Interview

“人生で一番繰り返し観た第1話” あの『フリクリ』の衝撃を投影した作品に─劇場版『フリクリ オルタナ』上村泰監督が導き出した『フリクリ』像とは?

“人生で一番繰り返し観た第1話” あの『フリクリ』の衝撃を投影した作品に─劇場版『フリクリ オルタナ』上村泰監督が導き出した『フリクリ』像とは?

2000年にリリースされたOVA『フリクリ』から18年を経て、制作された新作劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』。全6話構成、作中に散りばめられたthe pillows楽曲などの前作からの要素を受け継ぐ中でさまざまな難問も現れた。海外での人気という実績も踏まえ、日本では劇場版として公開されるが、アメリカでは一足早くカートゥーンネットワーク(Adult Swim)でTVプログラムとして放映されるという構成の違いもその一つ。これら2つの新作のうち、『フリクリ オルタナ』を指揮したのは、学生時代にOVA『フリクリ』(制作/ガイナックス・Production I.G)の洗礼を受け、ガイナックスに入社・在籍したというキャリアを持つ上村泰監督。彼が語る言葉の中を探ると、2018年という時代の中に『フリクリ』という作品を放つ意味が現れた。

取材・文 / 清水耕司(セブンデイズウォー)


全6話を「分割しても一度に見てもOK」な曲の使い方に悩みました

本作はまず、上映・放映のスタイルが日米で異なりますが、そこは意識されましたか?

アメリカ版は1話ずつ放送、日本では劇場公開、ということはわりと初期から決まっていました。ただ、劇場版はアメリカ版を再編集して1本の形にするのか、アメリカ版と構成を変えずに劇場にかけるかは作る途中で決まりました。ただ、劇場で上映するということでthe pillows(以下、ピロウズ)の曲の使い方は最初からかなり意識していました。「テレビでも各話数で通用しながら、劇場でも通して流しても大丈夫なように」というのはかなり初期から話していましたが、これが激ムズなんですよ(笑)。曲のセレクトについては死ぬほど悩みました。劇場版で再ダビングする際に、さらに曲の位置を微調整させていただいています。

例えば、旧作のOVAシリーズは各話の最後に「LITTLE BUSTERS」が流れますが、劇場で一挙に公開ということを考えるとあれができなくなってしまうんです。ピロウズの曲の力が強いので、どうしても3話か4話の段階で「また流れた」となってしまう。アニメ上級者のお客さんならテレビシリーズの“一挙上映”と割り切って見ていただけるかもしれませんが……。

それだと客に委ね過ぎてしまう?

そう。やっぱり見やすさは大事にしたいところでした。なので、「LITTLE BUSTERS」が流れるのは4話と6話だけにしました。それこそ1話から3話と、4話から6話という分け方で見てもらえば、4話あたりから加速していく感じがわかると思います。(配給の)東宝さんに「3話と4話の間にトイレ休憩を作ってほしいんですけどねー」という話もさせてもらったんですが(笑)。なので、各話数完結でありながら全体の波は作っています。

『フリクリ』の新作ということで、ピロウズの楽曲を効果的に使うというのは命題としてあったかと思いますが?

今作ならでは、というところで言えば、叙情的な部分をかなりピックアップしています。旧作のOVAシリーズはすごく暴れているイメージが強いですが、何かセンチメンタルというか、繊細な部分も描かれていました。『-オルタナ』ではその繊細な部分を重点的にやりたい、それに合わせて楽曲を有効に使っていきたいと考えていました。ただ、その方向性に定まったきっかけの一つとしては、先に制作が進んでいた『-プログレ』が、大暴れする内容らしいということを(Production)I.Gのプロデューサーさん経由で聞いていまして。「じゃあ同じものを作っても仕方がない」というところがスタートでした。

では、上村監督にオファーが来たときはどのような作品を、という話だったのでしょうか?

特には何もなくて(笑)。最初の打ち合わせでは、サイドストーリー的なものはどうかという提案がありました。そのときはまだ引き受けるかどうかわからない段階でしたが、すでに『-プログレ』は動いていて、「そっちはこういう感じの作品にしようと思っている」「上村さんならどうしますか」という話だったんです。「じゃあちょっと考えてきます」という感じでしたね。

『フリクリ』の新作と聞いて受ける気満々でしたか?

いや、全然。むしろプレッシャーが大きくて。「やべえ!」って。

「すごいタイトルきた!」みたいな(笑)。

そう(笑)。ちょうど『幼女戦記』(TVアニメ、2017年放送)を作っている途中でのオファーだったので、「次の作品が『フリクリ』か」というところで悩みました。なので、鶴巻和哉さんをご飯にお誘いしまして、「『フリクリ』が来たんですけどいいんですか」という話をしたんです。そうしたら「知ってるよ。僕、OKしたから」と言われて(笑)。

大学生時代、初めてコマ送りで見たアニメが『フリクリ』だった

先ほど「プレッシャーが」というお話でしたが、OVAの『フリクリ』は当時どのように見ていたんですか?

当時、僕はアパートに下宿している大学1年生で、ただのオタクでした(笑)。ガイナックスの作品が本当に大好きで、僕がオタクになったきっかけは『ふしぎの海のナディア』と『王立宇宙軍 オネアミスの翼』なんですよ。当然『トップ』(『トップをねらえ!』)も『エヴァ』(『新世紀エヴァンゲリオン』)も見ていましたから、発売前から『フリクリ』の情報を見てすごく楽しみにしていました。でも、見てみたらとてつもなくおしゃれで(笑)。僕の人生で一番繰り返し見たのは『フリクリ』の第1話です。生まれて初めてコマ送りで見たのが『フリクリ』第1話の戦闘シーンだったんです(笑)。そのあと、いろいろな作品をコマ送りで見るようになり始めましたが。

そのあと、ガイナックスに入社されましたが、実際にアニメを仕事にしたことで『フリクリ』に対する印象は変わりましたか?

そうですね……。今、言われて考えてみましたが、『フリクリ』の印象は変わらないですね。うん、面白いですね。個人的に最近、大好きだったアニメを見直すブームが来ているんです。『ジャイアントロボ』とか『サイバーフォーミュラ』とか。演出になって、監督になって、今の状態で過去のアニメ作品を見直すと、演出意図やレイアウトがわかるんですよ(笑)。深い部分まで理解しながら作品を観ることができて、「これぞ監督冥利に尽きる」と思いながら楽しんでいるのですが、『フリクリ』は最初と全く変わらずに見られる不思議なタイトルですね。あまり分析もしないです(笑)。

コマ送りをしても?

ですね。作画は分析しても、演出論法のところではそういう目で見ない。ロジカルなようでロジカルではない感じが、あまり考えずに見て「いい」と感じさせるんでしょう。OVAが作られていた当時のことをガイナックス時代に飲み会の席などでよく伺ったのですが、1話ができるまでは何を作っているのかよくわからない、という話でした。「鶴巻監督は何を作っているのかよくわからん」って(笑)。でも、できあがってから「こんなすごいものを作っていたのか」と感じたと言うんですよ。その感覚は何かわかる感じがします。

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