モリコメンド 一本釣り  vol. 83

Column

ZOMBIE-CHANG クールでキャッチー、そして(じつは)エモーショナルな世界観

ZOMBIE-CHANG クールでキャッチー、そして(じつは)エモーショナルな世界観

2018年7月にリリースされたZONBIE-CHANG(“ゾンビーチャング”と読みます)の3rdアルバム『PETIT PETIT PETIT』は何にも縛られない奔放なクリエイティビティとカラフルなポップネス、そして、“自分だけの表現を発信したい!”というアーティストとしての真っ当な意志に溢れた作品だった。海外のインディーポップをDTMで再構築してきた従来のスタイルを一変。サポートミュージシャンとして参加したnever young beachの巽啓伍(Ba)、鈴木健人(Dr)、D.A.N.の市川仁也(Ba)とのコラボレーションにより、全曲をバンドサウンドで形成したことも功を奏し、彼女の生命力あふれるボーカルがダイレクトに楽しめるアルバムに仕上がっていたのだ。制作スタイルを180度変えてしまう思い切りの良さ、そして、現在進行形のカルチャーを本能的に察知し、他のどこにもない、彼女特有の表現としてアウトプットできる天性センスにすっかり魅了されてしまった。

シンガーソングライター、メイリンのソロプロジェクトZOMBIE-CHANG。作詞・作曲、トラックメイクを自ら手がけるDIYスタイルで活動をスタートさせた彼女は、2016年に配信「恋のバカンス E.P.」 でデビュー。1stアルバム『ZOMBIE-CHANGE』をリリースし、エレポップの進化型とも言える「LEMONADE」、ダークなニューウェイブ感を持ったトラックと“せめて悲しいときはそばにいてほしい”という切なる願いがひとつになった「SEMETE KANASHII TOKINIWA」などが話題を集めると、“新世代のローファイ系SSW”として認知されるようになる。翌2017年3月には2nd アルバム『GANG!』を発表、SUMMER SONIC 2017、WORLD HAPPINESS、コヤブソニックなどのフェス出演、TAICOCLUB主催のサンリオ43周年パーティーに出演するなど、活動のフィールドを大きく広げた。また、コラムの執筆、ラジオMC、モデルとしても活躍するなど、多彩ぶりを発揮。マルチクリエイターとしての才能を発揮した。

しかし、言うまでもなく彼女の創造性の軸にあるのは音楽である。2018年にモデルとしての活動を休止したのも、“音楽に専念したい”という思いの表れだろう。もっともっと自分自身の音楽表現を突き詰め、発展させたいーーそんな切実なモチベーションのもとに制作されたのが、3rdアルバム『PETIT PETIT PETIT』なのだと思う。

『PETIT PETIT PETIT』は1stアルバムの収録曲「LEMONADE」をバンドアレンジで再構築した「レモネード」から始まる。ニューウェイブ、ポストロック、ディスコなどが自然に混ざり合ったサウンドは、トレンドとかマーケティングにはまったく関係なく、“とにかく好きなこと、カッコイイことをやる!”という意志に満ちている。“レモネードを作りました、すぐに腐っちゃうかもしれないけど、キスしてハグして眠ります!”という脈略のない内容の(でも、なんだかすごく納得できる)リリックもめちゃくちゃ魅力的だ。そう、自分たちの行動に確かな理由なんてどこにもない。目的を決めたり原因を探したりしないで、僕たちはもっと自由であるべきだ……みたいな気分がムンムンと湧いてくるのだ、「レモネード」を聴いていると。

“子供も大人も楽しめる曲”をテーマに制作されたというキャッチー&キッチュなポップナンバー「モナリザ」、骨太なリズムセクション、浮遊感溢れるシンセサウンドがひとつになった「ときどき、わからなくなるの」などアレンジの幅が一気に広がった本作は、彼女のシンガーソングライターとして資質を示す作品でもある。ギター、ベース、ドラムの3ピースによるネイキッドなサウンドが印象的な「愛のせいで」では、恋愛の最中に感じるコントロール不能の感情をどこか淡々としたボーカルとともに映し出す。聞きたくなかった嘘、言わなくてよかった言葉から生まれる哀しみを“オニオンスライスを作りながら涙を流す”という状況をシンプルにつなげてみせる「オニオンスライス」。誰もが経験したことがあるはずのシチュエーションを、決して大げさにならず、冷徹に描写するように歌う。この絶妙なバランス感もまた、彼女の大きな魅力だ。

現在行われている『PETIT PETIT PETIT』のリリースツアーには、neco眠る、Tempalay、思い出野郎Aチームなど、注目のニューカマーも出演。ZOMBIE-CHANGをチェックしていれば、楽しいこと、素敵なこと、グッとくることに出会えるはず。まずは『PETIT PETIT PETIT』のクールでキャッチー、そして(じつは)エモーショナルな世界観をたっぷりと楽しんでほしい。

文 / 森朋之

ZOMBIE-CHANGのその他の作品はこちらへ

オフィシャルサイトhttp://zombie-chang.com

vol.82
vol.83
vol.84