Interview

三浦春馬が、盟友フィリップ・ブリーンとタッグを組む。「僕の役者人生にとって大きな挑戦」というドストエフスキー原作『罪と罰』に彼の学び続ける姿勢を見る

三浦春馬が、盟友フィリップ・ブリーンとタッグを組む。「僕の役者人生にとって大きな挑戦」というドストエフスキー原作『罪と罰』に彼の学び続ける姿勢を見る

近代文学の創始者ドストエフスキーの代表作『罪と罰』が、三浦春馬、大島優子らを迎え、Bunkamuraシアターコクーンにて2019年1月9日(水)より上演される。本作演出には『地獄のオルフェウス』(15)、『欲望という名の電車』(17)での演出を高く評価されたフィリップ・ブリーンを招聘。さらに上演台本も彼が手がけ、2016年のロンドン版から新たに書き下ろし、日本版オリジナルのストーリーとして仕上げる。
哲学的な思索、社会に対する反動、それらを当時のロシアの民衆の生活状況に照らしてあぶり出しながら、「正義のためなら人を殺す権利がある」と信じるラスコリニコフという殺人者の心理を緻密に描く。
今作で主人公・ラスコリニコフを演じる三浦春馬にインタビュー。『地獄のオルフェウス』から2度目のタッグとなるフィリップ・ブリーンとの信頼関係から、今作への意気込み、演技論までを語ってくれた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

お客様の気持ちを最後まで掴んで離さない魅力的なストーリー

近代文学の傑作、ドストエフスキー『罪と罰』が、フィリップ・ブリーンさんの手によって日本で舞台化されます。フィリップさんが手がけられた脚本をお読みになられた感想をまずは聞かせてください。

とても面白かったですね。原作は書かれた時代や国も違いますから、現代の僕を含め皆さんにとって読み解くのが難しいかもしれませんが、フィリップの戯曲は、きちんとお客様の気持ちを最後まで掴んで離さない魅力的なストーリーになっています。物語のスリリングな展開、そして、主人公や彼を取り巻く人間たちの“心”の機微まで垣間見えるので、お客様は存分に楽しめると思います。そこから、人間の行動につきまとう、“善”や“悪”の間で揺れ動く気持ち、すなわち人間のアンビバレンスな感情をリアルに感じ取っていただければ嬉しいですね。「“生”や“死”とは?」、「“善”や“悪”とは?」という哲学的なテーマが幾重にも重なり、重層的な構造になっているので、一見すると紐解くのは難しい題材ですが、僕らのカンパニーがつくる『罪と罰』に向き合っていただければ、この舞台が2019年に上演される意味も含め、様々な感動を味わっていただけると思います。

「哲学的なテーマ」とお話が出ましたが、三浦さんが感じられた作品のテーマを具体的に聞かせてください。

脚本から感じたテーマは、「自分はこの世界で何ができる?」あるいは「何をしたい?」といった“自分”と“世界”の対峙から、「自分なんかちっぽけな存在だ」と10代の学生時代に感じたような自己嫌悪の感覚、さらに「ならば自分に何ができるのだろう?」、そういった“人間”の存在に対して、答えのなかなか見つからない問いかけをしていることです。同時に、ラスコリニコフのように、モラルを超えて何かをするだけの勇気があるのかと訴えかけてくる挑発的な作品ですね。そうして、ラスコリニコフが錯綜した想いを抱きながら自分を脱皮して、跳躍するための具体的な行動が描かれています。しかしその行動は「自分は特別だから」、「自分のためではなくて人々のためだから許される」という倒錯的な動機によるもので、金貸しの老婆を殺害してしまうのですが、だからといって、「彼の行動は責められるのか? 動機と行動のズレはなぜ起こるのか? 本当に悪いのは誰なのか?」と問いかけたくなる。そんな人間同士の正義感のせめぎ合いや、悪意が激しくぶつかり合い、とてもスリルがあります。今作は、そんな“人間そのもの”を劇的に描いています。

様々な感情のストラッグルを抱えているラスコリニコフを演じるのは、とても難しいと思います。現時点で、演じるうえでどのようなことを大切にしたいと思いますか。

帝政ロシアのお話であり、その時代の政治だけでなく、神話やキリスト教、つまり宗教も引用されているので、まず、時代背景を含め、物語の外郭に触れていきたいと思います。今作への出演が決まってから、フィリップが来日してワークショップをしたんです。そこで、とあるキャラクターを演じるのに、「別の何かに例えるとしたらなんだと思うか?」と問いかけられ、それが動物なのか、静物なのか、人智を超えたものなのか、お互いのイメージをぶつけ合いましたが、僕がフィリップに「あなたの場合は?」と尋ねたら、いとも簡単に答えられました。ですので、僕もフィリップのようにもっと深く、もっとイメージを豊かにして、ラスコリニコフの造形、彼が自分を特別視してしまう心のメカニズムをしっかりと理解したいです。そうしなければ、ラスコリニコフの感情が爆発する瞬間を表現できないと感じています。

ラスコリニコフという人物はどんなところが魅力でしょうか。

例えば、演技で人を騙す“コールド・リーディング”という手法があります。会話をしながら相手を騙しつつ、いつの間にか自分の手口に引き込むテクニック。最たる例は占い師ですが、まるで自分の人生が当てられているような感覚に陥ることがありますよね。それは、占い師が“コールド・リーディング”をして、相手の過去の経験を引っ張り出しているからなんです。ラスコリニコフの会話には、そんな手法が散りばめられています。しかも、この手法は一種のカリスマ性が付随するので、彼は神様のように神々しい存在になってしまいます。

人間を超えてしまう人物を演じるのは本当に難しそうです。

そうですね。なので、彼の生い立ちやその時代の社会状況、さらには居住まいまで考えつくすと、声の発し方さえ変わってくると思いますから、フィリップとよく相談したいと思っています。ただト書きに書いてあることをなぞるのではなくて、様々な方法を試していきたいですね。テネシー・ウィリアムズの『地獄のオルフェウス』でフィリップに演出されてから約4年、いろんなことに触れて成長した自分が、今どんなものを届けられるのか考えて、彼に尽くしていきたいです。

様々なメソッド(演技方法)を参考にしながら

それでは、具体的にどのように役づくりをしていこうと思いますか。

いろいろ考えている最中ではあるのですが、僕が読んだエドワード・D・イースティの『メソード演技』という演技論本のメソッドが役に立つと思いました。その中のひとつに、舞台上に“人間”と“チンパンジー”を置いて、「お客様はどちらを見続けますか。やっぱりチンパンジーですよね。なぜだと思いますか?」と問いかけるんです。緊張して立ちつくす人間の演技は、大げさに表現して見えるだけなのに、チンパンジーは悲鳴や鳴き声をあげるのか予想がつかない。だから思わず見入ってしまう、そんな観客の心理を暴いていくものです。

なるほど。初めて知りました。奥が深いですね。

映画『ゴッドファーザー』であれば、アル・パチーノの一瞬の振り向きに「何を感じますか?」と問いかけて、「そうなんです、ゴリラを演じているんです」と意味付けをしたりする。もちろんゴリラを演じているわけではないですよ(笑)。つまり、僕らの身体の動きが、お客様に象やテナガザルといった動物さえ想像させるスペースを演技でつくる必要があると提示しています。今作であれば、先のメソッドだけではなく、様々な過去のメソッドを参考に、ラスコリニコフに漂うヒロイズムを模索しながら、柔軟で複雑な演技を心がけたいです。フィリップは「この戯曲は、7年間まるで心臓の鼓動のように私の中に生き続け、私が大事にしてきた戯曲です」とおっしゃっていました。その言葉の重さを感じたので、相当な覚悟で臨まないといけないと思っています。そうでなければ、彼の要求したものに近づけないですから。

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