佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 60

Column

スーパースターの素顔や真実をたった一人で伝える画期的なパフォーマンス~高山広による一人芝居を観て

スーパースターの素顔や真実をたった一人で伝える画期的なパフォーマンス~高山広による一人芝居を観て

伝説のブルースマンであるロバート・ジョンソンと、ロックンロールのキングと呼ばれるエルヴィス・プレスリーの命日である8月16日に、期せずして「ソウルの女王」として知られるアレサ・フランクリンが亡くなった。

デトロイトで8月31日に行われた彼女の葬儀は、インターネットで世界中に生中継された。

ぼくはその翌々日、東京の目黒で高山 広の一人芝居(ワンマン・プレイ)による「ルーサー・バンドロス物語」と、「アレサ・フランクリン物語」の二本立て上演をみる予定になっていた。

これは日頃からブラック・ミュージックについての疑問などを教えていただいている音楽評論家、翻訳家としても活躍している吉岡正晴さんによるシリーズ「ソウル・サーチン:ザ・セッション」のスピンオフ企画だ。
一人のアーティストにスポットをあてて、「一人芝居」という形でその人となりや作品を紹介するのは、吉岡さんとしても実験的な試みに入るという。

吉岡さんは演目と開催に至る経緯について、ブログにこう記していた。

2006年7月1日、ルーサーのちょうど一周忌に行われた「ソウル・サーチン:ザ・セッション~ルーサー・トリビュート」の演目のひとつ。
その翌年、2007年3月、同じく「ソウル・サーチン:アレサ・フランクリン・トリビュート」で「アレサ物語」を上演。満員の観客からは大喝采を浴びたもの。
この今回の公演が決まったのは7月上旬。そこからまさかのアレサの急死。
急遽、追悼となったわけだが、それで、高山さんはその死去部分を急遽入れ込むことにした。
いわばアレサ物語は、再演というより、むしろ初演になりそうだ。

この企画に興味を抱いていて、ぼくを誘ってくれたのが湯川れい子さんだったが、終演の直後にTwitterで早くも的確な感想をつぶやいていた。

音楽評論家、吉岡正晴さんのお誘いで、目黒のブルース・アレイに、高山 広さんの一人芝居「ルーサー・バンドロス物語」と「アレサ・フランクリン物語」を観に行ってきました。帽子や眼鏡を小道具に、声色を変えて2役、3役をこなし、スターの孤独や夢、魅力を伝えてくれる感動のパフォーマンスでした。
高山 広さんはスーパースターの孤独、彼ら彼女らが何を伝えようとして苦労したのか…という、夢とメッセージを一人芝居で魅せて頂きました。この一人芝居で、時代や社会的背景なども織り込みながら、美空ひばりさんやエルヴィス、マイケルをやって欲しいと、佐藤 剛さん、吉岡正晴さんとお話しました。

ぼくは大学が文学部の演劇科だったこともあって、先輩が取り組んでいた一人芝居の稽古につきあったりしたのが18歳のときだ。
その後もイッセー尾形さんの舞台などには接していたのだが、今回は吉岡さんと高山さんのおかげで、一人芝居というものの面白さについて、あらためて目を開かれたように思う。

というのも、観客の誰もが容易にイメージすることができるスーパースターのエピソードは、一人芝居だからこそ言葉がストレートに伝わってきたからだ。
そして高山さんの演技と演出には、瞬間的に夢や孤独を観客と共有できる面があることもわかった。

しかも物語の中心には必ず歌と音楽があり、それを実際に聴くことができるのだからわかりやすいのだ。
シチュエーションに合わせて流れてくる歌や音楽によって、時代の空気を感じることができるし、スーパースターの心の叫びをそのまま正面から受けとめることにもなる。

演技と演出もさることながら、高山さんには作劇の面においても確かな実力を感じた。
湯川さんが述べたように時代や社会的背景なども織り込みながら仕上げていったならば、音楽を主役にした素敵なエンターテインメント作品が生まれてくるのではないか。

ミュージカルとは異なる分野で、一人芝居から意欲作や実験作が生まれてくる、そんな可能性に期待がふくらんだ一夜だった

写真 / 長渡和好

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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