SID 15th Anniversary Special マオ Self Liner Notes「歌詞を巡る旅」  vol. 5

Interview

シド 4th Album『センチメンタルマキアート』〜とにかく“いい曲”をみんなで出し合って作品にしようという意欲が色濃く出たアルバム〜

シド 4th Album『センチメンタルマキアート』〜とにかく“いい曲”をみんなで出し合って作品にしようという意欲が色濃く出たアルバム〜

Self Liner Notes連載「歌詞を巡る旅」。今回はインディーズ最後のアルバムとなった『センチメンタルマキアート』の記憶をたどっていきます。まず、『センチメンタルマキアート』というタイトルは、ちょっとセンチメンタルなんだけどオシャレで甘い、みたいな。そういう感じを出したくて“マキアート”を付けたんじゃなかったかな? ジャケットヴィジュアルのカブトムシは……なんだろうね(笑)。タイトルとは関係なさそうだから、これはインパクトかな。このカブトムシの王様感が「これからやったるでー!!」っていう、シドとしての気持ちを表してるんでしょうね。当時はバンドとしてイケイケの時代でしたから(笑)。でも、いまだにライブでやっている曲が多いですね。この時期、どういうアルバムにしようというような話はあんまりしてなかった気がしますね。とにかく“いい曲”をみんなで出し合って、それを作品にしようという意欲が色濃く出てますね。大人っぽいものから狂気的なやつ、乙女なラブソングや明るいエールソングにバラードまで、曲はいろいろあって。ウチは曲のバリエーションが豊富というのがデカいんですよ。これが、一人しか作曲していなくて、似たような曲ばっかりだったら、歌詞もこんなにいろいろ冒険できなかったと思います。これだけいろんな曲を書けるヤツらがいることで、俺の歌詞の幅をどんどん広げていってくれたんじゃないかな。さっきお話したとおり、このアルバムを作った頃は、まだ自分はどういう曲を作ろうかとか、俺だったらどういう歌詞を作って、それをどう歌おうかっていうところに各々が力を注ぐという感じだったんですよ。それで、この後ぐらいからかな? 1枚の作品としてアルバムをどうしようかって考えるようになっていったのは。

構成・文 / 東條祥恵 撮影 / 今元秀明

「あの言葉、もう1回言われたいな」って個人的に思っちゃったんですよね

01. 証言
(作詞・マオ/作曲・御恵明希)

影系ですね。これは『愛の流刑地』っていう裁判ものの映画を観て書きました。一人の女とそれを取り巻く二人の男が出てきて殺人が起こり、ちょっとずつ真相が明かされていって、最後は凄いことになるんですけど。それが、めちゃくちゃきちゃって。“なんじゃこの映画は!”って、衝撃を受けたんですよ。それでこの歌詞を書いたんです。映画の主題歌は平井堅さんが歌っているものがちゃんとあるんですけど、「証言」は勝手にテーマソングというか(笑)。俺だったらこう書くなっていうのを想像しながら歌詞をまとめていった気がしますね。“あなたでも あなたでもない 私を 選んだ朝”という歌詞は、たしか(映画が)最終的にそういう終わり方をしてたから書いたところだと思うんですよ。それぐらい映画の内容に影響されてますね。『愛の流刑地』を観たあとにもう1回これを聴くと、そういう感情も分かるんじゃないかな。こんな話をしてたら、俺も映画、もう1回観たくなってきたな〜。皆さんにも、映画を観てから聴いて欲しいですね。

02. 夏恋
(作詞・マオ/作曲・しんぢ)

ちょっとハメ外そうかなって感じで書きました(微笑)。たまーに書きたくなるんですよね、こういうの。これより前はあんまりなかったかもしれないけど。これまでたびたび「どうなりたいの、シドは?」って言われ続けてきたんですけど、だんだんなくなってきたので、ここら辺で「あの言葉、もう1回言われたいな」って個人的に思っちゃったんですよね(笑)。だから、(歌詞のなかの)“♡”とか“微炭酸peach”を嫌がってるメンバーもいたし。そこは俺が、これだから! って言ってゴリ押ししましたね(笑)。“微炭酸peach”は最初、たしか“微炭酸coke”だったのかな? でも、いろいろ審議した結果、このままだと商品名に引っ掛かるってことになって。じゃあなんか代わりになるもの、甘いものない? ってことでpeachでいいんじゃないってことになって。甘酸っぱいし、それでいこうってことになったんです。でも、シングルで「夏恋」を出したら「どうなりたいの? シドは」ってまた言われるんだろうなっていう俺の予想とは裏腹に、この曲、めちゃくちゃ人気が出たんですよ(笑)。「なんだ、こういうのも好きなの」って、そのときは思いましたね。こういうのもありなんだって。これはライブのMCでも言ったことがあるんですけど、歌詞のなかに出てくる“赤外線”とか、時代が感じられていいですよね。いまはもうないし。“鍵つけたの”という部分の鍵は、いまもあるのかどうか分からないんだけど、当時は携帯電話のメールに保存機能があって。それが鍵のマークだったんですよ。あれが結構流行ってて。告白された日のメールは鍵をつけて保存しておく、みたいな感じで使ってたんですよ。そういうのっていいなと思って書きました。こういうラブソングものは楽しんで書いてますね。俺、aikoさんとかちゃんと通ってきてるんで。ああいう乙女な歌詞もめちゃくちゃ好きだし。フェミニンなオザケン(小沢健二)さんとかの歌詞も好きだし。男でも“俺についてこい!”じゃなくて、一緒に楽しくやろうよみたいな感じが俺はすごく好きだったんで。いまこうして読み返すと、そうやって影響されたものがちゃんと出てるなって感じがしますね。aikoさんとかオザケンさんを聴いてなかったら、こういう歌詞を書くにしても、もっとよくある感じで書いていたかもしれない。

03. 右手のスプーンと初恋とナイフ
(作詞・マオ/作曲・しんぢ)

これは、曲を作るときから「これ、もうちょっと意味分かんない展開の曲にしたほうがいいよね」ってずっと言ってた曲なんですよ。「だったら歌詞も意味分かんないほうがいいよね」って書いたものなんで。さっき改めて歌詞を読み返してみたんですけど。やっぱり意味分かんなかったですね(笑)。ちょっと意味が分からない人の歌なんですよ。「吉開学17歳(無職)」的な流れがあったんですかね。この人は、人の温かみを知らなかったんだろうなっていう感じがすごくしてきますね。それで、最後は人を殺めちゃったりしてるのかな? だから、ストーリー展開としてはちょっと可哀想な感じなんですよ。でも、レコーディングはめちゃくちゃ面白かったんです。「なんじゃこりゃ!?」って言いながら作業をやってましたからね。歌詞の表記も「なんじゃこりゃ!?」になってて面白いんですよ。後半は句読点を入れないで、言葉がずーっとつながってるんです。見た目も変ですよね(笑)。最初はきっと、前半と同じように句読点を入れて文を分けようとしてたんだと思うんですけど。実際にそれを歌ってみたら、全然そういう感じじゃないなと思って。しかも、ずっと同じことを繰り返し言ってるんですよね。だったら歌詞もこういうほうが面白いんじゃないかと思って、句読点とか全然入れないで表記してみました。とりあえず、ここには変な曲を入れたかったんですよ。「夏恋」というポップな曲のあとだから。ライブでもまたいつかやりたいですね。

04. 蜜指〜ミツユビ〜
(作詞・マオ/作曲・しんぢ)

ジャジーなシャッフル系の曲です。こういうわりと早口で歌っていく曲は、そのぶん文字がいっぱい入れられるから、書いてて楽しいんですよ。これも、歌詞は楽しんで書けた気がしますね。歌詞のテーマはエロなんですけど……“汚化してあげる”って、流行ったな〜(微笑)。当時は、CDショップの試聴機で曲が聴けるようになってたじゃないですか? そこでこの曲を聴いたファンの子たちが「この人、“犯してあげる”って歌ってるよ」っていうことですごく盛り上がってたんですよ。でも、CDを買ったあとに歌詞カードをちゃんと見てみたら「なんだ、あの“犯してあげる”じゃなかったんだ」、「私が間違えてました」、「違う想像をしてました」、「恥ずかしいです。すいません」っていうお手紙がめっちゃ届きました(笑)。最初にファンがそうやって盛り上がってる頃から「俺はそんなこと言った憶えはないけどね」って思いながら、ニヤニヤしてましたけどね。自分なりに遊び心をきかせたところにちゃんと引っ掛かってくれて、面白かったですね。この曲は当時いろんな人から「“蜜指〜ミツユビ〜”ってどんな意味なんですか?」っていう質問をすごくされた記憶があります。歌詞のなかに女の人が三つ指をついてというシーンが出てくるので、その漢字を蜜に変えてタイトルにしたんですけど。蜜っていう漢字、好きなんですよ。すごい好きですね、この形。俺、だいたい好きになる漢字は形なんです。たぶん、自分が書いてて気持ちいい漢字というのがあって。いっぱいハネがあるとか、真ん中に中心がしっかりあるとか、なんかいろいろ好きなポイントがあって。この蜜という字の形はすごい好きだな。「蜜指〜ミツユビ〜」は先にシングルとしてリリースしたんですけど。この当時のシングルやカップリング曲は、いまもライブのセットリストに残ってる曲が多いんですよね。

シドとしてシーズンものは全部欲しいなという構想があるんです

05. 誘感コレクション
(作詞・マオ/作曲・御恵明希)

これ、歌詞がめっちゃいい感じですね。いま見ても全然大丈夫な感じ。最初、コンガと歌みたいな感じで始まっていって、“スコールみたい”っていうところから音がバーンと入るんですけど。これは、その“スコールみたい”っていうところの歌詞が最初に出てきて。スコールみたいだなと思ったんですよ。あの、音が一斉に入ってくる感じが。そこから“亜熱帯に迷い込んだ 指先は躊躇を演じ”ってところから、どんどん夜系にエスカレートしていくんだけど。その言葉がうまいことメロにはまってるところが、いい感じです。言葉の意味をちゃんと考えていくと、例えば“嗅ぎつけたそれに ディープを添えて 含み 離さない 吸盤の愛”という部分も、言葉それぞれはそんなにエロくはないじゃないですか? でも、なんかしらないけどエロいっていう感じが俺、いまも好きで。ここで“甘い匂いがして 濃厚にキス”とか書いちゃうと、どうしても官能小説みたいになっちゃうんですよ。そうじゃなくて、ギリでどこかエロさを感じさせる。“知的エロ”、“文学的エロ”っていうのかな? そのギリギリのラインって、いったいどこなんだろうっていうのを、これを書くときはすごい考えました。この言葉だと恥ずかしいな、ここまで濁しちゃうと意味が分かんなくなるなとか、ちょうどいい塩梅をめちゃめちゃ探しながら書いていったんですよ。例えば、さっき出てきた歌詞のなかの“吸盤の愛”とかも、吸盤だけだったらなにもエロくないじゃないですか? 吸盤なんて元々人間にはないものだし。それが、なんか分かんないけどめちゃくっちゃエロく感じるっていうのを探していったら、ああなりました。そういうなかで、言葉遊びも楽しんでますね。“恥じて 「弾いて…」”とか。本当にこの歌詞はいいです。タイトルの「誘感コレクション」の“誘感”を“誘惑”と間違える人がたくさんいたのには驚きました。そこは全然狙ってなかったんで。響きがこっちのほうがよかったから“誘感”にしただけです。

06. and boyfriend
(作詞・マオ/作曲・ゆうや)

これは、アルバムで唯一のゆうや曲。この曲を持ってきたときは「かわいい曲持ってくるなー」って思いました(微笑)。歌詞は、友達のままでいたほうが良かったのにっていうパターン、よくあるじゃないですか? ドラマとか観てると……現実でもあるか。それが、本当にそうなっちゃったっていうパターンのお話ですね。俺がこの歌詞のなかで一番好きなのは、“ねぇ 近頃 返事も早すぎるんじゃない?”っていうところ。ここがすごい好きなんですよ。これはメールだと思うんですけど、「好きなほうが返事、早いじゃん!」って普通なら考えると思うんですよ。好きだとすぐに返したくなるから。だけど、そのもっともっと初期の段階で、自分が相手を大好き過ぎる頃って、自分のことを良く思われたいっていう気持ちがめちゃくちゃ強くあって。でも、初期の頃だから相手の好みとか趣味とかまでは全然分かってないから「これ送って嫌われたらどうしよう」とか、とにかくすっごいいろんなことを時間をかけて考えて考えて。そのあとでメールを送ってたはずなんですよ。それが、最近はなくなっちゃったね、ってこと言ってるんです。最近は、例えば「好き」って送ったら、「俺も好き」ってすぐになにも考えてないようなあっさりしたメールが返ってくる、みたいな感じになってて。このすぐ返ってくる感じって、前と違うんじゃない? ていうような主人公の女の子の気持ちがこの1行には詰めこまれているんです。当時はこの1行でそこまでのことが伝わるなんて全く思ってなかったですけど、俺はそういうつもりでこの1行を書いたんですよね。で、そのあと主人公の女の子は彼にやきもちを焼いて欲しくて、ちょろっと遊んじゃうんだけど。そうしたら、それが大変なことになっていっちゃって。向こうには新しい彼女もできちゃって恋人にも戻れない。かといって前みたいな友達にももう戻れない。そういう関係になってしまったという、せつないお話ですね。

07. orion
(作詞・マオ/作曲・御恵明希)

最近ライブで全然やってないですね。やんなきゃなぁ(笑)。バレンタインデーにライブをやるときは、これ、歌わなきゃ。これは男目線で、男ゴコロを歌ったバレンタインを題材にした曲です。実体験ではないですね。俺はこの人とはちょっと違うんで。この頃、歌詞は自由に書きたいなというのがあったんですよ。歌詞ってこうだよねっていうものになるべく縛られたくなくて。バレンタインの歌詞を書くならこうだよねとか、こういう言葉を使ったら変だよねとか、そういうのは一切なしにして書いてます。例えば“この気持ち 気づいてよ やめた 気づかないで”とあるところは、考えないでバーッと書いてると思うんですよ。“この気持ち 気づいてよ”まで書いたあとに、やっぱ気づかれたくないなと思ったからそれをそのまま“やめた 気づかないで”って書いていった気がします。あと、バレンタインを題材にしたとしても、チョコとかバレンタインっていう言葉を使っちゃうと元も子もないんで。だから、タイトルにも歌詞にもその言葉は1個も入れなかったんですよ!“義理で溢れかえる”とか“ビター”とか“噛み砕いて”とかは書いているけど、どこにもチョコとは入れてないんです。でも、これだけだとバレンタインのことだって伝わんねぇな、伝わんなかったら一番最悪だなと思ったんで、たぶん“2と1と4”を入れたんだと思います。主人公の男の子はバレンタインデー当日、好きな女の子からチョコレートはもらうんだけど、それが分かりやすい義理チョコだったんですよね。そのチョコが“冷蔵庫 特等席で 眠る”というところは、男のバレンタインあるある。俺もそうだった。学生のときとか。義理チョコでも大事に取っておくの。男って、そういうところがあるんですよ(笑)。この曲はバレンタインを題材にしましたけど、シドとしてシーズンものは全部欲しいなという構想があるんです。誕生日がまだないので、書きたいんですよ。誕生日もの。俺がシーズンものが好きなんです。その時期になったらその歌が流れるっていうの、いいじゃないですか。

08. マスカラ
(作詞・マオ/作曲・しんぢ)

これは曲調が新しかったんですよ。当時のシドにはなかったタイプ。ちょっとダル〜いUKバラードみたいな感じだと思うんですけど。俺はすごい好きなジャンルなんで、この曲があがってきたときは、結構テンションが上がったのを憶えてますね。「なにこの曲、カッコいいな」って。歌詞も、これまでの曲たちみたいに、こういう情景だよね、バーンという書き方じゃなくって。ちょっとぼんやりしていて、影があって。けれど、聴いてると頭のなかに男女が出てきて。ぼんやりしてるから顔までは見えてこないんだけど、男と女がいるのは分かる。そんな感じの歌詞を書きたいなと思ったんですよ。結果、歌詞は、せつない短い恋のお話になりました。ビューラーが歌詞に出てきたのは……自分が普通に使ってたから(笑)。ビューラーを知っていたから出てきたんだと思います。普通のロックバンドの人、J-POPの人には、これは書けないでしょうね、さすがに(笑)。もちろん、いまは俺も使ってないですよ? でも、バンド結成したての頃は使ってましたからね。だから書けた。あと、これは俺のイメージなんですけど、ビューラーって、女の子の部屋のそこらへんとかにコロンと落ちてそうなイメージがあって。そのビューラーが出てくるのが、ちょっと生々しくていいかなと思った。ビューラー自体、あんまり高価なものでもないから、忘れ物としてはちょうどいいかなっていうことでビューラーにしました。それで“ビューラー”っていうタイトルだとさすがにひねりがないんで(笑)、ビューラーといえば「マスカラ」だろうと、このタイトルにしました。ちょうど“滲んだマスカラ”という歌詞もあったので。この曲は“後悔の先に立った”というところがいいなー。せつないんですけど、最後は“どうか 君にもいいことありますように”と相手の幸せを願って終わっていくところもいいですね。

「俺は天才じゃないから」って言うようになったんですよ。そうしたら、すごい楽になった

09. smile
(作詞・マオ/作曲・しんぢ)

これは、曲自体が明るさを極めたようなものだったので(微笑)、聴いてくれてる人たちに向けて、背中を押せるような明るくストレートな応援ソングを書こうと思いました。“悩んだって進まないさ”というのは俺の性格ですね。悩み続けて明日やろっかな、明後日やろうかなじゃなくて、いまやろう、と。そう思ったら夜中でもすぐにやっちゃうタイプだったんで。俺の性格をそのまんま書いたって感じですかね。いろんな経験をしてきましたけど、いまもここは変わらないかな。歌詞を読み返しても、間違ってはいないなって思えるんで。まさに“俺”っていう感じです。“照れでも 愚痴でも 理想でも そうなんだって聞かせてよ 味方はここにも一人いる それを忘れないで”というところは、聴いてくれてる人たちに向けて歌ってます。この曲にたどり着いたってことは、俺たちを好きだと言ってくれてる人だと思うんで。好きだと言ってくれてる人たちが俺は好きなんで。そういう人たちに向けて、味方だよって書いてますね。

10. Dear Tokyo
(作詞・マオ/作曲・御恵明希)

ストレートなものが続くなぁ。アルバムの最初のほうはぐっちゃぐちゃに凝りまくってたのに(笑)。エロかったり狂気じみてておかしかった人が、最後はやたら人間味がにじみ出てきていい感じの青年になっていってますね(笑)。この曲は、シングルでもなかったので、ここまでシドの定番曲になるとは当時思ってもみなかったです。いまあるノリとかは、ファンのみんなと一緒に作り上げていったものですね。あと、これを歌うと初心に帰れる、というものが欲しくて。上京したときの気持ちを思いっきり書いてみようかなと思った曲なんですよ。だから、本当に田舎にいた頃のリアルな話から歌詞が始まってます。“大半の「どうせ」”というのは、ほとんどの人に「お前バカじゃねぇの?」って言われてたんです。でも、なかには「お前だったらいけるんじゃねぇの? 結構ぶっ飛んでるし」って言ってくれる“少数の「期待」”をかけてくれる人もいてくれて。そのとき俺の父親は、「覚悟があるんだったらいいんじゃない?」って言ってくれたんで、それが“「背負ったのなら、君が思うままに」”というところですね。で、“いつの間にか 追い抜いた背中”は、俺のほうが父親より身長が高くなっちゃってたんで、それを表してます。上京するとは言ったものの、まだ子供だったんでビビりもあったんですね。だから“きっと大丈夫 きっと大丈夫さ 言い聞かせ 震えて眠る Dear west boy”と書いていて。1番は本当に時系列で、自分が上京するまでのことを歌詞にしています。2番からは上京後です。東京は当時の自分からすると海外みたいなもので。言葉も違うし、おしゃれで。“目的も放り投げた”って書いているように、バイトばっかりしていたらそれが楽しくなっちゃって。バイトがというよりも、お金を稼いで遊ぶことが。1年ぐらいバンドをやってない時期があったんですよ。遊ぶのが楽しすぎて。東京という街に速攻染まっちゃってたんですよね(笑)。働いて、稼いだお金は全部使って。当時は服ばっか買ってたんですよ。本当に“着飾って飛んで 働いて割いて 知らず知らず僕は一部になる”状態でした。それで、気付いたときには、楽しいなー、もう夢はいっかな、ぐらいまでになっちゃって(笑)。それで、ちゃんとやらなきゃって思い直して、再びバンドをやり出すんですけど。そういう俺の上京物語を描いてます。

11. 涙の温度
(作詞・マオ/作曲・御恵明希)

この当時のシドは、アルバムの最後はバラードで終わるって決めてました。だから、選曲会でも終わりの曲はどれだろうねっていう感じで選んでましたね。ここまで出してきたアルバムでも「空の便箋、空への手紙」、「微熱」、「live」、「涙の温度」、次に出すアルバムの『hikari』まで最後は全部バラードで終わってますから。ツアーでも、ラストはしっかりバラードで終わらせて。そうしていったのは、シドはロック色だけのバンドじゃないよっていうのを常に意識していたからですね。最後は演奏をしっかり弾き上げて、歌も歌い上げて終わるっていうのが自分たちの強みかなと思ってたんですよ。そのなかで「涙の温度」は、落ち込んでるときって「みんな一緒だよ」とか「運が悪かっただけだよ」って言われても、「いや、分かんないでしょ? こっちの気持ちは」って、本当に落ち込んでるときは思うじゃないですか? そういう本当に落ち込んでるときに聴いてほしい曲。これは当時“僕のことを好きな 君が好き”というところが、すごい反響があって。「なんですか、それ?」みたいな感じで「いや、分かってるけど、それ言葉にする?」って(笑)。「アーティストはみんなそうでしょ? それをわざわざ言葉にして伝えるってどういうことですか?」って散々言われましたね。しかも一番いいメロのところで。でも、俺が一番伝えたかったのはここ。他の人はどうでもいいんだけど、俺が好きとか、応援してますっていう人とか、シドが好きっていう人を「俺は好きだからね」っていうことが伝えたかった。伝え方が、なんか外国人みたいですよね(苦笑)。外国人が最近憶えた日本語を駆使して最上級の愛の言葉を「俺のことを好きな君が好き」って言ってるみたい。“「才能の人」演じてた過去のこと 「努力の人」と認めてくれたよね”というところは、そのまんま。昔からそうなんですけど、俺ってなにも努力しないでサラッと一番になれたってことがなくて。なんでなれないんだろうなっていうのを考えながら生きてきたんですよ。歌と出会ったときに、歌ったらすげーみんなに「上手い、上手い」ってほめられて。「俺、才能あるんじゃねぇかな」と、そこで初めて思ったんですよ。そうやって、歌は才能を持ってる人って勘違いして歩んできてたんですけど、東京に来た段階ぐらいからそうじゃないなっていうことに薄々自分でも気付き出して。東京に来てみたらすごい人がいすぎて、「俺、全然才能の人じゃないじゃん!」って思ったんだけど、それを許せない自分もいて。イケイケでここまできたのに、俺なんか才能ない、あっちのほうが天才だよなって言い出したらこのバンドもダメになるし、俺自身もマズイことになるなと思って。俺は、練習とかしなくて大丈夫だしってキャラでシドの途中まではきてたんですけど。さすがに、俺はそうじゃない、ちゃんとやらないとダメになるし、もう自分もこのままじゃきっついなーと思って。このちょっと前ぐらいからかな? インタビューやMCでも「俺は才能だけできたわけじゃないから」って言うようになったんですよ。そうしたら、すごい楽になった。そのあたりから、かなり個人で練習もするようになったし。歌詞に関しても、いろんなものを取り入れるようになって。いろんな音楽聴いたりしてアンテナを広げる努力をしていくようになって、自分を変えていったんですよね。

次回 5th Album『hikari』編は2018年9月下旬更新予定です。

リリース情報

LIVE DVD / Blu-ray『SID TOUR 2017 「NOMAD」』

2018年7月25日リリース
【初回生産限定盤DVD(DVD+写真集)】
KSBL-6322-6323 ¥6,000+税
【通常盤DVD】
KSBL-6324 ¥5,000+税
【初回生産限定盤Blu-ray(Blu-ray+写真集)】
KSXL-268-269 ¥7,000+税
【通常盤Blu-ray】
KSXL-270 ¥6,000+税

Mini Album『いちばん好きな場所』

2018年8月22日リリース
【初回生産限定盤(CD+DVD)】
KSCL-3076-3077 ¥2,788+税
【通常盤(CD)】
KSCL-3078 ¥1,852+税

ライブ情報

SID 15th Anniversary LIVE HOUSE TOUR

「いちばん好きな場所2018」
http://archive.sid-web.info/15th/

公演スケジュールなどの詳細は公式サイトをご参照ください。

マオ from SID

マオ/福岡県出身。10月23日生まれ。2003年に結成されたロックバンド、シドのヴォーカリスト。
2008年10月「モノクロのキス」でメジャーデビュー。以降、「嘘」「S」「ANNIVERSARY」「螺旋のユメ」など、数多くの映画・アニメテーマ曲でヒットを放つ。2018年、バンド結成15周年を迎え、4月にはセレクションベストアルバム『SID Anime Best 2008-2017』をリリース。直後の5月から6月28日まで“SID 15th Anniversary LIVE HOUSE TOUR 2018”と銘打った全国6都市14公演ツアーを無事に完走。そして、8月22日にリリースしたミニアルバム『いちばん好きな場所』を引っ提げ、9月からLIVE HOUSE TOUR“いちばん好きな場所”をスタートさせた。

オフィシャルサイト
http://www.maofromsid.com
http://sid-web.info

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