小田和正『あの日 あの時』特集  vol. 2

Interview

ファーイーストクラブ吉田雅道氏へ訊く 今、ベスト・アルバムを発売する“真意”とは。

ファーイーストクラブ吉田雅道氏へ訊く 今、ベスト・アルバムを発売する“真意”とは。

大好評の小田和正特集。第二弾は小田のことを最もよく知る男、所属事務所ファ-イ-ストクラブの吉田雅道氏に話を訊くことにする。テ-マはもちろん、4月20日リリ-スのベスト・アルバム『あの日 あの時』や、来たるべきツア-について。
なぜ、いま小田はベスト盤をリリ-スするのか、しかも3枚組50曲というヴォリュ-ムである。次のツア-・タイトルが『君住む街へ』となった理由は?
このインタビュ-でしか読めない真実が、吉田氏の口から淀みなく語られるのだった。

取材・文 / 小貫信昭


前回の『小田日和』のツア-の時、「また新しい曲を作って戻ってくる」と、そう言い終えて小田さんはステ-ジを去って行ったわけですよね。

吉田 はい。新しい曲、つまりオリジナル・アルバムを作ってツア-をするというのが本人の気持ちの中で”正しいあり方”ですから。ただ、次のオリジナル・アルバムを作るとなると、現実的には、なかなか時間が読めない、というのがあったんです。
それは前作の『小田日和』を作った時にも感じたことですが、締め切りは必ず守る小田が、当初のスケジュール通りになかなか進まず、制作が半年延びてしまいましたからね。

そんなにたくさんあるわけないだろうし、方向性が同じテ-マで書かなければならないとしたら、それを乗り越えていかなければ本人にとって意味がない

原因はどんなことだったのでしょうか。

吉田 あくまでも僕の推測ですが、タイアップの依頼とか、曲を契機となるものを頂く機会とは別に、純粋に自分が書きたいもののテーマや切り口って、そんなにたくさんあるわけないだろうし、方向性が同じテ-マで書かなければならないとしたら、それを乗り越えていかなければ本人にとって意味がないわけですから。そうなると自身のハ-ドルはどんどん高くなるし、当然時間も掛かっていくことになりますから。
『小田日和』の時、それを強く感じたんです。

なるほど・・・。

吉田 もちろん新しくオリジナル・アルバムを作ってツア-に出掛けることは不可能ではないとは思いますが、そのアルバムの出来上がりを待ってのツア-となると、今年小田は69歳になりますから、たぶん70、71歳になってしまうだろうし、ここから2~3年先の自分のスケジュールを拘束されるのは、やっぱり精神的にも体力的にも不安が先に立ってしまいますからね。
まして「人生の残り時間」として捉えた時のその時間の重さは、我々スタッフには計り知れないものですから、約束事として取り付けるのはあまりに乱暴なことだと思うわけです。その中で優先すべきことを本人と膝を突き合わせて考えてみた結果がこのようなかたちになりました。
小田は自分の口から「あれがしたい、これをしたい」って自ら積極的に提案してくるタイプではなく、「お前は俺をどうさせたいんだ」というように、相手の意向を訊いてから議論を重ねていくタイプですから、なかなか簡単には結論は出せません。でもそのプロセスは、結果よりも、我々にとってはとても重要な時間になりますね。

吉田さんから提案され、議論を重ねてきた結果が、『あの日 あの時』のベスト・アルバム、そして『君住む街へ』のツア-になった、というわけですね。

吉田 ツア-に関しては、「待ってくれているひとたちがいるのなら、元気なウチに(笑)出かけて行ったほうがいいんじゃない?」という気持ちは重ねられてたと思うんです。でも、ツアーへ出掛けるにあたってのアルバムが、「ベスト」というようなことにはしたくない(笑)それを擦り合わせるのに時間がかかりました。

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今回の3枚組50曲入りのベストへは、どう繋がっていったんでしょうか。もう少し具体的に伺えますか。

吉田 2002年に『自己ベスト』というベスト・アルバムを、そして、その収録曲と重複しない『自己ベスト2』という作品を2007年にリリースしてましたから、今回はそのシリーズの3作目となるアルバム『自己ベスト3』を当初はイメージしてたわけです。
遡ること2年くらい前になりますが、それは小田にもプレゼンしていて・・・。でも小田はベスト・アルバム否定派ですから(笑)「ふ〜ん」って感じで受け止めようとはしていなかったと思うんです。ただ、その『自己ベスト3』を発売しようとすると、当然それまでの2作品と被らない選曲をするわけですから、それだと『3』が内容的に薄くなる、みたいな話を僕の方からあらためて持ち出すことになりまして・・・。まぁ、アーティストを前にひどく失礼な話をするスタッフだったと思います(笑)
でも現実的なこととして、コンサ-ト会場でCD販売しているところを見ていると、コンサートで歌われた「言葉にできない」「ラブ・ストーリーは突然に」「たしかなこと」、あと「今日も どこかで」とかが入ってるCDありますか?」と尋ねるお客さんがたくさんいらっしゃったんです。
そんなアルバムは残念ながら無くて、それらの曲を手にしようとするとアルバム3枚買ってもらわなければならないことになるわけです。
それについては小田もどこかで申し訳ないと感じるかと思うのですが、それを話し合って確認する意味はあるんじゃないかと思ったわけです。まぁ、それでも絶対反対するんだろうな、とは思ってましたけど。
議論していく中で「仮に3枚買わせてきてしまったものをひとつにまとめた場合、いくらで販売されるわけ?」と聞かれて「4000円は切りたい」と伝えたら「なんだか一生懸命に作ってきた作品を叩き売りされたるみたいだなぁ」ってボソっと言われたり(笑)。気持ちは理解できるし、たくさんのハードルはありましたね。

作ってきた自分の作品を俯瞰から見る機会は、これまでそんなになかったと思うんです。

話の流れ的に、ここでOK出たのかと思ったら、まだまだ遠かったわけですか(笑)。

吉田 でも『小田日和』のツア-が終わって、いよいよ次の活動計画を立てたければならないという時期がきた時に、「僕の贈りもの」から年代順に50曲近くの収録曲リストを渡したんです。そこに書いた楽曲は、ある意味これまでの小田の音楽活動の歴史みたいなものになるわけですから、作ってきた自分の作品を俯瞰から見る機会は、これまでそんなになかったと思うんです。
ですから、そこに“何かあらためて感じるもの”があるんじゃないのかな、とは思っていたんです。でもまぁ、その資料を渡した時の反応も、相変わらずの“ふ〜ん”でしたけど(笑)

なかなかこじ開けられないですね。

吉田 でも制作スタッフが小田に「とりあえずその音源を並べてみましょうか」って、
音源データを作って小田に聴かせたわけです。それを聴いた時に初めてその内容に向き合う気持ちになったんじゃないですかね。作品を作った当時のこと、今に至るひとつひとつの楽曲を耳にしたことで、否が応でも自分の歴史を振り返らざるを得なくなったんじゃないですかね。
理屈じゃなく、作り手として作品に向き合う機会の方が、ポジティブな気持ちになるのでしょうか。

通常、ベストはすでにある音源を集めたものですが、いろいろスタジオでの作業も行っていたようですね。

吉田 小貫さんのインタビュ-でも小田自身詳しく話していると思いますが、やはり「今」の耳で聴いてみて、直すべきことなくがあれば直したい、ということだっと思いますね。でも一方でオリジナルの強さをあらためて感じる機会にもなったようですが。
もともと小田は、“汗をかく”ことに貪欲になるタイプなので、ベストといってもお座なりにはしないだろうな、何曲かはスタジオでの作業をするんだろうな、とは思ってましたけど、まさかここまで時間をかけるとは思ってもいませんでした。
結局、オリジナル・アルバムを作っているんじゃないかってくらい時間が掛かりましたものね。細かなところを含めれば7~8割くらいの楽曲に手をつけたんじゃないですか?

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