Interview

「METライブビューイング」ファン代表女優・小橋めぐみインタビュー

「METライブビューイング」ファン代表女優・小橋めぐみインタビュー

映画館で、オペラに溺れて、恋をして

ニューヨークを舞台にした映画や、ドラマ『SEX and the CITY』『ゴシップガール』などでもおなじみのメトロポリタン・オペラ(通称MET)。世界最高峰と言われるこの歌劇場の最新オペラを、日本全国の映画館のスクリーンで目撃できる「METライブビューイング」をご存じだろうか?
昨年10月にスタートした記念すべき10周年シーズンでは、美しき歌姫のセクシーなヴィジュアルが映画館のポスターにもなっているので、気になっていた方もいらっしゃるかもしれない。

エンタメの街、ニューヨークの人びとに愛されるMETには、高尚な敷居がない。
世界のトップ歌手たちはもちろん、映画界、ミュージカル界からも才能を集結した“現代を生きる人のためのエンターテインメント”だから、はじめての人でも大興奮が味わえる。その証拠に、いまやMETライブビューイングは世界70ヶ国2000ヶ所の映画館で上映中。エンタメ・ファンなら絶対に足を運んでおきたい、大成功コンテンツとなっているのである!
5.1サラウンドの音響と高精細なHD映像、最先端のスポーツ中継用機材を駆使したカメラワークでライブ収録。日本語字幕付きでゆったり味わえて、休憩時間には、歌手たちの愉快なバックステージやメイキングを覗くこともできる――そんな最高のエンタメに魅了された女優がいる。
その名は小橋めぐみ。昨年、読書エッセイ『恋読 本に恋した2年9ヶ月』(Reader Store)
を上梓し“本読み女優”としても活躍する彼女に、「なぜそんなにMETライブビューイングが好きなのか?」を直撃した。

そこから見えてきたのは、「現実が困難なときも、オペラのきらめきが世界を輝かせ、勇気づけてくれる」という、400年間変わらない真実だった。

ニューヨークで観劇することがあっても、私は絶対にMETライブビューイングでもう一度観ます。

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はじめてMETライブビューイングを観たのは、いつですか?

一昨年、誘っていただいて観た『フィガロの結婚』(2014年版)がはじめてです。バレエを習っていた子どものころ、同じ舞台芸術であるオペラにも憧れて『トゥーランドット』や『アイーダ』の来日公演を両親に連れて行ってもらったことがあるのですが、十数年ぶりに目の当たりにして……もう、オペラのイメージががらりと変わりました。「なんて軽やかで、あざやかで、楽しいものなんだろう! オペラってこんなに新鮮でおもしろいものなんだ!」って。目から鱗でした。

2014年の『フィガロの結婚』はリチャード・エア監督(注1)の演出で、本来は18世紀ロココの時代設定を1920年代に移し、とてもモダンでしたよね。

(注1)イギリスの舞台演出家、映画監督。代表作は『アイリス』『あるスキャンダルの覚え書き』など。

その上、稽古期間も通常より長かったとキャストが語るくらい、歌だけでなく、演技にも力が入っていた。そのあたりも、女優魂をくすぐられたのでは?

フィガロの結婚 ©Ken Howard /Metropolitan Opera

フィガロの結婚 ©Ken Howard /Metropolitan Opera

そうなんです。オペラ歌手たちのすばらしい演技に、まずは仰天しました。“歌で表現する人”というイメージだったのに、手の動きや目線のひとつひとつまで、クローズアップで切り取っても本当に細やかな演技をされていて。同時に舞台ならでは広がりもある演技で、本当に完成度が高いんです。
アリア(注2)のシーンも、ただの“歌”ではなく“思わずメロディに乗ってしまったセリフ”のような自然さがありました。でも、歌声自体には当然、ものすごい迫力がある――最高のお芝居と歌とを同時に表現していることに、体が熱くなるほど感動しました。おまけにあの、幕間のインタビュー!

(注2)『フィガロの結婚』の「恋とはどんなものかしら」、『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」のような、オペラの聴きどころであるメロディアスなソロ曲。

舞台から戻ってきた歌手を、MCが間髪置かずにキャッチしちゃうんですよね。「ハーイ、△△△!一幕どうだった?」みたいにカジュアルに(笑)。でもMCの方も実はオペラ歌手で、別の舞台では主役を張っている、同僚でありライバル。

あれはびっくり(笑)。ほかでは見たことがありません。同じ舞台に立っている仲間でもあり、お互いに尊敬があるなかでインタビューをしているから、会うなりハグしたりちょっぴり緊張感があったり、舞台裏の人間模様まで見られるのがいいですよね。
METライブビューイングって、客席も舞台裏もぜんぶ見せちゃうのがおもしろい。まず映画館に入って予告が一段落すると、ニューヨークにある劇場の開演前の、ざわめく観客たちの光景が広がる。やがて劇場の照明に合わせて、映画館も暗くなる――そこからぐっと気持ちが入りこんじゃって。気分はすっかりニューヨークでした。
一幕の終わりで早くもカタルシスがやってきてドキドキしていたら、今度はカメラが舞台裏に。大掛かりなセット転換に驚いていたら、例のインタビューがはじまって(笑)。

あのインタビューはスポーツ中継の選手インタビューがモデルだそうです。10数年前、MET総裁のピーター・ゲルブがこのライブビューイングを思いついたきっかけは、テレビのスポーツ中継にみんなが夢中になっていたこと。合言葉は、「歌劇場にオリンピックを持ち込もう!」だったのだそうです。幕間の特典映像で撮影監督ギャリー・ハルヴァーソンら、スタッフの活躍を追うメイキング・ドキュメンタリーを観たのですが、あの映像はクレーンカメラや舞台前の小型カメラまで、じつに10数台のスポーツ中継用機材を駆使して作り上げられている。スイッチングも綿密な計画に則って行われているんです。

なるほど、だからあんなに迫力があるんですね! 私は劇場に芝居を観に行くことも多いのですが、これまで、いわゆる劇場中継を観たときって「生の舞台の魅力が半減しているな、全然伝わらないな」という感想を持つこともあったんです。
それが、METライブビューイングは全然違った。生の舞台とライブビューイングに、まったく別物の楽しさがあるんですね。観客の気分も舞台の裏側も両方味わえるなんて、とても贅沢!

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めぐみさんはその後、ブログで熱い感想を語ったり、自ら映画館に足を運んだり、さらにはWOWOWで放映された過去作品を紹介してくれたり。随分多くの作品をご覧になっていますよね。

マスネの『マノン』やトーマス・アデスの『テンペスト』、ヴェルディの『仮面舞踏会』、モーツァルトの『皇帝ティートの慈悲』……これまで名前も知らなかったオペラにたくさん出会えて、その一つ一つが新鮮でした。METライブビューイングは本当にすごいと思います。『仮面舞踏会』も『皇帝ティート』も家のテレビで観たのに、号泣したんですよ。劇場中継であんなに泣くなんて!

お家にホームシアターみたいなシステムがあるんですか?

いいえ、ごく普通のテレビです。最近は放映があると、お茶とケーキを用意してテレビの前でスタンバイするのが楽しみで。

さすが、楽しんでいますね(笑)。めぐみさんにとって劇場は、立つのも観るのも大切な場所だと思いますが、METライブビューイングのどこに、それほど惹かれたんだと思いますか?

劇場は本来、ステージの上の美しいものだけ見せればいい。それなのにMETライブビューイングは、全部をさらけ出してくれる。逆説的ですが、あの素顔は生の舞台では見られないわけです。もし今後、実際にニューヨークの劇場で観劇することがあっても、私は絶対にMETライブビューイングでもう一度観ます。

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