Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』  vol. 1

Interview

Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』(前編)

Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』(前編)

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スタッフ・キャストを一新し、新生した「攻殻機動隊」。
2013年から始まった新シリーズのラストピースとなる『攻殻機動隊 新劇場版』のデジタル配信が9月5日に決定した!

最新作の魅力、そしてこれまでの「攻殻機動隊」の歩みを、
アニメ版「攻殻機動隊」の全作品に携わってきた
Production I.G・石川光久が語る。

インタビュー・文:阿部美香
撮影:増田慶


仲間を最高のパーツと呼ぶ主人公の言葉が表わす通り 最高のスタッフを集めて作られた作品

「攻殻機動隊」とProduction I.Gとの関わりは、1995年公開の劇場映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』から長く続いています。そもそもは押井守監督が、士郎正宗さんの原作漫画をアニメ化したいと石川さんにお話を持ち込んだところから始まったと伺っていますが。

石川光久(以下、石川) そうですね。厳密に言えば、おそらく出版元である講談社さんやバンダイビジュアルさんらが出資者となり、押井さんとProduction I.Gで映像化しようという企画が入口だったと思います。僕も原作を知ったのは、押井さんから薦められてなんですが、「攻殻機動隊」を映像化しようという話は講談社さんからも別ルートで来ていました。同じ講談社さんの『AKIRA』がワールドワイドな人気と評価を獲得したように、世界に日本のアニメーションをもっとアピールして行こうという考えがあったんだと思います。

押井監督から石川さんが原作となるコミックを見せられたのが、スキー場での出来事だったというエピソードを聞いたことがありますが……。

石川 はいはい(笑)。ちょうど社員旅行でスキー場に行っていて、そこに押井さんが「攻殻機動隊」のコミックを持ってきてましたね。押井さんからのアプローチと講談社さん側からのアプローチが同時期にあったんですが、そういうタイミングがぴったり重なるというのはとても珍しいことでした。

士郎正宗さんの原作本を読まれた時は、どう思われましたか?

石川 絵がとても実写的ですよね。描き込みも多いし、何より情報量が多い。個人的にもそういう作品は好きなので、アニメにした時にはレイアウトも含め、かなり奥行き感が出るだろうと。アニメーターにとっては大変ですけど、こういうのをやってみたいと思わせる作品でした。ただ、内容はちょっと難しいと感じました。押井さんが「10回読んでやっと分かった」と言ってたくらいですからね。押井さんには、「石川なら100回読んでも分からないだろう」と言われ……結局、2~3回で挫折しましたよ(笑)。

でも、ぜひやってみようと。

石川 そうですね。こういうタイプの作品は、コツコツとテレビシリーズを作っていく現場だけでは収まらないタイプのアニメーターを集めてやるのにぴったり。腕の良いスタッフを集められる作品としての強度が、この原作にはあると感じました。

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『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の当時から、「攻殻機動隊」シリーズがこれほど長く続く予感はあったのでしょうか。

石川 いいえ。正直、最初に映像を観せた時のみんなの反応は、手放しで大絶賛する感じではなかったんですよ。スタッフ試写をやったところのトイレで、「日本でヒットは難しいけど、海外だったらイケるんじゃない?」と誰かが言ったのを覚えています(笑)。士郎さんの作品をアニメ化するのは、当時も今も飛び抜けてハードルが高い。だからこそ、優秀なアニメーターが存分に暴れられる環境を作る必要があったんです。作画監督の黄瀬(和哉)やキャラクターデザインの沖浦(啓之)の力はもちろんですが、銃器デザインに磯(光雄)さんが入ったことで設定関係に深みが出ましたし、レイアウトに渡部(隆)さん、竹内(敦志)さんが入ったことでスケールの大きな画作りができた。とにかく素晴らしいピースを揃えられましたからね。

『攻殻機動隊 新劇場版』で草薙素子が、後に“攻殻機動隊”となる仲間たちを「最高のパーツ」と称していましたが、まさにそれですね。

石川 そうですね(笑)。それも作品と出会った時代とタイミングのおかげです。「このシーンはこのアニメーターに描いてほしい」と思う超一流のメンバーにお願いできた。すべてが良かったんですよ。

その素晴らしいスタッフが最高の力を注いだことで、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とProduction I.Gの名前は世界に轟きました。最初に講談社さんが望まれたように、海外に日本の新たなアニメーションを見せつけることができた。さらに「攻殻機動隊」は、ウォシャウスキー姉弟が後に『マトリックス』でオマージュを捧げたように、海外のクリエイターにも多大な影響を与えました。

石川 そうですね。「攻殻機動隊」とともに、Production I.Gという会社の名前も前に出させてもらった。作っている時は誰も予想してなかったと思いますけど、結果的にとても良い評価をいただけてありがたかったです。

テレビシリーズで転機を迎える「攻殻機動隊」 新鋭の監督が起用された訳とは?

そして7年後、Production I.Gは再び「攻殻機動隊」のアニメ化を手がけられました。テレビシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(以下『攻殻機動隊 S.A.C.』)を制作したキッカケはなんだったのでしょうか。

石川 やはり海外からのニーズが理由のひとつとしてあります。またProduction I.Gとして、もう一段上へジャンプアップするために、会社の名を広く認知させてくれた「攻殻機動隊」という作品と改めて向き合ってみたいとも思いました。振り返れば、Production I.Gの転機には必ず「攻殻機動隊」という作品が関わっているんです。不思議な巡り合わせがあるのかもしれませんね。

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『攻殻機動隊 S.A.C.』は、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とはまったく異なるコンセプトの作品でした。とは言え、今、石川さんがおっしゃったように、会社にとっては非常に重要なタイトル。そこに当時は新鋭の神山健治監督を起用されたのは、どういう経緯があったのでしょうか?

石川 たぶん、神山さんはみんなノーマークだったんじゃないかな(笑)。監督としてはほぼ無名でした。ただ、押井塾の出身で、彼の情熱ややりたいものも「攻殻機動隊」という作品には向いているなと。加えて、お話をちゃんと作れるという確信があったのでお願いしました。会社としても、次の「攻殻機動隊」は若いスタッフでいきたかったですしね。『攻殻機動隊 S.A.C.』では士郎正宗さんと直接話をできる環境もあったので、士郎さんからプロットをいただいて、それをもとに作っていったんです。同時期にプロジェクトを進めていった映画『イノセンス』は、当時『GHOST IN THE SHELL 2』として考えていたんですが、そちらは押井さんの好きなようにやってもらおうという感じでしたね(笑)。

創り手それぞれの個性を活かし 一つの物語に結実

『攻殻機動隊 S.A.C.』から約10年の時を経た2013年。今度は“攻殻機動隊”ができる前の物語を『攻殻機動隊ARISE』で描かれました。

石川 実は『攻殻機動隊ARISE』での制作サイドの目的は、「アニメーターを輝かせる」ことでした。Production I.Gは、それまでずっと監督主導主義でやってきました。まず監督のやりたいことを実現するために、最大限優秀なスタッフを集め、同時に毎年、新しいアニメーターを採用しては現場の中で育ててきました。ただ、会社の設立から20年以上経った時に、監督主義だけではなく、アニメーター主体で彼らが伸び伸びと力を発揮できる作品というのを「攻殻機動隊」でやりたかった。士郎さんにそうお話をしたら、「それは素晴らしい」と共感してくださって、今までの押井カラー、神山カラーとは異なる多色な「攻殻機動隊」を作る後押しをしてもらいました。

Production I.Gが次のステージに上がるために、「攻殻機動隊」が必要だったということですね。その中で総監督にProduction I.G作品を代表するベテランアニメーターの黄瀬和哉さんを起用されたのは、やはり「アニメーターを光らせる」というコンセプトがあったからなんでしょうか。

石川 そうですね、その意味で黄瀬がベストだと思いました。2000年前後からアニメーションの世界に3DCGアニメの波が押し寄せて来ます。その時流の中で、2Dで描けることの凄さというのを改めて問いかけたかったんです。ここでしっかり描けるアニメーターが踏ん張らないと、この先の業界はどうなるのかな? という危惧もありましたね。

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なるほど。ところで、聞いたところによると作画監督として名高い黄瀬さんを総監督に指名される際、作品名を伏せて話を進められたと伺いましたが、本当ですか?

石川 ええ……、そうですね(苦笑)。これは「攻殻機動隊」に限ったことじゃないと思うんですが、下手に何の作品かを伝えてしまうと、彼の場合は打ち合わせにも出たくないと言い兼ねない(笑)。彼は天性のアニメーターですから、2Dアニメーターを輝かせたいという作品には最適の人材だと思ったんです。ただ……総監督をお願いする順番は、ちょっと遅かったかな? と思いますけど(笑)。

プロットも脚本家もすべて固めた状態からのオファーだったようですね(笑)。

石川 黄瀬はいつもエンジンのかかりが遅いので、外堀が埋まっていたほうが良いんじゃないかと。彼はスケジュールも含めて土壇場に強い男なので、せっぱ詰まった断われない状況を作ったほうが、力を発揮するんですよ。

あえて監督専門の方にお願いしなかったのは、やはり監督至上主義からの脱却を目指したことと、若いクリエイターの方たちにも自由な力を発揮してもらいたいという想いからですか?

石川 それもあります。あと黄瀬はやはり根っからの絵描きで最高の作画監督です。監督と作画監督は同じ監督でも非なる仕事でね。彼も監督として全体をぐいぐい引っ張っていくタイプではないし、監督だけに専念させるにはもったいないアニメーターですから、あえて総監督というポジションになってもらいました。

そして、キャラクターデザインも黄瀬さんに。

石川 はい。デザインの原案は士郎さんが既に描いてくださったので、あえて専門のキャラクターデザイナーを立てずにやろうと。その上で、せっかく黄瀬が総監督に立つなら、やはり彼らしい絵があったほうがいい。そういう意味では、もし黄瀬が総監督にならなかったらキャラクターデザインも全くの別物になっていたかもしれません。

©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会
©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

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