はいらないじゃんって思った。

それはちょっと乱暴じゃない?(笑)

いやいや、歌詞がなくてもあの時点で、歌いたいことはもう伝わってる。説得力があるんだよ。あれはあっという間に書いた曲だけど、だからあれ以上、もういらないんじゃないかとは思う。

それにしても、大切な曲のデモテープを公にするって、相当思い切ってると思ったよ。

これが出た日に藤井一彦とライヴやってて、一彦に「あげるよ」って言ったら「これを出すって、勇気あるね」って言ってた(笑)。なんで、みんな、そう言うのかな?

それはそうだよ。みんな、ビックリするよ。たくさんの人に聴かれて、みんなの中でイメージが固定化されている楽曲の原型を発表するなんて。

だから入れたかった、密かにね。

ものすごく勇気がいると思うよ。

だから違うんだって。プロセスもすごく大事だから、出すことにしたの。

聴いた人の評判はどうですか?

これを聴いて、嫌だっていう人はいなかった。「なんでこんなもん出したんだ」っていう人もいなかった。

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