Interview

それでもプロレスは揺るがない! トップレスラー棚橋弘至選手の姿に背中押され、愛するプロレスの「暗黙のルール」破り執筆。話題作『ストロング・スタイル』行成薫

それでもプロレスは揺るがない! トップレスラー棚橋弘至選手の姿に背中押され、愛するプロレスの「暗黙のルール」破り執筆。話題作『ストロング・スタイル』行成薫

一時期、翳りを見せていたプロレスの人気が、今また盛り上がりを見せている。スター選手も続々と登場し、「プ女子」なる女性ファンも増加中。そんななか、プロレスファン歴25年以上という行成薫によるプロレス界を舞台とした小説『ストロング・スタイル』が上梓された。

父親の影響でプロレスファンになり、日本最大のプロレス団体で不動のスターとなった御子柴大河。抜群の運動神経を持ちながら、体が小さいことを理由にいじめを受け、「いじめ撲滅」を標榜するインディーズ団体へと入団するも、その後ヒールへと転身した大河の同級生、小林虎太郎。試合の行方を握る、冷酷なマッチメーカーたちの思惑が行き交うなか、2人のプロレスラーはそれぞれに強さを求めて、リングに立ち続ける――。

この小説に登場する人物は、ときに愚かなほどに、プロレスを愛してやまない人ばかりだ。そして本書は彼らの生き様を通じて、プロレスのさまざまな面白さを教えてくれるものになっている。そこで改めて、プロレスの魅力について行成薫に語ってもらった。

取材・文 / 林田順子

プロレスファンとしては、今までみんなが守ってきたものを書くということにすごく抵抗がありました。

『ストロング・スタイル』行成薫/文藝春秋社

行成さん自身、子供の頃からのプロレスファンとのことですが、ずっとプロレスを題材にしたいという気持ちがあったのですか?

いえ、プロレス小説ってメジャーじゃないし、ダサいと思う方もいっぱいいますし、題材的にも難しいので、まさか自分が書くとは思ってませんでした(笑)。実際、プロレス技を文章で説明するとなると、1ページ使ってしまうようなものが多いんです。プロレスファンじゃなくても聞いたことがあったり、想像しやすい技しか使えないとか、試合の描写はすごく難しかったですね。

それ以上に悩んだのが、プロレスというもの自体の文化をどこまで説明するかというライン引きです。この小説は「オール讀物」の連載からスタートしたんですが、そのときにプロレスラーという職業の目線で書いてはどうだろう、という話しになったんですね。ところがそうなると、試合の勝敗やさまざまな取り決めなどのバックグラウンドを書かなきゃいけなくなる。いわゆる「ケーフェイ」(プロレスの演出や演技を指す)と呼ばれる、プロレス団体も選手も絶対に口にしてはいけない裏の部分です。

プロレス界の暗黙のルールなんですね。

そうです。だから、正直、プロレスファンとしては、今までみんなが守ってきたものを書くということにすごく抵抗がありました。

でも、本書ではかなり思い切って裏側まで書かれていますね。

一応、フィクションということにしてはいるんですけどね(笑)プロレスのノンフィクションライターで柳澤健さんという方がいらっしゃるんですが、彼と新日本プロレスの棚橋弘至選手とのトークショーを観に行ったんですよ。そうしたら柳澤さんは、それ言っていいのかなと思うところまでかなり突っ込んだ話をされていまして(笑)。で、それを現役のトップレスラーである棚橋選手が本当にうまく受けるんです。相手の言葉に反撃することもあるし、笑いに変えることもあるし、まるでプロレスの試合を組み立てるかのような話術で。その姿を見ていたら、僕のようなちょろっとした作家が小説にしたところで「プロレスは揺るがないぞ」っていう自信のようなものを感じたんです。

そこで吹っ切れて、この小説を書き始めたんですが、やっぱり連載の1回目は怖かったですね。2回目、3回目ぐらいまでは不安を抱えていたんですが、プロレス好きの作家さんに「面白かったよ」って言ってもらえて、あ、これなら大丈夫かなと、やっと本にすることに前向きになれました。

そういった裏側の取り決めだけでなく、団体の買収劇など、現実のプロレス界とリンクしているような設定も多いですよね。

そうですね。これはスポーツ小説全般がそうだと思うんですが、完全にオリジナルにしてしまうと没入感がなくて、面白みが薄れると思うんです。例えば、今メジャーリーグで大谷翔平選手が活躍していますよね。以前なら彼が小説のオリジナルキャラクターで登場したとしても、突飛すぎて何も面白くない。でも現実に彼が出てきたことで、はじめて二刀流という小説や漫画が出てもおかしくない世界になった。プロレスでも棚橋選手みたいなレスラーが出てきたから、プロレス団体をどん底から救うようなスターの話が書けるようになったんだと思います。

今回の小説では、自分の思惑どおりに事を進めるためなら、プロレスラーの人権も軽んじるような冷酷なマッチメーカーも出てきましたが、ああいう人も本当にいるんでしょうか?

あのマッチメーカーは、昔、色々と無茶な仕掛けをした方が実際にいらっしゃいまして(笑)、その方を含め数人がモデルになっています。もちろん、キャラクターとしてデフォルメはしていますが。他にも、レスラーのキャラクターや名前、必殺技なんかも実在のレスラーから取っていたりしますので、プロレスファンの方には「これはあの話だな」って楽しんでもらえるかなと思います。

1994年、中三の時に見た蝶野正洋選手と佐々木健介選手の一戦で、プロレスにものすごくハマってしまった

今回の小説では「強さ」がキーワードにありますが、昔からプロレスを見ていた行成さんが、一番「ストロングスタイル」を感じた試合って何ですか?

パッと思い浮かぶのは、1994年に行われた第4回G1クライマックス決勝戦での蝶野正洋選手とパワーウォーリアこと佐々木健介選手との一戦です。プロレスを見始めたのはこの少し前なんですが、この一戦で僕はプロレスにものすごくハマってしまったんです。プロレスっていうと飛び技とか、派手な技の応酬というイメージがありますよね。でも、当時この2人の必殺技はお互いに関節技だったんです。関節技の打ち合いが試合の決め手になるというものすごい面白い試合で。

関節技って結構地味ですよね。

それでも、痛みに耐え抜く姿に観客がわっと湧くんですよ。当時、僕は中学1年生で身長が140㎝台と小さかったので、力強さで人を制することって考えられなかったんですよ。でも、その試合を見たときに、腕力だけじゃない、精神的に耐える強さ、受ける強さがあるんだ、と思ったんです。

本書でも「逃げずに受ける」のがプロレスだ、とありました。

プロレスを野蛮だとか、暴力的だという人はプロレスの本質を知らないんだと思うんです。技をかける側ではなくて、受けるほうがプロレスの大事な点なんです。たまにプロレスごっこで怪我をさせるとか、いじめっ子がいじめられっ子にプロレス技をかける、みたいな話を聞きますが、受けが伴わない以上、それはプロレスじゃなくてただの暴力だと思います。

レスラーは年間百試合以上こなす人もいますから、ダメージを残さない範囲内でやらなきゃいけないというのが試合の絶対条件です。そのために彼らは普段から鍛えて、ケガをしないための準備をしている。そこまで鍛え上げているから技を受けられるし、攻める方も技をかけることができるんです。だから選手寿命も長いですし、他のスポーツではなかなか考えられないことですけど、60代の選手と20代の選手が試合をしても「なんだこれ?」って言うファンはあまりいない。若い頃に人気を培ってきたレスラーは、年をとっても支持をしてくれるオールドファンが多いですしね。あとはレスラーに対する信頼感が観客にあるんです。こういうことをしてもあいつは大丈夫って。だからデスマッチで血まみれなのに、会場に笑いが起こったりすることもあるんですよ(笑)。

プロレスは本当にエンターテインメントとして面白いんですよ。食わず嫌いな人が多くてもったいないよな、って

そうやってクライマックスに向けて、選手がさまざまな技を繰り出していくんですね。

プロレスに興味がない人は、勝敗が決まっているんだから面白くない、と言うことが多いように思いますね。日本人ってどうしても八百長という言葉に対する嫌悪感みたいなのがあるような気がします。でももしそうだとしても、だからこそ難しいし、面白いところがあるんだぞ、と僕は言いたい。高度な技の応酬があって、プロレスラーのキャラクターがあって、そういうものがいっぱいつながって、ひとつの試合が出来上がる。プロレスは本当にエンターテインメントとして面白いんですよ。だから女性や子供連れのお客さんも増えてきて。この小説でも、こんなに面白いエンターテインメントがあるのに、食わず嫌いな人が多くてもったいないよな、ってことが伝わるとうれしいですね。

確かに本書を読んで、プロレスをちょっと見てみたいなという気持ちになりました。この小説で興味を持ったら、次のステップは何でしょう?

職場の昼休みにでも「この間プロレスの小説を読んだんですけど、意外と面白そうですね」みたいな話しをしてみてほしいですね。そうすると「え? 本当に?」って食いついてくる人が、周りに絶対にひとりか、ふたりはいると思うんです。

言わなかったけど、実はプロレス好き、みたいな。

そうです、そうです! なぜかどんなコミュニティにもプロレス好きな人が必ずいるんですよね。しかも結構偉い上司の方だったりする(笑)。じゃあ試合連れてってやるよ、みたいな流れになると、すごくプロレスが面白くなっていく。プロレスファンって教えたがりが多いので、懇切丁寧に説明してくれるはず。そうすると、おすすめの選手とか、見どころとか、さらにプロレスの楽しみ方が広がると思いますよ。

写真提供:文藝春秋社

行成薫(ゆきなり・かおる)

1979年、宮城県生まれ。東北学院大学教養学部卒業。2012年『名も無き世界のエンドロール』(『マチルダ』改題)で第二十五回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『バイバイ・バディ』『ヒーローの選択』『僕らだって扉くらい開けられる』『廃園日和』がある。

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書籍情報

『ストロング・スタイル』

行成薫(著)
文藝春秋

プロレスラーの「どん底からの挑戦」を描いた青春人情小説。「強さとは何か」、二人のレスラーが、たどりついた「答え」とは? ノンフィクション作家・柳澤 健氏も「想像を超えるフィニッシュ」と絶賛! 父の影響でプロレスファンになった御子柴大河は、少年の頃からの夢を叶え、日本最大のプロレス団体・JPFのトップレスラーへの道を駆け上がる。しかし、プロレス人気は凋落の一途をたどっていて……。一方、大河の同級生、小林虎太郎は、抜群の運動神経を持ちながら、体が小さいことを理由にイジメを受け、心に傷を抱えていた。その後、「イジメ撲滅」を標榜するインディープロレス団体に入団するが、ある理由から悪役レスラーに転向することに。天性のスターと、不遇の天才。 境遇は違えども、「強さとは何か」を求め続ける二人。団体経営に大きな影響力を持つマッチメイカーたちの思惑が交差する中、大河と虎太郎は、マットの上で、答えを見つけることができるのか――。