山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 42

Column

テレヴィジョンとNYパンク

テレヴィジョンとNYパンク

1970年代半ば。全米音楽シーンは先鋭さを失い、商業主義的なロックが幅を利かせていた。
その倦怠に礫を投げつけるように登場したのが “ロウアー・マンハッタン”と呼ばれるNYの下町でその牙を研ぎ澄ませたバンドの一群。
ロンドン・パンクとは異なるクールな知性と音楽性は世界の若者に突き刺さり、そして極東の島の高校生にも、本物のオリジナリティーへの遠く長い道を指し示した。
『山口洋の頭の中のスープ』が大好評、17歳の作品の源流に迫る。


1977年ごろ、イギリスで生まれたパンク・ロックに僕が受けた影響は、大半が精神的なものだった。政治的、社会的反抗。どういう態度でこの世界を生き抜いていけばいいのか。僕が出した答えはぺットショップに行って、犬の首輪を買うという、実に幼稚なものだったけれど(笑)。

一方、NYで発生したパンクには音楽的な影響を受けた。それぞれのアーティストは音楽的個性と知性が際立っていた。音楽的、文学的反抗。特別に好きだったのは、リチャード・ヘル&ヴォイドイズ、テレヴィジョン、パティ・スミス、ミンク・デヴィル、少し時代はずれるけれど、ジョナサン・リッチマンのザ・モダン・ラヴァーズ。ロウアー・マンハッタンの偉大な先達、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに影響を受けた彼らの反抗は知的で、そしてクールだった。

それぞれのアーティストについて書き出したらキリがない。今回は編集部のリクエストに応えて、テレヴィジョンに絞って話を進める。

初めて買ったアルバムは名盤『MARQUEE MOON』。1977年、中学2年の頃だったか。当時アルバムは2500円ぐらいで、滅多に買えるものではなかったから、擦り切れるくらい聞くのだけれど、この音楽がまったく理解できず。初めて「ハズレ」のアルバムを買ってしまったのかと、ずいぶんと落ち込んだ。

高校生になると、体験する理不尽の質のグレードも上がる(笑)。久しぶりに『MARQUEE MOON』を聞いてみたなら、とつぜんこころの深いところに、ヒリヒリする音楽が斬り込んでくる。

トム・ヴァーレインとリチャード・ロイドのギターが響き合いながら、闇に光線を放ち、精神世界のグラデーションを中空に描く。そこを僕は想像力で進んで行くのだけど(暗闇を走るジェットコースターみたいに)聞き手にまで強いられる「緊張感」がたまらなく好きだった。NYパンクは僕にとって、決して娯楽ではなかった。

何度、聞き返しても完璧なアルバムなのだ。おそらくエフェクターなど、なにひとつ使われていない。フェンダーのジャズ・マスターをツイン・リヴァーブへと直結。トム・ヴァーレインのこころの襞が指先へと伝えられる。あの痙攣するようなチョーキング・ヴィブラートはたぶん、彼の心象風景そのものなのだ。いったい、どんな人生なんだか。

でもその響きは僕にとって「救い」に等しかった。話題を共有できるともだちは一人も居なかったけれど、頭の中にあの響きが鳴ってさえいれば、僕は生きていけたし、受験戦争なんてどうでもよかった。夏目漱石が『こころ』で描いた「精神的向上心のないものは馬鹿だ」という表現と同じように僕をひどく励ました。

NEW YORK。田んぼの真ん中から憧れた街。

テレヴィジョンのギター・アンサンブルはロジックだけで構築されているのではない。スティーリー・ダンのように完璧でもない。鋭利で、それでいて触れると壊れてしまいそうなくらいデリケート。パティ・スミスはトム・ヴァーレインのことを「白鳥のような美しい首をもつ」と形容したが、まさにその通り繊細で、鋭敏で、唯一無二の美しすぎるアンサンブル。

僕は数ヶ月かけて『MARQUEE MOON』をコピーした。今でも頭から最後までソラで弾ける。呼ばれたなら、いつでもテレヴィジョンに加入できると思う。けれど、僕が学んだことは、比類なきオリジナリティーを手に入れるには独創的に生きるしかないということだった。模倣の先には独立しか道はない。僕が僕であろうとするのなら。

NYパンク。個を磨く。他人と違うことを極める。ひたすら己の道を。あなたがどんな人種であれ、あの街を歩けば、気持ちいいように。違って当たり前。あなたがあなたであり続けること。何よりもたいせつなこと。

若い聞き手のために、僕にとってのNYパンクの名盤を記しておく。あえてキャプションなしで。あなたらしく生きてほしい。周囲がなんと言おうとも。

RICHARD HELL & THE VOIDOIDS『DESTINY STREET』(1982)
TELEVISION『MARQUEE MOON』(1977)
PATTI SMITH『WAVE』(1979)
MINK DeVILLE『WHERE ANGELS FEAR TO TREAD』(1983)


テレヴィジョン / TELEVISION:1972年、NYで高校時代からの友人だったトム・ヴァーレイン(vo,g,key)、ビリー・フィッカ(ds)、リチャード・ヘル(b,vo)の3人が結成した“ネオン・ボーイズ”というバンドが前身。翌年リチャード・ロイド(g,vo)が加わって結成。1975年4月にヘルが脱退し、元ブロンディのフレッド・スミスが加入。ライヴを中心に活動し、『リトル・ジョニー・ジュエル』や『マーキー・ムーン』など、当時のニューヨーク・パンクの潮流のなかでも、他のバンドと異なる独自のスタイルを築き上げる。1977年2月、1stアルバム『マーキー・ムーン』を発表。アメリカ国内のみならず欧州でも、音楽誌や評論家たちに絶賛をもって迎えられる。当時のカントリーやポピュラー寄りの商業主義的ロック全盛のアメリカ音楽業界に“NO”を突き付けるように発信されたロックの初期衝動とクールな知性、個性的かつ前衛的なサウンドは、後に“パンク”と呼ばれるロック・ムーヴメントを牽引した。 1978年4月、2ndアルバム『アドヴェンチャー』を発表。同年8月、NYで6日間のライヴを行った後、解散。1992年、14年ぶりに再結成し、3rdアルバム『テレヴィジョン』を発表。1993年、再び活動を休止、2001年に再々結成。2007年6月、リチャード・ロイドが脱退。その後、ヴァーレインのソロに参加していたジミー・リップ(g)を加えて現在も活動を継続している。

テレヴィジョン / TELEVISION
『マーキー・ムーン / MARQUEE MOON Limited Edition, Original recording remastered』

ワーナーミュージック・ジャパン
1977年に発表された1stアルバムにして代表作。ジャケット撮影はロバート・メイプルソープ。いまも先鋭的で芸術的、ロック史上に残る名盤として記憶されるだけでなく、多くのバンドに影響を与え続けている。写真はテレヴィジョン結成40周年記念(2013年当時)+来日記念『マーキー・ムーン』紙ジャケット(仕様)プライス・ダウン&SHM-CD化で限定再発売されたもの。

リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズ / RICHARD HELL & THE VOIDOIS
『デスティニー・ストリート / DESTINY STREET Limited Edition』

Essential Records
1977年『BLANK GENERATION』で衝撃のデビューを飾ったリチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズの2ndアルバム(1982年リリース)。ドラムにフレッド・マー(元マサカー、マテリアル、ルー・リード・バンド)を迎え、前作よりタイトでシャープなバンド・サウンドが際立つ。全編に脈打つ尖ったスピリット、挑戦的なスタイルは、USパンク・シーンを牽引した。ボブ・ディランやキンクスのカヴァーも収録。

パティ・スミス / PATTI SMITH GROUP
『ウェイヴ / WAVE』

ソニー・ミュージック
テレヴィジョン同様、NYのロウアー・イーストサイドからデビュー、 “クイーン・オブ・パンク”と呼ばれたパティ・スミスの4thアルバム(1979年リリース)。「最も愛に溢れたアルバム」と形容されることも多く、このアルバムを機に音楽シーンを退き、結婚生活に専念した。プロデュースはトッド・ラングレン。ポップでインパクトの強いA面と深く内省的な作品が並ぶB面とでがらりと印象が異なることでも知られる。

ミンク・デヴィル / MINK DeVILLE
『WHERE ANGELS FEAR TO TREAD』

Collector’s Choice Music
1974年にウィリー・デヴィルを中心に米サンフランシスコで結成。ニューヨーク・パンク、ニューウェイヴ・シーンのメッカであったライヴハウス”CBGB”でラモーンズ、テレヴィジョン、ブロンディ、トーキング・ヘッズらとともにレギュラー・アクトとしてライヴを行っていたミンク・デヴィルが1983年に発表した5thアルバム。フェイクラテン〜サルサ、R&RやR&B、ブルース〜テックスメックスなど、パンクという枠に収まらない幅広い音楽性が結晶した一作。ウィリー・デヴィルの書くメロディの秀逸さも光る。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二 (Drums)、細海魚 (Keyboard)
と新生HEATWAVEの活動を開始、12月19日大阪を皮切りにいよいよツアーをスタートさせる。リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“YOUR SONGS 2018”も10月から後半戦に突入。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

山口洋 solo tour“YOUR SONGS 2018”
10月1日(月)いわき club SONIC iwaki
10月3日(水)新潟 Live Bar Mush
10月5日(金)仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
10月7日(日)弘前 Robbin’s Nest
10月8日(月・祝)奥州市 おうちカフェMIUMIU
11月3日(土・祝)岡山 Blue Blues(ブルーブルース)
11月6日(火)出雲 London Pub LIBERATE
11月8日(木)高松 Music&Live RUFFHOUSE
11月10日(土)高知 シャララ opening act 中塚詩音
ブログのコメント欄にて、リクエスト受付中

HEATWAVE SESSIONS 2018_Ⅱ
9月29日(土)横浜 THUMBS UP
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BIG BEAT CARNIVAL IN 磔磔
10月21日(日)京都 磔磔
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HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”
12月19日(水)大阪 バナナホール
12月20日(木)福岡 Gate’s7
12月22日(土)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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