Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』  vol. 2

Interview

Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』(後編)

Production I.G・石川光久が語る『攻殻機動隊』(後編)

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スタッフ・キャストを一新し、新生した「攻殻機動隊」。 2013年から始まった新シリーズのラストピースとなる『攻殻機動隊 新劇場版』のデジタル配信が9月5日に決定した!

最新作の魅力、そしてこれまでの「攻殻機動隊」の歩みを、 アニメ版「攻殻機動隊」の全作品に携わってきた Production I.G・石川光久が語る。

インタビュー・文:阿部美香
撮影:増田慶


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では、脚本に冲方(丁)さんを起用されたのはどのような狙いだったのでしょうか?

石川 「攻殻機動隊」は、オリジナリティがあるストーリーをしっかり書ける人がシナリオにつかないと成立しない作品なんです。それがなければアニメーターを輝かせる作品にはならないと分かっていたので、脚本は『シュヴァリエ ~Le Chevalier D’Éon~』で一度ご一緒させてもらった冲方さんにお願いすると、当初から決めていました。

冲方さんにオファーする段階で、既に“攻殻機動隊”発足以前の話にしようというのは決められていたんですか?

石川 それは士郎さんからの提案だったんです。“攻殻機動隊”が出来上がる前、草薙素子の若い時代の話なら、物語としても、作画やアニメーションの作り方にしても自由度が高くなると。なので、士郎さんに書いていただいたプロットを持って、冲方さんにオファーさせていただいた形ですね。この内容を見ちゃったら、冲方さんももう断われないだろうと(笑)。ただ、それくらい我々もこの作品を成功させたいと必死だったんです。

その『攻殻機動隊 ARISE』はまず、黄瀬総監督のもと『border:1 Ghost Pain』から『border:4 Ghost Stands Alone』までの4エピソードにむらた雅彦さん、竹内敦志さん、黄瀬和哉さん、工藤進さんとそれぞれ監督を立て、ラストを締めくくる『攻殻機動隊 新劇場版』は野村和也さんが監督する構成になりました。各監督の起用の意図を教えてください。

石川 まず、最後の『攻殻機動隊 新劇場版』は、アクション要素も強い内容になると決まっていましたから、『劇場版 戦国BASARA -The Last Party-』で監督・作画監督としてコンビを組んだ野村さんと大久保(徹)さんでいきたいとい考えていました。この二人なら、長編作品もしっかり作り込んでもらえるだろうと。総監督の黄瀬から見ると一つ若い世代ですね。本人たちは大変だったでしょうが、若いクリエイターに暴れてもらうというコンセプトもしっかり理解して、忍耐強く、よくやってくれたと思います。逆に言えば、この二人が受けてくれなかったら、最後を長編の劇場版にすることはなかったかもしれないですね。竹内さんに関しては、以前、海外向けの作品で不完全燃焼があったものですから、今回はぜひリベンジという意味も込めてお願いしました。むらたさんは、『border:1』の作画監督を務めた西尾鉄也が『NARUTO -ナルト-』で出会い、一緒にやりたい監督として名前を挙げた方ですし、それぞれにこの方なら! という想いがありましたね。工藤さんは冲方さん原作・脚本の『マルドゥック・スクランブル』三部作を監督されて、冲方さんの信頼の厚い監督でしたのでお願いしました。

『攻殻機動隊ARISE』シリーズは、ストーリーの重厚感も大きな魅力です。“ファイア・スターター”という電脳ウィルスを軸に、敵味方の思惑が入り乱れる複雑な人間関係と各種の事件、草薙素子の過去を巡るさまざまな伏線が絡み合い、今までに勝るとも劣らない濃密な内容になりましたね。

石川 それはもう、冲方さんの力です。伏線の張り方も精密で、“攻殻機動隊”となるメンバーが集結する過程も描きながら、意外性のあふれるエンディングによって原作へのドアも確実に開いた。それだけではなく、僕らのアニメ版の原点である『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』にも繋げている。これは本当に凄いことですよ。

すべての「攻殻機動隊」へのリスペクトが感じられました。

石川 そうなんです。原作とアニメを読み込んだ冲方さんならではの手腕ですね。おそらく、総監督はそこまで強く繋げようとは考えていなかったと思いますよ(笑)。

こうして拝見すると、「攻殻機動隊」のアニメというのは、すべて違う「攻殻機動隊」でありながら、同じ「攻殻機動隊」で在り続けているように感じます。

石川 そこが「攻殻機動隊」の持つ強度ですよね。全てパラレルでいいと思うんですよ。ひとつところに固まらない、固めなくてもいい強靱な骨格が原作にあるからこそできる。こんなに何度もインターバルを挟んでも、押井版、神山版、黄瀬版が全て作品として成立できるのも、士郎さんの原作をご本人の協力のもとで上手くパラレルなシリーズとしていかすことができたからだと思うんです。

もう一度、原作に立ち戻ってちゃんと読み込みたいという気持ちも高まります。原作に描かれているSF的な設定ひとつも、光学迷彩が実際に軍隊で使われる時代になっていたり、ネット犯罪が大事件として取り上げられる時代になっていたりと、とてもリアリズムにあふれていて、古さを感じさせません。

石川 そこですよね、士郎正宗作品の素晴らしさは。士郎さんは本当に凄い方で、「攻殻機動隊」の世界が、今となっては身近に感じられるのも、しっかりとした設定考証がされているから。しかも、「攻殻機動隊」や「アップルシード」もそうですし、「ブラックマジック」や「ドミニオン」でももっと時代的に未来の話も描き、徹底した世界観を構築している。壮大な士郎さんワールドが存在するんです。だからこそ、その歴史の流れの一部を切り取って凝縮しても、見事にリアリティがあふれている。作品が点と点の集合ではなく、線状に繋がっているんですよ。だから、パラレルワールドにしても破綻が起きない。今回、『攻殻機動隊ARISE』を作ってみて、あらためて「攻殻機動隊」だけじゃない、士郎正宗ワールドの未来感の凄さに気づかされました。

原作が持つ良質なDNAが伝播し新たな物語を生む 新生「攻殻機動隊」で蒔かれた種が開花する土地は?

『攻殻機動隊ARISE』に関しては、草薙素子の若い時代を描くというコンセプトのもと、キャスト陣も一新され話題を呼びました。

石川 はい、今回のキャスティングは黄瀬に一任しました。キャラクターデザインも黄瀬が担当しますし、絵も変わると骨格の違いで発する声のイメージというのも変わる。そのあたりは、黄瀬がいちばんよく分かっていますからね。草薙素子のキャスティングはたしかに迷いましたが、「攻殻機動隊」への愛情あふれる坂本真綾さんにお願いできたのは、とても良かったなと。出来上がった作品を観れば、誰も何も言えないぐらい素晴らしい素子になったと思います。たしかに、スタッフに関してもキャストに関しても、歴史ある作品を新しい体制に移行するのは、制作側としては怖いことなんですがチャレンジしたかいがありました。

新体制という意味では音楽も同様ですね。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と『イノセンス』は川井憲次さん、『攻殻機動隊 S.A.C.』では菅野よう子さんと、独自の世界観を持つコンポーザーの方がサウンドトラックを担当されていましたが、本作ではアニメ劇伴をほぼ初めて担当されるコーネリアスさんを起用されています。

石川 それによるイメージの変化にも、最初は相当臆病になりましたよね。コーネリアスさんの起用は、フライングドッグさんの音楽プロデューサーからの提案だったんですが、結果的にとても良かったと思います。あの独特の音楽性は、今までの劇伴にはない感性でしたから。時代にとてもマッチしていると思うし、コーネリアスさんの音楽性が輝いている。キャストもそうですけど、人が変わっても良いDNAというのは伝わり続け、それが作品を支えてくれるんだなと改めて感じました。

では、その変わらない「攻殻機動隊」のコアは何だと、石川さんはお考えですか?

石川 ……魂ですかね。魂に触れるものがそこにある、という意味で。

作品内にも幾度となく登場し、「攻殻機動隊」全体を覆う大切なキーワードである“ゴースト”は、魂のような存在と語られています。

石川 まさにそれなんですね、「攻殻機動隊」の本質にあるのは。僕も、士郎さんに聞いたことがあるんです。「ゴーストって何ですか?」と。そうしたら、「一言では答えられない」とおっしゃってました。丸1日かけて、やっと説明できるようなものかなと。押井さんも海外のファンに同じ質問をされた時は、「僕は原作者じゃないから分からない、士郎さんに聞いてくれ」と必ず言ってましたね。だから、「攻殻機動隊」そのものが何か? と問われても、説明できない。おそらく……「攻殻機動隊」は“GHOST IN THE SHELL”という言葉に集約されるのかもしれませんね。

そのゴーストの正体は、原作マンガから始まり、アニメでさまざまに描かれてきた四半世紀続く「攻殻機動隊」シリーズを改めて観てもらって、それぞれに感じてもらうものなのかもしれませんね。

石川 そう……僕は「攻殻機動隊」に、ひとつじゃない自己を感じるんですよね。絶対の正義も絶対の悪もない。その中で生きる生命体の物語、“生きる”ことだったり、人が抱える矛盾、葛藤が「攻殻機動隊」の根底にあるとずっと感じています。

主人公の草薙素子が『攻殻機動隊 新劇場版』でも仲間に、「最後は自分のゴーストに従え」と言います。その言葉はまさに今、石川さんがおっしゃったことを具現化したようにも感じますね。そして、『攻殻機動隊 新劇場版』が壮大なエンディングを迎えた今、ファンのみなさんが最も気になっているのがシリーズの今後だと思います。『攻殻機動隊 新劇場版』完成時のイベントで石川さんは、「種が生まれた」という表現をされていましたが?

石川 ええ、まさにその通りで、『攻殻機動隊 ARISE』~『新劇場版』は種を生んだと思っています。そして今度はきちんと世界をターゲットにして作らなければならないということも実感しています。この作品は今まで結果として世界的な評価を受けていましたが、次は意識的に世界のファンに向けた挑戦をしなければならないなと、僕は思っています。

なるほど、その種が一日も早く開花してくれることを期待しています。それでは最後の質問です。今回、『攻殻機動隊 新劇場版』はいち早くPlayStation VideoなどのVODで動画配信されることが決定しました。昨今、こういう販売方法も増えてきているように感じますが、アニメーション制作者としてはどうお考えですか?

石川 それはもう、自然の流れですよね。テクノロジーの進化がなければ快適な動画配信ビジネスというのも成り立ちませんが、テクノロジーの進化は「攻殻機動隊」という作品にとってとてもリアリティがある。個人的には、そういう部分でも腑に落ちますね。心から「攻殻機動隊」が好きで、何度も繰り返し観たい方や特典にも興味のある方にはぜひBDパッケージも購入していただきたいですが、「攻殻機動隊って難しい作品なんじゃないか?」と劇場に足を運ぶのをためらっていた方にこそ、もう少し気軽に配信版で楽しんでいただきたいと思うんです。一人でも多くの方、幅広い層の方に観ていただく方法として、動画配信というのは素晴らしいメディアだと感じています。『攻殻機動隊 S.A.C.』の時も、ネット配信で多くの方に観ていただけましたが、当時はまだ珍しいことでしたからね。あれから10年以上経ってスタンダードな鑑賞形態になっていったんだなと思うと感慨深いですね。

テレビ自体のクオリティも進化し、ネット環境の快適さも進んでいますから、とくに「攻殻機動隊」のようにアニメーションとして質の高い作品は、視聴クオリティもハイグレードで楽しめますね。

石川 ええ。こうして、自宅での視聴環境が進化し続けると、制作側にとっては痛し痒しではありますけどね、映像としての質のハードルがどんどん上がってしまうので(苦笑)。もっともっと、我々も頑張っていかなければならないですね。

©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会
©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

→前編

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