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人は誰しもいつか死ぬ。だからこそ生きる意味がある。“生と死”をテーマに植田圭輔らが濃密な4人芝居を。舞台『死神の精度~7Days Judgement』上演中!

人は誰しもいつか死ぬ。だからこそ生きる意味がある。“生と死”をテーマに植田圭輔らが濃密な4人芝居を。舞台『死神の精度~7Days Judgement』上演中!

8月30日(木)より東京・あうるすぽっとにて、舞台『死神の精度~7Days Judgement』が上演中だ。原作は伊坂幸太郎の小説。死神が“死”を実行される対象となった人間に7日間の猶予を与え、8日目に“生”か“死”のジャッジをくだすというハートボイルドなファンタジー作品。舞台版は9年ぶりの再演にあたる。本番の幕開き前にゲネプロと囲み取材が行われた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり

4者4様が魅せる唯一無二の劇空間

“死”とはなんぞや? ならば“生”とはなんだ? 終演後、そんな禅問答のような問いが頭の中をクルクル回って、わけもなくニヤついてしまった。このなんだか味わったことのない感覚はいったいなんだろう?

例えばもし、この世界に本物の“死神”がいたとして、簡単に“死”を与えてくれるなら、生きることはとてもラクかもしれないな、とも思った。生きることも死ぬことも大変なのはみんなが知っているから。

この舞台では、死神は人間の姿になってこの世にやってくる。人間が直接体に触れると感電してしまう特異体質で、おまけに“スーパーマン”ばりの鋼の肉体を持って。そんな死神の仕事はある人物を調査し、“可”(=死)か“見送り”(=生)をジャッジすること。調査期間は7日間。8日目に結果を見届け、死神の世界の情報部に報告する。そうすると仕事がひとつ終わる。

ジャッジの基準は曖昧で、たいてい“可”になる。死神たちは音楽(死神・千葉の言う“ミュージック!”)をこよなく愛しており、CDショップの試聴機には死神たちがたむろしている。死神は皆、仕事の過程は大切にするが、結果はどうでもいい。だから、人間の生死にはまるで興味がない。そのせいか、仕事には気が向かない。義務のためか、はたまた給料(そんなものがあればだが)のためか、能面のようなのっぺりとした感情を押し殺した性格の死神が多いようだ。

しとどに降る雨の音を背景に重厚なライティングの下、死神・千葉(萩原聖人)が傘を持って、上手にある階段のてっぺんの踊り場のようなところに立ってジョークを言っている。彼は傘を欠かさない。彼がこの世にくるといつも雨が降るからだ。千葉は40代半ばの男性の姿をしている。

今回の調査対象は、初老を超えた“ヤクザ”の藤田(ラサール石井)。藤田は敵対する栗木というヤクザに兄貴分を殺され、その仇を取ろうと舎弟の阿久津(植田圭輔)に栗木の情報を探らせているところだった。阿久津は千葉がどうやら仇の情報を持っていると噂に聞き(その偽情報を流したのは千葉の策略)、彼に接触を図ろうとしている。

とある事件をきっかけに彼らは出会い、千葉は藤田の隠れ家へと入り込み、藤田と千葉、そして阿久津の3人の奇妙な7日間の共同生活が始まる。藤田は特にロックミュージックが好きで、“ミュージック!”好きの千葉と馬が合う。蚊のようにやたらとうるさい阿久津は美味しいチャーハンを作るのが得意らしい。

ヤクザの世界と距離を保ちつつも、千葉は藤田たちの観察を続ける。時々、同僚の青山(細見大輔)とお互いのターゲットの情報を交換するが、話題になるのはやはり人の生死のことばかりで、千葉はうんざりしている。死神にとって、この世とはひとつの仕事場でしかないかもしれない。でも、そんな意識を持つほうが彼らにとってはラクなのだろう。同じように藤田たちのしがない生活……組同士の抗争、覇権争い、その価値は死神たちの考えと同じだろうか。

“死”はロシアンルーレットのように突如として訪れる。まさに“明日は我が身”。伏線がいたるところに散りばめられて、物語はハラハラする展開。全体的にどこか諦念も感じられる。そうしてストーリーは緊張と緩和を繰り返しながら、ブラックユーモアもたっぷりに進む。そして、千葉が藤田へくだすジャッジとは、“可”か“見送り”なのか……。

舞台の大部分は藤田の隠れ家になっている。時々、天井からいくつかのヘッドホンが下りてくると、そこはCDショップの試聴コーナーに様変わる。部屋には黒い革張りのソファーとガラスの机、上手には藤田の愛してやまないステレオ、すぐそばに水槽と引き出し机があり、奥にはボクシングのグローブとミットがある。下手にはビールやジュースが入ったガラスケースの冷蔵庫。中央にコンテナのような金属の重たい扉。さらに壁のようなものがそそりたち、そこに映像が照射される。扉の向こうはつねに雨が降っている。舞台美術は、2009年の初演も長田佳代子が担当しているが、とても洗練されていて、著名な建築家の建造物を眺めているような静謐感があった。

そして4人の登場人物たち。死神・青山役の細見大輔は、演出の和田憲明が気合いを込めてセレクトしたというダンディーな衣裳を颯爽と身に纏い、飄々とした性格でおしゃべりな役を演じきる。要所で登場しては、場を引っ掻き回し、主人公の千葉を立ち止まらせ考えさせる役どころ。彼は観客がストーリーの展開スピードに置いてきぼりにならないように、物語の進行の“錨”のような存在になっていた。

ヤクザの藤田を演じるラサール石井は、初演からの続投で、役を深く理解している印象が台詞の端々からしっかりと感じられる。台詞の感情の流れと動きが役柄に自然と溶け込んでいるため、彼に感情移入できるスペースが生まれていた。任侠を重んじすぎ、組の中では鼻持ちならない存在で、今でいう“老害”なのだが、“弱きを助け、強きをくじく”という己の信念がにじみ出て、男が惚れる男といったところだろうか。一方で、得体の知れぬ千葉から漂う“死”の匂いに好意すら寄せて、どこか生きることに達観してしまった初老感もあり、好演が伺えた。

萩原聖人は、人間の“死”にはまったく興味がない冷徹な死神の役なのだが、“ミュージック!”だけはどの死神よりも大好きらしく(ちなみに渋滞が大嫌い)、音楽がかかれば恍惚な表情を浮かべ人目もはばからずダンスするという、クールでいてユーモアの溢れる死神を熱演。藤田の部屋に流れる、ザ・ローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」が大好きで、ルーズなキース・リチャーズのグールヴィーなギターリフに、ねちっこく絡むミック・ジャガーの歌はスリルがあってかっこよく、この歌が千葉という死神のキャラクターを端的に表しているように感じさせた。萩原の演技にもグルーヴがあって、一挙手一投足も観客を飽きさせない。狂言回しもこなしながら、藤田と阿久津のヤクザ同士の絆をあぶりだしていく様は、探偵小説を読んでいるようにスリリングだった。

阿久津役の植田圭輔の“下っ端感”は、台詞の最初のひと言を発した瞬間に当たり役だと感じてしまうほどの説得力があった。金色の長い髪に、いかにもチンピラが着そうな出で立ち、やたらに汚い言葉で罵り、ハイテンションすぎて人格が壊れているのかと思いきや、神様のように崇拝している藤田に猫のようになついていたりする。性格は双極的で、事態が切迫するとパニックになってあたふたと走り回る。そんな狂気すれすれの“ヤバイ”感情が、ときおり垣間見える無垢で優しい感情を際立たせ、彼の居住まいは、幼い孤独な少年のように見えて、思わず抱きしめたくなるほど可愛らしくて泣けてきた。

脚本・演出の和田憲明は、ほぼ4人芝居という舞台空間に “人間そのもの”や“人間の愚かさ”、“人間の美しさ”を役者たちに表現させることに成功しており、伊坂幸太郎の描いた死生観だけではなく、“死”という人間の究極のエンディングを巧みな演出で表現してみせた。

終演後に感じた言い難い軽い脱力感は、まさにハイテンションな舞台を目撃したあとの演劇の醍醐味を味わったせいかもしれない。お祭りの“ハレとケ”がそこにはあった。“死とは、生とは”という誰にも答えが出せない問いと“演劇”の持つダイナミズムが手を取り合えば、“人間”の奥深さを思わず考えさせられる。とてつもなく難しい夏休みの宿題をもらったようで、なんだかフラフラして劇場の外に出ると、一面に綺麗な青空が広がっていて、やっぱりこれだから“舞台”は楽しいと心の底から感じてしまった。これこそ“生きる”ことを実感しているのではないか。そして、死神の千葉もこんな空を眺めることができればいいのにな、とふと思った。

観終わったあとに雨の空や晴れの空が好きになってもらえるように

公開ゲネプロのあと、囲み取材が行われ、萩原聖人、植田圭輔、細見大輔、ラサール石井が登壇した。

まず、ゲネプロの感想を問われた萩原聖人は「演出の和田憲明さんのおっしゃるとおりに演じたつもりなので、かっこいいものになっていますよ」と答え、カンパニーの中で唯一初演を経験しているラサール石井は「もう一度、イチから演じるつもりで、ドキドキしています。ゲネプロは失敗せずにやれたかな(笑)」と笑いをとった。

植田圭輔は「お客様にどんな反応をしていただけるかワクワクしながら初日が明けて、本番が始まっても微調整があると思いますので、改めて気合いが入りました」と意気込み、細見大輔は「初日が永遠にこないような気がして(笑)。とにかく、緻密な稽古の期間を経てこの場にいるので、和田さんの演出を信じて、頑張りたいと思います」と決意を滲ませた。

萩原聖人

和田の演出の厳しさは演劇界でも話題に上がるほど評判だが、25年以上前に演出を受けたことのある萩原は「あの頃は何もわかっていませんでしたね。現在もわかっていなかった気もして(笑)。でも緻密さや濃密さがある和田ワールドは変わっていませんでした」と稽古を振り返った。

一方、和田の演出を初めて受けた植田圭輔は「どれだけ食らいつけるのか、どれだけ自分が一生懸命になれるか、どれだけ自分を好きになってもらえるのか考え続けた稽古でした。和田さんの演出は沁みることもあれば、『なにくそ』と思うこともありつつ、振り返ると、みんなで一緒になって苦楽を共にしたあっという間の1ヵ月でした」と激しい稽古の日々を語った。

植田圭輔

ラサールは「みんなも食らいついていましたが、初演も大変だったよ。本番になって『台詞がまとまってきたな』と思った矢先に、突然和田さんに『全然、ダメ』と言われて。和田さんは暗転も嫌いだからとにかく演じ続けないとダメで。精神的には大変でしたね。けど、今でも初演のメンバーに会うと“ハグ”をし合う同志になっています(笑)」と初演の思い出話を披露した。

それを受けた萩原は「今回の4人は図太かった(笑)。打たれても自分なりに跳ね返して、和田さんだけじゃなくてほかの人にぶつけるほどでしたから」と語ると、キャストから思わず笑いがこぼれた。また稽古後はよく食事に行ったようで、ラサールは「話していたのは、演技論とかではなく、漫画『ONE PIECE』のことだったよね(笑)」とネタバラシも。

細見大輔

役どころを聞かれた萩原は「“華”がないぶん、男4人のみずみずしい芝居になっていると思います。実際に雨が降っているし」と笑わせる。植田は「人間くさくて屈折していても可愛らしくて。僕も屈折しているから好きな役ですね」とニッコリ。細見は「着替えが大変だった」とひと言。衣裳は演出の和田のこだわりのようで「和田さんの好みがバッチリ反映されたこだわりの衣裳です」と自慢げにポーズをとった。

先月プロ雀士の資格を取得した萩原は稽古中に誕生日を迎え、「誰も祝ってくれない、みんなつれないなと思って稽古が終わると、麻雀卓をかたどったケーキをいただきました。しかも、“国士無双”の役牌をイメージしたケーキで嬉しかったです」と喜びのエピソードを明かした。

ラサール石井

最後に萩原は「イメージは暗いかもしれませんが、どの年齢層の方でも楽しめる作品です。男だけの暑苦しい舞台ですが、雨が降っているので涼しめると思いますよ」と作品の出来栄えに自信を漂わせ、植田は「観終わったあとに雨の空や晴れの空が好きになってもらえるようにしたいです」、細見は「僕の中では植田くんはヒロインだと思います。可愛らしいから!(一同爆笑)。年齢層の高い3人も観てね」と抱負を述べた。

そしてラサールが「藤田は初めて周りから『カッコいい!』と言われた役です(笑)。伊坂幸太郎ファンも、演劇ファンもエンタメ系が好きな方もご覧になれる作品だと思います。ぜひ劇場にいらしてください」と締めて会見は終了した。

公演は、9月9日(日)まであうるすぽっとにて。その後、地方を巡演し、9月30日(日)の岩手公演で千穐楽を迎える。

石井光三オフィスプロデュース
『死神の精度~7Days Judgement』

東京公演:2018年8月30日(木)~9月9日(日)あうるすぽっと
岡山公演:2018年9月11日(火)倉敷市芸文館
愛知公演:2018年9月13日(木)青年文化センター アートピアホール
兵庫公演:2018年9月19日(水)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
山形公演:2018年9月23日(日・祝)シベールアリーナ
宮城公演:2018年9月28日(金)電力ホール
岩手公演:2018年9月30日(日)盛岡劇場 メインホール

原作:伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫刊)
脚本・演出:和田憲明

出演:
千葉 役:萩原聖人
阿久津伸二 役:植田圭輔
青山 役:細見大輔
藤田敏之 役:ラサール石井

オフィシャルサイト
公式Twitter(@7days2018)

関連書籍:伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫刊)